レポート●マリモレコーズ 江夏由洋、金戸聡和
KOMODOとは一線を画すカメラに。KOMODO-X誕生
RED Digital Cinemaから2023年7月に発売になった最新のデジタルシネマカメラ、KOMODO-X。その名の通り、従来機のKOMODOの上位機種として位置づけられる一台だ。一番の注目は、1万ドルを切る価格にある。
確かに現在円安が続く日本では、150万円という価格を聞くと「ちょっと手が届きにくい」という印象になりかねないが、このカメラが持つ実力はかなりのものだ。発売からまだ間もないため、あまりまだKOMODO-Xで撮影された作品も少なく、そのスペックはそこまで知られていないのかもしれない。
しかし、私もREDのカメラを15年近く使い続けてきたが、撮影を始めるにつれて、このカメラはKOMODOとは全く別のカメラであると感じ始めた。
▲KOMODO-Xの見た目はまさにKOMODOそのもの。しかし中身は一新された。
▲撮影素材からの切り抜き。ハイライトのロールオフが素晴らしい。透き通るようなスキントーンに注目してほしい。REDのカラーサイエンスが生み出す世界は本当に美しい。
R3Dで描かれるREDの美しいカラーサイエンス
主にREDはR3DというRAWファイルで動画が収録される。このRAWファイルはいわゆる圧縮RAWで、REDの画質を支える技術だ。R3DこそがREDが最も大切にするカラーサイエンスの源で、REDの価値そのものといえるだろう。15年という時間、REDが常に磨き続けてきたR3Dのカラーサイエンスは今IPP2という形で進化を続けている。KOMODO-Xに込められたその色へのこだわりが、撮影のファーストカットから伝わってきた。
その最大の特徴は3つ、①ハイライトのロールオフ、そして②シャドウのディテール、さらには③赤味の少ない美しいフェイストーン、だ。まさにデジタルシネマ画質を紡ぐ上で、最も大切な要素であり、見事な描写をKOMODO-Xは見せてくれた。
撮影は、日の光があふれる海岸で行なったのだが、ハイライトがピークすることは一切なく、フェイストーンのみならず、雲の質感、空の青、すべてがしっかりと画面に収められている。ローライトにおいてもISO3200までであれば有効だろう。最大16.5ストップあるというダイナミックレンジは、いかんなくその美しい描写に発揮されている。
▲IPP2が作る色は、他のカメラにはないシネマクオリティが見られる。
▲ISO3200の画。立体感があり、シャドウ部のノイズも少ない。
REDは公式で、KOMODO-Xの画質は、フラッグシップとなるRAPTORと「同等」としている。もちろんRAPTORにはフルサイズのセンサーモデルもあり、撮影できる解像度、フレームレートには差があるものの、確かにKOMODO-Xの画質は、KOMODOというよりは、RAPTORにより近いと感じられる。過去のKOMODOカメラの比較すること自体あまり有意義ではないかとは思われるが、これまでのKOMODOとはまったく画質は異なり、妥協のないハイエンドの画質が設計されていることは間違いない。
ちなみにKOMODO-Xの各解像度における撮影可能な最大フレームレートは、6K 17:9 (6144×3240)で80 fps、5K 17:9 (5120×2700)で96 fps、4K 17:9 (4096×2160)で120 fps、2K 17:9 (2048×1080)で240fpsとなっている。通常のプロダクションでは、充分以上のスペックだろう。いずれにしても6Kの解像度ですべての撮影を行うのがおすすめだ。編集で映像を縮小することでノイズレベルを落とすことができるし、センサーの領域は最大限使用するほうがいい。
KOMODO-Xだからできるジンバルスタイルを考える
ここで考えたいのはKOMODO-Xでしか得られない映像についてだ。カメラ本体の重量が約1.2kgしかないボディ、そして129.37×101.26×95.26 mmしかない大きさにまずは驚く。片手に乗るカメラだ。バッテリーやレンズをつけたとしても、そのオペレーションは数々のシネマカメラの中でも最も簡単であるといっていいだろう。これだけ小型であれば当然ジンバルには用意に載せられる。しかも重量に余裕があるため、キャリブレーションなどの設定作業も簡単だ。
▲KOMODO-Xは正にジンバルにうってつけのカメラ。キャリブレーションなどの調整も簡単だ。
そこで、どこまで質量を攻めたジンバルセットアップができるか、そしてシネマの撮影を行えるか挑戦することにした。まさにKOMODO-Xでないとできないスタイルだ。通常のKOMODO-XはRFマウントで運用するシステムになっているが、オフィシャルでリリースされているRF-PL変換を使い、ここは思い切ってPLレンズの単焦点でやってみようということになった。
PLレンズは軽量なZeissのCP.3XD、ジンバルは耐荷重4.5kgで、全長のあるカメラでも搭載しやくなったDJI RS 3 Proを選択。外ロケのため、NDフィルターも必要になり、SmallRigの軽量なマットボックスでNDフィルターを運用し、最終的にVマウントバッテリーとジンバル用ウェイトを追加、総重量を4.5kg以内に収めることができた。
DJIのLiDARレンジファインダーを使ってAF化
そして今回、もう一つチャレンジを試みた。それがDJIのLiDARレンジファインダーを使って、PLレンズをオートフォーカス(AF)させるということだ。LiDARレンジファインダーは独自の3次元測距技術を使い、被写体の距離を検出、そして事前に作成したレンズプロファイルを元にフォーカスリングを物理的に動かし、フォーカスを自動で合わせていくという画期的な製品だ。最大3本分のレンズプロファイルをRONIN内に記録させておくことができるため、ジンバルで撮影の際にワンマンオペレーションの幅を広げることができる。
今回はCP.3XDの15mm、25mm、35mm、3種類の前レンズを前日にキャリブレーションを行い、プロファイルを作成しておいた。現場でレンズを交換する度に、レンズプロファイルを変更し、それぞれのレンズをオートフォーカス化させることができるというわけだ。これはPLマウントのレンズに限らず、あらゆるマニュアルフォーカスのレンズで使うことができる。
また、映像のトランスミッターなどの機材も搭載し、ジンバルを支えるリグ自体が9Kg近くになったため、背中からリグを吊るすEasyrigを使用。これでPLマウントのシネマレンズをジンバルに載せた、ワンマンオペレーションが可能な撮影システムが完成。これはKOMODO-Xだからこそできる、最強のスタイルだ。
多少ピーキーなジンバルセッティングではあったが、モーターへの過負荷のアラートがでることもほぼなく、いつも通りの撮影をすることができた。そして何よりも素晴らしいのは、絞りがF2.8前後の撮影ではあったものの、3本のレンズ、どれもフォーカスの追従の精度がよくモデルをしっかりと追従したことだ。ワンマンでここまでのシネマクオリティの映像が撮影できるとは、ただただ驚きでしかない。サポートなしで、REDの画をZEISSのレンズを使って、ジンバルでモデルを捉える。小型で拡張性の高いKOMODO-Xだからこそできる世界だ。
▲DJIのLiDARレンジファインダーでZEISSをAF化させた。
▲ジンバルの動きの中で、しっかりとPLレンズのフォーカスが合うのは驚きだ。
インターフェースはRAPTORと共通―より現場に即した方向へ
また、KOMODO-XのセンサーはKOMODO譲りのグローバルシャッターを新規設計で採用している。これはS35サイズセンサーの特権ともいえるスペックではないだろうか。また、VマウントバッテリーのMicro V lockを搭載し、CFexpress Type Bをメディアに採用するなど、今の時代に即したインターフェースとなっている。RED専用のモニターや各種アクセサリーはRAPTORと同じものが使えるのも特徴だ。
またスマホと連携したアプリ「RED CONTROL」も非常に使いやすく、反応も素晴らしい。特にジンバルを載せてコントロールする際、一切カメラに触れることなくあらゆる設定をアプリで行うことができる。モニタリングも、そこまで遅延は感じない。UIも非常に見やすくわかりやすくデザインされており、通常の撮影においても必携となることだろう。
▲アプリのRED CONTROLは非常に使いやすく、レスポンスも早い。
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RED Digital Cinemaは今から約15年前に突如として現れたデジタルシネマカメラのブランドだ。創始者であるジム・ジャナードは、サングラスのオークリーの生みの親であることはよく知られている。その資本を力にデジタルシネマカメラの市場に参入し、一号機となったRED ONEという4Kカメラが一世を風靡し、瞬く間にハリウッドから世界にその名を広げていった。
今では「4K」というスペックは当然のように各社が謳っているが、デジタルシネマ4KやRAWという考え方、カラーサイエンスの大切さは、すべてREDが示したコンセプトである。DSMC3という新しい規格でKOMODO-Xに込められた、サイズや価格に果敢に挑戦するREDの技術力は、いまだ業界の最先端を走っていると実感した。
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