ソニーのフラッグシップモデル・Xperia 1 Ⅱは音に力を入れたスマートフォンということで、以前、本誌連載でも執筆いただいていた作曲家・MAエンジニアの三島元樹さんに、映像作りと音楽の視聴を中心にXperia 1 Ⅱをテストしてもらった。

レポート◎三島元樹

 

みなさま、お久しぶりです! 本誌での連載「ビデオグラファーのための音響WORKSHOP」が終了してから約半年、Webの方に帰ってまいりました! 時の経つのは早いものですね。その間に、コロナ禍で世界中は大変なことに……。僕も止まってしまった案件などあるものの、元々が在宅ワークなので、引き篭もって仕事の日々。そんな中、VIDEO SALON編集部からソニーXperia 1 Ⅱのレビュー依頼をいただきまして。僕は根っからのiPhoneユーザーだし、映像制作のセンスもポンコツなので不安でしたが(苦笑)、いい機会なので久々に映像制作にチャレンジしてみようと思い、お引き受けしました。それに、このXperia 1 Ⅱは写真撮影機能や音楽プレイヤーとしての性能もハイスペックとのことで、そっち方面も楽しみでしたしね(笑)

 

ツァイスのトリプルレンズはカメラ好きとしてはそそるものがある

基本的なスペックやなんかのレビューは、もう各所でされてると思うので、ここではAndroidスマホも映像制作も知識だけはそこそこあるけど、実際はほぼ初心者の音楽家である僕が、無謀にもMV制作にチャレンジする……というドキュメンタリーとしてお送りしていこうと思います(笑)。とりあえず、ZEISS T✳︎ 印のトリプルレンズは、カメラ好きとしてはそそられるものがありますね!

▲レンズは左から24mm F1.7、70mm F2.4、16mm F2.2。

編集部から送られてきた実機を手にした最初の感想は、「ずいぶん細長いな……」というものでした。横幅が狭く縦に長い。けど、iPhone 11ユーザーの僕としては、このスリムさが扱いやすくて気に入りました。iPhoneよりはるかに軽いのも好印象です。Androidの操作には最初はちょっと戸惑ったけど、触ってるうちに慣れました。説明書などは一切なかったので使いこなせるか心配でしたが、基本はiPhoneとそんなに変わらないので大丈夫でしたね。ちなみに今回はメールやWebブラウジングなどのスマホっぽい使い方は一切してません(笑)。

とりあえず、今回の試用の主となるアプリ「Cinematography Pro」を立ち上げてみます。

 

Cinematography Proアプリの機能をチェック

▲まず最初にプロジェクトを作成する必要があり、解像度やフレームレートなどはそのプロジェクト内で固定となる(1回でも録画すると表示が白文字になり変更不可になる)。

各種設定はマニュアルカメラを使ったことある人なら特に戸惑うことはないですね。ただ、59.94fpsの時はレンズが24mmしか使えなかったり、120fpsは2Kの時じゃないと設定できなかったりなどの制限があるようです。なので、今回は4K/29.97fpsで撮ることにしました。トリプルレンズは16mm、24mm、70mmですが、このCinematography Proで使うときはズームはできず、単焦点レンズを交換する感覚になるようですね。ふむふむ。

 

あっ、音楽家でありMAエンジニアでもある僕が気になる録音設定はどうだろう? 画面左下のRECレベルメーターをタッチすると、10段階のゲイン設定が現れました。ゲイン幅も大きく、大抵はレベル5以下で対応できそうです。しかも「インテリジェントウインドフィルター」という、AIによる吹かれノイズ低減機能(Cinematography Pro内ではなく、スマホ本体の設定アプリから設定)も付いてるとか! 肝心のマイクはステレオで、本体を横向きに構えた時に左右の側面に付いてました。この点、iPhone 11よりも対称性が考慮されてて良いですね。

 

撮影中のスマホの持ち方に要注意

ただ、本体に付いてるシャッターボタンに指をかけるように(カメラを構えるように)持った時にマイクを塞いでしまうことになるので要注意です! 僕はそのことをすっかり忘れており、ロケから帰って素材チェックした時にいくつか失敗してて膝から崩れ落ちましたね……。まぁそのまま使いましたけど(笑)。

マイク位置は左右で多少の違いはあるものの、どちらも側面に付いている。ちなみに写真左の大きな穴は3.5mm ヘッドフォン端子。

▲赤丸がマイクの位置なので、ムービー撮影時にこのような持ち方をすると、マイクの感度が大幅に落ちてしまう。

あと気になったのは、左のマイクのノイズが大きめだったこと。静かなシーンでは「ビーーーー」というノイズが結構目立ってます。もしかしたら、初期不良の類かもしれません。

 

マニュアル露出とフォーカス

露出に関しては、シャッタースピード(以下、SS)、ISO共にAutoボタンがあって、手早く適正露出を得られますが、画面が明るすぎたり暗すぎたりする場合は機能しませんでした。その際は手動でISO感度を変更し、その後にSSを設定すると良いみたい。

フォーカスはAFとMFのどちらも使えて、MFの時は「A」「B」2つのフォーカス位置を設定すれば、その間を指定した秒数でフォーカス送りしてくれる機能まで付いてます。ただ、この画面サイズだとピントの山を掴むのはかなり難しいですね(汗)。拡大機能が欲しいところです。でも、風景を撮っている時にAFだと撮影中にハンチングしちゃうこともあったので、やはりMFはありがたかったですね。

フォーカス送りの秒数は歯車マークのところから、0.1~3秒の間で設定できる。

 

21:9のシネスコ、映画風のルックで撮影

あと、21:9という映画のようなアスペクト比も個人的には新鮮で、やはりこのサイズで撮ってみたいなと。加えて、「Look」には映画のような色相・画作りがされたプリセットがあるとのことで、個人的に一番しっくりきた「VENICE CS」を使ってみることに。

さて、じゃあ何を撮ろうかと考えてみて、とりあえず近所の広大な田園風景でも試し撮りしようかと思ってやってみたんですが、映画風のLookで自然を撮ると、色が浅くて全然映えないんですよ、これが(苦笑)。同時に、感度を上げると、割と早い段階からノイズが目立ってくるのも分かったので、どうしたもんかなぁ……と思案しながらキッチンで水を飲んでいたら、グラスに注がれる水がなかなかキレイじゃないですか。じゃあ水をテーマにしようと(笑)。何とも安易な発想でスミマセン……。

 

いざ撮影!オリジナル楽曲も制作。環境音はXperia 1 Ⅱで収録

というわけで、仕事の合間を縫って、行き当たりばったりのノープランロケを敢行。スマホ用ジンバルが欲しいなとも思ったけど、これだけのために購入するのも何なので却下(笑)。編集でなんとかしようという、典型的なダメ思考ですが、まぁ今回は大目に見てください。ロケ地は県を跨がないように配慮。なるべく人のいないところで撮影しました。そうやってロケに2日、編集に1日、音楽制作に1日を費やしてでっち上げた作品がコチラ。

 

 

MVというか、イメージビデオですかね? 曲は映像に合わせて後から作曲したので。もっと自分のソロ作品みたいなポスト・クラシカルな方向で行こうかと思ってたんですが、いざ映像に音をつけてみたら、なんだか90年代初期のイメージビデオみたいな、そこはかとなく “いなたい” 感じにしたくなったのでこうなりました(笑)。仕事でもなんでもない(いやっ、レビュー記事は立派な仕事なのだけれど)ので、思いっきり遊んでしまいましたね。何気に、当時憧れた某大物アーティスト TKさん(!?)のサウンドをちょっと意識しました(笑)。音楽以外の環境音はすべてXperia 1 Ⅱで録った音をそのまま使ってます。インテリジェントウインドフィルターはONで録ったので、海風による吹かれもかなり軽減されていて、BGMと混ぜるとまったく気にならなくなりました。

映像に関しては色味や明るさなどは一切いじってません。撮影時のままです。ノイジーだなと感じる部分もあるんですが、そりゃ大型センサーのミラーレスやシネカメラと比べては可哀想というもの。それよりも、この機動力を活かした使い方を考える方が楽しいですよね。そう言えば、撮影時は本体ディスプレイの輝度をマニュアルで最大にしておかないと、晴天時はほとんど見えなくなるのでご注意を。

 

編集・MAはDaVinci、音楽制作はStudio One 5で

ちなみに映像編集&MAはDaVinci Resolve(無償版)を、音楽制作にはStudio One 5を使用しています。手ブレはDaVinci Resolveのスタビライザー機能で補正してますが、あまりキツく補正してないので、まだちょっと揺れてますね(汗)。マシンスペックはMacBook Pro 15インチ(Late 2013)のフルスペックと、かなりのロートルですが、タイムライン解像度設定やレンダーキャッシュを駆使すれば、まったく歯が立たないということはなかったですね。

▲DaVinci

▲Fairlight

▲Studio One 5

 

映像視聴用デバイスとしてもテスト

出来上がったMVを本体に送って鑑賞してみました。転送には「Xperia Companion」というソフトウェア(無料)を使用。最初、ムービーファイルの音声は24bit/48kHzで書き出してたんですが、それを再生したところノイズの嵐……。なので、音声をAACにしたムービーを書き出して再チャレンジ。今度は上手くいった! PCのディスプレイ(WQHD ノングレア 23.9インチ)で見るよりもかなりキレイじゃないですか!スピーカーは画面左右(横持ち時)のベゼル際に埋め込まれてるようで、自然なステレオ感が得られるし、出音の周波数バランス的には中域重視ですが悪くないですね。21:9の映像は画面いっぱいに表示される上にベゼル自体も薄いので、暗がりで見てるとスマホではなく映像そのものをハンズオンしてるような気分になってきます。一応、iPhone 11でも同じものを再生してみましたが、鮮鋭さは圧倒的にXperiaが上でした。

 

4K HDR対応有機ELディスプレイの美しさは液晶のiPhone 11とは比べものにならない。

作品の出来はともかく(苦笑)、多少のマニュアルカメラ経験と編集ソフトがあれば、この程度のものは最小コストで作れるし、映像制作のプロの方が使えば、もっと面白い作品が作れるんじゃないでしょうか!

 

 

写真を撮ってみた!

ロケに出たついでに、各所で写真を撮ってきました。個人的には映像より写真の方が得意なので気になってたんですよね(笑)。普通のカメラアプリもあるんですが、ここは「Photography Pro」を使用。

▲ソニーのデジタルカメラは店頭で触ったことある程度なので操作性が似てるかどうかは不明ながら、明快なインターフェイスなのは間違いない。

 

これはもうコンデジと同じ使い勝手ですね! シャッターも画面内ではなく、本体の物理シャッターボタンを使うのが前提だし。操作に迷うことはまったくありませんでした。「Cinematography Pro」と違い、こちらはデジタルズームが使えますが、3つのレンズそれぞれにズーム域が決まってるタイプなので、16mmからシームレスに使えるものではありません。まぁ特に不便はありませんでしたけどね。

半押しでAFロックができるので、操作感はコンデジそのもの。本体スリープ時やホーム画面時にシャッターボタン長押しでカメラアプリを起動できる。デフォルトでは標準カメラアプリがアサインされているが、Photography Proに変更も可能。

 

で、撮って出しの作例がコチラ。

これだけ写ってくれれば下手なコンデジは要らないですよ、マジで! MV撮影時と同じ海ですが、Lookを適用してない海はこんなにも鮮やか(笑)。最近のiPhoneのカメラは発色が作り物っぽいところが好きになれないんですが、このカメラはその点も自然で解像感も高いです。欲を言えば、21:9のアスペクト比での撮影もサポートして欲しかったかな(3:2や16:9はサポート)。あと、「Chinematography」のLookみたいな感じでフィルムシミュレーションがあるといいなぁ。

 

音楽を聴いてみた!

ソニーといえばやはりウォークマン!音楽プレイヤーとしての性能にはかなり力を入れているのではと、期待が高まります!まず、3.5mm端子が復活したというのは、個人的には嬉しい仕様ですね。ワイヤレスが主流となった感のある昨今ですが、やはり音質的には有線の方が有利なので。

データの転送は先述の「Xperia Companion」を再び使用。iTunesのプレイリストを流し込めるので便利ですね。音楽制作でも愛用してるモニターヘッドフォンを繋いで普段からリファレンスにしている曲や自分の曲などを聴いてみましたが、一聴して音の鮮度の高さみたいなものを感じます!

試しにiPhone 11(Lightning→3.5mmアダプター使用)で同じ曲を聴いてみると、エッジが丸いというか、ヌルい音に聴こえます(苦笑)。Xperia 1 Ⅱの方が解像度が高く、細かいシーケンスフレーズなんかもハッキリと聴き取れるし、消え入るディレイの数やリバーブの消え際、音の隙間なんかも手に取るように見えてきます。左右のクロストークを従来の10分の1まで減らしたらしいですが、それの効果が如実に現れてますね。ピアノ曲は、ハンマーのフェルトの柔らかさまで伝わってくるような表現力!ここまでは24bit/96kのハイレゾ音源やCD相当のロスレス音源で試聴してましたが、AACの音源もDSEE UltimateをON/OFFで比較試聴。これは圧縮により欠損した高音域や微細な音を補完する機能ですが、確かに効果は高いですね。高域の伸びやトランジェント(音の立ち上がり)の向上が確認できました。いいですねぇ。

ここで試しに音楽制作で使ってるRMEのオーディオI/Fのヘッドフォンアウトとも聴き比べてみましたが、出力のパワー感は劣るけど、音質自体はまったく引けをとってないです!むしろRMEの中域の硬さが感じられないぶん、繊細な表現だと感じました。少し残念だったのは、ライブ盤のように曲間のギャップが0秒のアルバムは、曲が変わる瞬間に一瞬音が途切れるところ。あと、出力音量は普通のスマホ並みなので、ハイインピーダンスのヘッドフォンをドライブするには力不足だと思います。それ以外はかなり満足度高いですね!

音質にこだわる人間にとって有線接続というのはやはり必要な仕様。

 

まとめ

シネライクなムービーカメラとコンデジ並みの操作性/画質を備えたデジカメ、そしてハイレゾ対応ウォークマンの高音質がコレ1台で手に入るというのは、もうお得としか言えないかもですね(笑)。iPhoneじゃない選択肢っていうのもイイかも……なんて思わせてくれる素敵なスマホでした!そして、各所で「映像制作は面倒だからもうやりたくない!」と公言して憚らない僕が、「映像制作、ちょっと楽しいかも?」と思ってしまったのはここだけの秘密(笑)。

 

 

●製品情報

https://www.sonymobile.co.jp/xperia/xperia1m2/