取材・文/ 盛


ビデオサロンでもこれまで度々レポートしてきた、ソニーの「CREATORS’ CAMP」。3~4人1組のチームで地域のPR映像を制作する、ソニー主催の実践形式のワークショップだ。2023年に第1回が福島県福島市で開催され、千葉県いすみ市、和歌山県のアドベンチャーワールド、愛知県岡崎市、北海道函館市、熊本県熊本市の全国6カ所で開催されてきた。

そんな中、CREATORS’ CAMP史上初めて、第5回函館市大会で優勝したチームに対し、函館市から正式に動画制作の依頼が寄せられた。依頼内容は、市のPR動画をInstagramを通じて発信するというものだ。

市のPR動画を発信するInstagramのアカウント名は『ひと光るまち』。夜景の美しさだけでなく、そのひとつひとつの光の奥にある人々の営みやストーリーを届けることで、街の奥深さを感じてもらいたいという思いが込められている。 

優勝チームのメンバーのひとりである、まほぉさんは、いわゆる観光地や綺麗な風景を取り上げるのではなく、そこで暮らす人々にフォーカスを当て、「今後も継続的にシリーズ化できる作品にしたい」という想いを込めて動画の方向性を決めたという。

動画シリーズは今後、月に1~2本のペースで投稿される予定。秋から冬にかけては、新たな撮影も計画されている。

今回、NIPPONIA HOTEL 函館 港町での撮影現場に同行し、ソニーマーケティングの新井さん、函館市役所観光部の平井さん、講師のDINさん、そしてチームの一員であるまほぉさんに、それぞれお話をうかがった。



第5回CREATORS’ CAMP@北海道函館市 優勝チームPR映像作品



函館市のInstagram『ひと光るまち

 
 
 
 
 
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共に成長していける関係性を

CREATORS’ CAMPを立ち上げたひとりが、ソニーマーケティングの新井さん。第1回からずっとこのプロジェクトに関わり、参加者を裏側で支えてきた。


──CREATORS’ CAMP実施のきっかけを教えてください。

映像制作におけるカメラ選びは、近年ますます難しくなっています。各メーカーが高性能な製品を次々と発表しており、スペックだけでは差別化しにくいのが現状です。そうした中で、「売って終わりではなく、その先の使い手をどう支えるか」が重要だと考えるようになりました。

弊社には映像制作機材に加え、すでに築かれたクリエイターとのネットワークがあります。それらを活かし、モチベーションを高める実践型のワークショップをつくれないか──そうして生まれたのが、このキャンプです。ソニーとしては初の試みで、大きなチャレンジでしたが、第1回を無事に実施できたことで大きな手応えを感じました。

── 3日間という開催期間には、どのような意図がありますか?

多くの参加者は学生や社会人です。本来は4~5日が理想ですが、現実的に参加しやすい「金曜+土日の3日間」が最適だと判断しました。短期間ではありますが、企画・撮影・編集・納品といった一連のプロセスを体験できる構成になっています。

──クライアントワークに近い体験ができる点も、好評のようですね。

そこは当初から意識していた部分です。単なる技術演習ではなく、「実際に誰かのために作る」感覚を持ってほしかったんです。

──クライアントに自治体を選んだ理由は?

地方創生との親和性に注目しました。実際、多くの自治体が「映像によるPRをしたいが、誰に頼んでいいのかわからない」「予算感が掴めない」といった課題を抱えていました。

最初に反応を示してくださったのが福島県で、そこから本格的にプロジェクトが始まりました。現地でも、完成した映像に大きな価値を感じていただけたようです。

──撮影交渉など、現場で苦労した点はありますか?

最も大変なのは、ロケ地の調整です。映画など違い、どのチームがどこで撮影するかは直前に決まります。そのため、候補地を複数挙げたうえで、柔軟に対応していただける施設や事業者との事前調整が不可欠でした。自治体の協力なしには成り立たないプロジェクトです。

──今回、CREATORS’ CAMPの参加者が実際に案件を受注されたと聞きました。

はい。我々としても非常に嬉しい出来事でした。想定していたのは、あくまで“模擬クライアントワーク”だったのですが、実際にクライアント側(函館市)から「本案件としてお願いしたい」と正式な依頼がありました。単発で終わらず、キャリアの第一歩につながる流れが生まれたことは、大きな成果です。

── CREATORS’ CAMPの最終的なゴールは“仕事獲得”ですか?

目的はあくまで「学び」と「モチベーションの向上」です。ただし、その先で案件につながったり、機材のステップアップに繋がったりする“良い循環”が生まれることを期待しています。

──今後の展望を教えてください。

「無理なく長く続ける」ことを大切にしながら、より多くの地域、より多様なクリエイターに参加していただける場へ育てていきたいと考えています。最新機材を実際に使い、その性能を実感できる機会にすることで、ソニーと共に成長していける関係性を築いていければと思っています。


NIPPONIA HOTEL 函館 港町での撮影現場。この日は新井さん(写真右)も現場に駆けつけ撮影の様子を見守った。




自分たちの街の魅力を再認識してほしい

「自分たちの目には映らない函館の魅力を、映像クリエイターたちが引き出してくれた」そう語るのは、函館市観光課の平井さん。優勝チームにプロモーション映像の制作を正式依頼した立場から、今回のプロジェクトに対する想いや手応え、実際に動画の第一弾を視聴した感想についてうかがった。


――CREATORS’ CAMPとの出会いについてお聞きせください。


最初は同僚が電話を受けて横で聞いていたんですが、よくあるセールス的な話かと思っていましたが、なぜかすごく気になって、私が直接話を聞くことにしました。言うならば、砂浜でたまたま見つけたシーグラスのような出会いでした。

市職員が支援する案件としての妥当性や、市職員が対応できるレベルのものなのか、開催することで市に何がもたらされるのかなど、整理しなければならないハードルが数多くありましたが、自分の中で「これは大切にしたい」と思い、握りしめてきたら、今ではとても大切な存在になりました。

──今回、優勝チームにプロモーション映像を依頼された背景は?

それぞれの作品を見ていく中で、優勝チームの作品は「人」にフォーカスしたコンセプトがとても魅力的でした。また、続編の展開も可能な構成になっていて、これまで私たちが取り組んできた単発の動画制作とは一線を画していました。

1本だけだと再生数も伸びづらく、ユーザーの記憶にも残りにくい。でも、シリーズ化されることで、アカウント全体への関心や再訪の導線も作れる。それが依頼の決め手でした。

――最初に動画をご覧になったときの感想はいかがでしたか?

まず、「すごく良い編集をありがとうございます」と伝えました。最初に観たときに「こういう風に仕上がるんだ、かっこいいな」と純粋に思いました。

ただ同時に細かい部分も気になって、その後グループLINEで他のメンバーとも相談しながら調整していきました。直接クリエイターさんとやり取りすることで、こちらの意見を丁寧に汲み取っていただけました。ディスカッションできるというのは、やはり直接やりとりしてるからだと感じます。


観光課の平井さん(写真左)も撮影に同行。



――動画には函館市の景色も入っていましたが、最初からの予定でしたか?

いえ、最初はホテルNIPPONIAや楠山さんの人柄にフォーカスした内容だったのですが、私の方から「函館の魅力も伝えたい」とお願いしました。すると、インタビューの該当部分を使ってくださったり、市内の風景も追加で盛り込んでくださいました。
実際には、ロケの合間の空き時間に、「使えるかもしれないから」と撮影してくださっていたもので、そういった準備の細かさにも感動しました。

──この動画シリーズで特に伝えたいことは何ですか?

函館は決して広い町ではありません。そのため、1泊2日で充分と思われがちです。しかし、地元の人が大切にしている場所や、こだわって働いている風景を見れば、もう少し滞在してみようかなと思ってもらえるのでは、と考えました。

この映像が、観光滞在日数の延長につながることを期待しています。それともうひとつ、函館に住んでいる人たち自身がこの映像を観て、「自分の町って、こんなに素敵だったんだ」と再認識してくれたら嬉しいです。

――市のPR動画を発信するInstagramアカウントの今後の展開や期待は?

このアカウント名は『ひと光るまち』と言いますが、函館の夜景の光って、実際には人が働いたり暮らしている光なんです。夜景の美しさだけでなく、そのひとつひとつの光の奥にある人々の営みやストーリーを知ってもらい、街の奥深さを感じてもらいたいと思っています。

有名な夜景、赤レンガ倉庫、元町エリアなど、定番ルートは比較的短時間で楽しめるが、それでは函館の“本当の深さ”にはなかなか触れられないのではないかという課題を抱えていたという。「地元の人が愛している風景や、誇りを持って働いている人たちの姿、そういった“暮らしの中にある魅力”に触れてもらえたら、もう一泊してみようかなって思ってもらえるんじゃないか」と平井さん。



「人にフォーカスする」観光映像の可能性

映像クリエイターのDINさんは、これまでもCREATORS’ CAMPの講師として参加してきた。今回、自身が担当したチームの映像が函館市観光課に採用され、新たな観光プロモーションシリーズとして本格的に始動した。その裏側に見えた「人にフォーカスする観光映像」の可能性について話してくれた。


──函館市から正式なプロジェクト依頼が来た時、どのように感じましたか?

最初は、純粋に嬉しかったですね。その場で「このままシリーズ化して展開できたらいいよね」という話も出ていたので、それが本当に形になったことが何より嬉しかったです。

──チーム内での企画の出発点はどこにあったのですか?

キャンプに参加した生徒さんが参考映像を持ってきてくれて、それがインタビュー形式の少しクールなテイストの作品でした。そこから、「これ、シリーズ化したら面白いよね」という話になり、自然とコンセプトが固まっていきました。

──観光PRで“人にフォーカスする”というアプローチは、珍しいと思いました。

本当にそう思います。自治体の映像制作って、どうしても風景メインになりがちだと思うのですが、今回は「その場所で暮らす人」にスポットを当てたかった。観光って、風景を見るだけじゃなく、現地の人との出会いも大きな体験になると思うんです。

──最近は、海外からの旅行者も“体験”を重視する傾向がありますよね。

そうなんです。今、日本はインバウンド需要がすごいですよね。でも海外の人たちは、「その土地でどんな暮らしが営まれているのか」に価値を見出しています。たとえば昆布漁師さんの暮らしや、漁に出るスケジュールまで知りたいと思っている。そういった背景も含めて伝えたいと思いました。

──今回の函館プロジェクトを今後どう展開していきたいですか?

まずはSNSで若い世代に届けて、そこから移住を考えている人や海外の旅行者にも届いていけばと思っています。Instagramでシリーズを継続しながら、新しい“観光の見せ方”として定着していけたら嬉しいですね。

──函館という地域に、どんな形で還元していきたいと考えていますか?

函館の観光が少しでも盛り上がってくれたら嬉しいです。それに、今回の取り組みを見た他の地域の方が「こういう方法もあるんだ」と感じて、真似してくれたら、函館という名前が自然と広がっていくと思うんですよ。それが一番嬉しいことですね。

──これからの若手クリエイターに伝えたいことは?

やっぱり、“楽しい”とか“好き”っていう気持ちがないと続かないと思うんです。CREATORS’ CAMPは、動画制作に興味がある人が一歩を踏み出せる場所。スキルがまだ浅くても、「作るって楽しい」と感じてもらえたら、それが何より大事だと思います。

ソニーFX3を使用。




CREATORS’ CAMPが背中を押してくれた

写真から映像へと表現の幅を広げているクリエイターのまほぉさん。彼女が初めて参加したCREATORS’ CAMPで感じた悔しさ、そしてそこからの成長とつながりを経て生まれた今回の仕事への想いについてうかがった。


──キャンプで制作した映像が、今回のお仕事につながったと聞きました。最初にその話を聞いたとき、どう感じましたか?

「人にフォーカスしたい」という私の提案が、映像の方向性を決めるきっかけになったんです。自治体の方々もその場でとても好意的な反応をくださっていたので、「リアルタイムでつながったらいいな」とは思っていましたが、まさか本当に実現するとは思いませんでした。本当に嬉しかったし、「あ、欲しいと思ってもらえる映像が作れたんだ」と、自信にもつながりました。

── CREATORS’ CAMPの魅力はどんなところにありますか?

映像が作れるのはもちろんですが、許可関係がすでにクリアな状態で、さらに自治体の方から直接話が聞けるんです。だから限られた時間の中でも、クオリティの高い映像が制作できます。

また、駆け出しの時って、自分が何が分からないのかが分からなくて。クライアントワーク風にワークショップを開いてくださるので、何が分からないのかがどんどん洗い出されました。

──まほぉさんは、3度CREATORS’ CAMPに参加されているんですよね。

そうなんです。1回目(愛知県岡崎市)は映像を始めて数カ月の頃で、納得のいく作品が作れなかったんです。でも、3位をいただいて、嬉しさよりも「もっとできたはずなのに」という悔しさで、表彰のとき号泣しました。その悔しさがバネになって、函館で初めて1位を取れたときは、ようやく自分の想いを出し切れた映像ができたと思いました。

──動画制作のどんな点に魅力を感じていますか?

音も含めて、写真よりも圧倒的に情報量が多いところですね。情報を深く届けたいとき、映像って本当に強い表現手段だと思います。

──今後は、写真と映像をどんなバランスで活動していきたいですか?

 将来的には、旅系のインフルエンサーとして情報発信していきたいと考えています。そのためには映像の比重をもっと増やしていきたいです。

──いま、映像を始めようとしている人に伝えたいことは?

自分が「何を分かっていないのか」が明確になるし、講師や仲間と一緒に、ひとりじゃ絶対に撮れない映像が作れます。しかも講師の方々が本当に豪華で、プロの現場に近い体験ができます。挫折しそうになっている人にこそ、CREATORS’ CAMPに参加してほしいです。





CREATORS’ CAMPの詳細はこちら

特設ページ
https://www.sony.jp/ichigan/a-universe/creatorscamp/

ソニー株式会社
https://www.sony.jp/