昨年秋に発表されて話題になっていたシネマカメラ、BURANOがついに発売された。ハイエンドシネマカメラとしてVENICEが世界のシネマ業界で使われているが、このBURANOはその性能を引き継ぎならも、ソニーがαで培ってきたAFや手ブレ補正、Eマウントなどを受け継ぐカメラでもある。ビデオグラファーのような個人制作や少人数、低予算のショートドラマ制作に最適なスペックを持つ。果たしてその実力はどうなのか?αからシネマカメラまで現場で使いこなす江夏氏が検証した。

REPORT●マリモレコーズ 江夏由洋

 

BURANOで撮影した作品『FORBIDDEN』より

 

ソニー CineAltraカメラ BURANO

●型番:MPC-2610 ●撮像素子:35mmフルサイズ Exmore RS CMOS ●有効画素:約4190万 ●内蔵ND:CLEAR、リニア可変ND(1/4-1/128) ●ラチチュード:16ストップ ●レンズマウント:PL/E(レバーロックタイプ) ●圧縮方式:X-OCN(LT)、XAVC H Intra HQ/SQほか ●記録スロット:A=CFexpress Type B、B=CFexpress Tybe B、Utility SDカード ●フォーカス:ファストハイブリッドAF(位相差検出/コントラスト検出) ●発売日:2024年2月9日 ●価格:オープン(実勢365万円前後)

 

最新の技術がぎっしりと詰まったBURANOが描く驚きの画質

 昨年ソニーから発表になったデジタルシネマカメラBURANOがいよいよ発売になった。すでに展示会などでも実機をご覧になられた方も多いだろう。あのVENICE 2と変わらぬ画質クオリティを継承するだけでなく、今の時代のニーズにしっかりと並走する未来派シネマカメラだ。個人的にもそのスペックにはいまだに驚きを隠せないといっていい。昨年実際にカメラをお借りし、作品制作する機会があったので、ぜひ皆さんにBURANOが持つ可能性をここでお伝えできたらと思う。

まずは作品をご覧いただけると幸いだ。モデルのスキントーンの美しさや、色味の深さ、そしてディテールにこのカメラが持つ表現力の高さが表れていると思う。

BURANOの一番の特徴はなんといってもその画質にある。ハリウッドの数多くの作品で使われるフラッグシップ機のVENICE 2と肩を並べるその映像クオリティは、ソニーが最も力を入れてきたところだ。ハイエンドの画質を身にまとい、BURANOは更なるテクノロジーを力にVENICEでも実現できなかった世界を描こうとしている。ハイエンドプロダクションという場所はVENICEに任せつつ、よりフットワークが軽く、広い守備範囲をもつBURANOには無限の可能性があるのではないかと感じる。



撮影現場の様子。この規模でVENICEと同等の画を得られるとは、BURANOは素晴らしい。

 

 

心臓部はフルフレーム8.6Kセンサー

最大解像度 8632×4856 に対応したフルフレームサイズの8.6Kセンサーは、様々なクロップファクターで収録が可能になっている。8.6Kのフルフレーム、6KのFFクロップ、5.8KのS35、そして120fpsに対応した4KのS35クロップだ。60fpsが必要であれば6Kまでクロップさせる必要があるのだが、30fpsまでであれば8.6Kのフルフレームが選べ、16stopものダイナミックレンジを活かした撮影が行える。そしてPLマウントと電子接点付きのEマウントのハイブリッド仕様で、さすがSソニーと感じるような非常にどっしりとした設計という印象だ。あらゆる撮影のシーンに合わせてレンズ選びができるのが嬉しい。

今回の作品は60fpsのHSで構成されるので6KのFFクロップで行なった。

 

 

世界初、内蔵NDフィルターと手ブレ補正の両立

今回画質のほかにVENICEにはないBURANOに特化された注目の機能が大きくふたつある。まずひとつ目は手ブレ補正がカメラボディに搭載されたことだ。内蔵のNDフィルターを搭載させると、カメラには手振れ補正を載せることはできないという壁を乗り越えて、今回ソニーが世界で初めてその両立を実現した。NDフィルターは電子式で、0.6(1/4)から2.1(1/128)までSTEP/VARIABLE(シームレス)の両モードにて濃度を変更することができる。その上でボディ内の手ブレ防止機能はジャイロセンサーと新開発の手ブレ補正機構と制御アルゴリズムにより、3軸によって補正される。

この手ブレ補正の素晴らしいことはまず、PLマウントでもこの手ブレ補正の恩恵を受けられるということだ。ちなみにPLマウントのカメラでボディ内手ブレ補正を使えるということも世界初になる。またこのカメラの揺れの手ブレ情報はメタデータとして素材とともに収録されるので、ポストの段階で専用のソフトウェア(Catalyst Browse/Catalyst Prepare/Catalyst Prepare Plugin)でスタビライズをかけることができるようになるのだ。そもそもPLマウントの撮影現場でも、ソニーがデジタル一眼などで培った手ブレ補正のノウハウが活かせる時代になるとは実に素晴らしいことで、間違いなく重宝される機能になるだろう。

内蔵NDフィルターと手ブレ補正の両立で、撮影の幅が一気に上がる。

 

 

Eマウントで次世代のオートフォーカス

そしてふたつ目がオートフォーカスだ。BURANOをEマウントで運用した場合、レンズのオートフォーカスを存分に活用できる。カメラでは位相差検出とコントラスト検出のハイブリッドでオートフォーカスが動き、液晶パネルを使ったタッチフォーカスも可能だ。デジタル一眼やFXシリーズ同様にAF速度や被写体の乗り移りの感度なども設定することができるため、圧倒的な精度でオートフォーカスを運用できる。被写体もAIによるアルゴリズムで正確に検出され、体や頭部の位置などを認識した上で人の顔にフォーカスがしっかりと追従する。髪の毛で顔が隠れたり、例え顔が後ろや横を向いてしまったとしてもフォーカスが外れるということがほぼなくなった。

オートフォーカスが使えるとなると一気に撮影の幅が広がる。もちろん大規模な撮影現場であれば、フォーカスオペレーターがいるし、そのシステムの設定のためのリソースは確保できるだろう。しかしリハーサルや再現性のないドキュメンタリーのプロジェクト、小規模クルーでどんどんと撮影を進めなければいけない現場などでは間違いなくオートフォーカスが武器になる。しかも新しい世代のAFアルゴリズムとなれば、その精度が撮影を加速させることになるだろう。

もちろんカメラをジンバルに載せた時や、イージーリグで運用するときなどフォーカスオペレーションが難しい状況で、アングルなどの画づくりにカメラマンが集中できるというのは本当に心強い。シネマの撮影ではフォーカスは人が合わせてなんぼ、という考えはもはや過去のこと。新しい技術がどんどんと撮影の形を変えていくことになる。

デジタル一眼などでソニーが培った次世代のオートフォーカスが撮影を加速させる。

JIBクレーンなどでもAFを活用できる。フォーカス送りのスタッフが必要なくなるのでこういった撮影でもシンプルに行える。

 

X-OCN LTこそが本命

BURANOは、ソニー独自の圧縮RAWフォーマットであるX-OCNを撮影フォーマットとして使うことができる。X-OCNにはXT、ST、LTという圧縮率の違う3つの種類があるが、BURANOはLTだけを使える仕様だ。個人的にはLTでも充分な画質が得られると考えているが、おそらくこのX-OCN間の画質の違いは相当緻密なカラーグレーディングにおいて差が出るものだと感じている。

もちろんCG合成など高いビットレートが担保するクオリティはあるが、ハイエンドの画質であってもLTはしっかりとその16stopの豊かな諧調を表現してくれるだろう。また汎用メディアであるCFexpress TypeBを収録メディアに使えるというところも嬉しい。美しい映像を効率よく運用できるBURANOは、正に今の時代に即したデジタルシネマの形といっていいのではないだろうか。

 

BURANOがEマウントで描く美しい世界

今回の撮影ではEマウントのレンズを使用した。やはりBURANOの武器であるオートフォーカスを活かしたカメラワークを取り入れたいという考えだ。また、ズームレンズやマクロレンズも積極的に使った。様々な種類のレンズを現場で使えるというのが実にいい。特にG Masterシリーズの大三元ズームや90㎜マクロがハイエンドのワークフローにリストアップできるとは本当に信じられない限りだ。シネマの現場はPLマウントでなければいけないという時代は、間違いなく終焉したといっていいだろう。

また基準感度ISO800とISO3200のデュアル・ベースISOを搭載している。どちらの感度であっても16stopのダイナミクスレンジで撮影できる。今回は屋内のスタジオで暗部のディテールを表現したい演出にしたため、主にISO3200をベースとして内蔵NDフィルターを使い露出をコントロールしたが、随所でISO800に切り替え、欲しい絞りに合わせてISOを変えていった。実にISO800とISO3200を基準感度で使えるのは素晴らしい。ノイズのない、美しいスキントーンは正にVENICEが描く世界そのものだと思う。



▲Eマウントの90㎜マクロで、瞳のヨリを撮影。Eマウントのレンズがたくさん使えるのは素晴らしい。選択肢は相当広がる。

 

また撮影はCine EIで行い、すべてS-Log3、S-Gamut3.cineをベースに新しくソニーからリリースされた4つのLUTを使った。それが従来のS709に加えて登場したWarm、Cool、Vintage、Teal and Orangeの4種類のルックになる。709仕上げをする中で、色の情報をしっかりと活かしたグレーディングは欠かせないのだが、この4つのカラーが作り出す世界は新しい作品の方向性を見出してくれると思った。特にTeal and Orangeを使った時にみられるスキントーンは、息を飲むような深みがある。編集を進める中で、今まで感じたことのないような肌の美しさに出会った。

ソニーが用意した4つのLUTを比較する






 

 

機動力こそがBURANOの使命

2.9kgあるカメラ本体は決して「小型」ではない。ただカメラとしての安定感や、筐体の作りはしっかりしている。レンズやバッテリーをつけると5kg程度になってしまうので、長時間の手持ちは難しいだろう。そのため今回はEasyRigにカメラを吊るし、本体の手振れ補正を活かした機動力の高いスタイルを実現した。またカメラマン兼照明x1、ディレクターx1、アシスタントx2、メイクx1、モデルx1という少人数で、JIBクレーンやスライダーといった小型特機も存分に取り入れた。正にシネマラインのデジタル一眼やFXシリーズで行う撮影スタイルと何ら変わらない。

最高の画質を描く次世代のセンサー、最新のオートフォーカスや手ブレ補正、そしてEマウントのレンズ群、内蔵NDフィルター、デュアルISO。様々な技術の恩恵をより高いレベルで形にすることで、新しい撮影スタイルが生まれることを改めて実感した。BURANOの可能性は無限大だ。

 

 

VIDEO SALON 2024年3月号より転載