現場でのスイッチャー操作をもっとスマートにしたい──そんな声に応えて登場したRolandの「VenuSet」。これまでiPad専用アプリとして多くの現場を支えてきた本ツールが、ついにPC/Mac対応版として進化を遂げました。今回、MacBook ProとVR-6HDを使用し、iPad版との違いから現場での最適な使い分けを、GMOペパボ株式会社でライブ配信オペレーターを務めるの森本さんにレビュー&解説していただきました。
レポート●森本真剛(もりもとまさよし) GMOペパボ株式会社 / ライブ配信オペレーター
1978年生まれ、東京都在住。ハードウェア業界からWEB業界のpaperboy&co.(現 GMOペパボ)へ転職し、業務の一環で決算説明会の中継に携わりライブ配信に興味をもつ。映像編集やライブ配信について知識・経験のない状態から、手探りのトライアンドエラーにより独学で学習し、今ではGMOペパボの公式ライブ配信(決算説明会等)や動画撮影・編集を担当するようになる。GMOインターネットグループ内においても、グループ内向け配信や協賛しているテック系カンファレンスのライブ配信・動画編集などの技術協力も請け負っている。セミナー・ウェビナー系ライブ配信が得意。

映像制作の現場でRolandのビデオスイッチャー、特にVR-6HDのような多機能な機材を使っている方は、その複雑なメニュー構成に時間を取られることがあるのではないでしょうか。
そんな現場の課題を解決するため、RolandはiPadアプリの「VenuSet」をリリースしました。手元のiPadでワイヤレスに、直感的にスイッチャーをコントロールできるこのアプリは、多くの現場でセットアップを劇的に効率化してきました。
そして2025年、ついに待望のPC/Mac版VenuSetがリリースされました。今回は、MacBook ProとVR-6HDの組み合わせで、この新しいPC/Mac版を徹底的にレビュー。iPad版との違いや、現場でのベストな使い分け方を考察します。
そもそも「VenuSet」とは?
VenuSetは、Rolandのプロフェッショナル向けビデオスイッチャーを、PCやタブレットからリモートで制御するためのソフトウェアです。本体メニューの階層を深く潜ることなく、画面上で視覚的に操作項目を把握できるため、現場での作業効率を大幅に向上させます。
主な機能と対応機種
- カスタマイズ可能な操作パネル:映像の切り替えボタンや音量フェーダーなど必要なコントロールを自由に配置できます。
- シーン・メモリー/マクロの呼び出し:パネル上のボタンからシーン・メモリーやマクロを簡単に呼び出し、複雑な操作をワンタップで実行します。
- 外部コントロール:GPO端子やカメラ・コントロール機能(プリセット呼び出し)を利用した外部機器のコントロールもパネル上で行えます
対応機種(最新の対応情報は公式サイトをご確認ください)
- VR-120HD
- VR-6HD
- V-160HD
- V-80HD
- V-8HD
進化の軌跡:なぜ今、PC版なのか?
長らくiPad版のみが提供されていましたが、その一方でいくつかの課題も指摘されていました。
- プラットフォームの限定
iPad(iOS)ユーザーでなければ利用できません。 - 操作の精度
タッチ操作では、マウスやキーボードによる精密な操作に劣る場面もあります。 - 安定性への懸念
Wi-Fi環境が不安定な大規模イベントでは、有線接続の安心感が求められます。iPadでもUSB接続や有線LAN接続は可能ですが、別途コネクタが必要となり、現場のケーブル周りが煩雑になります。

今回リリースされたPC/Mac版は、これらの課題に対するRolandからの明確な回答と言えるでしょう。ユーザーの選択肢を広げ、LANポートによる確実なネットワーク接続という、より堅牢で精密な操作環境を提供することが、その最大の目的です。
PC/Mac版 VenuSet ハンズオンレビュー
実際にPC(Mac)にインストールし、VR-6HDに接続して試してみました。

使用環境
【PC】Apple MacBook Pro VenuSet Ver.1.0.0
【Roland ビデオスイッチャー】VR-6HD Ver.2.12.204
【接続方法】USB
UI/UX:デスクトップに最適化された操作感
インターフェースの基本レイアウトはiPad版を踏襲していますが、マウスとキーボードでの操作が前提に再設計されています。ウィンドウサイズも自由に変更でき、高解像度の大きなモニターの恩恵を最大限に活かせます。
意外に良かった点は、PCのキーボード入力がそのまま使えることです。VR-6HDのシーン・メモリーに名前を付ける際など、iPadのソフトウェアキーボードでは手間がかかりますが、PCの物理キーボードを使えば、スムーズにタイピングできます。
パフォーマンスと安定性
有線で接続した際の安定感は絶大です。接続が途切れる心配もなく、ソフトウェアのレスポンスも極めて良好です。Zoom配信などでUSBから映像入力を必要とする場合は、機材構成の簡素化が図れ、運営も格段にスマートに進められるでしょう。
使用時の注意点
使用時の注意点
VenuSetを使用する際は、以下の点に注意することで、よりスムーズに運用できます。
- RCSとの同時利用
同じPCでRCSとVenuSetの同時利用はできません。誤動作が起こるので避けましょう。 - OSとファームウェアのバージョンチェック
VenuSetが要求するPC/MacのOSバージョンだけでなく、スイッチャー本体の最新ファームウェアが適用されているかを事前に確認しましょう。バージョンが合わない場合、正常に動作しないです。 - 接続先のIPアドレス確認
有線LANやWi-Fiで接続する場合、スイッチャーとPCが同じネットワーク上にあるか、IPアドレスが正しく設定されているかを確認しましょう。接続できない場合は、ネットワーク設定を見直す必要があります。 - USB接続時のプレビュー映像
スイッチャー本体のUSB STREAM端子に接続した場合、機種によって出力される映像が自動的に変更されます(例:VR-6HDは「MULTI-VIEW」、V-160HDは「Input-View」)。VenuSetがオフラインになると元の設定に戻りますが、映像バスの変更はソフトウェア上で行うため、意図しない映像が配信されないよう注意が必要です。 - ハードウェアとソフトウェアの位置ずれ
VenuSetでフェーダーなどの値を変更した場合、スイッチャー本体の物理フェーダーの位置は連動しません。そのため、次に本体で操作する際は、意図しない値に急変しないよう注意が必要です。

改善点:今後のアップデートに期待したいこと
PC/Mac版はiPad版の利点を継承しつつ、多くの改善が施されています。しかし、実際に使ってみると、今後のアップデートでさらに良くなるであろう点もいくつか見つかりました。
ボタン配置のUI改善
現在、ボタンの配置変更はドラッグ&ドロップではなく、位置変更の際にかなり不便です。直感的な操作がコンセプトであるVenuSetだからこそ、この部分はドラッグ&ドロップで自由に配置できるようになることを強く期待します。

RCSとの同時利用
VenuSetと**RCS(リモートコントロールソフトウェア)**は同時に起動してスイッチャーをコントロールすることができません。両方のソフトウェアを併用したいユーザーにとっては、これが大きな制約となります。細かい設定やシステムの接続状況などはRCS、直感的なスイッチングはVenuSetといった同時利用が可能になると、かなり使い勝手が良くなります。今後のアップデートで同時利用が可能になることを期待します。

PCの表示設定
PCの外観設定をダークモードにしている場合、VenuSetの設定画面で文字表示が見にくくなることがあります。システムの表示モードに応じてUIの配色が自動で調整されるようになると、より快適に利用できるでしょう。


iPad版:PC/Mac版:現場でのベストな使い分けは?
両者は競合するものではなく、それぞれの長所を活かして補完しあう関係にあります。
項目 | iPad版 (for iPadOS) | PC/Mac版 (for Windows/macOS) |
---|---|---|
最大の強み | 圧倒的な機動力 | 精密な操作性と揺るぎない安定性 |
最適な場面 | 会場内の複数モニター調整、リハーサル | コントロールブースでの本番オペレーション、事前仕込み |
操作デバイス | タッチ、Apple Pencil | マウス、キーボード、タッチ(画面がタッチパネル対応の場合) |
接続方法 | USB, Bluetooth, Wi-Fi, 有線LAN | USB, Wi-Fi, 有線LAN, RS-232 |
向いている人 | 現場を動き回るテクニカルディレクター | スイッチャー卓に常駐するオペレーター |
結論として、「仕込みはPC版、動き回る調整はiPad版」というハイブリッドな使い方が、現状での最適解と言えそうです。また、専門知識のあるプロフェッショナルユーザーは、VenuSetを補助者へのセットアップツールとして活用し、本番は本体の物理ボタンやタッチパネル対応PCで直感的なコントロールを行うといった使い分けも可能です。
VenuSetが解放する「スイッチャーの属人性」
VenuSetの登場は、ビデオスイッチャーの運用における「属人性」の課題を解決する、重要な一歩となります。
これまでは、複雑な機材の操作は特定の熟練オペレーターに依存しがちでした。しかし、VenuSetを使えば、以下のような新しいワークフローが実現できます。
新しいワークフローの実現
- プロフェッショナルによる事前の土台作り
経験豊富なオペレーターがPC版VenuSetで複雑なシーンメモリやマクロを事前にセットアップし、誰でも使える「専用パネル」を構築します。 - 本番はシンプルな操作
経験の浅い補助者が、その専用パネルを使って「ボタンを押す」だけのシンプルな操作で、本番を滞りなく進行させることができます。これにより、メインオペレーターはよりクリエイティブな作業に集中できます。
ボタンのロゴ設定やアラート・メニューの編集といった機能は、予備知識のないユーザーでも迷わず操作できるように設計されており、まるで常設のコントロールパネルのように使えます。 VenuSet for PC/Macの登場は、単なるプラットフォームの追加に留まりません。それは、プロの現場の声に真摯に耳を傾け、あらゆるユーザーにとって最適なワークフローを提供しようとするRolandの強い意志の表れです。VenuSetは、チームでの作業を効率化し、技術的なハードルを下げ、映像制作のクオリティと安定性を向上させる、まさにゲームチェンジャーと言えるでしょう。
●製品の詳細はこちら
https://proav.roland.com/jp/products/venuset/
ローランド株式会社
https://www.roland.com/jp/