個人的にもBMCC 6Kを使用しているシネマトグラファーの湯越慶太さんがいま気になるカメラ、Blackmagic PYXIS 12Kを現場で試してみた。上位機譲りの12Kセンサーはどんな映像を見せてくれるのだろうか?
テスト・検証◎湯越慶太 撮影協力◎8utterfly
8utterfly「Before We Fade」MusicVideo
上位機URSA CINE 12Kと同じセンサーを搭載
PYXIS 12Kは、2024年に同社が発表し、ボックス型デザインを採用して大いに話題になったPYXIS 6Kと全く同じフォルム。私はその頃奇しくも同じセンサーを搭載したCinema Camera 6K FFを購入したばかりで、より使い勝手の良さそうなボックスタイプのPYXIS 6Kに買い替えるか大いに悩んだのでした(結局まだ愛用しているのですが)。
今回発売されたPYXIS 12Kは、6Kとボディは共通ながらセンサーが上位機種であるURSA CINE 12Kと同一のフルフレーム12Kセンサーが採用されています。URSA CINE 12Kではこれまで多くのデジタルカメラで採用されてきたRGBベイヤーセンサーと異なり、全く新しいRGBWセンサーを搭載したことで話題になりました。
PYXIS 12KはURSA CINE 12Kと同じセンサーを搭載しながらより小型で安価ということでさしずめ「羊の皮をかぶった狼」とでも呼びたくなるパッケージになっています。
注目のセンサースペックは
PYXIS 12Kに搭載された「RGBWセンサー」は35.64mm×23.32mmのフルフレームサイズ。2.9ミクロンのピクセルピッチで最大12,288×8,040pixでの4:3オープンゲート収録に対応しています。ユニークなのは画素の配列で、従来多くのデジタルカメラ(シネマカメラも含みます)に採用されてきたベイヤー配列ではなく、6×6のピクセルグリッドに対してR、G、Bのピクセルがそれぞれ6つずつ配置されます。残りはカラーフィルターを持たないW(白色)のピクセルで構成され、これによって従来のものよりも大幅に低照度環境での感度が向上し、またフィルターのパターンの繰り返しが広くなったことでモアレなどの発生も極めて少ないというものになっています。
ここで面白いのは、このセンサーでは1ピクセルを1ピクセルとして描画すれば全部で12Kの画像が得られるのですが、2×2あるいは6×6ピクセルをひとつのマクロセルとして扱うことで、センサーサイズを変更することなく8K、4Kの画像を得ることができる点。さらに言えば、そうすることによってセンサーの読み出し速度が上がったり、12Kの場合よりも1ピクセルが持つ情報量が増えるので画質面でも有利とのこと。その表現力は大いに気になるところです。
ベイヤーセンサーとBM_RGBWセンサーのカラーフィルター比較
左が従来多用されてきたベイヤーセンサー。右がURSA CINE 12KやPYXIS 12Kに採用されたBM_RGBWセンサーのカラーフィルター配置。


外観デザインをチェック
外観については姉妹機のPYXIS 6Kと同じであり、マウント横に12Kのバッヂがある以外は基本的に全く同一と言って良いと思います。6Kのボディをすでに触れている方も多いかもしれませんが、改めてこのスクエアボディを俯瞰してみるとブラックマジックデザインの考えるボックスタイプへのアプローチがよくわかります。
操作系はボディ左側面に集中し、映像出力、イーサネットといった出力系はメインはボディ後部にまとられ、音声など一部は前面に配置してあります。音声入力に関してはminiXLRが1系統とステレオミニジャックが1系統と、ステレオ入力がやりにくい仕様で、ポケシネ系と比べてスペックダウンしているのが残念な部分。
収録メディアはURSA CINE 12Kが専用のストレージを使用するのに対して一般的なCFexpless Type Bを使用するのはありがたいです。カードの速度による制限があるため事前に推奨メディアであることを確認しましょう。ダブルスロットですが、同時収録やプロキシの個別収録のような気の利いた機能はないため過度な期待は禁物。
バッテリーはソニーFX6などと共通のソニーBP-Uシリーズが採用されています。BMCC 6K等のポケシネラインはひとつ前の世代であるLバッテリー系のNP-F570互換でしたが、BP-Uシリーズはそれよりも出力電圧が高く(NP-F系が約7.2Vなのに対してBP-U系は約14.4V)、電力消費が大きなセンサーを搭載しても対応が可能となっています。
注意しなければならないのはPYXIS 12Kとセンサーを同じくする上位機のURSA CINE 12Kの電源は24VのBマウントというさらに大電圧を必要とする設計となっており、両者を比較するとフレームレートの上限に違いがあったりするため、同じセンサーとはいえURSA CINE 12KとPYXIS 12Kでは全く同じ画質と考えるのは早計です。
実際、実機を触った感触として明らかにローリングシャッターが遅くなっている印象があり、読み出し速度に差があることが伺えました。
感度については、推奨感度がISO800でデュアルISOなどの設定は特にありません。また、最高感度がISO3200となっているのは他社のカメラに比べて物足りないポイント。夜間撮影などではちょっと苦労するかもしれません。
収録フォーマットは姉妹機のPYXIS 6Kと同じくBlackmagic RAWのみという割り切りです。最近はDaVinci Resolveは当然としてPremiere ProなどもRAWへの対応が進んでおり、そのまま編集するスタイルでも可能といえば可能ですが、やはり撮って出しで使い勝手の良いProRes等圧縮コーデックも欲しかったと思います。




S35クロップでの使い勝手は
解像度は先述の12K、8K、4Kに加えてS35相当のクロップで9Kの設定もあります。クロップ設定についても、フルフレーム、スーパー35に加えてスーパー16やさらに小さいHD切り出しなどのオプションがあったPYXIS 6Kに比べてフルフレームかS35クロップ9Kの選択肢しかないというのはやや物足りなさを感じます。
12Kという超高解像度からさまざまなクロップモードがあれば使い勝手はもっとよくなりそうです。S35のクロップも9Kという高解像度限定になってしまっており、ダウンコンバートした設定も欲しかったと思います。
とはいえ、このカメラは何よりも心臓部である12K RGBWセンサーを味わい尽くすことこそが醍醐味。ここはひとつ「カメラに合わせる」おおらかな気持ちで撮影に臨むべきなのかもしれません。

MVの現場に投入
今回は、シンガーソングライターの8utterflyさんの協力でミュージックビデオをこのカメラで撮影する機会がありました。かなりミニマムな構成で、ワンマンオペレーションになったのですが現場での使い勝手や画質を検証することができました。
撮影設定は23.98fpsで解像度は4K、縦横比はオープンゲートとしました。ポストのことを考えても、フルフレームのまま4Kや8Kで収録できて、かつクロップの余裕を持たせたオープンゲートが撮れるという柔軟性の高さが重宝される現場は多いと思います。
レンズはEFマウントアダプタを介してNikkor Auto 55mmF1.2とLomoのペッツバール80.5mmF1.9をメインに使用しました。ニッコールは70年代のオールドレンズ、ペッツバールは19世紀の銘玉を現代の技術で復刻したもので独特のボケ味が特色。幻想的な世界観を作り出す意図でのチョイスです。


PYXIS 6Kは何度か現場で使ったことがあったため、ボディの使い勝手についてはある程度把握していましたが、このカメラの外見上の大きな特徴である側面モニターはワンマンの現場では意外と使いやすいというのが分かったのが発見でした。側面モニターとPYXISモニターを組み合わせて使っていたのですが、演者に収録した映像を見せたりするときにPYXISモニターの向きを変える必要がなかったり、少し無理な位置に入った時の映像の確認などで意外に重宝したのでした。

ただ、現場で困惑したのはPYXISモニターと側面モニターで色味(モニター色温度)が結構異なった点。側面モニターはやや色温度高め(6500K?)なのに対してPYXISモニターは色温度が低くかなりオレンジがかっており(5600K?くらい)、どちらを参照すれば良いか分からなくなります。モニターの色温度を設定し直す設定もなさそうだったので、ビデオアシスト等映像モニターも手がけるメーカーとして、こだわってほしいポイントだと思いました。
また、バッテリーの消費が結構大きいのもややマイナスポイント。1本が1時間早々でなくなってしまったため1日撮影なら結構な本数のバッテリーを用意するか、あるいはVマウントのアダプタ等外部電源供給が必要だと思います。
ちなみに外部電源コネクタはポケシネ系で使われている専用端子と異なり、Lemoの汎用端子となっています。RGBWセンサー、結構電力を喰うのかもしれません。
撮影素材をグレーディング RGBWセンサーの実力は?
撮影した素材をDaVinci Resolveで開いてみます。森の中の木漏れ日とマジックアワーというシチュエーションでの撮影でしたが、期待した通りダイナミックレンジの広さと色の美しさがまず目を引きます。手持ちの多い撮影でしたが懸念していたローリングシャッターもそれほど気になることもありませんでした。
特に、海岸のマジックアワー、逆光でノーライトという魅力的かつ難しい環境ではありましたが、ハイライトはかなり粘ってくれる印象でした。暗部を持ち上げたり高感度を多用すると割とノイジーな場合もあり、やや注意が必要なポイントかもしれません。
最近のブラックマジックデザインのカメラは標準でproxyが同時収録され、DaVinci Resolveでも自動的にproxyが読み込まれますが、proxyの画質がRAWとかなり差があり、グレーディングの参考にはならないため注意が必要です。どうも思った色にならない場合にはproxyがオンになっていないか確認してみるのもアリかもしれません。
正直なところ、色再現や解像感など優秀と感じるものの、PYXIS 6KやCinema Camera 6Kと比べて「別格に良い」かというと、そこまでの差は感じられないという感想。それだけ6Kセンサーのカメラが優秀であるということもできるのですが。


羊の皮を被った狼かもしれないけどピーキーすぎて使いづらい面も
ブラックマジックデザインのボックスタイプカメラの第二弾となるPYXIS 12Kを使わせていただきました。
最高感度がISO3200だったり、やや大きめのローリングシャッターや解像度オプションの少なさ、また同じセンサーを持つ上位機のURSA CINE12Kと比較するとフレームレートの制限があったりなど、「羊の皮を被った狼」的なユーティリティプレーヤーを目指したものの、ピーキー過ぎて使う場所を選ぶカメラになってしまったという印象でした。しかし12K RGBWセンサーの持つダイナミックレンジや色再現性の高さは素晴らしいと思うので、ハイエンド機と同じセンサーを搭載しながら価格とサイズを抑えてより身近に楽しめるようにしたコンセプトを維持しつつ、もう少しだけ細かい部分が扱いやすくなればなと感じた次第です。
リーズナブルな12K解像度のシネマカメラとしては他にライバルがいない孤高の存在であることは間違いないので、12Kの高解像度での撮影体験を手軽に楽しみたい、あるいはフルフレームのままBRAWでライトに4Kや8Kで撮りたいという要望には非常に高いレベルで応えられるカメラだと思います。
