REPORT◉宮本裕一(第二映像企画) http://tsukuban.jp

 

ビデオサロン2020年1月号付録より転載

 

みんなの放送局「つくばん」は、茨城県つくば市で配信スタジオの運営をはじめ、17年から18年にかけて試験的な放送を繰り返し、19年の現在、ようやく今の形にたどり着いた。きっかけは、千代田区神田にある、「ヒマナイヌスタジオ」を訪れた時に遡る。スタジオの雰囲気もさることながら、そのスタジオコンセプトに尋常ではない衝撃を感じた。スタッフゼロ、いわば無人オペで、対談番組をライブ配信している、そんな光景を目の当たりにしたからだ。その衝撃的な感動をそのまま川井さんに伝え、そのノウハウを転用し、茨城県つくば市で配信スタジオの運営をはじめた。

今でこそ「ヒマスタ系スタジオ」と呼ばれる配信スタジオは全国至るところに見かけるようになったが、その源流はまさに、神田のヒマナイヌスタジオから始まった。スタジオオーナーのコミュニティーも川井さんを中心として全国各地に広がっている。Facebookでは川井さんが主催する「ライブ配信対応コミュニティスペース運営者連盟」というグループもあり、実践的な情報が常に更新されているので、ぜひご覧になってほしい。何よりもヒマスタ系スタジオの醍醐味は「スタッフゼロ」。今日から誰でも上質な配信番組を作れてしまうところに注視しつつ、独自のコンテンツ制作を最高のコストパフォーマンスで手に入れられるところだ。

さて、「つくばん」はどんなスタジオなのかというと、ラジオ以上テレビ未満、脱予定調和な対談番組を目指し、みんなが作る番組制作ということを心がけている。You Tuberとコラボすることも視野に入れ、編集を必要とする番組もこれからどんどん増やしていくつもりだが、基本はライブ配信を軸にサービスを広げていきたい。たとえば女子会やママ友の打ち上げ、音楽番組等、様々な配信番組やイベントに対応するスタジオとして、いろいろなジャンルに対応し開放していきたい。だからこそ、シンプルでかつ安定した機材のチョイスや運用が必要だ。先日もブラックマジックデザインからATEMI Miniという3万円台のスイッチャーが発表されたばかりで、人気You Tuberさんも、スイッチャーを導入し始めたようだ。

もうこの波は誰にも止められないし、この波に乗らない訳には行かない。今回は、そんな波に乗り遅れないためにも、これまでに試行錯誤してきたノウハウや運用スタイルを、「つくばん」を例に、実際のスタジオで運用機材を公開するので、是非参考にしてほしい。

▲ふだんは、6m四方のスタジオ。幅180cmの会議用テーブルの上に新たに天板を置いて、配信用の機材を置く。第二映像企画は茨城県つくば市にあり、舞台や発表会、ウェディング、企業PRの写真、映像制作を手がけている。みんなの放送局「つくばん」は2018年8月にスタートした。

▲(株)第二映像企画 代表取締役。人を撮ることを中心に、スポーツや舞台撮影で活躍。フォログラファーであり、ビデオグラファーであるがゆえ、クライアントからの要望に応える幅は広い。アーティストとコラボ作品や、企業プロモーション動画制作を多く手掛けている。

 

【オートスイッチング機能を活かす】

まずは、なんといってもスイッチャーの革命児「Roland VR-4HD」だろう。中でも映像を自動で切り替える「オート・スイッチング機能」が肝だ。これはオペレーターなしで勝手にスイッチングしてくれる機能で、任意で秒数を設定すると、その秒数ごとに自動で画面を切り替えてくれる。しかも最近のアップデートによって、各カメラごとにその秒数を個別設定可能になった。例えば、2人対談の場合、2人引きの画面は5秒、MCは7秒、ゲストは8秒など、スイッチングによる演出の幅が広がった。

実はこの「Roland VR-4HD」に、さらに入れ子で「Roland VR-1HD」を接続すると、VR-4HDで自動スイッチングされた4台分の映像を、VR-1HDのインプット1に入れ、事前に用意した素材を、PCやiPadやiPhoneからインプット2に入れることが可能になる。すると、好きなタイミングで、画像・動画をインサートすることができる。グリーンをKEYエフェクトで抜いてしまえば、テロップ挿入も思いのままに操れる。VR-1HDを手元に設置すればボタン1つで誰でも簡単に、番組配信が可能になるし、さらにはVR-1HDより、よりコンパクトな「Roland V-02HD」であれば、フットスイッチを接続し、足元でのスイッチングも可能なる。

 

【声はエフェクト機能を利用する】

また、配信で押さえたいポイントは、なんと言っても「声」だろう。これが聞きづらくては話にならない。ラジオ以上テレビ未満な放送を可能にするにも、ここは欠かせないポイントであるが、心配は無用だ。これもオールイン型のVR-4HDが良い仕事をしてくれる。AVミキサーとして程よいエフェクト機能がデフォルトで装備されているので、音量レベルを範囲内に納めやすく、S/Nもとても良いので、マイクのチョイスさえ間違えなければ、大きな事故には繋がらない。「つくばん」では、バウンダリーマイク、ワイヤレス、ピンマイクを対談番組で併用し、音楽番組では、ダイナミックマイクやコンデンサーマイクも使用するが、マイクのインプットが足りなくなる場合に備えて、マイク入力は別にミキサーを用意し、まとめた音声をVR-4HDに流すといった具合にしている。そうすることによって大人数の配信にも安心して対応可能になる。

バックアップも大切にしてほしい。「つくばん」は、配信エンコーダーに、CEREVO社Live Shell.Xを使用している。3チャンネル同時配信が可能な、コンパクトでとても優れたエンコーダーで、バックアップ機能もついている。これ1台あれば特に問題はないが、それでもバックアップを別にとっていただきたい。モニターと併用してバックアップできるブラックマジックデザインVideo Assist や、ゲーム動画をキャプチャーする安価なビデオキャプチャーがおすすめだ。ある程度高画質なバックアップデータがあれば、二次加工しやすいので、ライブ配信後、改めてYou Tube向けのコンテンツに編集することも可能になる。

今回紹介した内容は、神田から生まれたヒマナイヌスタジオの川井さんから始まって、全国のヒマスタ系スタジオの猛者が試行錯誤した結果、現時点での最適化であって、これかも進化するのは間違いない。これを読んで何かヒントを得た読者のアイディアが、次の時代の扉を開けることに期待したい。これだけコンパクトになって、カメラの小型化もすすみ、バッテリーや通信速度の問題も解消しつつあるので、F1レース中継のような感じで、自転車レースの自転車にカメラやエンコーダーやスイッチャーを装備して配信する時代もすぐそこまで来ているような気がする。

 

【脱予定調和と本音トーク】

「つくばん」はつくばという土地に根付いた番組もあるので、全国の人たちがどんなコンテンツを作ったら楽しいか、そして見てもらえるか、最後にヒントになる話をしたい。みんなの放送局「つくばん」では1人にフォーカスした対談番組はもちろん、複数人数との会話を楽しむ様な鼎談的趣向だったり、エンタメTVSHOWのようなテレビのバラエティー番組など、人の魅力に迫る、そんな番組制作を心掛けている。なかでも1年続いた人気プログラム「歌うお茶の間」という、歌番組を手掛けた。Vocal + Piano + Percussion のホスト3人が、ゲストミュージシャンを招き、普段とは違うジャンルの音楽に挑戦するといったチャレンジ企画だ。ぶっつけ本番の脱予定調和的演出が、視聴者の期待を程よく裏切る形となった。また、アーティストの公演直前にこの放送を行うことで、実際のコンサートへの周知・集客に効果絶大だ。この秋からは、「女子会」「ママ友」など、スタジオを打ち上げ会場的なイベント収録にも対応した。また、しっぽりと語り合いたい屋台風アレンジにも挑戦し、飲みながら配信は、まさに本音トーク炸裂間違いなしの脱予定調和番組になった。ぜひ読者の皆さんもチャレンジしてほしい。

▲屋台風対談セット。これがあるおかげで、お酒が進んでトークも弾みます。

 

 

配信ブースの機材類はテーブルにすべて載るサイズと分量に

 

▲配信ブースは、幅180cmの会議用テーブルの上に新たに天板を置いて奥行きを調整した。こちらは映像のスイッチング系の機材。

 

▲配信ブースの右側には、デジタル・ミキサー、アナログ・ミキサーなどすべてがコンパクトに収まっている。

 

 

スタジオセットとカメラ配置

▲シンプルな対談形式。いつもは番組ディレクター、カメラマンとして活躍している吉村くんが、今回は対談MCに挑戦。


▲机を挟んだ対談式のセット。6人のグループトークも結構盛り上がって面白い。

▲これが、「つくばん」のカメラと照明と三脚。ZOOM H6も使い勝手の良いマイクの1つ。スライダーを使った映像などもLIVEにたまに入れるとメリハリがついて良い。カメラはLUMIS S1とGH5。

 

 

つくばんで放送した番組例

▲ヒマスタの川井さんをスペシャルゲストとしてお招きした開局イベント。廃校になった小学校の教室から。

▲SDGs(持続可能な開発目標)アンバサダーを招き、とことん未来を語り合う、そんな夜もありです。

▲映画好きが集まる夜。映画鑑賞会後、すぐに皆の感想や思いをそれぞれに語ります。

▲お見合いっぽい雰囲気? いばらき観光マイスターS級を持つ女性陣をお迎えした映画鑑賞会でした。

▲屋台風な鼎談スタイルは、飲みながら本音を語る最高のステージです。

▲屋台配信の本家本元は奥本宏幸さんの運営するYou Tubeチャンネル「配信屋台のびしろ」から御覧ください。

▲地元のアーティスト中心に番組を構成する、「歌うお茶の間」は、1回の放送で再生数1000回を上回る人気番組の1つ。

▲いつもとは違う雰囲気でライブができる、そんなスタイルがアーティストの素顔を引き出します。

 

 

 

VIDEOSALON 2020年1月号より転載