2.4GHz帯無線マイクシステムの老舗といえるHollyland社から画期的なデジタル無線マイクが登場した。LARK MAX 2だ。最大4つの無線マイクをひとつの受信機で受信&コントロールし、32bitフロート録音&伝送、プロ仕様のAIノイズリダクション、タイムコード管理を実現し、カメラに記録される音声まで無線観測(視聴)できる。

レポート◉桜風 涼


無線マイクとしても高性能だが、プロが必要とする機能が数多く搭載されている

LARK MAX 2(以下、MAX 2)は、従来の2.4GHz帯デジタル無線マイクシステムの発展形である。まず、概要だが、充電ボックスに収められたふたつの無線マイク(送信機)とひとつの受信機が基本構成となる。これは従来の無線マイクと同等だ。基本的な構成としてはDJIのMic 2と似ている。

受信機は2種類用意されており、ひとつはカメラ受信機で、カメラに接続するための仕様になっており、各種設定を行うこともできる。もうひとつはUSB-C受信機で、スマホ等にダイレクトに接続できる。どちらの受信機も後述するワイヤレスイヤホンタイプのOWSモニターイヤホンで音を聞くことが可能だ。

MAX 2の送信機とカメラ受信機。タッチパネル式で直感的に操作可能だ


カメラ受信機にはタッチパネル式のモニターパネルとジョグダイヤルが配され、プロが必要とする詳細なゲインなど各種の調整ができる。もちろん、音響に詳しくない者でも簡単に扱えるようなプリセット(カメラごとの最適値)も用意されており、簡単に扱える使用でありながらプロの要望にも応えられる製品となっている。

送信機は17gと軽量ながら外部マイク入力を備える
クリップが開閉式となり、服などへの取り付けが簡単になった。磁石も用意されており、多様な取り付けが行える


無線マイク(送信機)は非常に小ぶりで14gにもかかわらず、外部マイク用3.5mmジャックを備えている(プラグインパワー対応)。送信時間は11時間(送信機:ノイズリダクションOFF)と実用に充分であり、充電ボックスとの併用では36時間となっている。32bitフロートレコーダーを内蔵しており、広いダイナミックレンジを生かした録音が可能になっている他、受信機へも32bitフロートデータのまま伝送され、ノイズリダクションやイコライザー(音質調整)でも高音質が維持される。

カメラ受信機にはふたつの3.5mmジャックがあり、音声出力、カメラ音声出力から入力、タイムコード入出力を切り替えて使うことができる。USB-C端子はUAC(デジタル音声入出力)と充電に対応している。また、この受信機にはワイヤレス・モニタリング機能が搭載されており、別売り(もしくはセットに同梱)のワイヤレスイヤホンモニター(OWSモニターイヤホン)で聞くことができる。

ノイズリダクションも進化しており、従来製品や他社製品ではノイズリダクションの掛かる量が3段階程度と大雑把で、プロの現場では使われないことが多い。なぜなら、編集時に高度なノイズリダクションを掛けた方が音質は良くなるからだ。しかし、MAX 2はノイズの軽減量をdB単位で可変することができる。これはハリウッドなどの映画でも使われるプロ用システムと同じで、現場の環境に応じた最適なノイズリダクションが可能になり、編集時の手間がかなり下げられる。


これまでにない運用をもたらす無線マイクシステムだ

OWSモニターイヤホンは小さなスピーカーだ。付け心地は良く、マイクの音を聞きながら、周囲の生音もよく聞こえる。


さて、MAX 2の何が画期的か。まず、驚くのは前述したワイヤレス観測(視聴)だ。映像制作で失敗しがちなのが、音がうまく録れていなかったことだろう。つまり、観測を怠ったことによる失敗だ。通常はカメラやレコーダーにヘッドホンを付けて観測することになるが、特にワンオペでは観測を忘れることが多い。かつてから無線イヤホンで聴きたいと思っていた人は多いのではないだろうか。このMax2は無線観測機能、つまり無線のイヤホンタイプのモニター(OWSモニターイヤホン)が用意されていて、しかも、カナル式(耳穴に押し込むタイプ)ではなく、小さなスピーカーを耳に装着するタイプなので、現場の生音を聞きながら録音状態を観測できる。

また、無線で送られてくる音には問題なくとも、カメラに入れた後で音質が下がってしまう失敗が少なからずあるのだが(原因はカメラ側のゲイン調整の失敗)、つまり、普通の音は大丈夫でも、演者に叫ばれてカメラ側でレベルオーバーやレベル不足があるわけだが、Max2では、カメラのヘッドホン端子とMAX 2の受信機をつないでおけば、カメラで記録される音を無線で確認できるのだ。

OWSモニターイヤホンは左右ふたつ(各ひとつ)あるので、片方がカメラマン、もう片方はディレクターというように分けて使っても良い(ただし、左右別のステレオモードの場合には片側マイクしか聞こえない)。

ノイズリダクションに関しては前述したわけだが、実際に運用してみるとかなり効果的だといえる。ノイズ軽減をdB単位で行うというのはどういうことかというと、まず、人間の声とそれ以外をAIで判定し、人間の声以外を決められた量(dB)で引き算していく。ノイズリダクションの欠点としては、ノイズを引いた量が音質に大きく影響する。完全に消すことも可能なのだが人の声がロボットボイスのようになったり、途切れ途切れになってしまう。ノイズを引く量は最小限にとどめるのが音質維持には重要で、具体的に言えば人の声に対して8dBの差があれば背景音があっても聞きやすくなる。12dBの差があれば背景音は聞こえるが意識的に聞かない限りまったく気にならない。言い換えると、背景音は聞かせたいが声はクリアにしたいという場合には、ノイズ軽減量を小さめにするし、ほぼ聞かせたくない場合には軽減量を大きくする。こういった作業をMAと呼ぶわけだが、MAX 2は受信機でそれが可能になる。画期的だ。

ちょっとしたノウハウだが、安い外部マイク使う際に出るサーというノイズも、薄くノイズリダクションを掛けることによって聞こえなくなる。つまり、様々な外部マイクをノイズレスで使うことができるわけで、マイクの適材適所にもこのノイズリダクションは役立つのだ。

さて、ノイズリダクションが動作する仕組みを解説しておく。ノイズリダクションが効果的に働くには、集音された音(マイクの鼓膜部分に相当する部品が受け取った音)のダイナミックレンジが運命を分ける。入ってくる音はマイクカプセルで電気信号に変わるが、その幅は24bitリニアのダイナミックレンジよりも広い。そのまま伝送してしまうと小さな音は消え、大きな音は割れてしまう。そこで「プリアンプ」を用意して伝送に適したレンジに収める必要がある。プロ仕様の無線マイクの場合、送信機のゲインがプリアンプに相当する。マイクゲインが固定されている無線マイクも少なくなく、その場合にはコンプレッサーという回路で自動的にダイナミックレンジを狭くしている。ここで背景ノイズと人の声が同じようなレベルに納められてしまい、ノイズリダクションの効きが悪くなる。これが従来型のノイズリダクションだ。

MAX 2は送信機で32bitフロート収録を行い、32bitのまま受信機へ送ってくれる。さらに32bitのままノイズリダクションを掛けている。32bit処理でノイズリダクションを掛けるのはパソコンでのノイズ処理と同じで、高音質を維持するのに大きく貢献してくれる。


システムの多様性が撮影現場に革新をもたらす

カメラ受信機の両側面には3.5mmジャックがあり、ひとつはカメラのマイク入力へ、もうひとつはカメラのヘッドホン端子と繋ぐ。これにより、カメラで実際に録音されている音をOWSモニターイヤホンで聞くことができる。


非常に柔軟なタイムコードシステム。これからはタイムコードは必須だろう。


筆者は、前述した無線観測システムに大きな可能性を見出している。マイクふたつまでに限られるが、外部レコーダーなしで高音質な撮影ができると思う。外部レコーダーを使う理由はいくつかあるが、カメラ側の音声入力が16bitリニアと貧弱で、すぐに音質低下するし、後の音編集でも音質を維持するのが難しい。それゆえ、撮影時のレベル調整が必須なのだ。最近は24bit収録できるカメラも増えているが、それでもレベル調整が音質維持のネックになる。いずれにせよ、失敗を避けるためには撮影時に録音される音を聞くことが重要になるわけだが、MAX 2は前述のOWSモニターイヤホンにで、カメラ収録の音が聞けるのが画期的だ。

さらに、送信機の内部録音が32bitであり、かつ、タイムコード同期が可能だ。タイムコードの出力方法は3つあって、ひとつは3.5mmジャックから音声タイムコードとしてカメラのマイク端子へ送ること。これはどんなカメラでも対応できる。もうひとつはタイムコード入力を持ったカメラへTC信号として送ることだ。これも3.5mmジャックで行える。最後の一つはUSB-Cからタイムコード信号をカメラへ送ることだ。これはアダプター経由でTC信号を作るか、カメラ側が対応していないとダメなのだが、ここは筆者の推測だが、FX3などのマルチコントロール端子へのアダプターが用意されれば、ケーブルを挿すだけで自動的にTC同期が行われるはずだ。また、ソニーのマルチインタフェースシューのアダプターが用意され、ケーブルレスで音声の入出力とTC同期が可能になるのではないかと思う。

いずれにせよ、送信機での32bit収録を行えば、レコーダーなしでプロ級の高音質な撮影ができる。機材が減ることは良いことなので、このあたりは現場で試していきたいので、機会があればレポートしたい。


スマホによる運用は従来と異なる


スマホアプリは直感的で使いやすい。ただし、Bluetooth接続するには、送受信機を充電ボックスに入れてジョグダイヤルを3秒の長押しする必要がある。運用中にアプリを使う場合にはUSBケーブル接続が必要だ

さて、多機能なMAX 2だが、各種の設定は受信機ですべてできる。一方でスマホアプリを使うことによって、より快適に運用することができるのは言うまでもない。

MAX 2はBluetoothと同じ電波帯で様々なことを行うため、モード切替が必要となる。出荷時にはスマホとのBluetooth接続がオフなっていて、これまでのLARKユーザーは面を食らうだろう。スマホとの接続はふたつの方法があり、ひとつはUSB-Cケーブルでスマホと接続する。iPhoneのLightningには変換ケーブルが用意されているし、アンドロイドの場合にはUSB-CーUSB-Cケーブルでつなぐ。ケーブル接続した状態でスマホアプリを立ち上げれば、自動的に認識され、各種設定やファームウェアのアップデートが行える。余談だが、USB-C専用のコンパクトな受信機も付属しており、スマホなどで無線マイクを使うことができる。各種設定はアプリから行える。

一方、Bluetooth接続の場合には、送受信機ともに充電ボックスに入れて、受信機のジョグダイヤルを3秒間長押ししてモードを変える。この状態でアプリからペアリングを行うと、無線で接続できる。

また、送信機4台の接続モードにした場合、実はOWSモニターイヤホンが使えない点はご留意いただきたい。おそらく、オーディオの送受信が全部で4ch分搭載されていて、OWSモニターイヤホンのチャンネルをマイクに振り分けていると思われる。


気になる音質:非常に良い

さて、音質はどうだろうか? 結論を言うと非常に良い。自然な音で心地よい。もちろん、カメラのマイク入力に入れる場合には、出力ボリュームを最適にする必要があるが、レベルオーバーに気をつければ大丈夫だ。というよりも、実はオートでダイナミックレンジを調整する機能が搭載されており、それを使えば難しいことを考えずに最適な音質でカメラへ送ることが可能だ。細部までよくできている。

一方、ノイズリダクションだが、かなり強めにかけても音質劣化が少ない。エアコンの音のような定常波はきれいに消しつつ、いわゆる環境音はほどよく残してくれる。つまり、その場の臨場感を保ちつつ、人の声は音質を下げることなく明瞭化される。非常に上品なノイズリダクションだと言える。


どのセットを買うべきか

最後に、販売されるパッケージの選び方についてまとめておく。セットは3種類あり、送信機など個別にも購入できる。

基本となるComboは、送信機2台、カメラ受信機、USB-C受信機、充電ボックスのパッケージ。価格は38,000円(税込)。

Ultimate Comboは、今回紹介した送信機2台、カメラ受信機、USB-C受信機、充電ボックス、OWSモニターイヤホン(充電ボックス付き)。さらに外付け用にラベリアマイク2本およびジャマーが同梱される。価格は43,000円(税込)。

Combo 4-Person Versionは送信機4台とカメラ受信機、USB-C受信機、充電ボックスのセットだ。価格は49,600円(税込)。

さらにマイクと受信機がひとつずつのSoloは24600円(税込)である。

なおすべてのセットに共通するのは、送信機内蔵マイク用のジャマー、取り付けようマグネット、接続ケーブルが必要台数分だけ付属していることである。

おすすめはOWSモニターイヤホンとラベリアマイクが同梱されているUltimate Comboだ。OWSモニターイヤホンと送信機をワンセットで持てば、簡易のインカムにもなる(ただし、Bluetooth接続範囲の20m以内)。マイク4台構成にするにはマイクだけ単体(9,800円税込)を購入すれば良いだろう。

なお、ソニーのマルチインターフェースシューにダイレクトに接続するホットシューアダプターは、今のところ価格等の情報は公表されていない。


◉製品情報

https://www.hollyland.com/product/lark-max2

Hollyland社
https://www.hollyland.com/