ビデオサロン編集部が企画協力して、Inter BEE 2010(2010年11月17日~19日開催)のキヤノンマーケティングブースにおいて行ったEOS MOVIEセミナーの第3弾。TBSテレビにて放送中のドラマ『おじいちゃんは25歳』の制作の事例を紹介した。
登壇者は監督の田中誠氏と、撮影を担当した池田英孝氏(池田屋)。司会はビデオサロン・一柳編集長。このドラマは、23:50~24:20の枠で月曜から木曜まで、11月15日~18日、22日~25日と全8回にわたって放送され、地方局でも順次放送予定。崩壊状態だった家庭に、46年前に雪山で遭難して冷凍された状態で発見され蘇生した25歳の「おじいちゃん」がやって来る、というちょっぴりSF要素のある人情コメディだ。ブースはセミナー開始時点ですでに満席、立ち見も出る状態だった。


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このドラマの制作にあたって、最初に田中氏のところに「EOSで撮ってみないか」と話があったそうだ。田中氏としても、以前から知り合いに話を聞いたりしてEOS MOVIEには興味を持っていたが、このドラマの企画を進める時点でまず頭にあったのは『寺内貫太郎一家』『時間ですよ』といったホームコメディのイメージ。「パンフォーカスで、照明もバチッと全部に当てて、というディス・イズ・ドラマ! 的な感じ。でも、EOSを使うと被写界深度は浅いし、誰も撮ったことがないものになる。想像がつかなかったですね。『寺内貫太郎』では、ぶっ飛ばされて手前から奥の壁まで転がるなんてシーンがあったけど、そういうのは無理。ピンの浅いカメラで、どうドラマを成立させるのかという挑戦でした」
続いて、『おじいちゃんは25歳』の予告編を上映した。予告編には田中氏はノータッチだそうだが、アンダーなシーンが多いのが少し気になった様子。家はセットを組んで撮影しているが、2階部分はあえてアンダーのまま撮影しているとのこと。「EOSの良さはカラコレ(カラーコレクション)が利くところで、アンダーのまま撮影しても編集でちゃんと出せるけど、予告編はそのカラコレはやっていないと思う。本編ではそこはちゃんと出ていますから」
田中氏は自宅にDLPプロジェクターを置いて100インチサイズでオンエアをチェックしている。「技術者ではないので」と前置きしながら、大画面で観たEOS MOVIEの感想を述べた。「(画の)クオリティが高い。特に単玉レンズを使用している場面。それだけのデータ量を持っているんだな、と感じました。ここぞ、というシーンでは単玉を使ってみて欲しいですね」
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左が田中誠監督。右は撮影の池田英孝氏。
撮影の池田氏は、すでにプロモーションビデオではEOS MOVIEの経験があった。また、ドラマ「左目探偵EYE」では左目で見えた映像にEOSを使用。シフトレンズとNDフィルターでボケとざらざら感を演出した。しかし、ドラマ全編で使用したのは初めてだという。カメラは5D MarkⅡか7Dかというところで、池田氏的には7Dのほうがフォーカスが合いやすく、ボケ味も充分で、センサーがムービーのシネサイズとほぼ同じで扱いやすいと考えていたが、映像をチェックした監督の「5Dのほうがキレイじゃん」の一言で「じゃあ5D MarkⅡで頑張ります」ということになった。
なるべくコンパクトにしながらも、扱いやすくしたいという意向で、テクニカルファーム社のMOVIEtubeというシステムを使用。このドラマでは三脚を使うことが多かったが、ベースがショルダー対応なので手持ち撮影も苦にならない。「EOSはフォーカスがかなりシビアです」と話す池田氏のカメラには、レンズ部にシネマ用のギアを噛ませてあり、ストロークが短い設計のためフォローフォーカスがしづらいAFレンズでもフォーカスを合わせやすいよう工夫されていた。また、レンズも無限遠でストッパーがかかるよう改造(キヤノンのレンズはいつまでも回る仕様)している。
(テクニカルファームでおこなっている)
モニター出しは、EOS 5D MarkⅡは撮影時にSD画質に落ちる欠点があるので、HDMI出力をHD-SDIに変換し、スプリッターでモニター用とビューファインダー用の2系統に分配。さらにアナログ信号に変換してモノクロビューファーでフォーカスを確認する。RECした瞬間に映像がSD解像度になりぼけるので、すぐにファインダーのコントラストと明るさ、ピーキングを調整して見やすくして、対処していたと明かす。コンバーター類用のバッテリーは、EOS本体用と別にして、電源トラブルによるリスクを回避している。
カメラは常時3台体制が基本だが、予備を含めて7台を用意、何台かを「置きっぱなし」状態にして7カメ体制で収録したこともあった。二人の役者が一つの画面に映るいわゆる「ツーショット」のシーンは、通常はパンフォーカスで両者にピントが合うところだが、EOSでは片方の人物にしか合わない。そこを演出上活かすようにしている。芝居の中でフォーカスを送ってピントが合う人物を変えているケースもあり、このあたりはその場で判断している。
「パンフォーカスでフラットライトがホームドラマの王道ですが、これはそうはなっていない。その意味では冒険で、エイヤでやってしまっている面もあります。EOSの特性を活かして陰影を出すという感じ。僕の実家が浅草で、昔ながらの家屋で細長い空間なんですが、そのイメージとも近い感じがします」(田中氏)
カメラがデジタル一眼になって役者の反応はといえば、最初は誰も気づいていなかったそうだが、「なんだか変な気分」という感想も聞かれた一方で、高橋克実氏(主人公の息子役)が面白がって大騒ぎしていたそうだ。
撮影した映像は、現場でMac Book Proに全てコピーし、Final Cut Proに読み込んでチェック。本番用HDDとバックアップ用HDDに保存するが、注意点はバックアップは必ずカードから元データを取り込むこと。コピーデータからバックアップをとると、コピーが失敗していた場合共倒れになる。池田氏もその経験があるそうだ。信頼性第一という考えで、ポスプロのスタッフが現場に来て取り込み確認をしていた。
音は全て別に収録。EOSでも音は録れなくはないのだが、音の確認ができないため、音は音で録っておくほうが確実。映像データに音のデータを合わせ、FCPでのオフライン編集は音が貼りついた素材で作業を行っている。このあたりはノンリニアの映画編集などと同じやり方だ。
本編集はProRes422(QT)からクォンテルiQに持ち込んで作業。尺調整の際、切るほうは問題ないが、足す必要がある場合は、その部分をQuickTime変換して取り込んで作業した。尺が完成したらカラコレ、合成、テロップ入れを行い、HDCAMテープに収録。MA作業はフェアライトに映像を読み込んで、OMFデータと音声チームからの音源を合わせて整音。SE、BGM、ナレーションを加える。作業時間は、「テープ時代とプラマイゼロではないか」(池田氏)というが、「変換時間を含めるとテープよりは速くなっていて、変換が速い分、編集作業に時間をかけられるのはいいことだと思います」。
田中監督は、「EOSを使ってよかったのはカラコレが利くことで、白くとんで見えているような箇所も(データを)持ち上げてやるとちゃんと出てくる」と話し、「その分、現場はちょっと雑になっている面もある。写っていると分かっているからVEが現場でOKが出せるわけだけど、今度はVEが編集にも立ち会わなければならなくなる」とも。「テープよりはハードとしての幅は広くなっていて、いろいろできると思います」
最後に今後EOSに望むことをそれぞれに伺った。池田氏は5D MarkⅡの後継として、モニターのHD出力に対応したモデルをそろそろ出して欲しいと話し、「キヤノンはセンサーもレンズも自社開発しているから、それで35mmフルサイズのセンサーに対応できるムービー用カメラを作ってくれないかなと何年も前から思っています」と大判センサーのムービーカメラを希望した。
田中氏は「僕は8mmの時代からずっとキヤノンのレンズが好きで、スーパー8も使ったし、DVではXL1も使っていて、それでドラマを撮ってオンエアしたこともあります。こんどはフル35で撮れるムービーカメラが出たらすごいことです」という。
 さらに映像ファイルの扱いについて触れ、「いくら撮像部の性能が上がっても、収録の部分で強く圧縮がかかったら扱いづらくなる。HD-SDIで非圧縮のまま外に出せて、カメラ部の性能がそのまま活かせるができるといいですね」と締めくくった。