ソニーPXW-FX9を FS7と比較しながら検証してみる


ついにフルサイズセンサーを採用したソニーの業務用Eマウントカメラの中核モデル。FS7を長く使ってきたユーザーがその視点で試してみる。

report◉丁龍海(R&Y Factory)

(このレポートは1月20日発売のビデオサロン2月号から転載したものです。レポート自体は12月中旬、FX9の発売前にデモ機をお借りして行なっています。ご了承ください)

 

性能を凝縮したフルサイズセンサーカメラ

 ソニーのフルサイズセンサー搭載カメラと言えば、αシリーズを思いうかべる人も多いが、ムービーとしてはVENICEが代表的なカメラである。そして今回、2019年12月についにフルサイズのラージセンサーカメラPXW-FX9が発売された。FS7Ⅱの進化版なのか、新しいラインナップなのか気になるところ。市場販売価格の差は25万円ほどと悩ましい設定である。今回はFSユーザーとして気になるところをみてみた。

PXW-FX9

画質性能向上

FX9は、クロップファクターのないフルサイズセンサーカメラとして話題になっているが、注目すべき点はその画質ではないだろうか。6Kセンサーを搭載し、6Kのセンサー情報がオーバーサンプリングされ、高画質な4K収録を生みだすこのカメラは、4K以上の画質を持つカメラに仕上がっている。実際、FS7と同じ映像を比較してみても、高感度ノイズが少なく、映像のディティールがしっかりしているので、物の立体感がリアルに表現されている(レポートの最後を参照)。フルサイズになったことによって、感度が良くなっただけではなく、CINE EIモードではVENICEで採用されているデュアルISOを搭載し、暗部でも美しい映像を表現できるのも特徴。

また、センサーだけではなく内部の色作りとして、VENICEで好評だったs709(sony 709)をグレーディングなしで収録ができる「S-Cinetone」のガンマが搭載され、高画質でバランスのよいシネマトーンが扱いやすくなった。FS7の画質をはるかに上回った映像は、撮るものにとってはとても魅力的である。

操作性向上

見た目はFS7Ⅱのように見えるが、基本操作性としては、FS7ⅡのDNAを受け継いで進化している。FS7Ⅱなどで好評だった可変NDフィルターの操作性は大幅に向上している。共用で切り替え式だったIRISと可変NDのダイヤルが、FX9では個別に設けられているので、扱いやすくなった。

しかし、この2つのダイヤルのうちIRISのダイヤルがジョグダイヤルとなっており、IRIS調整をすると段階的にパタパタと変わってしまう構造になっている。αレンズではIRISリングが付いていないものが多く、このダイヤルを用いるようになるので、撮影中にIRISを変えるような撮影には注意が必要。明るい現場でIRISを変えないような現場では可変NDで明るさ調整をする方法をとるか、IRISリングの付いたシネマレンズを用いることをお勧めする。ソニー純正では現状SELP28135Gや2020年春以降にラインナップされるSELC1635Gなどのレンズがある。純正以外のIRISリング付きレンズがあれば問題はなさそうだが、FX9のAF性能を諦めるのは惜しい。その他には、オーディオコントロールのダイヤルも2chから4ch分になり、操作性が向上した。このことにより、3、4chも活用する場面も多くなるだろう。

そして、アサインボタンが10カ所に増えている。具体的には、コントロールパネルに3つ追加され、最後の1つはビューファインダーに配置された。ビューファインダーに設けられたアサインボタンにはビューファインダーに関する項目を仕込めば扱いやすいだろう。

その他REMOTE端子からMULTI端子に変更することでグリップコントロールの反応も良くなった。REMOTE端子も残っているので、RM-30BPなどのリモートコントロールユニットも対応可能。

その他にも、ビューファインダーのミラー切替スイッチのカバーを大きくし、誤操作を防止する対策や、ワンタッチで取り外せるアイピースなど、細かな改良を至る所で見ることができる。

 

▲FS7、FS7Ⅱからさらに扱いやすくなったボタン類。可変NDとIRISのダイヤルが個別操作に。オーディオコントロールも4chの調整ができるようになった。

▲RECボタンを押すと光るようになり、暗い現場でもわかりやすい。このランプはバックタリーと連動している。

▲グリップコントロールのUIも変更されているが、変わらず扱いやすい。

▲センサーのスキャンモードはフルフレーム6K,2K、S35の2K 、4K。

▲新たに設けられたジョグダイヤル。メニュー選択以外に一眼レンズでIRISリングがないもののIRIS操作にも使う。



▲XQDカード挿入部分は、明るいライトが装備されていて、メディア交換に役立つ上、カバーを閉めると目立たない構造になっている。

 

 

視覚性向上

XQDカードスロット部分も変更された。カバーを開けると大きなライトが目立つ。その明かりでカードが挿入しやすくなったが、眩しく感じる部分をカバーを閉じることによって、光量を抑えることができる。暗いところでカード交換をするにはうれしい構造だ。

そして、高級感を増したRECボタン。RECが始まると赤く光り、逆タリーの予防にもなる。ボタンはフロントタリー近くにあるが、バックタリーと連動しているので、消したい場合はバックタリーを消す。

また、パネルのND関連ボタンの表記はオレンジに統一されている。小さな変更だが、ボタン類が多い中で誤操作を防止するためには素晴らしい心配りだと感じた。ビューファインダーは1280×720の高精細LCDパネル化することによって、フルサイズでのシビアなフォーカシングの手伝いをしてくれるのも特徴的。

 

機能性向上

FS7シリーズでは、オプションの拡張ユニット(XDCA-FS7)を装着しないと、TCやGen-Lockは扱うことができなかったが、FX9では本体に標準装備されている。FX9にも同じような拡張ユニット(XDCA-FX9)が用意されている。これを用いれば、16bit RAW出力やVマウントバッテリー運用、スロットイン・ワイヤレスレシーバーなどの付加機能が付いてくる。

そしてファームアップで予定されている手ブレ情報メタデータ。ここは明らかではないが、VFXで必要とされているカメラの位置情報と似た感じで、カメラのブレ感をメタデータ化して、編集時に高度な手ブレ補正をしてくれるのであろう。

もっとも注目したい機能性としてはAF機能にある。ファストハイブリッドAF機能でフォーカス精度が大幅に良くなったと感じられる。実際、FS7でも4K映像となるとピントがシビアで、備え付けのビューファインダーでは心配になる部分も多く、外部モニターで確認する場合も多かった。今回、ビューファインダーの性能が上がってもやはり心配なのは、フルサイズセンサーを用いたことにある。しかしFX9のAF機能があれば安心して撮影ができる。PXW-Z280などにも用いられている顔検出AF機能も備えたFX9であれば、フォーカス問題を大幅にクリアしてくれるであろう。

▲FS7、FS7Ⅱでは、XDCA-FS7の拡張ユニットがなければTCとGen-lockが使えなかったが、FX9では標準装備となった。また、SDI1の端子は12Gの出力が用意されている。

▲グリップコントールはREMOTE端子からMULTI端子に変更され、レスポンスが良くなった。REMOTE端子も使用可。

▲解像度が上がり見やすくなったビューファインダーには、コントラスト調整がメニューの中に収められ、アサインボタンが追加された。

▲下部の切り替えスイッチカバーが大きくなり、誤操作しにくい構造になった。


▲上がFS7、下がFS9。メニュー構成はFS7シリーズと類似した仕様ではあるが、格納箇所が少し違う程度なので馴染みやすい。

▲可変ND使用時、CLEARモードをOFFにしないと、NDの動きが映像に映り込んでしまうので、注意が必要。

▲イヤホンボリュームも操作パネルに配置され使いやすくなった。

 

FS7ユーザーからの目線

実際FX9を使用してみて、進化している部分を多く感じたが、FS7ユーザーとしては物足りなさを感じる部分もあった。一つはセンサースキャンモードで2Kセンタースキャンがなくなったこと。フルサイズセンサーを用いて、4K収録をメインに考えたFX9では、2Kセンタースキャンは画質の低下を許さなかったのではないだろうか。ライブ収録など望遠が必要な場合に重宝した機能。なくなったのは残念ではあるが、画質を優先するFX9では仕方がないことであろう。

収録としては、4K/60pに対応しているのはS35モードのみ。フルサイズ使用時の4K/60p収録はファームアップでの対応となっている(ただしフルサイズ4K/60pは83%の画角となる)。

そして、拡張ユニット使用時のProRes収録の項目がなくなったのもMacユーザーとしては辛いところ。また、HFR(ハイフレームレート)収録に関しては、FS7では2K/180fpsの収録がXQDカードでできたのに対して、FX9は120fpsで止まっている。センサーサイズが大きくなり、画像処理が難しいせいか、将来のファームアップでの対応とのこと(フルサイズ2K/180fps)。

そして、FS7の拡張ユニットで収録できた、2K/240fpsのRAW出力は設定されていない代わりに、4K/120fps(S35)の出力が将来のファームアップで予定されている。こうしてみると、S35で処理できたものがフルフレームになったことによって制限されてしまうことが多いが、一つ一つファームアップすることによって、クリアされていくであろう。FS7Ⅱと比較すると「綺麗に撮る」という部分では、優位に立つカメラであるのは間違いない。

 

総評

性能、利便性からして、FX9の仕上がりは素晴らしいと感じたが、まだファームアップしきれていないのが現状。HFRや収録フォーマット、手ブレ情報メタデータなどの仕上がりが楽しみである。

 さらにカメラに合わせたシネマレンズが2020年春先に登場することやFX9の仕様からすると、このカメラはドキュメント撮影など、今までビデオカメラで収録してきた映像を、さらに高画質で質感のある映像を記録したいユーザーには、ぴったりのカメラではないだろうか。FS7とはまた異なったラインナップのカメラとして分類されているFX9。先々にさらに楽しめるカメラである。

Eマウントシネレンズの情報はこちらから

ソニー、Eマウントのシネマ用大口径広角ズームレンズ『FE C 16-35mm T3.1 G』を発表。G Masterをベースにシネレンズ化。

https://www.sony.jp/ls-camera/products/SELC1635G/

 

FS7と同時撮影してみる


▲FS7(左)と並べて比較すると、少しスリムになったように見えるが、重さは約2kgとFS7、FS7Ⅱと変わらない。色はVENICEのようなグレーカラーを使用。

FX9(チャート)

FS7(チャート)

FX9(部分拡大)

FX7(部分拡大)

▲FS7とFX9を同じ設定で画像比較すると、FX9のほうがノイズが少なく、画質やディティールも綺麗に表現され、植物の質感まで感じられる映像になっている(ISO3200)。

VIDEOSALON 2020年2月号より転載

vsw