レポート●江夏由洋(マリモレコーズ デジタルシネマクリエーター)
協力◉日本サムスン株式会社、ITGマーケティング株式会社 機材協力◉ RAID株式会社

重要なインジェスト作業

最近のプロジェクトでは、撮影データが1TBを超えることがよくあるのだが、撮影終了後、1TBのデータを編集パソコンのドライブにコピーするのは、ただただ苦行だ。しかし撮影用データのコピーは「インジェスト」や「オフロード」と呼ばれ、ミスなく、すべてのデータをしっかりと移さなければならないという非常に大切な作業でもある。そこで必要とされるのが、「速く、確実」にインジェストを行うためのハードウエア設定だ。

今回は実験として、実際に撮影を行い、その撮影データをいろいろな方法でコピーした。使用したカメラはREDの最新のカメラ、KOMODO-Xだ。KOMODO-Xは16.5+のダイナミックレンジを誇るデジタルシネマカメラで、小型の筐体とリーズナブルな価格が話題だ。カメラの特徴については割愛するが、RED純正のCFexpress 2.0 Type B に準拠したRED Pro Cfexpress 660GBに、容量フルになるまで、様々な解像度・フレームレートの映像を収録した。このカードを使ってデータのコピー速度を検証した。

REDの最新世代のシネマカメラはメディアにCFexpress Type Bを採用する。ただしREDでは認証がとれたカードを推奨している。

検証内容について

カードリーダー2種類とコピー先3種類で検証

まずこのインジェストのワークフローを考えるときに一番重要なことは「ボトルネックをなるべく作らない」ということだ。つまり、データがスムーズに、限りなく速く目的のドライブにコピーされるような環境を作る必要がある。この事実を「コピー時間」として可視化するために、ふたつの検証項目を立てた。

まず、メディアからのデータ読み出し速度を検証するために、インターフェース規格の違うカードリーダーをふたつ使った。そしてオフロード先のデバイスへの書き込み速度を検証するために、コピー先のドライブとして速さの違うものを3つ用意した。これらの掛け合わせで、2×3の6通りの結果を導き出すというものだ。

用意したCFexpress Type Bカードリーダーは、
A:ProGrade DigitalのPGRWCFXXQDAJP(Thunderbolt 3)
B:RED純正の RED CFexpress  Card Reader(USB 3.2 Gen 2×2)である。

インターフェース速度で比較すると、USB 3.2 Gen2x2が20Gbpsに対し、Thunderbolt 3は40Gbpsなので、Aのカードリーダーのほうがデータ転送速度が速くなるものと予想される。また、USB 3.2 Gen2x2に対応しているホスト(パソコン)は限られているので、Gen2x2 非対応の環境での性能がどうなるのかも注視したい。

▲撮影した素材をPCに読み込み(インジェスト)。純正REDのもの(写真上/USB 3.2 Gen 2×2)と、Thunderbolt 3対応のProGrade Digital(写真下)のものを用意。

そしてコピー先のドライブとして用意したのは、
①サムスンのSSD、PM893を6基積んだAreca製RAIDストレージ(Thunderbolt 3)
②サムスンのポータブルSSD T7 Shield(USB 3.2 Gen 2)
③汎用のポータブルHDD(USB 3.1 Gen1)の3台だ。

準拠する規格から分かるが、①は最高40Gbps、②は10Gbps、③は5Gbpsの速度を持つ。

ここで簡単に規格の速度について簡単に触れておくが、USBはすべてGenerationでその最大スピードが決められていて、Gen 1は5Gbps 、Gen 2は10Gbps、Gen 2×2は20Gbps、そしてUSB 4.0は40Gbpsとなっている。ちなみに似て非なる規格であるThunderbolt 3、およびThunderbolt 4も最大40Gpbsであることをなんとなく覚えておくと、いろいろと役に立つだろう。

▲コピー先のドライブとして、ArecaのSSD RAIDを用意。SSDであれば、小型軽量で撮影現場に持ち込むことが可能になる。

12倍の速度差が!

今回、実際に660GBのカードに記録されたデータは、合計で54個のファイル、614GBだった。それを2019年の13インチMacBook Pro(Intel)を介してコピー時間を計ってみた。もちろん、机上の予測通りの結果ではあるが、その計測記録を目の当たりにすると、ワークフローで運用するハードウエアの大切さをヒシヒシと実感する結果となった。

一番速いタイムとなったのは、当然Aのカードリーダーで①のストレージを選んだ場合だ。両者ともに最大40Gbpsの速度を以てデータをコピーすることができるため、600GBを超える大容量のデータであってもわずか7分14秒という爆速の結果となった。

ところが、Aのカードリーダーを使っても、③のディスクで受けるとなると、インジェスト完了までにかかった時間は、その約12倍の1時間26分54秒だ。実にUSB 3.2 Gen1というスペック(より厳密にはHDD)が「ボトルネック」となってしまい、実作業を考えると、辛い結果となってしました。

次にお見せする転送時間比較のグラフを見ていただければわかるが、Areca RAIDストレージ(40Gbps)と T7 Shield(10Gbps)へのデータ転送は許される時間差ではあるが、一旦HDDがシステムに入ると、そのデータ運用効率は一気に下がってしまうことがわかる。ちなみに今回使用したMacBook ProのインターフェースがUSB 3.2 Gen2x2に下位互換していなかったため、Bのカードリーダーの転送速度はUSB 3.2 Gen 2と同等の10Gbpsになっていた。コピーで使うパソコンのスペックも影響がでてくるということも認識しておきたい。

6パターンの転送時間の比較

A :ProGrade DigitalのThunderbolt 3カードリーダーで転送

▲KOMODO-Xで撮影したCFexpress Type BカードをProGradeのThunderbolt 3カードリーダーで転送してみる。ベンチマークは読み出し1427.5MB/s。今回の検証でもっとも高速なパターンはこのカードリーダーでArecaのストレージに転送する場合で7分14秒。HDDに比べて12倍の時間短縮になる。

B:RED CFexpressカードリーダーで転送

▲同じカードをREDのカードリーダー(USB 3.2 Gen 2×2)で転送した場合。ベンチマークは読み出し929.6MB/sとなり、Thunderbolt 3カードリーダーを使ったときよりもArecaへの転送速度は落ちるが、それでもHDDと比べると10倍近くの時間短縮になる。T7 Shieldへは約9倍の時間短縮になる。

データ運用の技術認識を改める

「Type-C」コネクタは、データ転送のみならず、映像出力や充電/給電など様々な規格に対応できるという便利な面がある一方、その万能さ故にコネクタ形状だけではどの規格に対応しているのか判別が難しいといったマイナス面も持ち合わせている。高解像度の美しい映像をとらえるために、カードそのもののスピードはどんどん速くなっている。カードのスピードを活かすためにも、カードリーダーだけでなく、コピー先のドライブもしっかりと「何で転送しているのか」を確認しておく必要があるだろう。 また、今回の記事では触れていないが、仮にUSB 2.0のケーブルを使用した場合は、転送速度が40~50GB/s程度しか出ないといった事態が発生するので、あわせて注意しておきたい。

今回は最速のドライブとして、ハイエイドクラスともいえるサムスンのSSDがギッシリとつまったArecaのRAIDストレージを使用した。このストレージであれば様々なRAID構成が組めるため、データ損失などの有事の心配のない超高速で大容量のシステムを組むことができる。カメラの台数や撮影日数に関わらず、どんなプロジェクトが来ても安心だ。ポータブルのSSDは速度がそこそこ得られても、今回のようなシネマカメラを使うとなるとやはり容量不足が気になるところだ。

今回、いろいろと実証をしてみて感じたことは「なんとなく」システムを運用することは、自らを苦しめることになり得るということだ。時は金なり。データのコピーという単純な作業であっても、ボトルネックをなくすことや、データ運用の技術認識を改めることがとても重要であると実感した。

・T7 Shield
https://www.itgm.co.jp/product/portable-ssd-t7-shield.php

・Samsung SSD PM893 搭載Thunderbolt 3 / USB 3.2 Gen 2 対応ハードウェアRAIDストレージ
https://www.itgm.co.jp/product/ssd-893-raid.php