EOS R5 Cは映像制作の現場で安心して使えるカメラなのか。採用された放熱構造は本当に大丈夫なのだろうか? 過酷な真夏の沖縄で4日間、移動しながら撮影して検証してみた。
レポート●吉田泰行(アルマダス) 協力●キヤノンマーケティングジャパン 機材協力●RAID
筆者が映像制作を始めたのは2013年のことである。当時から高画質にこだわりがあり4K撮影が可能なキヤノンEOS-1D CやEOS C300 Mark IIなどを導入し、その後さらなる高画質化を追求するためRED Epic、RED Scarlet-W、RED Epic-W、RED Weapon 8K、RED Monstro 8K VVとREDシリーズで機材を構成している。
現在ではJapan in 8Kシリーズとして、8K動画をYouTubeで広く配信しており、今回は8K RAW撮影が可能なEOS R5 Cを使用して検証を行なった。
▲今回放熱性能の検証を行うため、沖縄本島、浜島、石垣島、竹富島を移動しながら可能な限り撮影を行なった。
EOS R5 Cとは?
R5 Cはフルサイズセンサーを搭載した小型シネマカメラで最大で8K/60pをCFexpressカードに12bit RAWの内部収録撮影が可能である。Cinema RAW Lightでの収録に対応しており、最大14ストップのダイナミックレンジを有している。RFマウントを採用しており、マウントアダプターを介してEFレンズを装着可能だが、そのマウントアダプター部にドロップインで可変式NDフィルターを入れることが可能だ。移動が多くコンパクトなセットアップで望んだ今回のロケでは、可変NDを内蔵したRF/EFマウントアダプターが非常に重宝した。フォーカスはキヤノンが昔から得意としているデュアルピクセルCMOS AFを搭載しており顔検出など多彩な機能を搭載している。
何よりも放熱ファンを搭載したことでノンストップの撮影が可能ということで、今回、あえて過酷な条件で、熱による制限だけでなく、消費電力や記録メディアに至るまでテストを行い、本当の意味でのノンストップを追求できるカメラなのか? を確かめるため検証を行なった。
過酷なロケーションで試す
今回、放熱性能の検証を行うため、沖縄本島、浜島、石垣島、竹富島の4島で7月上旬という極めて高温、多湿の環境で撮影を行なった。
浜島の撮影ではボートを使って上陸し、石垣島の吹通川のマングローブ撮影ではカヌーを使い撮影を行なった。それぞれの島ではレンタカーを使用して移動しては撮影を繰り返した。
検証を行なったひとつである竹富島はサンゴのカケラを使用して道が作られており、照り返しが強烈である。撮影当日の気象条件は竹富島から6kmの位置にある石垣島のアメダスのデータでは気温32.4度、湿度82%であった。しかし数値以上に圧倒的に温度と湿度は高く感じられ、作業時間も20分を超えると熱中症で倒れそうになり体感温度は40度を大きく超えていた。
筆者も熱帯の島では多くの撮影経験があり、以前自衛隊に所属していた時も夏に厳しい訓練も受けていたが、間違いなく今まで作業した現場ではトップ3に入る厳しい環境であった。
放熱性能はホンモノだった!
カメラのみならずスマホなど電子機器全般にとってかなり厳しい環境でありEOS R5 Cがこの環境に対応できるか正直心配だった。結論から言うと、今回の高温多湿の過酷な現場でも、オーバーヒートせずに連続した撮影が可能だった。カメラボディ本体を触ってみたが熱がこもっていない。たとえば竹富島の現場では14時17分〜15時25分の間、1時間以上電源を入れたまま撮影を行なった(収録時間は18分)が特に問題は発生しておらず、安定した撮影が可能であるという印象を受けた。ロケ全体の収録データ量は2.175TB(タイムラプス写真含む)、合計時間は1時間41分35秒(動画のみ)にも及んだが、ノントラブルだった。
▲実景撮影の延長として、電源つけ放しで短時間のカットを断続的に連続で撮影している。三脚を移動させたり、アングルを切り直している時はデータが無駄になってしまうため、カメラを一旦停止しているが、後で確認したファイルのデータを見てみると、短い時間の間でREC、STOPを繰り返しており、ノンストップと言ってもよいぐらいの頻度で収録していることがわかるだろう。
▲EOS R5 Cは本体内の温度上昇を軽減するため、吸排気のスリットが設けられ放熱ファンを内蔵している。前述したように高温多湿な屋外での過酷なロケでも、まったくトラブルがなく8K RAWの連続撮影が行えた。レンズは今回は筆者が常用しているEF24-70mm F2.8L II USMを使用した。EFレンズ使用時には可変NDフィルターの使用も可能で機動性が劇的に向上する。
小型軽量であることの重要性
EOS R5 Cの撮影時の質量は使用レンズ、Vマウントバッテリー使用の有無、リグの構成などにより大きく変化するが、筆者が常用するEF24-70mm F2.8L II USM、リグ、Vマウントバッテリーの組み合わせで3.2kgとかなり軽量である。これならワンオペでも充分に運用可能であり、負担なく機動性を重視した撮影が可能だ。
記録メディアについて
EOS R5 Cは記録メディアとしては、CFexpressカード(CFexpress 2.0 Type B)、 SD/SDHC/SDXCメモリーカードが使用可能である。ただし、8K/60pで RAW(画質モードRAW LT)収録する場合、ビットレートは2570Mbpsになり、512GBのCFexpressカードで約24分の記録可能時間目安だ。せっかくノンストップを謳っても記録可能時間はやや短いと言わざるを得ない。メーカーの動作確認済みメモリーカードだけでは選択肢が少ないため、今回、2TBの容量を持つCFexpressカードを出しているSUNEASTより、カードをお借りすることができたので使用してみた。実売価格は9万円前後で、2TBで1時間半前後の収録が可能である。ロケ中、トラブルなく収録を終えることができた。
CFexpressカードの選択が鍵
現状メーカー側で動作確認しているカードはサイトに記載がある。8K RAW(60p)記録の動作確認がとれているのは、ProGrade DigitalのCOBALT 650GBとGOLD 512GB、Lexarの512GB。今回メーカーから情報提供いただき、SUNEASTのCFexpressカードをロケに使用した。このカードはSUNEASTのほうでR5 Cとの動作確認が取れており、高温環境下におけるテスト動画もYouTubeで公開している(https://bit.ly/EOSR5C_SUNEAST)。2TBの容量があり、今回EOS R5 Cで使用したがトラブルなく使用できた(編集部)。
バッテリー給電について
EOS R5 Cは4Kや8K撮影でも24pなどの撮影ではLP-E6NHでの駆動が可能だ。一方8K/60pでの撮影や長時間の撮影ではUSB-PDやDCカプラーを使用した外部給電のシステムを検討したい。今回は、キヤノン公式WEBページにおいても掲載されている、株式会社RAIDがプロデュースしたEOS R5 C用の外部給電システムおよびその周辺リグ機材をお借りした。NEP製の小型Vマウントバッテリーアダプタと特殊加工されたDCカプラーDR-E6Cを使用して、Vマウントバッテリーから給電し撮影を行なった。ケーブル処理もしっかりとされておりカメラ底面にも隙間ができにくくなっているため、屋外でも安心して撮影することができた。
EOS R5 Cは8K収録時でも1時間で10W前後のパワーしか使っておらず45Wの小型バッテリーでも長時間撮影が可能である。石垣島のマングローブの撮影では1時間7分の間(12時7分〜1時14分)、ずっとカメラ電源をオンにしたまま撮影を行なっていたが、45Wのバッテリーは撮影完了後もまだ6割以上残量が残っていた。
現場の温度など環境にも左右されるが、45Wの小型バッテリーでも2時間半前後の撮影は充分可能であると考える。1日の撮影では98Wのバッテリーと45Wのバッテリー1本ずつがあれば充分ではないだろうか。バッテリーの本数が減らせるということは機動力が大きく向上し、運用のコストも大きく下げることができる。
▲今回の検証ではBebob V45 Microバッテリーをメインで使用したがこの小型バッテリーでも2時間以上のカメラ駆動が可能だ。
▲8K/60pでの撮影や長時間のロケ撮影では、外部電源供給による運用をオススメする。EOS R5 Cへの外部給電方法はふたつで、USB Power Deliveryよる給電かDCカプラーによる給電である。今回は写真のようにVマウントバッテリーを電源としたDCカプラー給電のスタイルをとった。詳しくは以下で。
給電システムについて
R5 Cはシネマカメラとしてはエコな消費電力だが、一般的なミラーレスカメラと比較すると、VIDEOモード時はファンが回るため、電力消費が大きい。長時間の撮影では外部給電システムを検討したい。R5 Cの公式WEBページで外部給電システムのプロデュースを行なったRAIDの鶴田さんによると「外部給電システムで、最も手軽な方法はモバイルバッテリーによるUSB-PDでの給電で、キヤノンUSB電源PD-E1は9V-3Aの定格出力を持っているため、モバイルバッテリー選びのポイントとしても9V-3A出力のもので検討するのが良い」とのこと。小型のものであればリグにセットして運用できるCIOのSMARTCOBY Proがオススメだそうだ。
またUSB端子の給電よりも安心なDCカプラーによる給電も可能で、 「R5 Cのカプラー給電には専用のDR-E6Cが必須です。旧DR-E6や、社外の互換LP-E6カプラーは、装着できてもカメラ本体を壊す可能性があるので使用はオススメしません。NEP製Vバッテリープレート GP-S micro-8.4V-15RODは、8.4Vに降圧されたヒロセ端子を有するので、誤ってD-Tapスルー出力端子に挿し間違える事故も防げ、安心して使えます。DR-E6Cカプラーの加工は、撮影スタイルに合わせ適切なケーブル長さやコネクタ形状で作成可能。紹介している機材以外にも、要望に応じてカスタムできるのでご相談ください」とのこと。RAID(https://www.raid-japan.com/)に問い合わせてみてはいかがだろうか(編集部)。
画質
竹富島の撮影では道路の材料として使われている珊瑚の反射がかなり激しくダイナミックレンジが大いに試される現場であった。白い道路から家の影の部分まですべての部分の階調がしっかりと残されており厳しいライティング環境でも豊かな色表現が可能である。
逆光など極めてライティングの条件が悪い場合などは色が破綻してしまうが、充分な高画質を担保できると考えている。
▲白い道路から家の影の部分まですべての部分の階調がしっかりと残されており厳しいライティング環境でも豊かな色表現が可能。映像質感は非常に高くハイエンドカメラのサブカメラとしても充分に使用できる。
フォーカスワークに優れるEOS R5 C
R5 Cのフォーカス拡大表示はレスポンスが非常に速く、フォーカスの確認が瞬時に可能だった。
DaVinci ResolveでRAW現像して編集できる
EOS R5 CのCinema RAW LightはDaVinci Resolveでは、ホワイトバランスやティントなど各種設定を後から変更可能だ。
まとめ
R5 Cは高い次元で機動性と画質を両立しながら、過酷な条件下でも安定した収録が可能であった。今回検証したSUNEASTの大容量CFexpressカードを使用すれば長時間回ししたい案件にも対応でき、Vマウントバッテリーなどの外部給電システムを組めば、本当の意味でノンストップな撮影を行うことができる。安定した稼働を担保しながら、クリエイティブの自由度を高めてくれるプロフェッショナルの機材であると言えるだろう。