レポート◉湯越慶太 モデル◉井筒しま
9月27日、ファームアップ情報を追記しました。
2020年に発売されたEOS R5についに待望の後継機が発売となりました。初代R5は筆者も発売直後に自分で購入し、個人的な動画撮影だったり、案件でも予算や機材の限られたものでは現場に投入したりと、現在でも現役で活用しています。R5は当時としては異例の8K RAWを搭載したりと、動画にも非常に力を入れた機種でした。
長らく熱望されていた後継機ですが、ついに4年越しに発表されました。8K動画や内部RAW収録といった当時は他になかったスペック面も4年間でソニー、ニコンといったライバルメーカーも搭載してきたことで、キヤノンが最新機にどのような機能を搭載してきたのか非常に気になります。ということで、他のレビューにはない(かもしれない)動画に軸足を置いた切り口でこの機種に触れてみようと思います。
2024年9月24日、動画リンクを入れました。
外観を初代と比較
公称されている寸法を比較すると、R5の138.5(幅)×97.5(高さ)×88.0(奥行き)に対してR5 Mark IIは138.5(幅)×101.2(高さ)×93.5(奥行き)と、横幅は現状維持しているものの、高さと奥行きがサイズアップされていることがわかります。
また、今回からクイックシューが通信機能付きのマルチアクセサリーシューとなっており、防塵・防滴機能を維持するためにシーリング機能付きの大型のシューカバーが標準で取り付けられていることでより高さが増した印象を受けます。また、実際にグリップを握ってみると、ボディの各所がほんのりサイズアップされていることがわかります。隠れメタボ。
前面を見て気付かされるのはタリーランプの存在。動画ユーザーには驚きのポイントと言えます。R5CやFX3のような動画専用機ではない機種でタリーランプが付いているのってこれが最初ではないかと思うのですが。α7SIIIにもないし。スチルユーザーには全く必要ない機能ですが、動画への並々ならぬこだわりを感じるポイントです。
外観の変更点で大きなインパクトがあるのが巨大化したファインダー。スペックこそ0.5型、約576万ドットと先代から変更はありませんが、視線入力機能(残念ながら動画機能ではアクティブになりません)を搭載したことでR3のような大きなアイカップとなりました。アイカップが大きくなったことで見え味は間違いなく良くなっており、動画撮影においても可能なら積極的にファインダー撮影したいと思わせる、非常に秀逸なファインダーだと感じました。
操作系で注意すべき点がひとつ。電源スイッチは先代の左肩から近年のキヤノン機でスタンダードとなった右肩に移動しています。代わりにこれまで電源スイッチがあった部分には動画/静止画の切り替えスイッチがつきました。
これは地味に厄介で、筆者のようにR5を使い込んだユーザーは無意識に左肩で電源を切ろうとしても切れていないというトラブルにちょくちょく出くわしてしまいました。もちろんMark IIだけを使っていけばすぐに慣れるポイントなのでしょうが、混ぜて使うようなことがあるなら注意が必要と思った次第。
また、底面に目を移すとなんとそこには吸気口があります。先代が熱問題でミソがついた経緯を考えると、絶対に熱で止めないという並々ならぬ執念を感じます。こちらは吸気口で、端子類の集まる左側面に排気口があり、逆にこの冷却システムを搭載してこれだけのサイズアップで済んだのかと驚くレベル。
端子類をチェック。
ボディ左側面の端子類を見てみます。ストロボ端子は動画での使い道がないのでスルー。マイク端子とヘッドホン端子、USB-Cに加えてHDMI端子はついにフルサイズを搭載!またUSB-Cの端子の横には排気口も見えます。
ここまで見てきて感じた率直な感想を言えば「これ、実質R5Cの後継も兼ねてね?」というところ。タリーランプに冷却システム、フルサイズのHDMI(これはR5Cにも欲しかった)の搭載と、R5、R5Cとキヤノンが積み重ねてきたコンパクトな動画機の知見がしっかりと搭載されており、なおかつ最小限のサイズアップに抑えている本機は、この時点で実質R5Cの後継機としても充分な資質があると感じた次第。
ちなみにLP-E6Pを2個収納可能な縦型グリップにはファンが搭載され、強制的に風を送り込むことで熱暴走を予防してくれます。しかし、通常の使用範囲では警告も出なかったため追加のファンの存在意義をそこまで感じられなかったのは良かった? 点なのでしょうか。
電源は新バッテリーが必須
今回R5 Mark IIと同時に発表されたバッテリー「LP-E6P」。これもまた、動画のために用意されたと言っても過言ではない新要素。従来のLP-E6NHに比べて供給可能な電流が増加しており、このバッテリーがないと動画のRAW撮影ができないなど、機能が大幅に制限されてしまいます。
また、LP-E6P以外のバッテリーを使った際の機能制限として不可解なのが、収録フォーマットにXF-AVCを選択した際にフレームレートが29.97fpsに限定されてしまうこと。近年ではYouTube動画でもシネマチックな質感を出すために24fps(23.98fps)を使うことが増えており、筆者も23.98fpsを多用するため、この機能制限は正直困惑するポイントでした。RAWが撮れないのは妥協するとして、ハイスピードでもないフレームレートがなぜ制限されないといけないのか、早急な対応を希望したいところです。
【9月27日追記情報】旧バッテリー(LP-E6NH/L-E6N)使用時でも29.97Pだけでなく24.00Pや23.98Pも記録できるようにする
ファームウエアを24年末に用意することが予告されています。https://personal.canon.jp/product/camera/eos/r5mk2/spec「電源関連」項目、「使用電池」欄を参照。
非常に多彩な記録フォーマット
メニューにも触れたので記録フォーマットを見てみます。
先代R5と比較しても非常に多彩な記録フォーマットが搭載されており、動画RAWの他にもXF-HEVC S(H.265)とXF-AVC S(H.264)が選択可能となっています。
RAWの大きな進化ポイントとして、「SRAW」という4Kで収録できるRAWが新しく設定されました。これは8Kフルフレームのセンサーサイズを変更することなく4KのRAWを収録するという機能で、RAWでありながら解像度をどうやってダウンコンバートしているのか? は企業秘密とのことで教えてもらえなかったのですが、従来の8K RAWでは容量、解像度ともにややオーバースペックで使いづらいと感じていた人にはぜひ試していただきたい機能。ダウンコンに伴う画質の劣化はまったく感じることがなかったため、非常に秀逸な処理がされているものと想像します。
圧縮フォーマットについてはXF-HEVC SとXF-AVC S、一体どれ選べばいいの? って感じではありますが、XF-HEVC Sでは8K以下すべての解像度が選択可能なのに比較してXF-AVC Sでは8Kを選択できず、4K以下の解像度しか選択できなくなっています。また、XF-HEVC Sでは4K以下の解像度を選択した際に圧縮を「LGOP」という最も圧縮率の高いものしか選択できなくなっており、筆者はXF-HEVC Sは8Kで圧縮フォーマットを使いたいとき専用の選択肢かなと思いました。
4Kでの記録がメインということであれば普段使いでおすすめしたいのは上から4番目「XF-AVC S YCC422 10bit」。XF-HEVC SとXF-AVC Sの大きな違いはコーデックがH.265かH.264かという点なのですが、H.265は圧縮比率が大きくて同じ画質でも容量を小さくできる反面、編集PCにかかる負担がまだ高い印象があり、イントラ圧縮のAVC(H.264)のほうが汎用性は高いと思います。
HS撮影も充実
収録フレームレートもかなり進化しています。8Kの軽量RAWであれば60p(59.94fps)、4Kなら120p(119.9fps)、2Kで240p(239.8fps)まで対応可能。ただし収録フォーマットは制限されます。
注意すべき点としては、所謂「ハイフレームレート」を選択した場合と、「通常のフレームレート選択画面でハイフレームレートを選ぶ」という場合があるという点。より細かい設定ができるのは通常のフレームレート選択画面から入った場合。しかし、「ハイフレームレート」を選択した場合は再生時に自動的にスローモーションで再生(29.97fpsに自動設定)されるので、手軽なのはこちらです。
RAW撮影時の厄介なエラーについて
ここで注意しなければならない情報共有として、筆者がテストした発売前のファームウェア1.00において、「非純正のレンズを使用した際に動画のRAWがエラーを起こす」というものがあります。これは、接点のないサードパーティー製のRFマウントレンズ、あるいはRFマウントアダプターを使用して動画RAWを撮影すると、RAWが壊れて再生できなくなってしまうという厄介な仕様で、早急なファームでの対応が求められます。撮影した素材は「本体では問題なく再生可能」というのがなかなかに厄介で、旅行などに持ち出してせっせと撮影した動画が帰宅したらすべて壊れていた…のような事故が起こりかねないため、この場で注意喚起させていただきます。
【9月27日追記】修正ファームウエアVer.1.0.1がリリースされ解消しました。同社ホームページでも本現象の注意喚起とファームアップの誘導あり。 https://personal.canon.jp/product/camera/eos/r5mk2/feature/movie
「8K 60P RAW内部記録」項目、注釈にて。
ちなみにメニューから「レンズ無しレリーズを許可」という項目をオンにしないとそもそも接点のないレンズでは録画できない仕様となっています。
Canon Log 2についに対応
動画ユーザーとしては待望の機能として、カスタムピクチャーによる色のカスタマイズ、そしてCanon Log 2に対応しました。
Canon Log 2はソニーであればS-Log3に相当する、ダイナミックレンジの広さとカラコレの柔軟性の高さが特徴のLogで、CINEMA EOSのシネマカメラと同等の色再現が可能となったことでプロのサブ機としてもより使いやすくなったと言えます。
今回の大きな目玉としてセンサーが裏面照射型になったことが挙げられますが、新しいセンサーのおかげでCanon Log 2を実装可能になったと考えると、センサーのアップデートの恩恵を最も目に見える形で受けているのは実は動画ユーザーなのでは?と思うのでした。
また、Look File設定によって任意のLUTを当てた 画作りも可能。ただしモニターLUTではなく、収録素材にLUTがかかる仕様なので注意。公式でも案内されていますが、RAWとプロキシを組み合わせて撮影すれば裏技的にモニターLUTのように使うことも可能といえば可能です。
しかし、せっかくのスチル/ムービーのハイブリッド機なのだから、スチルの時もカスタムピクチャー(とLUT)が使えれば、より柔軟性の高い撮影が可能になると思うのですが。
テスト撮影で画質をチェック
駆け足でアップデートされた機能について紹介してきましたが、実際にテスト撮影してみたらどんな感じでしょうか。
今回、女優の井筒しまさんに協力いただき、テストを行いました。8K RAW(圧縮違い)、4K SRAW(圧縮違い)XF-HEVC、XF-AVCそれぞれで8K、4Kで撮影してみましたが、正直なところ等倍でじっくり見ないのであればほぼ差はないといって良いかと思える高画質。XF-AVCのIntra高圧縮やLGOPを使用すれば若干ディテールが甘くなることがわかるかな、という印象でした。撮って出しや日々の記録のような用途であれば、4K、LGOPでもまったく問題ないと思います。
8K以上の解像度で圧縮フォーマットにXF-HEVCを使った場合は編集環境によっては再生がかなり重くなってしまうため、ストレージに余裕があればXF-AVCを使ったほうが動画制作的には無難かな、と思います。上にも書きましたが、筆者が仕事で使うなら4K SRAWもしくはXF-AVCで4K Fine設定がおすすめだと思います。
色の印象は従来のキヤノンらしい、すっきりした原色の鮮やかな記憶色系はキープしつつもよりリッチな印象。解像感、発色の良さは先代R5から明らかに一歩抜けた印象で、CINEMA機にも引けを取らないと思いました。少しグレーディングしていくだけでグッとシネライクな仕上がりに持っていくこともできます。
AF性能も進化
動画のオートフォーカスは近年特に進化が目覚ましい分野だと言えますが、R5 Mark IIはAFについても大きく進化していると感じました。瞳認証は当たり前ですし、被写体検出AFを「被写体優先」から「被写体限定」に変更することで、手前に障害物があった場合でも乗り移ることなく追尾を続けてくれるため、ずっとAFでも問題なく撮影が進められると思いました。
まとめ
さて、今回EOS R5 Mark IIを動画という視点からレビューさせていただきました。結論から言うと本機は間違いなく「買い」だと思います。先代R5のユーザーやR5Cのユーザーは言うまでもなく、コンパクトな動画機を求めているユーザーは選択肢として入れる価値があると思いました。本体内で極めて高クオリティのRAW動画が撮影でき、他社のカメラと比較しても頭ひとつ抜きん出たポテンシャルを持っていると感じたからです。
新バッテリー、新センサー、冷却システムの存在、フルサイズHDMIの搭載、タリーランプと、今回のアップデートはほとんど動画のためにあるんじゃないかと言うこだわりっぷりで、キヤノンの底力を感じる仕上がりになっていると感じました。
操作性や仕様について、いくつか注意しなくてはならないポイントもあるといえばありますので、今後改善されていくことを望みたいと思います。
4年ぶりの待望のリニューアルでしたが、4年待った甲斐は充分にある、このスペックで次の4年も戦えるカメラに仕上がっていると思います。