普段からデジタル一眼で制作しているムービーカメラマンの栁下隆之さん。レンズや装備を変更してもバランスを取りやすいビデオヘッド、ナイトロテックと助手のいないロケでも素早いセッティングができる635FASTは最高の組み合わせだという。

REPORT●栁下隆之 協力:ヴィデンダムメディアソリューションズ


革新と伝統のベストバランス、変革を忘れない老舗ブランド

何かしらのマンフロット製品をお持ちだという方が多いのではないだろうか。かく言う筆者も、カメラバッグ、ライティングアクセリーの数々に加えて、数本のビデオ三脚を所有しているヘビーユーザーだ。

そんな豊富な製品群の中でも、ビデオ雲台と三脚は今年50年の歴史を迎えるということで、ユーザーに広く浸透していることも頷ける。筆者も初めて購入したビデオ雲台は701HDVで、その後も504HD雲台とMVT535AQシングルレッグ三脚との組み合わせを長らく愛用していた。

そんなビデオ三脚製品の中でも2017年のナイトロテックの登場は革新的だったことを今でも鮮明に覚えている。初めての出会いは同年4月に訪れた北米ラスベガスで開催されたNAB Showの会場だった。以前より「ブリッジテクノロジー」と称して独自性のあるデザインだった同社のビデオ雲台だが、その構造にガスピストンを内包してカウンターバランス用機構の「バネ」にしたのが「ナイトロテック」シリーズである。

他に類を見ないカウンターバランスをゼロから無段階に調整できるとあって、レンズ交換で重量バランスが大きく変化するミラーレス一眼カメラには最適解と言える製品になっていた。従来軽量ミラーレスボディに単焦点から中望遠ズームレンズまでのバランスに対応できる製品はなかったので、カメラの小型軽量化とレンズの大口径化の波が同時に訪れていた一眼動画事情において、ベストといえるビデオ雲台になる予感があった。

変幻自在な一眼ミラーレスカメラでのカウンターバランス調整

一眼レフからミラーレスにカメラの主流が移ったことで、カメラの大幅な軽量化が進むと同時に、レンズは高画質を目指して大口径化が進むようになった。とりわけ各社は「美しいボケ味」と「手ブレ補正の強化」を売りに、第三元と称されるズームレンズはかつて主流だった口径77mmφから82mmφクラスに移行しつつある。

これにより、カメラ+単焦点→カメラ+大口径ズームの組み合わせでは、同じカメラであるにも関わらず、大幅な重量バランスの変化を強いられるようになった。ここで一番困るのはビデオ雲台の選定だ。たとえば1本の動画の中でルックの差を出すために単焦点のオールドレンズを使いつつ、メインは現代の大口径標準ズームでという組み合わせを想定すると、レンズの重量だけで500g〜1kg程度の違いは想定範囲の数値となる。

加えて、プロジェクトごとに外部モニターやロッドベースをつけて大型バッテリーやマットボックス(フィルターホルダー)を装着しての運用では、カメラシステムの総重量が数百gから数kgと大きく変動するのも、一眼ミラーレス機を本格的に動画運用する際の悩みのひとつになっている。そこにマンフロットが出した回答が、この「ナイトロテックシリーズ」だ。

一眼動画システムへの最適解ナイトロテック「608」

様々に変化するカメラシステムに合わせて複数のビデオ雲台を所有するのはハードルが高いが、ナイトロテック608であればゼロから8kgと一眼カメラをシステムで運用するなら現実的な選択肢となる。ジンバルと行き来させて使う場合は、シンプルな構成でカメラをセットアップするであろうし、三脚や手持ちがメインであれば、モニターや映像トランスミッターを装着するのは一般的。

また、演出的な意味で何カットかスマートフォンで撮影して、メインはリグを組んだ一眼といった場合でも、ひとつの雲台で撮影できてしまうことに驚きを隠せない。

唯一無二のナイトロテックの完全バランス構造

一眼カメラのフル装備から、なんとスマホまで完全バランスがとれてしまうナイトロテック608のカウンターバランス機構。

モニターをつけた運用状態でも完全カウンターバランスがとれるナイトロテック608

実際に筆者のケージを付けたボディにロッドベースを組み合わせ、AF単焦点レンズとマットボックス、5インチ程度のモニターを装着すると6kg弱の重さになった。ナイトロテック608であればゼロから無段階で8kgのカウンターバランスまで調整できるので、カメラ+レンズのシンプルな運用からリグセットアップまで、充分な守備範囲で使えるのは大変便利だ。


革新的なシングルレッグ三脚「635FAST」が登場

さらに定評あるシングルレッグの三脚を組み合わせれば一台でほとんどのカメラシステムに対応できる。635FASTは独特な構造ゆえに初見では使い方に戸惑うかも知れないが、各脚を捻るだけで伸縮ができる優れた操作性で、不整地でも瞬時に三脚を設置できる。屋内でも取材先やハウススタジオの構造次第では段差が多いこともあり、カメラアングルに不自由することがある。635FASTであれば開脚と伸縮の組み合わせで自由度の高いカメラアングルを探せる。

一眼動画の最大の利点は多彩なレンズワークだが、従来のビデオ三脚では開脚の構造的に設置には限度があり、レンズを活かせるアングルに入り込めないことも多々あった。筆者は過去に自前のカメラとレンズだけ持参して撮影に行った際に、プロダクションが用意してくれていた三脚がいわゆる「普通のビデオ三脚」だったために、欲しいアングルに入り込むのに大変苦労した経験がある。ボケを活かすための前ナメや広角のパース感を活かせるローやハイアングルなど、様々な状況に対応する上でも、635FASTなら自由度の高い三脚ワークが可能になる。

ローアングルからハイアングル、不整地に1カ所のレバー操作で素早く対応できるFASTカーボン三脚

開脚角度セレクターで3段階の角度に脚を固定することができ、ローアングルや不整地にもすぐに対応できる。
脚上段と下段のロックをシンクロさせた新開発のFASTツイストロック機構により、各脚1カ所のレバー操作で脚全段のロック・解除が可能。


最適解のビデオ三脚セットを手に入れる

一眼動画の多彩なレンズ選択とリグセッティングに加えて、自由度の高いアングルワークを目指すならこれ一択と言って過言ではないだろう。少し大きく重いと感じるかもしれないが、複数の雲台や三脚を所有する負担がなくなると思えば、切迫するお財布や機材置き場事情にも優しい。なにより、この一式だけで多くの撮影環境に対応できるというのは、安心感に繋がる。機材選びの迷いが消えないという方にとって、この組み合わせが明確な回答になるのは間違いない。



VIDEO SALON 2024年9月号より転載