日頃は映画やCM撮影を主戦場に活動する撮影監督の岩倉具輝さん。今回、岩倉さんにはLUMIX SレンズF1.8単焦点シリーズとLUMIX S5を使って作品を撮り下ろしてもらった。岩倉さんが作品の題材に選んだのはスポーツ用義足とその作り手、そしてそれを実際に使用しているアスリート。道具を作る人とそれを使う人、両者の日常を撮影するなかでLUMIXはどう活躍してくれたのか? 現場での撮影の模様とともにその使用感、そして魅力について語ってもらった。

映像●岩倉具輝/取材・文●青山祐介/構成●編集部 萩原
協力●パナソニック株式会社、日本体育大学、鉄道弘済会 義肢装具サポートセンター

『My Steps』

作品は湯口選手のモノローグを中心に、ひたむきに練習に励む姿を写し出し、そこに義足を制作する臼井さんの姿がカットバックで映し出される。湯口さんが抱える想いとともに未来に向かって走り出す前向きな姿を描いた作品。

パラ陸上アスリート 湯口英理菜
日本で唯一のT61(両足大腿義足)アスリート。同クラスでは200mの世界記録を持つ。先天性の病で3歳の時、両大腿から下を切断。中学3年生のとき、義足の人が集うスポーツクラブに誘われたことをきっかけに陸上競技に関心を持ち、現在は日本体育大学陸上部に所属。

義肢装具士 臼井二美男
1991年、切断障害者の陸上クラブ「スタートラインTokyo」を創設。代表者として切断障害者に義足を装着してのスポーツを指導。やがてクラブメンバーの中から日本記録を出す選手も出現。2000年のシドニーから2020東京パラリンピックの6大会にて多数の日本代表選 手の義肢を担当する。

演出・撮影・編集 岩倉具輝
撮影監督。アメリカの芸術大学のSavannah College of Art and Design, Master of Fine Arts in Film and TV、映画、テレビにおける修士号を修得。ロサンゼルスを中心にDPシステムの撮影監督として映画、CM、MV等の数多くの作品を手がける。11年のアメリカでの活動を経て、現在は日本へと拠点を移し、国内にとどまらず、海外でも撮影を手がけ、活動の範囲を広げている。

 

パナソニックLUMIX S5

オープン価格
https://panasonic.jp/dc/products/s_series/s5.html

 

機動力を生かした撮影が可能な小型・軽量の単焦点レンズ!

レンズの描写も統一されており、RAW収録も組み合わせればカラーグレーディングの自由度も上がる

今回の撮影は湯口選手の練習・競技風景と臼井さんの義足制作風景の2日間で実施。撮影は主にDJI RS2にLUMIX S5を搭載し、HDMIのRAW出力でブラックマジックデザインのVideo Assist  5” 12G HDRでBlack magic RAW収録した。基本的には4K/60p収録を行なったが、LUMIX S5ではAPC-Sにクロップされるため、ワイドがほしいシチュエーションではフルサイズで、なおかつ60pで撮影できる1080/60pでVideo AssistにProRes 422 HQ収録した。







 

出演者と一緒になって作り上げていった作品

僕は今まで映画やCMなど芝居やストーリーある被写体を撮ってきたこともあって、今回のお話をいただいて、ただカメラやレンズを評価するために撮るのではなく、見て感じられるものを作りたいと思いました。何かに挑戦している姿って、伝わる情報量が非常に多く、それを上手く表現できれば、その分見る人に多くのことを受け取ってもらえる。そんなテーマを持ってリサーチをしていく中で、湯口さんや臼井さんという素晴らしい方々に出会えて、この作品が実現しました。

今回の作品はあくまでもノンフィクションではありますが、出演者のみなさんにも傍観者として外側から見た視点ではなく、僕自身も相手を理解したうえで、一緒に伝えるためのものを作っていきたい。出演者が「勝手に撮ってくれ」という感覚ではなく、あくまでも一緒に作っていると思って欲しかったのです。

モノローグも湯口さん自身の言葉です。最初に依頼したメールの返信に、とても長い文章で気持ちが書いてあり、それを見た時につながったと思いました。話してくださいとお願いして返ってきた言葉ではなく、自身が思ったことをストレートに表現したモノローグになりました。

 

ジンバルのバランスを取り直す必要がない4本

撮影は湯口さんのウェイトトレーニングのシーンから行いました。ジムには他にトレーニングしている人もいるため、三脚を立てずにジンバルで撮っています。レンズは50mm、35mmを使って、4K/60pで記録するためにAPS-Cを選択しました。

中盤の重いものを持ち上げるといったカットでは、35mmを使いました。この画角は空間の背景もわかりつつ、情報が多すぎず、そして湯口さんひとりでトレーニングしている感じが出せました。また、ラストカットなどどうしてもワイドで撮りたいというときには、4K/60pをあきらめて24mmも使っています。

このようにレンズを取り換えながら撮影を進めていきましたが、レンズ交換の際にはジンバルのバランスを取る必要もなく、レンズ交換がスムーズにできるのがいいですね。

 

4本のレンズの描写性能を統一

▲F1.8単焦点シリーズは、外装のデザインはもちろん、レンズコーティングなどをレンズを交換してもシリーズ全体を通して描写性能を統一することでカットごとに差異がないように設計されている。昨年12月に35mmがラインナップに加わり、4本のレンズが揃ったほか、新たに18mmの広角レンズも開発のロードマップに加わった。

 

重量・重心がほぼ統一されている

 ▲重量・重心バランスがほぼ統一されており、ジンバル装着時もレンズ交換がスムーズ。今回、ワイヤレスフォローフォーカスを使用し、撮影助手がフォーカスを送るスタイルで撮影したが、フォーカスギアの位置も同じでフォローフォーカスの位置を変えずにレンズ交換できた。

 

 

ステップアップリングがひとつで済むフィルター径

今回の撮影ではほぼ全編レンズにフォローフォーカスを付けて、リモートでコントロールしました。フォローフォーカスはギアをレンズに装着していますが、レンズの大きさが変わるとギアの位置を都度調整する必要があるため、レンズ交換で手間取ります。でも、F1.8単焦点シリーズはどのレンズもほぼ同じ大きさなのでギアもほぼ同じ位置に取り付けられます。操作感も変わらないので、ただレンズを変えるだけのように使えました。

フィルターはレンズが変わってもひとつを使い回したいので、普段は一番大きな82mm径のものを、ステップアップリングを介して取り付けています。今回もこの手持ちの82mm径のフィルターを使いましたが、4本のレンズはフィルター径が同じなので、ステップアップリングも共通でいいのが助かります。

何でもそうですが、事が上手くいかないときっていろんなことが気になるのですが、LUMIX S5とF1.8単焦点シリーズのレンズは、何事もなく撮影が進められるので、とりたてて気になることがないんです。

 

フィルター径も統一

▲フィルター径もすべて67mmに統一されている。今回の屋外撮影では主にPLフィルターを使用したが、レンズ交換の際にフィルターチェンジもスムーズにできた。岩倉さんは82mm径のフィルターを所有しているため、ステップアップリングを使用した。

 

リニアでフォーカスを送れる

▲今回は岩倉さんが日頃の撮影スタイルに合わせて、全編フォーカスマンがついてMF操作で撮影を行なった。フォーカス操作はリニアに設定。フォーカスリングの回転角も好みに合わせて設定できる。

 

 

最大の魅力は現場の中で自然に馴染むその軽さ

レンズの描写は、フォーカスが合った部分からボケまでがスコンと落ちているのではなく、じんわりと自然に変化するのが、とてもオーガニックな感じで気に入っています。

また、グレーディングでは、ショットでレンズが変わるごとに色を補正しないといけないことがよくあります。しかし、F1.8単焦点シリーズの4本は色が揃っている印象です。

今回は24mm、35mm、50mm、85 mmと4本を使いましたが、もし次の1本としてどの焦点距離が欲しいかと聞かれたら、広角側です。4K/60pを前提にするとAPS-Cで撮ることになるため、24mmだとワイド感がなくなります。寄っていくのは後でできても、引くほうは難しいですから。そういう意味でも18mmが開発のロードマップに加わったのは朗報ですね。

また、普段映画はスーパー35で撮ることが多く、APS-Cなら被写体の画角に対する大きさと、背景の広がりの関係が想像しやすい。やはり映画を見ている人が見慣れているのはスーパー35ですよね。LUMIX S5であればフルサイズとスーパー35の違いをうまく生かして使い分けられます。

今回、LUMIX S5とF1.8単焦点シリーズのレンズを使ってみて、最大の魅力はその軽さです。スピード感が要求される撮影で、この軽さは武器になります。ロケハンにも持って行けるサイズで、S1Hと同じ画角でアングルを探すことができる。それでいてHDMI出力でRAWも撮れてしまう。また、ドキュメンタリーなんかで、ささっと現場の中に自然に馴染んで撮っていくのも楽ですね。

 

ミニ三脚に取り付けて

▲走り幅跳びのジャンプシーンではカメラをミニ三脚に取り付けて砂場に埋めた(本番はビニールで保護)。4K/120fpsのハイフレームレート撮影を行なった。こうした使い方ができるのも小型カメラならでは。

 

デュアルネイティブISOを搭載し低照度撮影でも低ノイズを実現

▲LUMIX S5にはV-Log撮影時にISO4000以上を必要とする低照度環境下で、ベース感度がISO4000に自動的に切り替わり(通常時はベース感度640)、低ノイズ・高ISO回路を使用した撮影が可能。今回の撮影では夜の陸上トラックのシーンも撮影をしたが、ノイズを抑えた映像を撮影することができた。

 

デジタル一眼ながらシャッター開角度の設定も可能

▲LUMIX S5は上位機種のS1H同様にシャッター開角度での撮影に対応。エントリーユーザーにも優しいユーザーフレンドリーなメニュー画面に加えて、本格的な動画カメラ仕様のメニューも用意されている。日頃シネマカメラを中心に扱う岩倉さんとしてはこうした設定ができるのもうれしいポイントだという。

 

 

カラーグレーディングが効率的になる

F1.8単焦点シリーズは、前述の通り描写性能が統一されており、レンズ交換による色味や収差の質感の違いが起こらず、カラーグレーディングの際に色を合わせるなどのポスト処理を省略することができ、本来の色作りに集中することができる。今回の作品ではベースにパナソニックが提供するLUTを使用し、各カットごとに調整を行なっている。

RAW出力を外部レコーダーで収録



▲LUMIX S5をDJI RS2に搭載し、SmallRigのアームでブラックマジックデザインVideo Assist5” 12G HDRを取り付けた。一部ハイフレームレート撮影やワイドの画角で撮影するため、8bitや10bitの素材も収録したが、基本的にはHDMI出力で4K/60p RAW収録を行なった。

 

VARICAM LUT LIBRARY

▲パナソニックがアメリカの映画関係者と共同開発したLUTライブラリー。35種類のLUTを無償でダウンロードできる。今回の作品ではこのなかから「VINTAGE」のLUTを使用した。

 

レンズによる色の差異もなくカラーグレーディングそのものに集中できた

▲今回の作品ではどことなく懐かしさや回想のような質感を出したかったので、「VINTAGE」のLUTをすべてのカットに当てている。写真はRAW収録の素材にLUTを当て、コントラスト調整などのプライマリーカラーグレーディングを施したもの。これだけでも色がよく出て、センサーの素性の良さを感じさせてくれる。4本のレンズを交換したことによる色味の違いはなく、補正の時間を省略でき、色作りに集中できたのはうれしかったという。

 

VARICAM LUTはスキントーンがキレイに出た

▲左がVINTAGEのLUTを当てた状態。右はコントラストを調整して彩度を上げた状態。ベクトルスコープを見るとスキントーンインジケータに重なるようにキレイにスキントーンが出るのも岩倉さんがこのLUTを選んだ理由。

 

10bit収録の素材も秀逸

▲ラストのシーンはワイドな画角で撮影したかった。4K/60pではAPS-Cにクロップされるため、1080/60pに設定し、VideoAssistでProRes 422 HQで収録した。LUTを当て、コントラストを調整したのみだが、これはこれで成立している。RAW素材とどちらを基準にグレーディングをすべきか悩ましいくらい10bit素材のカラーサイエンスも優れていた。

 

2月18日(金)19時よりYouTube Liveで撮影の裏側を語る無料配信も!

 

 

VIDEO SALON2022年3月号より転載