Inter BEEで初披露され、その後のCP+でも注目を集めたBENROの新シリーズ「Cyanbird Collection」。4月4日に3製品の発売が開始された。今回は、AdobeMAXに6年連続登壇し、Premiere Proの書籍も執筆する映像作家の市井義彦さんに依頼し、その使用感をレポートしてもらった。

レポート●市井義彦

2000関西制作会社入社し、テレビ中心番組CM企業VPなど映像制作携わる2014独立株式会社Command C設立ディレクターのみなら撮影編集手がける映像作家として活動。著書にPremiere Pro でも入門「Premiere Pro 仕事の教科書」など。YoutubeやTwitter情報発信。「Adobe Community Evangelist」&「Adobe Community Expart」 の肩書きを持ち、Premiere Pro Betaプレリリースプログラム開発バージョン検証チーム統括も務める。

InterBEEで初披露されたBENROの「Cyanbird Collection」シリーズ

毎年秋頃に開催される国際展示会「InterBEE」。たくさんの放送機器などが展示される日本最大級のメディア総合イベントで、映像制作をなりわいにする筆者も楽しみにしていたのが、昨年はスケジュールの都合上来場することがかなわなかった。

そんな中、仕事をしながら横目でインターネットに流れてくる情報をさらっていた時、視界に飛び込んできた機材があった。それが、BENROの「Cyanbird Collection(シアンバードコレクション)」という新しいシリーズの三脚だ。

前述した通り、筆者は“写真”ではなく“映像”の人間なので、写真業界の三脚はそれほど惹かれることはないのだが……。明らかにコンパクトで軽そうな出立ちのこのトラベル三脚が“ビデオ用”だというのだから、俄然気になって仕方がない。しかも「BENRO」の三脚であるならなおのこと。

普段筆者は、大きめの三脚にBENROの「S7」という三脚ヘッドを組み合わせて使用することが多く、BENRO製品に対する期待も大きい。

「S7」はビデオの三脚ヘッドとしては軽量コンパクトな上に、カウンターバランスの調整などもしっかりしていてフットワーク軽く使用できるのが利点。それでも土台となる三脚部分は大型のものを使用していたため、車移動でない限り、運搬の負荷が高いのが悩みの種だったのだ。

▲普段使用しているBENROの「S7」の三脚ヘッド

ところが今回発売されたのは、脚とヘッドがセットで、1kgちょっとのコンパクトな“ビデオ”三脚。かなり気になる存在であることは間違いない。

今回、先行で製品の使用感を試させてもらった。

今回使用した製品

4月4日に発売となったトラベル三脚シリーズ「Cyanbird Collection」。

使用したのは写真撮影用の自由雲台タイプ三脚『TCBH15N00P』と、ビデオ撮影用としての稼働もできる『TCBC15FS20PROC』の2種類。

『TCBH15N00P』が1段目にカーボン、2段目以降にアルミニウムと2つの原料を使用しているのに対し、『TCBC15FS20PROC』はカーボン製となっている。

▲「Cyanbird Collection」の製品スペック表。同時発売された『TCBA15FS20PROC』はアルミニウム製で、カーボン製の『TCBC15FS20PROC』のほうが軽い。
▲今回テストした三脚。左が『TCBH15N00P』で、右が『TCBC15FS20PROC』
▲全伸時の写真。全伸高は『TCBC15FS20PROC』(左)が1525mm、『TCBH15N00P』(右)が1550mm
▲ヘッド部分の画像。『TCBC15FS20PROC』(左)は自由雲台とビデオ雲台が一体化されたハイブリッド型の雲台「FS20PROC」を、『TCBH15N00P』(右)は自由雲台「N00P」を搭載している

 

手にしてわかる圧倒的な軽さ

まず最初に驚いたのはその“軽さ”。

専用のケースに入れて肩がけするとほとんど重さを感じないレベルでフットワークがめちゃくちゃ軽い。トラベル三脚だけに、普段使用しているビデオ三脚に比べて軽いのは当たり前かもしれないが、それでいてビデオ撮影用にも使えるとなると期待値が高まる(※『TCBH15N00P』は自由雲台タイプで写真撮影専用)。

▲シアンバードシリーズには専用のバッグが付属しており、バッグ上部をセンターポールのフック部分に引っ掛けることが可能

 

カメラプレートは汎用性の高いアルカスイス互換のクイックリリース

早速取り出してセッティングをしてみる。

カメラを取り付けるカメラプレートは一般的な1/4インチネジ、アルカスイス互換のクイックリリースを採用。プレート裏面の前後に突起があり、ヘッドに真上からはめ込んで装着し、ヘッド側のネジを締めて固定するタイプ。ネジを少し緩めた状態では、突起が作用し、誤って落下してしまうのを防ぐ仕様になっている。実際に使ってみてこの仕様には何度か助けられた。

アルカスイス互換なので、汎用性が高いのが利点だが、一般のプレートにはこの突起はついていないことが多いので、専用プレート以外を使用するときは注意が必要だ。

▲アルカスイス互換のプレート

 

扇のように湾曲することでスリム化した脚のポール部分

脚のポール部分は、丸型のものが一般的だが、Cyanbirdは扇のような湾曲した形になっている。これは、三脚を畳んだ時ヘッドから真下へ伸びるセンターポールの邪魔にならないようにデザインされているらしい。

それによってよりコンパクトに収まり、極限までスリム化している。軽さだけでなく携帯性の良さがこの三脚の特徴だと思う。個人的には、この湾曲した脚はコンパクトなだけでなく心なしか剛性も高まっているように感じた。

▲脚のポール部分の内側は湾曲した形状

なお、“脚”のロック機構は“レバー式”。これに関しては人によって好みがあると思うが、ロックしているかどうかが一目でわかるので、ナット式よりもこちらのほうが筆者の好みだ。

▲ロック機構はレバー式

 

驚くほどの拡張性を備えたセンターポール

“センターポール”の下部にはフックが設けられていて、ここにオモリをかけて三脚の安定をはかれる仕様になっている。Cyanbirdに同梱されている専用の三脚ケースには、このフックにかけるためのタグのようなものもつけられていて、ケース内に重めのアイテムを入れておけば、ケースそのものがオモリの代わりとして使用できる仕組みだ。

また、このフックそのものをネジのように回転させると着脱が可能で、外したフックには六角棒レンチがついている。この棒レンチは脚の接合部分の調節や、センターポールそのものを取り外すのに使うことが可能だ。

▲センターポールに格納されている六角棒レンチ

さらにこのセンターポールの上部には、1/4インチネジ穴が3つ切られており、さまざまなアクセサリーの装着が可能。構造上、重量のある機材は難しそうだが、簡易照明くらいならサクッとセッティングできる。

▲センターポールにある1/4インチネジ穴
▲画像のようにネジ穴を活用し、ライトやモニターなどを取り付けることも可能

 

“ハンドル(パン棒)”も侮るなかれ

“ビデオ撮影可能”と謳う以上、気になるのは、やはりパン・チルトなどのカメラワークだ。

コンパクトなトラベル三脚なので、さすがにカウンターバランスを調整する機能はないのだが、チルト用ロックノブと、パン用のネジそれぞれを丁寧に調整すれば、かなりスムーズなパン・チルトが可能、思わず「おおぅ!」とうなってしまった。

ただ、使用してすぐ気になったのがハンドル(パン棒)。ハンドル(パン棒)の“長さ”や“安定感”は、使い手の微妙な力加減を伝えるのに大きく影響するので、パン・チルトの精度にダイレクトに関わってくるファクターだが、実際使ってみるとハンドルがすごく短くて、心もとなく感じた。

悩ましく思いながら触っていると……ハンドルの先端パーツ部分に1/4インチネジ穴が3つ切られていることに気づいた。そう、拡張できるのだ。

▲ハンドルの先端パーツ部分は取り外しが可能

Cyanbird自体には同梱されていないが、別に1/4インチネジで取り付けられるアクセサリー(一脚など)があれば、ハンドルを延長して、長いパン棒として使用できる。その先端パーツ自体もネジ接続になっていて取り外しが可能で、ここにアクセサリーパン棒を接続することも可能だ。

 

さらに、その既存ハンドルと本体を繋ぐ部分も1/4インチネジで接続されていて着脱が可能。既存のハンドルを外し、ヘッドそのものにアクセサリーパン棒を直接接続することも可能だ。拡張性がハンパない。

▲左画像のようにヘッドからハンドルを取り外し、一脚などを取り付けることもできる(右画像)

ちなみにこのハンドル、角度を変えたり、外したりするには、ハンドルそのものをネジのように反時計回りに回して緩める必要があるのだが、コンパクトな機構だけに回すのにちょっと手こずるかもしれない。

そんな時は、ハンドルそのものに格納されている六角棒レンチを使って欲しい。磁石でくっついているので、一旦抜き出して、向きを90度変えて差し込むと……いい感じにロックされてハンドルの回転を補助してくれる。何と細かい気遣いなんだろう(本来はハンドルそのものを外して別の位置に付け替える時に使うものらしい)。

できるだけ外部のツールを使わずに、すべてをこの製品の中だけで完結できるようにしようというBENROならではのデザイン性の高さがうかがえる。

▲三脚のハンドルそのものに六角棒レンチが格納されている

 

▲画像のように向きを90度変えて差し込むと、ハンドルを回転させ本体との接続部分を緩めることができる

 

気になる点

しかしながら、気になるところも一点。

「レンズをかなり望遠にして“斜めにパン”する」という、センシティブな操作をしてみると、さすがに精彩を欠いた。思い通りの斜めパンをするには綿密な調整と練習が必要かもしれない。この点はS7のヘッドに軍配があがった。さすがにこのコンパクトな「FS20PROC」にそこまで要求するのは酷かもしれない。

▲左が『TCBC15FS20PROC』に搭載されているヘッド「FS20PROC」で、右が「S7」

ちなみに、このCyanbirdはヘッド部分だけ取り外せるので、S7を装着することも可能だ。S7自体は「FS20PROC」に比べるとだいぶ重量のあるヘッドだが、Cyanbirdの脚と組み合わせても普通に安定して使用することができた。

実は以前、筆者が持っている1万円前後のトラベル三脚にS7を装着して使ってみたことがあるが、パンをした時に微妙にしなってうまく使うことができなかった。今回発売されたCyanbirdシリーズ三脚の最大荷重は4.5kgということなので、この組み合わせでも問題なさそうだ。

撮影内容によっていろんなオプションを組み合わせられるのも強みだと思う。

まとめ:用途にあった機材選びがコツ

とはいえ、S7はヘッドだけで1.4kgあるので、持ち運ぶことを考えるとそれなりの覚悟が必要だ。おそらく筆者としては、商品撮影などセンシティブなコントロールが必要な時はCyanbird+S7、それ以外の撮影はCyanbirdのみと、撮影内容に応じて使い分ける感じになると思う。

普段、機材を車で運搬することがデフォルトになっている技術さんとかは、トータルの性能重視(大きい三脚)で良いと思うが、ワンオペや制作スタッフ用の三脚としてはCyanbirdに軍配があがる。

ビデオ撮影用には「カーボン製」の『TCBC15FS20PROC』と「アルミニウム製」の『TCBA15FS20PROC』の2モデルあるが、「カーボン製」のほうが本体重量も軽いし、デザインもカッコいい(あくまで筆者主観)。

▲「カーボン製」の『TCBC15FS20PROC』

 

▲脚のポール部分に型番が表示されている

どうせならカーボン製の『TCBC15FS20PROC』にしたいところだが……価格差もあるのでそこは予算との相談といったところかと。ともあれ、これだけ軽量でビデオ撮影が可能な三脚、手放せないアイテムになることは間違いない。

もっと深く使ってみるとBENROらしい隠れた仕様が見つかりそうな気もする、映像制作者&機材オタクとしては、ワクワクしか感じ得ない珠玉の武器になりそうだ。

 

■製品情報

TCBH15N00P

  • 素材:カーボン&アルミニウム
  • 段数:5段
  • 最大直径:34.5mm
  • 最小直径:24.1mm
  • 全長:1320mm
  • 全伸高:1550mm
  • 最低高:177mm
  • 収納高:460mm
  • 開脚角度:20°/55°/80°
  • 重量(雲台込):1.05kg
  • 耐荷重量:4kg
  • 価格:36,300円(税込)

https://benro.jp/products/tcbh15n00p

 

TCBC15FS20PROC

  • 素材:カーボン
  • 段数:5段
  • 最大直径:34.5mm
  • 最小直径:24.1mm
  • 全長:1290mm
  • 全伸高:1525mm
  • 最低高:175mm
  • 収納高:435mm
  • 開脚角度:20°/55°/80°
  • 重量(雲台込):1.02kg
  • 耐荷重量:4.5kg
  • 価格:53,900円(税込)

https://benro.jp/products/tcbc15fs20proc

 

TCBA15FS20PROC

  • 素材:アルミニウム
  • 段数:5段
  • 最大直径:34.5mm
  • 最小直径:24.1mm
  • 全長:1330mm
  • 全伸高:1565mm
  • 最低高:175mm
  • 収納高:435mm
  • 開脚角度:20°/55°/80°
  • 重量(雲台込):1.22kg
  • 耐荷重量:4.5kg
  • 価格:39,600円(税込)

https://benro.jp/products/tcba15fs20proc