ソニーマーケティング主催の写真と映像のアワード「THE NEW CREATORS」第1回で、映像作品のグランプリに選ばれた河合ひかるさん。受賞前と受賞後で何が変わったのか、そして今、どのように制作と向き合っているのか、お話をうかがった。
聞き手●編集部 一柳 文・写真●盛 真弓 協力●ソニーマーケティング株式会社

河合ひかる(Kawai Hikaru)
美術作家/1999年、東京生まれ。東京藝術大学大学院 美術研究科 先端芸術表現専攻 修士課程修了。言語・国籍・性別・歴史など、社会に無数に存在する「人を縛る記号」に着目し、言語の優位性を揺るがす試みをしている。

「THE NEW CREATORS」に応募したきっかけ
――受賞作の『親愛なる声へ』はいつ、何をきっかけに制作されたのでしょうか?
大学院在学中、入学した2022年に制作しました。ちょうどコロナがようやく明けたかな、という時期でした。2022年の冬から1年間休学し、中国の家族と過ごして語学を学ぼうと思っていたのですが、その矢先に祖父が亡くなってしまい、そこから映像が始まるんですが、その休学期間中に制作した作品です。
――「THE NEW CREATORS」は今回が第1回で、情報も少なかったと思います。どのようにして知りましたか?
たしか募集ページが出ていたのはちょうど1年前くらいだったと思います。その頃は大学院の修了制作に追われていて、最終審査会がクリスマス時期、修了制作展が1月中頃に上野のキャンパスで開催される、まさに追い込みの時期でした。映像編集に追われながらも卒業後の心配が押し寄せてきていました。
学生が最終学年の時に誰しも悩むところではあると思うんですけど、「卒業後どうなるんだろう」「作家として制作を続けていけるのか」という不安がありました。だいたい就職するか作家として活動するかの二択の中で、私は作家としてやっていきたいと思っていました。ただ、日本の現代美術の世界では、35歳くらいまでに主要な賞や成果を残していないと、国内で活動を続けるのは難しいと言われています。
その焦りの中で「早く実績を作らなきゃ」という思いに駆られ、片っ端から映像コンペを探していて、このアワードに出会いました。情報はほとんどありませんでしたが、藁にもすがる思いで応募しました。
このアワードのキーワードが「世界を感動で満たす共創者を、待っている」だったんです。それまでの私にとってソニーは家電や映像機器のメーカーという印象だったのですが、「共に創る」という姿に意気込みを感じました。企業の映像コンペは、大きな機材や予算を使ったプロフェッショナルな作品が選ばれるイメージが強くて、自分のような美術畑の学生の作品を見てもらえるのか不安でした。それでも、「共創者」という言葉だけを頼りに応募しました。

――「共創者」という言葉はいろいろな捉え方ができますよね。ソニーとクリエイターだけでなく、クリエイター同士、あるいは見る人との共創も含めて。どんなイメージを持っていましたか?
当時は、ソニーさんと何か一緒にできるのかな、という期待がありました。チャンスを掴むという気持ちも強く、バックアップを得られるなら絶対に無駄にしないという覚悟がありました。
また、「共創者」という言葉を改めて考えると、作品は鑑賞者がいて初めて成立するもので、見せることを前提に価値が生まれてくると思っているので、私は普段から鑑賞者との関係性を考えて制作しています。
――応募の際、審査員は意識しましたか?
アート系の方はいらっしゃらなかったので、チャレンジでしたね。結果的に、写真作品のグランプリを取られた花田智浩さんも美術分野の方で、大学の教授や美術関係者からも良いコンペだったねと言っていただけました。

作品の中身を見て評価された
――アート以外の分野の上田慎一郎監督や大喜多正毅監督が映像作品の審査員でしたが、おふたりが選んだという点に、この作品の強さがあり、それが伝わったと感じますか?
そうですね。私はシネマカメラなどの高価な機材を使ったこともなく、コンテも作らず、すべて独学で、家にあったコンデジで撮影を始めました。撮影・照明・音響・編集・演技まで全部自分でやる。いわば徹底した個人制作です。だからこそ、純粋に作品の内容そのものを評価していただけたのだと思います。
――制作会社などで働く人の中には、「自分も作品を作りたい」と思っている方もわりと多いかもしれないです。
そうですね。私自身、今こうして純粋に自分の表現を追い求められる環境にいることを恵まれていると感じています。だからこそ、自己満足ではなく、社会を少しでも良くしたいという気持ちがあります。
審査員のおふたりが授賞式で「個人的な表現や、自分たちでは撮れない映像を撮っている人を選びました」とおっしゃっていたのが印象的でした。

受賞前と受賞後で変わったこと
――副賞のひとつ、ソニーPCLのクリエイティブ拠点「清澄白河BASE」の見学体験はいかがでしたか?
ひと言で言うと、自分には未知の領域でした。お金をかけて映像を撮ると、こんなにも美しいものが撮れるのかと。バーチャルプロダクションに関しては、思わず「もう現実でロケハンしなくてもいいじゃん」と思いました(笑)。


――ソニー・ミュージックレーベルズが提供する副賞、ミュージックビデオ撮影体験は進んでいますか?
はい。11月にミーティングがあり、撮影アーティストと楽曲も決まりました。企画段階から関わらせていただけそうで、これからの制作がとても楽しみです。
――受賞前と後で、ご自身の中で変化はありましたか?
変わった部分と変わらない部分があります。まず変わっていないのは、私は美術作家なので背伸びせず、ただ新作を着々と作り重ねていく。前作よりいいものを作っていく、それだけしかないので、そこは何があろうとも変えてはいけない部分だと思うので、その制作をやるぞっていう心持ちは変わっていないですね。
変わった部分としては、他者からの評価です。ソニーの映像コンペでグランプリを取ったということで、美術畑の人達にも広まり、普段会わない方から“ソニーおめでとう”と声をかけてもらいました。思っていた以上に「ソニー」や「グランプリ」という記号の強さを感じましたし、それに恥じないようなものを作らなければという思いが強まりました。
もちろん、作家として続けていけるんだろうかという不安は全て解消されたわけではありませんが、単純に自分の物語が届く、しかも美術畑じゃないところに、というのはすごく嬉しかったです。

美術を学んでその文脈を意識して制作発表をしてきた自分が、美術の世界で評価をしていただくことはもちろん嬉しいです。しかし、第一線でご活躍されている映画監督である上田さんや多数の著名なアーティストのMVを手がけておられる大喜多さんにご選出いただき、その結果多くの方に『親愛なる声へ』の話が届いたことはそれ以上に意味があると思っています。普遍性があることを自分はやれているのだと思います。
共通認識みたいなところに訴えかける表現が自分の作品にできていると。誰かが自分の作品に10分間を費やしてくれ、その対価として評価や賞をいただけた。見てくださった方の感動みたいなものがあったことがすごく自信になりました。
制作は、自分のままでただ作るだけということができるのが、一番継続しやすいんです。他者からの評価ありきだと制作って続かないんですよ。それが得られなくなった時に自分の表現を認めてあげられなくなるので。
企業に所属したり、人からお金をいただいて制作したりしていない以上は、やっぱり自分のために自分の制作があるみたいなことが、美術作家はきっとみんなあると思うんです。他者からの評価を前提にすると、得られなかった時に続けられなくなる。だからこそ、自分のやり方で、自分のペースで作り続けることが大切だと思っています。今回の受賞で、「自分の今やっていることは間違いじゃないからこのまま続けていいんだ」「この方法で合っているんだ」と確信できました。

THE NEW CREATORS Photo & Movie Awards 第2回の作品を募集中
・募集期間:2025年11月18日 〜 2026年3月16日
・部門:写真作品(ネイチャー部門/自由部門/組写真部門) 映像作品(イマジネーション部門/ドキュメンタリー部門/ショート部門)
・写真作品審査員:川島 小鳥氏、志賀 理江子氏 ・映像作品審査員:大喜多 正毅氏、大友 啓史氏
・賞と副賞(グランプリ100万円と機材、機材サポート、副賞の特別な体験など)
▼・グランプリ賞金・副賞:
賞金:100万円
副賞: ソニー関連各社ならではの“特別な体験”
ソニーが支援する世界最大規模のアワード表彰式へご招待(海外)
ソニーイメージングギャラリー 銀座での作品展示
映画の特別試写会&トークセッションへご招待(国内)
アーティストのミュージックビデオなどの撮影現場見学体験
ソニーPCL「清澄白河BASE」の見学体験
– 「α7R V」<写真作品>、「FX3」<映像作品>
– カメラ・レンズの機材サポート 2年
– ソニー・イメージング・プロ・サポート 2年無料

