未来を担うクリエイターを発掘し、次代を切り開く若き才能への支援を行うLEXUS SHORT FILMSと米国アカデミー賞公認、アジア最大級の国際短編映画祭ショートショート フィルムフェスティバル & アジア(SSFF & ASIA)は、世界を目指す若手映画監督の支援を目的に、世界で活躍中の映画監督によるワークショップを、2017年10月14日(土)および12月16日(土)の2回にわたり実施した。今回の講師は大友啓史監督。

第1回(10月14日)においては、大友監督による「世界とは、世界と戦うとは」をテーマに講義があり、「世界」をテーマとした事前課題を元に、各参加者がプレゼンテーションを実施した。その後、ゲストに、多数のテレビコマーシャル、ショートフィルムを手掛けるとともに2017年に公開となった映画『東京喰種トーキョーグール』を制作した萩原健太郎監督、クリエイティブな活動を支援するクラウドファンディングサイト「Motion Gallery」を主宰している大高健志氏、 Huluにおけるオリジナルコンテンツ発信事業を立ち上げプロデュースを行う町田有也氏の3名を招き、様々な世界で活躍するゲストから、戦う世界の多様化、戦い方について学ぶトークショーを実施した。

各参加者は大友監督からの個別フィードバックを受け、それを元に2ヶ月の制作期間を経て作り上げた作品を第2回目までに提出。作品は大友監督やワークショップ参加者がWeb経由で事前に見られるようになっていて、第2回目のワークショップでは、各参加者が課題を元にプレゼンテーションを行なった後に、大友監督がフィードバックするという形式で行われた。

ワークショップ参加者は20名で、年齢層は最年少が21歳  最年長が45歳。20代後半〜30代前半が多く、女性の比率も高かった。また、すでにテレビの現場で仕事をしているディレクターや、映画を劇場公開している監督も参加。プレゼンテーションは映像を流しているというと時間が足りなくなるということで、映像を見ていることを前提に、各人が趣旨を説明。具体的にここをアドバイスしてほしいというリクエストする参加者も多かった。映像作品は完成までしている人もいれば、ダイジェストや予告編映像、プロットのみと様々。大友監督は作品はしっかり3回は見て、それぞれにアドバイスをしていた。
基本的に参加者一人一人がプレゼンをして、大友監督がフィードバックをするというスタイルだが、プレゼンする以外の参加者もそれを聞くことができ、そこも参考になっていたようでメモをとっている人が多かった。また休憩時間や最後の懇談会では参加者どうしで情報交換する機会があったのも有意義だったようだ。
【大友啓史監督インタビュー】

実はドキュメンタリー志望だった

ワークショップの後、大友監督に個別インタビューする機会をいただいた。ビデオサロン誌をお渡しするとパラパラめくりながら「いいなあ、こういうのを読むと僕もドキュメンタリー撮りたくなるなあ」と言う。
大友監督といえば、NHKでドラマの演出家として頭角を現し、大河ドラマ「龍馬伝」では大河の演出、映像のルックを変えた人物。その後、映画監督として独立するという経歴からしてフィクションの世界一筋かと思いきやどうもそうではないらしい。
「NHKでは入局すると地方周りしながら、あらゆる映像ジャンルを担当していくのですが、当初はどちらかと言うとドキュメンタリー志望だったんです。最後にドラマだけやっていなかったのでドラマをやることになって、その流れで助監督をやりました。ただ、地方ではドラマだけは創れなかったので、ぜひ挑戦してみたいという気持ちになって、その流れでドラマ部に配属、まずは助監督をやりました。助監督といってもいわゆるADですから、決して面白いものでもなく、ひたすらきつい現場でしたね。そんな中で、たまたまハリウッドの大学で映像の勉強ができるという機会を与えられて、気分転換にいいかなという気軽な気持ちで行ったんです」
ー2年間脚本や演出を学ばれましたが、そこで得たものは?
「すでに現場経験はあったので、学生たちと一緒に作ることよりも、ハリウッドでの映像作りの方法論やその基準をより明確に知りたいと思いました。書店に行くと、一番大きい書籍のコーナーが映像関係という世界ですからね。たとえば助監督だったら、日本だったら食える、食えないという話だったり、監督になるためのステップアップという位置づけですが、ハリウッドではスペシャリストとして尊敬され、その助監督がどうやってクリエイティブチームを作るのかという本まで出している。映像づくりに関わるスタッフがそれぞれスペシャリストであり、全員食えるどころか、豊かな暮らしができているということがまずは衝撃なんですよね。
 それができているのは映像作品が商品として世界に流通して、ビジネスとして成功して、キックバックがしっかりあるからなんですね。これは他の仕事とまったく同じで、当たり前のことなんですが、その当たり前のことに今更ながら気付かされました
 ただその競争社会は本当に厳しくて、世界から集まっている学生たちは自己表現にも長けていて、プレゼンにしても前にグイグイ出てくる。この競争者社会の中で表現者として生き残っていくのは大変なことで、作り手は奥ゆかしくしている場合じゃないんだなと思い知りました。ここで背筋が伸びたというか、素面に返ったところがあります」

テレビの現場で場数を踏み、試すことができた

ー日本に戻ってこられてからは、どんどんドラマの現場を任されるようになりますね。
「2年間遊んできたんだから、こきつかえ(笑)という感じですよ。映画の現場ではなく、テレビだったことで場数を与えられたのがよかったと思っています。だから、様々なことを試す機会がありました。映像制作は基本的にはオンザジョブトレーニングしかない。テレビは、なんだかんだいってそれができる場だったと思います。映画であれば、興行の結果であったり、受賞してというのがステップアップの方法ですが、テレビではそういった結果や評価が日常的に繰り返される。特に民放は視聴率もありますしね。NHKは視聴率は気にしないといっても数字は出ますから。日々そういった結果が見える世界で悶々としながら、結局作り手として結果に対して常に責任を問われ続ける。その現場での経験が今の足腰に繋がっていると思います」

世の中に対してのリサーチが足りない

ー今回、ワークショップの作品をみて感じたことはありますか?
「最近の傾向として、社会的な意識とか問題意識が作品に反映されているものが少ないように思います。自分の身の回りの小さい世界を、より小さく描くものが多いですね。もちろんそういう小さな世界であっても、その延長線上に社会があればいいのですが、そこを意識していないような気がします」
「適当な言い方かどうかわからないけど、世界ではなくセカイ。フィクションの世界とはいえ、あまりに自分の頭の中だけで作ってしまっていないか。題材として扱っている死や病気も、あくまで抽象なんですよね。他人事と言うか。自分が生きていることと社会がどう関わっているのか、そこにどういう問題があって、登場人物は苦しんだり、悩んだりしているのか、履歴や背景も含めたアプローチがない。登場人物は生身の人間であって、親、兄弟、故郷があって、映像では描かれない広い世界が本来はあります。フィクションだといっても、そういう履歴や設定を作れとよく言われますけど、そういう設定も想定されていない。自分が簡単に神様になって、登場人物をコマのように動かしているように感じます。おそらく実際の世の中に対しての関心やリサーチが足りないのだと思います」

ジャンルに逃げ込まずに「ドラマ」に戻る

ー最近はファンタジーを作りたいという人が多いですね。
「映画に限らず、映像には様々なジャンルがあります。コメディ、ファンタジー、ホラー。そういったジャンルを、そのジャンルに正面から向き合うのではなく、むしろ逃げ道にして作っているような気がします。ファンタジー=嘘、リアルさがなくてよい、ということではないと思うんです。ハリーポッターの最近のシリーズの監督をしているデヴィッド・イェーツは、「Sex Traffic」(2004年)という作品を作っています。これはフィクションなのですが、東ヨーロッパの田舎の女の子たちが買われていって、ボスニア・ヘルツェゴビナの最前線でセックススレイブにされているという題材を徹底的にリサーチして作ったもので、優れた批評性を含め、超リアルな作品です。その彼がファンタジー作品の代表である「ハリーポッター」シリーズの監督に抜擢されている。ファンタジーというのは上手に嘘をつくということであって、嘘とリアルの境界線をシビアに見極められる能力が必要であり、それに長けていて、うまくいったときに深い感動を与えられるんだと思うのです。ファンタジーであればあるほど、リサーチはいるはずです。人間を主人公にした実写作品というのは、登場人物をめぐる感情の物語であるべきです。大きな意味での「ドラマ」というジャンルが今、弱くなってしまっているのかもしれません。表層的な、テクニカルなことばかりに目を向けるのではなく、「ドラマ」の基本に戻らざるを得ない時代になっているような気がしています。
ー冒頭のドキュメンタリー志望だったというお話と通じます。映像作品はフィクション、ノンフィクション問わず、人間「ドラマ」であるべきで、そのドラマのリアリティこそが見る人の心を揺さぶるんですね。
本日はワークショップでお疲れのところ、ありがとうございました。
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大友啓史(映画監督)
1966年生まれ、岩手県盛岡市出身。慶應義塾大学卒。NHK入局後、97年からLAに留学。2年間、 ハリウッドで脚本や演出を学ぶ。「ハゲタカ」「白洲次郎」「龍馬伝」などを演出し、イタリア賞はじめ国内外での受賞多数。NHK在籍時の2009年に映画『ハゲタカ』で映画監督デビュー。2011年4月NHK退局、株式会社大友啓史事務所を設立。ワーナーブラザースと3本の監督契約を結ぶ。『るろうに剣心』(12年)、『プラチナデータ』(13年)に続き、 『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』(14年)が世界64か国2地域で上映、国内ではその年公開の邦画No.1ヒットを記録。昨年は『秘密 THE TOP SECRET』(8月公開)、『ミュージアム』(11月公開)、今年は将棋を題材にした青春映画『3月のライオン』二部作(3、4月公開)と話題作が立て続けに劇場公開された。