REPORT◎一柳

早稲田にあるアバコスタジオは1952年の創業以来、音楽録音スタジオの老舗として長い歴史がある。国内最大級のフルオーケストラ収録ができるスタジオや、アニメなどのアフレコ録音に特化したスタジオなどで知られている。関連会社としては、映像用のスタジオが鷺沼や宮前にあるが、こちらの早稲田のアバコスタジオは、映像業界としては映画やドラマの音楽録音では使われてきたが、あくまで音楽のためのスタジオだった。そのアバコスタジオに今回新たに加わったのがFourTuneという新機軸のスタジオだ。FourとはEED&VFX(編集)、MA、ColorGrading(カラーグレーディング)、PreView(試写)という4つの用途を意味する。このスタジオを企画した渡部識さんにお話を伺った。

渡部さん自身、ディレクターであり、今の時代、自分が使うならどういうものが便利かという発想でこのスタジオを企画したという。いまや編集はPCでほぼ最後まで完結させることができ、ファイルベースでクライアントとのやりとりが可能になっている。仕事は、データのやりとりで終わってしまうケースか、ポスプロでしっかり編集とMAを行う仕事かの両極端になっていて、その中間の選択肢を作りたかったそうだ。さすがに試写のために編集室を借りるのはあまり現実的ではないので、MAから試写までを完結できる環境を作りたいと考えた。MAやナレーションではスタジオ環境を利用する意義は高いからだ。たとえばそのMA作業や試写の際に映像の尺を伸ばしたいとか、色を調整したいという修正の要望があった場合、映像をデータを持ち帰らず、その場で作業できるような環境。つまり音と映像の最終確認をその場でとって、フィニッシュできるということを目指した。

充実した環境でMA、75型の4K Braviaでプレビュー

具体的に見ていくと、まずMA部分は、アナログのコンソール卓を外し、MAでは定番のPro Toolsに入れ替えている。左側にPro Toolsが立ち上がり、手前には16トラックのS3コントロールサーフェス、右側にはPro Toolsと連携するAvid Media Composer。フリースタッフでの運用を前提としているが、MAに関してはハウスミキサーがいるので依頼することもできる。

正面のプレビュー用のモニターはソニーBraviaの75型。クライアントのソファから見るとこんな感じ(下の写真)。音響は5.1chマルチオーディオにも対応し、2chステレオでは様々なスピーカーサイズでの聞こえ方をチェックできる。

左手にはナレーションや映像編集の作業ができるマルチブース。メインルームからマルチブースを見たところ。

マルチブースからメインルームを臨む。

 

マルチブースでカラーグレーディング作業も

以下が入り口から見たマルチブース全景。もともとはボーカル録音用のブースだったのでかなり広い。なんと入って正面にはハイスペックなiMac Proがあり、Autodesk Flame、Adobe Creative Cloud、DaVinci Resolveが入っていて、こちらで映像編集やカラーグレーディング作業ができる。またプラグインについても映像業界スタンダードなモノが一通り揃っている。

DaVinci Resolve用のMini Panelも導入されている。こちらのiMac Proからの出力はメインルームの75インチのBraviaと繋がっていて、モニターの入力を切り替えて映像を見せることができる。

また、メインブースのほうにもiMacがあり、編集ソフトも入れてあるので、簡単な尺の調整などはこちらでも可能。この出力もプレビューモニターに出すことができる。MacBook Proなど持ち込んだPCを接続することもできる。

メインルームには43インチのHDの液晶テレビもあり、家庭環境での見え方をチェックする。

かつての音楽スタジオだったときの機材ルームは、ミーティングスペースに改造されている。

 

スタジオ環境でフィニッシュを共有する

さて、こういった環境をどう活用するか。ビデオグラファーが受ける仕事の場合、MAやナレーションでのスタジオ利用はあっても、なかなかスタジオでクライアントに試写してフィニッシュするというのは考えにくいはずだ。ただ、ファイルのやりとりの確認では、意思疎通が難しかったり、いつまでもチェックしてもらえず待たされるということもあるのではないだろうか? 渡部さんは、その流れを変えたいと言う。スタジオに入る時間を決め、ナレーション、MA、映像の修正ができ、その場で確認がとれることで、お互いに仕事の区切りをつけやすいというメリットがあり、フィニッシュを共有することで、個人がよりバジェットの大きい仕事を任せてもらえることにつながると思っている。また、試写をする場合でも、会議室やマンションの一室のような空間ではなく、こういったスタジオを用意することで、ホスピタリティを提供できるということもある。

作業的にもMAのためのメインルームとマルチルームが分かれているので、たとえばMAとカラーグレーディングを同時に進行させたり、1dayで借りて複数案件を同時に行うといった使い方も考えられるだろう。

個人でも利用しやすいようにクレジット決済にも対応したり、個人機材を搬入しやすいように駐車場の台数が多いなど、現在の映像制作の事情に合わせたサービスも用意しているという。

気になる料金だが7時間以上の利用では1Day利用の方が安くなるシステム。

ちなみに予約申し込み時に予約フォームにビデオSALON.webのこの記事をみたと書くことで最大20%まで割引するという(2020年4月末まで)。

アバコスタジオ FourTune  https://avacostudio.com