いま、全国のミニシアターが危機に瀕している。新型コロナウイルス禍によって多くの劇場が休館を余儀なくされているが、そんななか、映画監督らが支援を呼びかけるメッセージを次々と発信。全国各地でミニシアターを守るためのさまざまな試みに波及している。520日発売の「VIDEO SALON6月号では、それらのプロジェクトを紹介する緊急企画を実施し、「Mini-Theater AID」の発起人である深田晃司監督にリモート取材を行った。今回は紙幅の都合で掲載しきれなかった深田監督インタビューのロングバージョンをVIDEO SALON.webで先行公開する。あらゆる映像制作の現場が活気を、全国のスクリーンが明かりを再び取り戻せる日が訪れることを願って。

取材・文●Heatin’ System

 

「Mini-Theater AID」

https://minitheater-aid.org

 

 

SAVE the CINEMA

http://savethecinema.jp

 

新型コロナウイルスによって打撃を受けているミニシアターへの支援を求め、署名活動を展開している「SAVE the CINEMA」。これに連動しながらミニシアターの運営継続を支援するのが「Mini-Theater AID」だ。映画監督の深田晃司と濱口竜介が発起人となり、有志で立ち上げた同プロジェクトに116の劇場と101の運営団体が参加。クラウドファンディングによって集まった資金は参加団体に分配される。

Mini-Theater AID」では5142359分まで支援を募集中。
詳しくはこちらから 
https://motion-gallery.net/projects/minitheateraid

 

 

INTERVIEW

「Mini-Theater AID」発起人 映画監督 深田晃司

——今回の新型コロナウイルスの感染拡大によって、深田さんの身の周りでどんなことが起きていますか?

 自分の場合はもともと撮影の予定がなくて、来年の撮影に向けて脚本を書いている時期だったので、直接的に仕事に影響が出た、ということはなかったです。ただ、周囲の撮影監督、脚本家、俳優、その他大勢の人がコロナの影響で仕事がなくなっていて、収入がまったくないという状況が続いています。同時にミニシアター、劇場関係者からも悲鳴の声が聞こえてきました。フリーランスへの社会保障が十分ではないので制作者も大変なんですけど、我々は仕事がある時もない時もあるという季節労働者のようなものなので良くも悪くも耐性があって、どんなに貧乏になっても、いずれ映画を作ることさえできれば「映画監督だ」と言えます。でも、劇場関係者はそうはいきません。この12カ月で閉館してしまう恐れがある、そして一度場所を失ってしまうと復活することは容易ではないこれは切実なものでした。

——深田さんに届いたのは具体的にどの劇場の声ですか?

 例えば、アップリンク代表の浅井隆さん。ご自身のTwitterでリアルな数字とともに大変さを訴えていました。あと、noteに投稿された名古屋シネマスコーレ・坪井篤史副支配人のインタビュー。こちらもコロナの影響を赤裸々に語られていて、これは本当に大変だと気がつきました。自分は脚本を書いていたけど、この脚本を書き上げて映画を撮っても、ミニシアターがなくなっていたら発表の場がないそう考えると落ち着かないですよね。家で脚本に専念しようという気持ちにはなれませんでした。これがMini-Theater AID基金を始めようと思った理由でもあります。

——Mini-Theater AIDのクラウドファンディングは413日から始まり、この取材(52日)時点で2万人を超えるコレクター(支援者)から22千万円以上の金額が集まっています。ちょうど折り返し地点ですが、手応えや反省などいまの率直なお気持ちを教えてください。

 3日で目標金額の1億円を達成したスピードには驚きました。MotionGalleryというクラウドファンディングのプラットホームの過去最高額がおよそ7000万円だったそうなので、1億円は大変だろうなと思っていて、もちろん超えなくてはいけない金額として設定していましたが、1カ月かけてきちんと達成していこうというのが正直な気持ちでした。いま思えば、ミニシアターファンの想いを僕たちが逆に甘く見てしまっていたな、と。まずは、ミニシアターがなくなってしまうと困る、つまりミニシアターでの映画体験を記憶している人がこれだけたくさんいるということを可視化できたのが今後のためにもよかったと思っています。もちろんミニシアターに限らず、我々もとても励まされる嬉しい出来事でした。要因としては、Mini-Theater AIDよりも数日早く動き出していたSAVE the CINEMAでの政府への署名活動がすでに数万の署名を集めていたこともあって、ミニシアターが大変なことになっているというのが社会問題としてある程度認知されていたのが大きかったと思います。もうひとつ加えるなら、外出自粛要請が出て、ミニシアターが休業になっていたことで、みんながミニシアターのない世界をバーチャルに体感しているので、この危機感をリアルに共有できていたのかもしれません。

——目標金額達成後、Mini-Theater AIDでは3億円(=1参加団体に平均約290万円分配)、35千万円(=1参加団体に平均約340万円分配)とストレッチゴールが設定されましたが、やはり1億円という金額でも現実的に厳しかったのでしょうか?

 1億円を超えた段階でミニシアターのみなさんに改めてヒアリングをしました。みなさんは率直に答えてくれて、金額として十分ではないという回答のほうが多かったんです。これは心情的なものではなくて、映画館を維持・運営するための具体的なランニングコストを考えると、やはり足りないと。もちろんケースバイケースですが、多い劇場ではひと月に300400万円のお金がかかりますから、Mini-Theater AIDから100万円が分配されても本当に当座の資金にしかなりません。我々としては1億円を達成したことに多少浮き足立っていた部分もありましたが、このヒアリングによってまた現実に引き戻されました。100万円の分配では焼け石に水ではないか。1カ月しのいでも34カ月後に閉館してしまったら元も子もないのではないか。そんな考えから目標金額を高くして継続しようということでゴールを設定し直したんです。

——514日の2359分まで支援を募集していますが、Mini-Theater AIDとしてそれ以降の支援策は現時点で考えていますか?

 もちろんそういった話も議論しているんですけど、Mini-Theater AIDはあくまでこの短期間、困難な状況をミニシアターに乗り切ってもらうためのサポート活動としてスタートしたので、以降の具体的な案は出ていないのが現状です。クラウドファンディングの特性上、これはとても嬉しい誤算だったんですけど本当に多くの方にコレクターになっていただけましたので、みなさんにしっかりとリターン(配当)を返さなくてはいけません。「未来チケット」と呼んでいる膨大な前売り券の集計や整理が必要ですし、「サンクス・シアター」というストリーミング配信をトラブルなく無事にスタートさせることが優先ですので、まずはそこに全員で取り組んでいこう、というのがリアルなところです。その後はもう少し持続的にミニシアターがサポートされるような体制づくりへ、別の形として移行していかないといけないのかなとも思いますが、この緊急事態宣言と外出自粛要請がどれだけ続くのかによって状況は変わるかもしれません。

——Mini-Theater AIDは緊急の支援策であり、政府の助成をはじめ、本来あってしかるべきものが整備されるまでのつなぎというイメージなんですね。「映画ファンの愛がミニシアターを救った」という美談としてだけ捉えられてほしくないという旨の発言も深田さんはされていますが

 民間の努力によって成り立つ公共のサービスに国が都合良くタダ乗りしてくる、そんな状況を良しとしているのは健全ではありません。今回のコロナで見えてきた問題というのは決して突然起きたことではなくて、平時に潜んでいた歪みがどんどん表に出てきてしまった、ということだと思います。例を挙げるとキリがありませんが、そもそも日本の国家予算における文化予算の割合が極端に少ないという問題があって、比較するとフランスの1/8、韓国の1/9という規模。この時点で、文化の価値の認識において構造的にも欠陥があると私は思っているんです。ドイツの文化相は「アーティストは必要不可欠であるだけでなく、生命維持に必要である」と当然のように表明して、コロナ対策としての助成金を支給しました。これは日常的に文化の価値について議論されていることの証拠でもあるんですけど、日本は私たち文化人を含めて議論すら怠ってきてしまったと思うので、そのスタート地点に一度帰らないといけない。もうひとつは業界内でしっかりと互助し合う仕組み。例えば、アメリカでは劇場の組合が何かあったときのためにきちんと積み立てているので、ある程度の損失はカバーできるみたいです。

——少し話が脱線するかもしれませんが、日本の映画業界には組合が根付いていない印象があります。この点についてどのように分析されていますか?

 たしかに日本にも組合はあるけど根付いていないというのが現状だと思っています。組合が普及しないのは加盟している人があまりに少ないからで、それは我々がフリーランスだからです。小津安二郎や黒澤明が活躍していた日本映画の黄金時代、つまり撮影所がフルに機能していた時代はスタッフも俳優もみんな各スタジオと専属契約を結んでいた、いわば社員でした。その頃の組合は強い力を持っていて労働環境を改善していたんですけど、ご存知の通り5060年代からテレビの普及に伴い観客動員数が減り、社員も一気に減ってしまった。現在では映画に関わるスタッフのほとんどがフリーランスなんですけど、この状況に対して組合やシステムが半世紀以上もしっかり対応できていないまま、抱えていた問題だけが引き継がれてしまっているんだと思います。

——とはいえ、組合の動きではないにしても、一連のSAVE the CINEMAMini-Theater AIDの動きにはこれまでにない映画業界の連帯を感じました。

 もちろん「このままでは危ない!」という声が同時多発的に上がってきたことはとても良かったんですが、まだバラバラな動きになってしまっている印象です。同時多発的に動くにしても、もっとひとつの塊として動いたほうが、国に対しても強い影響力を持てるはずですし。今回、改めてメジャーとインディペンデントの垣根を超えた、ひとつの大きな映画行政組織というのが必要なのかなと感じています。

——言われてみれば、今回の問題に際してメジャー側の声があまり聞こえていませんね。

 もしメジャーの方で声を上げている人がいたら、私の認識不足なのでお詫びしたいです。その前提でお話しすると、インディペンデントの制作者、ミニシアターが大変な状況になっていることに対して、メジャーのほうから声が上がらないのは残念ですね。いま、映画の興行収入は8割を大手が寡占していて、インディペンデントに残されているのは2割、ミニシアターもこの2割に紐づきます。そもそもこの構造自体に歪みがあると思っているんですが、さらに国内最大手の映画製作会社である東宝さんが、国内最大手の映画館チェーンであるTOHOシネマズを有しているというアメリカであれば80年前に禁止されているような歪みもあるわけです。かつ、フランスや韓国には劇場興行収入が一度プール・再分配されるという業界内の循環システムがあるんですけど、日本にはそれがない。歪みがある日本の映画興行の仕組みで資本を得ているわけなので、こういう時にこそ最大手の東宝さんにはきちんと声をあげて、もう少し互助という観点で動いてほしいと思いますね。

——海外の映画業界をよく知る深田さんだからこそ、見えている日本の状況というのがあると思います。

 日本にはいい面もありますよ。そのなかのひとつが日本のミニシアター文化です。世界各国のアート系映画を観られる劇場が、日本には100以上も存在していることに海外の関係者はみんな驚きますね。これは他の映画先進国から見てもすごく豊かな状況です。ただ、その驚きには「助成金が少ないのに、なんでこんなに多くのミニシアターがあるんだ?」ということも含まれるわけで、よく考えると、多くの劇場関係者の方の人生を犠牲にするような努力でなんとか成り立っていたりします。ミニシアターは日本の映画文化の誇るべきネットワークだと思いますけど、その数はここ20年間でどんどん減っているわけですし、手放しで日本は豊かであると結論づけることはできませんね。

——Mini-Theater AIDの活動について海外からの反響はありましたか?

 じつは、いま海外向けの英語版の報告リリースをちょうど作り終えたところなので、これからどんな反応が出てくるのかという段階です。おそらく、ミニシアター支援のために3日で1億円も集まったということは世界的に見ても大きな出来事だと思います。海外のミニシアターも大変な状況になっているかもしれませんので、この体験を海外とシェアしたらひとつの参考ケースになるかもしれません。

——先の見えない状況が続いていますが、監督として今後も映画を撮る深田さんが収束後にどのような映画づくりをするのか、とても興味があります。

 いやぁ、まだなんとも言えないですね。この外出自粛要請がずっとが続くのであれば家で映画を撮ることを真剣に考えなきゃなと思いますけど、いずれにしてもこのコロナ問題に映画人としてどう向き合っていくか。映画というのは現実の社会にカメラを向ける表現なので、現実の社会で起きているあらゆることと地続きでないといけないと思います。3.11後も震災に関する映画がたくさん作られましたが、収束後には「コロナの影響下で過ごした時間」を意識して映画を作っていかないといけない。この時期をどう過ごして、何を考えるのか、映画作家としてすごく問われている気がしています。

 

 

深田晃司監督プロフィール

1980年生まれ、東京都出身。『歓待』(10)や『ほとりの朔子』(13)などで知られ、『淵に立つ』(16)がカンヌ映画祭の「ある視点」部門で審査員賞を受賞、『よこがお』(19)がロカルノ国際映画祭のコンペティションに正式招待されるなど、多数の国際映画祭に参加。映画と社会をつなぐNPO法人・独立映画鍋では共同代表を務める。