好きな映画のルックに近づけたい…デジタル一眼の浅い被写界深度、ピクチャープロファイルの設定だけではどうしても出せないアナログ感。ブラックミストフィルターを使うことで初めて自分が求める映画のようなルックに近づけた。

映像●AUXOUT/モデル●RICO
取材・文●笠井里香/構成●編集部
協力●NiSi Filters Japan

▲NiSi Black Mist 7,600 – 9,300円

ブラックミストは光を拡散し、コントラストを弱める効果がある。NiSiでは67/72/77/82mmのフィルター径のモデルをラインナップ。濃度も1/2、1/4、1/8から選べる。1/2が効果がもっとも強く、1/4、1/8になるにつれ効果が弱まる。

 

『Black Mist』

ブラックミストフィルターで光を追い求め朝から晩まで様々なシーンをスナップした週末のお散歩動画です。柔らかい雰囲気の映像とチルな音楽をお楽しみください!(AUXOUT)

 

今回の撮影ではカメラはソニーα7S Ⅲ、レンズはFE 24mm F1.4 GMを使用。掲載ショットでは1/2の濃度のブラックミストフィルターを使用した。AUXOUTさんの場合、使用レンズとの兼ね合いで、フィルター類はすべて67mm径で統一している。

 

 

「デジタルっぽさ」をどう取っていくかという悩み

動画を撮るようになった初期のころからミスト系のフィルターを使っています。映画のような映像が撮りたくて映像を始めましたが、一眼で撮影してグレーディングしても、映画とは違う。シャープネスが強過ぎるのではないかとパラメーターをマイナス側に動かしてみたり、ボケや被写界深度など、カメラやレンズで工夫して雰囲気は出せるものの、やっぱり何かが違う……。一体何が違うのだろうとずっと考えていました。

結果、「デジタルっぽさが強い」んだなと思ったんです。音楽でも同じようにデジタルっぽさを取るためにヴィンテージ機材を使ったりするのですが、映像ではこの「デジタルっぽさ」をどう取っていくか。いろいろ調べて出会ったのがブラックミストフィルターでした。

初めてブラックミストをつけて撮影したとき、「あー、こういうことか!」と思いました。実は最初に使ったものは効果が強く、ドリーミーになり過ぎてしまい、低めの番手のものに変えたんですが、肌は滑らかに、エッジも柔らかになります。

 

いちばん出番が多いのは1/4
撮影後に黒を締めることが重要

スチルとは違い、映像では効果が強すぎると感じるときもありますが、1/4をいちばんよく使っています。夜間やちょっと暗いところでは1/2でもちょうどいい光の回り具合になると思いました。僕自身はコントラストの高い画が好きで、いわゆるハリウッドカラー、映画的な色を作ります。

ハイライト側を意識してブラックミストを使い、撮影後に黒を締めてあげると、パキっとしながらも明るい部分には光が回っていて、明るい部分と締まった黒の間を埋めてくれる柔らかさも持ち合わせる僕好みの画になります。光が柔らかいと黒を締めても画として成立するんです。黒が締まっているほうが背景、人物との分離もしやすくなりますしね。ただ、締め過ぎると、音楽で言うところの“ドンシャリ”感が出てしまい、硬くなってしまうので、そこは丁寧に調整します。

また、ブラックミストを使うことでカラーグレーディングもやりやすくなります。光をあふれさせる効果のあるフィルターなので、メインの人物だけでなく、さまざまな場所に反射している光があってそれぞれが光を拡散しています。そういった「色」という単位だけでは出せない部分をマイルドにしてくれるだけでも、分離がよくなり、周りとのなじみがよくなりますから、その「つなぎ」の役割もシネマ的な色作りには重要だと思いますし、カラグレでもう一歩踏み出せるなと感じましたね。

 

 

COLOR GRADING

DaVinci Resolveのノードツリー。①LUT②カラーホイール(コントラスト補正)③ビネット(レイヤーノードで追加)④カーブ(色調補正)

①S-Log3(4K/60p 4:2:2 10bit)で撮影した素材にソニー公式LUTをあて、Rec.709に色域変換。

 


②プライマリーカラーホイールの「Pivot」でコントラストの明暗の分岐を調整。暗部をさらに引き締めた。

 


③Openfxで「ビネット(周辺減光)」を適用し、クオリファイアーの「輝度」を調整し、暗部にだけ、ソフトにビネットが適用されるように設定。

 

▲色相vs色相

▲色相vs彩度

色相vs輝度

▲カスタムカーブ

④各種カーブを調整して、最終的な色調補正。映画『TENET テネット』のルックにインスパイアを受けて、作ってみた。

 

 

AUXOUT

東京生まれ。幼少期はマレーシアで過ごし、アメリカの大学で音響を学び、帰国後はサウンドエンジニアに。その後、WEBデザイナー、Flashエンジニア等を経て広告代理店のクリエイティブディレクターとして活動。現在は金融関係の企業に勤務する傍ら、「週末ビデオグラファー・フォトグラファー」としてCinematic Vlogを中心にYouTubeやInstagramで作品を公開。2021年1月現在、SNSのフォロワー総数は22万人を超え、国内外から人気を集める。

 

VIDEOSALON 2021年3月号より転載