テスター●湯越慶太 OND°シネマトグラファー

 

動画機能のポイント

●6K/60p RAW(12bit)内部記録
●4K/120pハイフレームレート記録
●30分以上の連続記録が可能に
●トラッキング対応のAF

編集部注)この記事はEOS R5 C発表前にテスト・執筆しています。

2020年に発表されたEOS R5は、8K RAW動画を搭載するなど一眼動画におけるエポックメイキングな機種として大いに注目されましたが、熱問題が取り沙汰されたりと、必ずしもそのポテンシャルを最大限発揮できるとは言い切れないのが、やや残念と言えば残念でした。もっとも仕事で8Kが必要となる局面はほとんどなく、99%の撮影は4K All I MP4で満足のいくものでしたが。

そして2021年、R5の上位機種として登場したEOS R3を今回お借りすることができました。ただ機能のレビューをするだけでは物足りないということで、即興のショートフィルムを作成してみることにしました。

結論から言えば、EOS R3はEOS R5を含むこれまでの一眼動画に比べ、明らかに頭ひとつ抜きん出た動画の画質と、カメラとしてのハード性能を持っていると思いました。しかしその一方、後述するいくつかの点において、筆者が普段扱っている「動画制作のワークフロー」に組み込むという点においてはやや工夫が必要な機体と言えます。

 

カメラの外観のチェック

まずは外観を眺めてみましょう。正面から見て最初に目につくのは縦型グリップを一体化してカメラ下部を伸ばした構造です。言うまでもなく縦撮影に対応したフォルムですが、基本的に横画面でしか撮影することのない動画制作においては縦型撮影に対応したシャッターボタンや各種ダイアルなどは使う機会はあまりなさそうです。大きく張り出した縦グリップ部分には大容量バッテリーLP-E19が1本収納されます。動画撮影時の連続撮影可能時間は公称値で3時間10分と、LP-E6NHを使用するR5の公称値1時間20分よりも倍以上長いため、動画撮影においてもバッテリーの残量をほとんど気にせず撮影できました。

▲シネマ用途でリグを組む際に、ロッドサポートが規定の高さよりもわずかに下がるため、ボディの前にロッドのサポートパーツが迫り出すようなリグが必要となる。

 

背面はEOS R5とそれ以前の一眼レフ機EOS 1Dシリーズなどを組み合わせたような見た目をしています。動画と静止画の切り替えはファインダー横のメカニカルレバーで行い、主電源のスイッチが背面やや下のあたりに配置されているあたりはプロ機っぽさを感じる部分。バリアングル液晶が搭載されている点はEOS R5と共通です。筆者は動画用途であればバリアングル式が一番使いやすいと思います。正面を向けることもできるので、ちょっとしたセッティングの合間にモニターを役者に向けて確認してもらうような使い方が簡単にできるので現場では重宝します。

R5と比べて明らかに大きなファインダーは素晴らしい見え具合だと思いました。ただし、EOS R3の特徴ともいうべき視線入力機能については、残念ながら動画モードでは動作しないため今回は試していません。

 

USB端子はType-Cのもので、データ転送や充電、給電しながらの撮影にも対応。しかし今回バッテリーライフにはかなり余裕があったため、特に給電しながらの撮影の必要性は感じませんでした。

反対側はメディアスロットとなっています。スロット形状はほぼEOS R5と同等でCFexpress Type BとSDXCに対応したものとなっています。6K RAW動画や4K/120pのハイスピード動画を撮影する場合はCFexpressが必須となりますが、4K All Iの動画であればSDXCでも対応可能です。

 

▲映像出力はR5と同じくマイクロHDMIで強度がやや不安。仕事で頻繁に抜き差しするのであれば、中間にフルHDMIの変換ケーブルを挟みたい。音声入出力はマイク端子とイヤホンジャックがいずれもステレオミニ端子。今後もし本格的に音もこだわった映像製作に持ち出すのであれば、タスカムからほぼ同じタイミングで発表されたXLRマイクアダプター「CA-XLR2d」の使用は必須。

 

 

チャート撮影でR5の8Kとも比較

屋外でX-Lite社のカラーチャートを使用し、簡易的に画質をチェックしてみます。検証した設定は6K RAW、6K圧縮RAW、4K All I MP4、4K/120p MP4。フレームレートはすべて23.98fpsを使用。また比較としてR5の8K RAWと8K All I MP4も同じ環境で収録してDaVinci Resolve上にて画質の比較をしてみました。

さて、まずカメラ内での各設定での比較を見てみます。RAWには「標準RAW」と、容量を節約するために約3分の1の容量まで圧縮した「軽量RAW」の2種類があります。またRAWで撮影しない場合は4Kの解像度で All-IやIPB形式で収録することができますが、6KのMP4で収録することはできず、6KはあくまでRAW専用フォーマットです。解像度はどちらのRAWも6000×3164。

Logについては、マニュアルによればCanon Log 3のみ対応ということになっていますが、RAWファイルに関してはDaVinci Resolveはなぜか「Canon Log2」として認識します。これはEOS R5の時から見られるDaVinci Resolveの挙動で公式からの言及はないため注意が必要です。

さて、画質を比較した限りでは、「標準RAW」と「軽量RAW」では、細部のディテールの再現にはっきりとした違いが見て取れました。軽量RAWのほうが若干ですがディテールの喪失があるようです。収録メディアに余裕があれば、「標準RAW」をお勧めしたいと思う一方、最終的にHD程度の画質に落とすのなら両者の差はまずわからないと言って差し支えないと思います。

All IのMP4とAll I 120p のデータに関しては、こちらはカメラ内で設定した通りCanon Log 3のガンマカーブで読み込まれるため、それに合わせたLUTファイルを適用しています。RAWとMP4のファイルを比較すると、やはり拡大してみた時のディテールの喪失はあるものの、色に関しては大きく違うということもなく、MP4はライトな撮影に積極的に使っていきたいフォーマットだと思いました。

ただし、4K/120pに関しては、解像度だけでなく明らかに暗部の再現性が落ち、全体的にかすかにノイジーな印象になったため、ある程度の画質低下は割り切って使うことが必要かと思います。

R5のRAWと比較しましたが、R3とR5、結構色が違うようです。R3のほうがやや淡くすっきりとした印象。また、R5は拡大してみるとどうしてもノイズが見えてくる傾向があるのですが、R3のRAWは等倍で見ても明らかにS/Nが良好でノイズが少ないため、RAWによる絶対画質の評価という点では筆者はR3に軍配をあげたいと思います。

 

チャートと人物で基本性能を診る

屋外でX-Lite社のカラーチャートを使用。フレームレートはすべて23.98fps。DaVinci Resolve上にて画質の比較。(クリックするとオリジナルサイズで開きます。ただしJPEGで圧縮しています)

 

●EOS R3:4K ALL-I 120P

●EOS R3:4K ALL-I

●EOS R3:6K 軽量RAW

 

●EOS R3:6K 標準RAW

●EOS R5:8K MP4

 

●EOS R5:8K RAW

 

実地テストを兼ねたショートムービー制作

さて、実際の使い勝手を検証するためにショートムービーを制作してみました。今回、自分の所属するOND°の若手ディレクターである堀内優さんに演出をお願いして、ミニマルなショートムービーを作ってみました。タイトルは「with doll」。とある人形をめぐる物語です。主演は森川瑠菜さん[(株)プラウド]。

 

撮影期間は2日間、電車移動なども使ったフットワークの軽い撮影スタイル。助手はつけずにフォーカスは基本オートとすることにしました。使用したレンズはRF15-35、RF50mmF1.2、RF85mmF1.2DS、RF100mm F2.8マクロです。レンズ前にはTiffen社のパールセントフィルターを装着しています。パールセントはシネマ撮影において使用されることの多いフィルターで、ハイライトの滲みとコントラストの柔らかさが特徴です。82mmのねじ込み式フィルターをレンズ前玉に装着しています。RFレンズそのままではコントラストとシャープネスがやや際立ちすぎたものになる傾向があるため、こういったフィルターを使用することでシネマティックな柔らかいトーンを作るのはお勧めです。

▲撮影したショートフィルムより。イルミネーションの溶けるようなボケ味。DSレンズの真価を発揮してくれた。AFは人物に当たる光量が確保されていれば、フォーカスは捉えてくれる。距離をおいてしまうと背景を優先してしまうこともしばしばあった。

 

今回のメインロケ地のひとつが個人宅のワンルームマンションだったので、入り口の狭い通路に三脚を設置、ドアから入ってくるというシーンを撮影しました。感度はISO800で、ノイズはありますが満遍なくといったもの。DaVinci Resolveの標準ノイズリダクションでかなり効果的にノイズを減らすことができます。

低照度下でのAFについて。このシーンでは最初誰もいないドアにピントを合わせ続け、その後ドアが空き、主演の森川さんにピントが合うという流れになっています。「誰もいないドアにピントを合わせ続け」というのはオートフォーカスにとってなかなか難しい模様。彼女がドアを開ける前にサーチ駆動してしまうことがあり、手動でドアノブなど、ディテールのあるコントラストの強い箇所をタッチパネルのカーソルで指定するなどの工夫が必要でした。

▲低照度でもこれくらいのコントラストがあれば顔の認識は可能。ISO800。ただし外れる時もあり。

 

もうひとつは、廊下の通路を森川さんが向こうからこちらに歩いてくるというもの。これも先のカットと同じく、最初画面内に誰もいないため、ドアノブなど適当なコントラスト部分をタッチで指定する必要がありました。こちらに歩いてくる人物というシチュエーションは、マニュアルフォーカスでもなかなか苦労することの多いシチュエーションですが、結果は大成功! きちんと照度がある条件下であれば、このカメラのAFはかなりのポテンシャルを持つということがわかりました。

▲奥のドアノブをタッチで指定してフォーカスをキープ。

▲女性が現れて…

▲画面下手へ歩き去る。AFが追従して大成功!

 

 

ジンバルでの使い勝手を自転車並走で検証

続いてR3をDJIのRonin RS2に乗せて、自転車の走りカットを撮影しました。筆者はカメラをジンバルに乗せて自動車に乗り、自転車を漕ぐ森川さんを併走して撮影します。フォーカスももちろんオートです。また、手前のシャッターする街路樹や建物に目をやるとローリングシャッターはあるものの、かなり抑えられていることがわかります。

▲激しい動きの中でもこの距離で顔認識が外れることはほとんどなかった。また、ローリングシャッター歪みも抑えられておりもかなり優秀だった。
※撮影は道路交通法を遵守した上で、安全面に最大の注意を払って行なっています。

 

さて、ここでR3の、というかキヤノンのミラーレスカメラで動画を撮る際のひとつの難点について指摘しなくてはなりません。Ronin RS2にはReven eyeというスマートフォンに画像を送るシステムがあり、それを使用して画像を表示したスマホを監督がチェックするのですが、R3は不可解なことに 「メニュー画面が常にHDMI側に表示される」仕様となっているのです。撮影中にメニューで設定変更しようと思うとカメラ側の液晶がブラックアウトし、監督の持つモニターにメニューが表示されてしまいます。正直これにはかなり参ってしまいました。(下写真参照)。

出力端子にメニューが必ず表示されてしまう仕様だと、監督に限らずクライアントなどの第三者が画像をチェックするような環境でこのカメラを使用することはかなり躊躇してしまいます。このような環境で使われることを想定していないカメラということだと動画制作でのワークフローに組み込むことはかなり難しいと言わざるを得ず、可能なら早急に対応してほしい仕様だと感じました。

 

イルミネーションの中を85mmで

夜の撮影となり、大手町のイルミネーションを歩く様子を撮影しました。レンズはRF85mmF1.2L USM DSレンズを使用。DSとはキヤノン独自の「DS(Defocus Smoothing)コーティング」のことで、滑らかなボケ味が期待できます。通常ジンバルでの撮影ではなるべく揺れを感じないようにワイド系のレンズを使うことが多いかと思いますが、Ronin RS2のスタビライズ性能、およびR3のセンサーシフト手振れ補正を組み合わせて、85mmという中望遠のレンズを使用してのジンバルワークにチャレンジしてみました。こちらもフォーカスはすべてAFを使用しています。

イルミネーションというシチュエーションは、ある程度の照度は確保できているのですが、被写体よりも背景のコントラストが高くなりがちなので、よほど条件が整わないと被写体をフォーカスし続けるのは難しいのです。やはり人物ではなく背景に引っ張られてフォーカスを逃すことがいくつか発生しました。

2m程度のディスタンスならカメラは人物を認識し続けてくれますが、だんだん離れていって背景との区別が難しくなると諦めてさっさと背景にピントを合わせてしまいます。なかなか難しいシチュエーションではありましたが、充分な取れ高は確保できました。

 

まとめ

R3を操作すると、このカメラが徹底的にエルゴノミクスを研究し、カメラマンが手足のように操作できるものを目指して作られたのだな、という思いを感じ取ることができます。そういった使い方をするカメラマンにはこれ以上ない頼もしい相棒となれることは間違いないでしょう。

一方で、監督、クライアント、録音部のようにさまざまな分野のプロフェッショナルが協業する環境においては、やや不親切に感じてしまう部分があることは確かです。そういった部分がファームアップなどで少しでも改善されれば、このカメラは一眼動画カメラの決定版になれるのに! としみじみ思うのでした。

 

【追加情報】

●大型バッテリーは非常に持ちが良く、朝8時ごろから夜の9時まで、たった3本しか使わずに済んだ。
●タイムコードは外部への入出力には対応しておらず、録音部との協業が必要な現場では工夫が必要。
●動画撮影時にメディア残量警告がないため、RAWで長時間撮影していると予告なしにメディアが終了してしまう可能性がある。インタビューなどで使う際は注意が必要。

 

 

 

VIDEO SALON2022年2月号より転載