パナソニックHC-X2000テストレポート、発売前の試作機で検証


2020年2月13日に国内で発表された、ディレクター向けのビデオカメラとして企画されたパナソニックHC-X2000。発売は3月19日を予定しているが、量産前の試作機を入手できたので、映像作家の岸本 康氏にテストしていただいた。

 

HC-X2000/X1500の詳細についてはこちらを参照

テスト・レポート●岸本 康

小型のハンドヘルドと言うとディレクターカメラなどと総称されるセカンドカメラ的な印象が強いが、4K/60pが10bitで撮れ、光学24倍の高倍率ズーム(35mm判換算で25-600mm)を備えるパナソニックのHC-X2000はどんなカメラに仕上がっているのか? 実際に使った実感をご紹介したい。

良く効く手ブレ補正と周辺までレンズ補正され、変な歪みもない25mmからの広角端。そして外部マイクを付けない状態でバッテリー込みの質量は約1.5kgと、その軽さから、手持ちで多彩なカメラポジションをとれることによって、メリハリのある画を数多く撮影できる機材だというのが最初の印象だ。

1/2.5インチという小さいセンサーだからこそ可能になる高倍率ズームなのだが、その反面、Fドロップや暗いシーンでの感度、他のカメラと一緒に使った時の画質などが私の気になるポイントだったので、そのあたりを中心に試用した。

オートを使ったほうが“使える”素材を集めやすい

まず、使い始めるとフルオートを試してみたくなる。ボディーが小さいのでスイッチも当然小さく、撮りながらの調整が少し面倒に感じられるからだ。小さなスイッチを手際よく操作するのは慣れないと難しい。屋外で動くものを撮る時でも、視認性の良い3.5型の液晶モニターで見ていてもアイリスやフォーカスはオートに託したほうが、限られた時間でより多くの使える素材が撮れて結果は良かった。

暗いシーンでは全てオートだとゲインが上がりすぎるようなこともあるが、事前にメニューで最大値を設定できるので、シーンに合わせた運用もできる。

気になったのはFドロップ(ズーム域によって解放F値が変わること)だ。高倍率ズームを搭載した他のカメラにもありがちだが、広角端のF1.9からズーム値で約20%寄るとF2.8になる。ズームによるFドロップの許容は撮る内容にもよるが、画面が暗く感じる場合はゲインを上げるなどの対策が必要になる。

右下のZ01~Z99数値がズーム位置なので、広角から何パーセントくらいのズーム率かが分る。Z03までは開放がF1.9、約20%でF2.8、70%でF3.6、92%以上はF4.0になる。

シャッタースピードを下げられない状況では、どうしてもゲインや照明に頼るしかない(そのために照明がハンドルに付いているのかもしれない)。試しに自撮りしてみたが、誇張しないくらいの自然なライティングができる。暗い現場での突発的なインタビューなどでは使えそうだ。

薄暗い撮影環境ではGH5との差は顕著に

老舗ライブハウス「拾得」での収録。GH5と共に外部モニターを付けて監視。ちなみにX2000はマンフロットMVH500Aのカウンターバランスにぴったり。

レンズセットの価格がこのカメラの価格帯になるGH5と、音楽ライブを2カメで撮影して比較してみた。GH5は固定でF2.8、ISO 1000で撮ったが、X2000はズームで寄れてしまうので、F4近くになることもしばしばあった。そのためゲインを18dBにしていたこともあって、編集でタイムラインに並べると、カメラの感度としてはGH5と比べて画質や解像度感も含め、多少非力に感じた。

SHAKE’EM DOWNSのライブ。このくらい寄るとズーム位置40%でF3.0、ゲイン18dB。編集で比較するとこのサイズでGH5のF2.8のISO 1000よりも暗めだった。

しかしズームはギターを弾く手元まで寄れながら、客席の雰囲気を感じられる広さまで引けることもまた、このカメラの力量だ。大きめのセンサーで2~3倍のズームで撮るか、高倍率ズームを使うかは被写体によって選ぶべきで、今回のテスト撮影はこのカメラにとっては多少過酷な状況だった。

ここまで寄るとF3.6。編集ではカラコレで輝度を上げて何とか使えるレベルに。2カメで使うGH5の画質には及ばず。

光量が足りない条件であればやはり上位機種のCX350を使うべきだ。光量が充分な屋外のスポーツ撮影であれば、X2000は引いた雰囲気感から寄った臨場感までを撮れるカメラとして本来のポテンシャルが引き出せると思う。

散歩がてら試しに鴨川の野鳥を撮ってみたが、鳥の顔のアップが美しいことに気がついた。手持ちで鳩の顔にズームで寄っても5軸ハイブリッド手ブレ補正が強力なので充分使える画が撮れる。デジタル一眼ではレンズを交換をしている間に撮り逃してしまうことを考えると、寄れなかった画が簡単に撮れてしまうカメラとして、小型ハンドヘルドのポジションが見えてくる。

フルオートで撮影した中からの切り出し。画角以外は全てカメラ任せ。この画は手持ちでテレ端(600mm)まで寄ったものだが、ブレない使える画が撮れたのは驚き。

総合評価

美術館で行われたワークショップの記録では、ほぼフルオートの状態で撮影したが、普段より多めの素材を撮ってしまった。オートフォーカスはその存在を忘れるくらい自然にピントが決まっていたので、このカメラの特筆するポイントかもしれない。迷いなく自然に合わすという感じ。飛んでる野鳥を撮った時もフォーカスを大きく外すことがなかった。

これもフルオートで撮影。白い鷺はバックの色との関係で白飛びしているが、フォーカスが不用意に外れることはなかった。

ハンドルに付けたガンマイクの音もしっかりと収録できていて、音声中心で編集することもできたので、撮れ高を考えるとデジタル一眼の1.5倍は収録できたように感じる。記録撮影の場合、より多くのカメラ位置でバリエーションを多く撮影できたほうが良いケースは少なくない。液晶モニターの画面の美しさやボディのかっこ良さも好感が持てるが、デジイチと比較すると、いかにより多くの、多彩な使える素材が撮れているかが勝負になるような仕事で使えるカメラと言えそうだ。

4K/60pを採用する理由は理解しやすいが、10bitをなぜ搭載してきたか? 編集での加工のポテンシャルを保つためには8bitより有利なので、他のカメラと合わせて編集する時の輝度や彩度の調整幅を持たせるという部分が大きいのではないだろうか。GH5でも制作向けにHLGやLog撮影をする場合には10bitだ(現在のところGH5でHLGを選択できるのは4K/30pまで)。X2000の感度が非力だと感じる時に、HLGのほうが輝度や彩度の後処理の幅が増えるので、シーンファイルにHLGの設定がないのは残念なところ。ファームウェアの更新で期待したい部分だ。

VIDEOSALON 2020年4月号より転載

 

vsw