ハッセルブラッドH6D-100Cでの動画制作に取り組むマシュー・カモディさん。前回はドリフトレースでの撮影の模様をレポートしていただいたが、今回新たにスイスのメーカー・ALPA社のPLマウントレンズシステムPLATONの試作機を入手したというので、そのシステムとPLレンズを使った実例についてレポートしてもらった。

 

ハッセルブラッドでPLマウントを使えるマウントアダプター

前回のレポートで触れたように、H6D-100Cは独特な味の4K RAW映像を提供してくれる唯一無比な存在でありながら、まだまだ未完成的なところがあるのも事実です。この記事ではALPA社が来年発売予定の「PLATON」というPLレンズ用マウントシステムを中心に話を進めていくので、H6D-100CとH6D-400Cmsの動画機能について詳しく知りたい方は前回の記事を先に目を通しておくことをおすすめします。

前回の記事で、2点ほど追記事項があります。フレームレートは24pではなくて、動画は25pのみです。以前のバーションのDavinci Resolveでは、間違えて24pとして読み込んでいたようでしたが、現在のバージョンでは正しく25pのCinema DNGシーケンスとして認識してくれます。それから、シャッタースピードは前回テスト時には選択できなかった1/50が選択できるようになりました。

 

PLATONとはどういったシステム?

 

▲左がボディ。右がデジタルバック。

 

H6Dシリーズは「デジタルバック」というセンサー等の記録部とハッセルブラッドのHシステムレンズを装着するためのマウントやハンドグリップから構成されています。中判カメラを初めて見る人はきっと不思議に思いますが、分離してみれば意外とシンプルです。

 

要するにこのPLATON PLマウントシステムをHシステム用のマウント部分と交換するだけ、PLマウントのレンズが装着可能になります。装着したら、カメラにマウントが変わったということを認識させるためにメニュー画面で「ピンホール」カメラに設定して終了。簡単です。

▲PLレンズを使用するための設定。メニュー画面で、「カメラボディ」から「ピンホール」を選択。

 

 

 

ただし、このマウントには電子接点がないため、RECの開始・停止は後ろにある液晶モニターでしか行えません。

 

アクセサリー機器との組み合わせ

▲左はH6D-100C標準の状態。右はALPA PLATONを取り付けた状態。

 

写真からもわかるようにH6Dのボディを見てみると、アクセサリーを取り付けるためのアタッチメントがホットシューのみで、動画撮影には不向きです。一方、PLATONのマウント部分に1/4”と3/8”の標準ネジ穴が多数備えられているため、モニターやマイクなどは好きにアレンジできます。

個人的にはメーカーから提供された15mmレールシステムは使用せず、そのままのマウントだけでジンバルに載せることがほとんどです。前回の記事で紹介したように三脚や手持ち撮影の際はVマウントバッテリーからすべての電源を取っています。

 

▲KESSLER(ケスラー)のスライダーシステム・SHUTTLE PODを使った撮影現場の様子 。PLATONには多数のネジ穴が設けられているお陰で自由に撮影スタイルを決められる。

 

▲H6D-100CをFreefly社のジンバル・MoVI Proに搭載した状態。

 

最近はこんな感じでMoVI ProかRonin-Mだけで全カットをこなす撮影スタイルが多いです。まず目につくのはカメラがジンバルケージのかなり前寄りだということ。いかにもコンパクトということがよくわかる写真です。これなら一日中でもEasyrig(カメラサポート)から吊って連続撮影は可能です。今回選んだレンズはLeitz Cine(ライツ・シネ)社がシネマ用にライカの中判レンズを筐体から再設計した Thalia(タリア)で、上の写真に写ってるのは、その 70mmです。このレンズは素晴らしい解像感やコントラスト、上品なボケを提供してくれます。

 

▲同じ現場で今度はLeitz CineのThalia 45mmを装着した模様

 

ちなみにデジタルバックの上に載ってるのはTentacle Sync E(テンタクル・シンク・イー)という映像と外部マイクの音声の同期を取るためのタイムコードを生成してくれる製品です。

 

PLマウントを使うことにどんな利点があるのか

ハッセルブラッドのHシステムレンズは抜群の立体感と柔らかなボケを作り出してくれます。個人的に何の不満もなく、これらのレンズはラージフォーマットのカメラ・ARRI ALEXA 65用に「PRIMO 65」というシネマレンズとして作り直されており、映画『レヴェナント:蘇えりし者』や『スノーデン』など数多くの映画で使われています。参考:[ http://arrirentalgroup.com/alexa65/](このサイトにはPRIMO 65を使って撮影された映画のリストが掲載されています)

 

では、なぜPLマウントのシネマレンズを使う必要があるのでしょうか? ここでマニュアル絞りやフォーカスギアの位置などすべての利点をリストアップするとかなり長くなってしまうので、割愛しますが、簡単に言うと、「必要」というより「選択肢」が広がって表現の幅も広がるところにこのPLATON PLマウントシステムの意味があります。ハイエンドの映画制作の世界ではPLマウントが標準となっていて、ほとんどの場合はPLマウントのレンズを使います。それは特別な「ルック」を映像に与えてくれます。

 

同じPLレンズでもレンズによってかなり味の違う画が出る

H6Dシリーズの対角60mmほどある巨大センサーをカバーするだけのシネマレンズはどれだけあるのでしょうか? まず上記の写真にもあるライカやマミヤの中判レンズをPLマウントに作り直したものがあります。これらを見ても、Hシステムのレンズと比べてかなり味の違う画が出ます。

 

▲オークリー主催のサーフィン大会の動画。Mamiya 80mm/F1.9というレンズを使用。柔らかな印象の絵作り。

 

 

▲トキナーVista Prime 18mm T1.5をH6D-100C + PLATONに装着して撮影した動画からの一コマ。絞りは開放でもないのにこれだけボケます。今まで見たことのない超広角レンズによるボケ具合を提供。

▲意外な選択肢としてトキナーのVISTA  PRIMEが浮上しています。これを含め、様々なオールド中判レンズもテスト中なので、近い内にレポートできればと思っています。

 

▲この作品ではPLレンズによって、様々なルックを使い分けられるということを見せたいと思いました。3種類のレンズを使い分けています。だんじり祭りの映像ではライカのシネレンズを使用した。高解像度を追求した画作り。最初の準備映像本番中の神社の映像はすべてマミヤのレンズ。最初のウルトラワイドカットやいくつかスーパーワイド=ハッセルブラッドHC24mm F4.8。その他、祭りの本番の場面で解像感、コントラスト、立体感が明らかに違うのはライカの30mm/35mm/70mmを使用しています。

 
マミヤはコントラスト低めのビンテージルックで、だんじり小屋・下町の準備映像や本番時の神社にぴったりでした。ライカは優れた解像感とコントラストで本番を格好良く見せてくれます。ハッセルブラッドの24mmはスーパー接近戦のために部分的に使用しました。

 

 

ライカのTHALIAレンズはInterBEE2018でも展示

▲InterBEEでも展示する予定のライカのTHALIAシネマレンズ。

 

PLATONの生みの親でもあるスイスのメーカーALPA社もSWITARというPLマウントのシネマレンズを開発したとの情報も入ってきていますが、まだ詳細は明らかになっていません。

 

1億画素の写真が撮影できて、なおかつ4K RAWの動画が撮れるのは世界でH6D-100Cだけなので、唯一無比な存在と言えます。そのシステムにPLマウントが追加されて、様々なルックのレンズを使うことができるようになり、表現の幅が広がりました。興味ある方は今月14日から3日間開催されるInterBEEで直接触れられるチャンスもあるので、ぜひ見に来てください。

 

●ハッセルブラッドH6D-100C

https://www.hasselblad.com/ja-jp/h6d/

 

●ALPA PLATON

https://www.alpa.ch/en/site/alpa-and-moving-image-projects