偶然出会った旧友との短い船旅。
ふたりの表情と船からの風景が折り重なり短編小説のような「読後感」を残す作品に。

横須賀に住むサチは、代わり映えのない日々を送っていたが、ある日、小中時代の旧友・ナツと偶然再会する。 旅の途中でフェリーに乗って千葉へと渡ろうとしているナツに誘われ、サチはフェリーに同乗する。

聞き手・構成●編集部 一柳

 

 

 

4Kドラマ 審査員特別賞
「たまには船にでも乗ろうか」(4K)―角 洋介

●出演:吉見茉莉奈、納葉、佐波太郎 ●監督/脚本/撮影/編集:角 洋介  ●音楽:ioni ●録音:緒方一智 ●ヘアメイク:佳南子  ●衣裳:佐藤陽子  ●撮影助手:板垣真幸  ●クレジットデザイン:須藤史貴

 

 

——角さんの経歴は? 学校は映像関係ですか?

北九州出身で、九州大学の芸術工学部という芸術と科学を融合するような文系理系の両方からアプローチをする学部の画像設計学科で学んだんですが、そこでは映画制作の実作をしたわけではなかったんです。1年間ロサンゼルスに映画と英語で留学しまして、帰ってきてからは東京で撮影部の仕事を撮影助手からスタートしました。

——仕事の合間をぬって自主制作もやられてますよね。自主では脚本、演出をされていますが、今後は?

今、そこで迷走中なんです(笑)。もともと撮影監督を目指していたんですけど、自主制作で自分の作品をつくったりするうちに、企画の段階からやりたくなった。ただ現状ディレクター的な仕事はまだそんなに多くないので。自分としてはどっちに舵を切るのか境目にいます。自分が求められる方向に進んでいけばいいのかと思っています。自分の作品づくりは変わらずやっていけたらいいなと。

——今回の企画は?

スタートは船でなにかできることはないかなということでした。コロナ禍で外出もしづらくなり、しばらくして気晴らしにと初めて東京湾フェリーに乗船したんです。久里浜を出発し、金谷港周辺を散策した、ただ行って帰るだけのこの短い船旅はとても心躍るものだったので、単なる交通手段としてだけでなく「船に乗る」という体験そのものが魅力的であることを画として表現してみたいと思いました。

登場人物ふたりは、今撮りたいおふたりでそのキャラクターに近い話を考えました。ふたりの会話で終わって現場もなるべくコンパクトにできそうなもの。30歳近くなると、学生時代の友人らはみんな各々の道を進んでいて、環境も変わり、だんだんと疎遠になっていきます。

彼らと再会したいような気持ちと、今さら会って何か話すことがあるのかという気持ちと…久しぶりに再会してとしてもきっとそんなに話が弾むわけでもないけど、「あいつ元気かなあ」と時折回顧する相手と偶然会えたらどうなるだろうか、と想像しながら脚本を書きました。最初は男性だったのですが、あまりに自己投影しすぎるので、女性にしましたが、いずれにしても性別を超えたものにしたかった。

——このふたりで読み合わせは?

読み合わせ兼リハーサルを1日、午前に横須賀の会議室を借りて読み合わせをして、午後から船の感じを体感して潮風を浴びてもらいたかったので、午後から船に乗って往復しました。その船上でも読み合わせをやって。

 

撮影資料

リハーサル時に乗船して、船の上での撮影計画を作る。脚本の読み合わせは横須賀の会議室で一度行い、その午後にフェリーに乗って、役者さんふたりに潮風を体感してもらった。

 

——その後脚本を少し直して本番ですか?

ふたりの話を聞いたうえで、脚本を直しました。設定も、昔の同級生というだけだったのが、それっていつ? と聞かれて、決めました(笑)。映画上で話に出なくても設定としてはあってほしいと演じる側は言いますね。僕は芝居の専門的な勉強はしていなので、キャストさんから学ぶことはあります。

——本番のスタッフは?

僕が監督兼撮影で、録音がひとり、ヘアメイクがひとり、制作兼撮影助手がひとり、スタッフは4人ですね。

 

撮影現場


ほぼ手持ちでイージーリグで支えながら撮影した。レンズは単焦点で35mmをメインにその前後のみ。

撮影はARRI AMIRA。はじめてARRIのカメラを自作で使用した。Log-Cで収録して、EVF側でLUTを当てて撮影。操作が気持ちよくカメラマンのテンションを上げてくれるカメラだった。もちろんルックも満足行くものに。

 

 

——船でのセリフはどうやって録ったのですか?

船での会話はアフレコです。エンジン音もあって、あの静かなトーンでの会話は成立しないので。技術的な問題もあるのですが特殊な空間であるという違和感も狙いました。

——アフレコはどういうタイミングで?

撮影が終わった後にクルマの中で録りました。撮った映像をガイドとして流して。実際はきれいにはまらなくて、切って貼ってをかなりやりましたが。

——5分という制約は?

実は他の映画祭に7分バージョンを出したんです。スクリーンで見てみると、7分バージョンが良かった。でもスマホで見ると5分はいいなと思う。スクリーンサイズによってもテンポ感は変わってくるかもしれません。

——短編映画の市場が生まれると面白いですよね。個人的にとても好きな作品です。ありがとうございました。

 

 

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VIDEO SALON 2022年12月号より転載