レポート◉宏哉

目次

■待ち続けた新型機
■基本スペック
■レンズ
ー光学ズーム
ーレンズ操作リング
ーMF/AF切替
ーズームレスポンス
ースローズーム
ーREMOTEコントロール
■オートフォーカス
■電子式可変NDフィルター
■感度
■液晶モニタ/ビューファインダー
■オーディオ収録
■メディアカード/入出力端子
■メニュー
■オートフレーミング
■総括


待ち続けた新型機

待望の ソニーの新型ハンドヘルド型ビデオカメラが登場した! 4K/120pまで対応する、小型軽量のビデオカメラPXW-Z200と HXR-NX800 だ。

テレビロケや舞台・イベント撮影のフィールドでは、長い間ソニー HXR-NX5Rという機種がデファクトスタンダード機として多くのユーザーに支持されてきた。HDカメラである NX5R の発売は 2016年で、その後に4K/60p対応でスペック的にもワンランク上のPXW-Z280/Z190が2018年に登場しているが、価格帯・必要十分なスペック・サイズや重量などのバランスから、引きつづきNX5Rに高い需要が集まった。

それほどに人気のあった NX5R であったが、その後継機にあたる機種が発表されることなく2020年12月には生産終了。NX5R の中古品に高値が付くなど業界の混乱っぷりと根強い支持が伺えた。

そして、放送機材展示会や ソニーの新型カメラ発表の噂が出る度に、次こそは NX5R の後継機が出てくるのではないか? との期待が SNSや私の周囲でも高まった。しかし、発表されるのはミラーレス一眼カメラのαシリーズや VLOGカメラばかりで、業務ユースのユーザーを失望させ続け、もしやソニーは業務用ハンドヘルドの市場から撤退するのではないか? という悲観的観測も出ていた。

2024年3月には、NX5Rなどで使用されていたNP-F970型のバッテリーが生産終了となり、NX5Rの系譜に決定的な終止符が打たれたと誰もが受け止めた。いや、受け止めきれなかったというのが正確だろう…。

そんな事情があったため、今回発表されたソニーPXW-Z200/HXR-NX800は、待望の……熱望の……渇望の新型機であり、大きな期待を持って迎え入れられるカメラになるだろう。

私も編集部から連絡を受けて、ついにソニーの新機種が満を持しての登場だ! と、かつてないほどにワクワクした。

このレビューでは、PXW-Z200/HXR-NX800の特徴を検証しつつ、本誌の読者で利用者も多いミラーレス一眼とハンドヘルド機の違いも交えながら考察していきたい。

HXR-NX5R(奥)の待望の後継機となるか!?

基本スペック

この記事の執筆時点で分かっている範囲で仕様をまとめてみる。

まず、 PXW-Z200/HXR-NX800 の2機種が同時発表された点についてだが、基本的な撮影性能は同等で、Z200から一部のハイエンド向けの機能が削減されたのが NX800 となるようだ。NX800から省かれている機能としては、SDI端子・タイムコード端子・MXFファイル対応となっている。その他の性能は同一と考えて良さそうなため、特に説明を必要としない限りは、今回の新機種を「Z200」として以降表記する。

有効 約1400万画素 1.0型 CMOSイメージセンサー搭載(単板)
ズーム比20倍(光学)/24mm〜480mm/F2.8〜F4.5
BIONZ XR+AIプロセッシングユニット搭載/AIによる被写体認識AF
シームレス可変NDフィルタ内蔵/1/4〜1/128
撮影フォーマット 最大 4K/120p(23.98p、29.97p、59.94p、119.88p他)
記録フォーマット XAVC HS-L 422/XAVC S-L 422/XAVC S-I 他
HDR(HLG対応)
色域 S-Gamut3/SLog3・S-Gamut3.Cine/SLog3対応
RTMP/S・SRT対応ダイレクトストリーミング
記録メディアはCFexpress Type A メモリーカードとSDXCメモリーカード
対応バッテリーは BP-Uシリーズ
4CHオーディオ収録対応

Z200のみの機能は、
12G-SDI端子の搭載。HDMIとの同時出力可能
タイムコード入出力端子
MXFファイル記録。ただし実装は 2025年6月以降のアップデートで対応予定
また MXF記録対応で 59.94i収録に対応する(発売時点ではインターレース記録できない)。

発売日は、2024年9月13日予定。
価格は PXW-Z200が649,000円(税込)、HXR-NX800が506,000(税込)。

さて、HXR-NX800はその型番からNXCAMシリーズであることが伺えるが、このNX800よりNXCAMブランドの定義づけが変更される。従来は“AVCHD”フォーマットを採用した業務用ビデオカメラを指すシリーズ名だったが、コンシューマフォーマットを採用した業務用ハンディカムコーダーという括りに再定義された。NX800の場合「XAVC S」フォーマットのことであると思われる。

Z200は、サイズ的にはHXR-NX5RとPXW-Z150の間ぐらいのサイズ感だ。カメラ全体のデザインとしては、レンズ筐体部分は NX5R系のレンズ…というよりは HVR-V1Jを思い起こさせるようなゴツゴツしたレンズリングに、リア部分はFX6のボディ形状を想起させるラウンドデザインになっている。

ボタンやスイッチ類は整然と並んでおり、NX5RをはじめSONYの他機種と比べてもシンプルなレイアウト。全体的な意匠と合わせて、ボタン配置にもリデザインの大きなメスが入った印象だ。

特に目を引くのが、液晶モニターの取り付け構造。HVR-Z1J/HDR-FX1 以降採用され続けてきた液晶モニターの開閉機構が大きく変化し、カメラの見た目にも大きな影響を与えている。

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液晶モニター収納時

液晶モニター展開時
左側面
左後方ビュー
真俯瞰ビュー


ハンドル前部のボタン類

レンズ

最初にレンズ周りから検証していこう。カメラの操作性を決定付ける部分でもあり、最も誌面を割くことを予めお伝えしておく。

ミラーレス一眼カメラと比べてビデオカメラのメリットは、ズームレンズのズーム比が圧倒的に大きい点だ。1本のレンズで広角から望遠をサポートできるのは、ドキュメンタリーやスポーツ撮影など予測不可能な動きをする被写体を撮影する上で大きな利点だ。

レンズ部。なおフィルター径は72mm

光学ズーム

レンズは、35mm換算で広角24mmからの光学20倍ズームを搭載(f=24−480mm)。従来機のNX5Rは f=28.8-576mm(光学20倍)、1型センサー採用のZ150はf=29.0-348.0mm(光学12倍)であることから、大幅な広角化を実現している。

固定レンズ式のビデオカメラの場合、広角の焦点距離を広げるためにはワイドコンバージョンレンズ(ワイコン)をレンズの前に取り付けて対応する。光学的な劣化の心配のほか、カメラ重量の増加や追加費用も掛かるのがデメリットだ。テレビロケなどで活躍する NX5Rは多くの場合でワイコンが必須。NX5Rに0.8倍のワイコンを付けると 23mm強の焦点距離となる。それを考えると Z200は本体レンズで24.0mmとなるため、ほぼワイコン不要な広角端を有していると言えるだろう。なお現状 Z200向けのソニー純正ワイコンは発表されていない。

光学20倍の望遠端は480mm。同じ光学20倍のNX5Rの576mmと比べると弱いが、全画素超解像ズームを使うことで、4K撮影モードなら1.5倍の720mm相当、HD撮影モードであれば 2.0倍の960mm相当まで寄れる。

ズームによるFドロップは F2.8〜F4.5 で、これはZ150と同等。レンズサイズを大きく変えず、またZ150の光学12倍よりも Z200は高倍率化していることを考えると、この点も改良されている点だ。

レンズ操作リング

レンズ鏡筒のリングは2連リングとなっており、前側からフォーカスリング、次いでズームリングとなっている。プロ向けビデオカメラには必須とされてきたアイリスリングを含む「3連リング」ではないことに否定的な見方をしている方もいるだろう。ここは賛否が分かれそうなところだ。

マニュアルアイリス操作はリングでこそなくなったが、ズームリングのすぐ後方にアイリスダイアルとして用意されている。

レンズリングとアイリスダイアル・NDダイアル。賛否の分かれる設計になりそうだ
アイリスダイアルがレンズリングよりも外側に飛び出していることが分かる


ビデオカメラでのレンズの構え方は ENGカメラであれデジであれ、上から指を被せるように持つのが基本型で、これを”順手”と呼ぼう。この持ち方は3つのリングを別々の指で同時にあるいはタイムラグを最小限にして操作可能にする。テレビカメラマンなら、3リング同時操作は基本中の基本技術。

反対に、一眼カメラ使用時によく見られるレンズを下から支えるように添える持ち方を”逆手”と呼ぼう。レンズリングの操作は親指が各リングを移動して順次操作していくスタイルになる。

さて、そうしたレンズと指の関係を整理した上で、Z200のアイリスダイアルの配置を検証してみた。

私は操作性さえ問題なければ3連リングにこだわる必要はないと思っているが、残念ながらZ200 のアイリスダイアルの位置は良くない……。

特にビデオカメラレンズの基本である”順手”の場合、アイリスダイアルを触る際はレンズを構えている指の形が崩れてしまう。3連リングは構えた指の“体勢”を変えずに各リングを触れるのがメリットであったが、Z200のアイリスダイアル位置だと指の“体勢”が変わってしまうのだ。

このアイリスリングが、せめて今の“IRIS AUTO”ボタンの上位置、もしくは HVR-Z1Jのように鏡筒下部にあれば、前者なら人差し指、後者なら親指で素早く操作できたのだが……。

上下位置も問題なのだが、このアイリスダイアルを使いにくくしている最大の理由はカメラ本体から出っ張った位置にダイアルを配していることにあると思う。Z200のアイリスダイアルは、NDダイアルとともに本体よりも少し飛び出した台座の上にレイアウトされている。そのため指が後方へ…関節が曲げにくい方向に設置されていることになり、余計に使いにくさを助長していると思う。

Z200を選択する上で、特にテレビカメラマンからは、このアイリスリングの配置は評価の大きな分かれ目になりそうだ。

一方逆手であれば、それほど違和感はなく触れる。もともと逆手持ちだとリング操作は順次処理なので、それぞれのリングやダイアルに親指を動かしていけば素直に操作できる。ただしそれも手持ち撮影に限った話で、三脚に載せた場合などは雲台の形状やアングルなどによっては逆手持ちがしづらい状況も考えられる。

順手での標準的なレンズの構え方
順手時、親指でアイリスダイアルを操作する場合

順手時、人差し指でアイリスダイアルを操作する場合

逆手持ちだと、自然ににアイリスダイアルは操作できる

MF/AF切替

マニュアルフォーカス(MF)とオートフォーカス(AF)の切替スイッチならびにAUTOプッシュボタンはフォーカスリングとズームリング間に備わっている。筆者は以前より、デジのレンズにはこの位置にMF/AF切替のスイッチなどがあるとフォーカス周りの“指”導線が最短になり便利であるはずだと思っていたので、この仕様は嬉しい(実際にボタンを自作して付けたこともある)

ソニーのミラーレス一眼用のGレンズなどにはこの位置にフォーカス切替スイッチ・ボタンが備わっているものもあるので、ハンドヘルド機にも柔軟に取り入れられた合理的な改善だ。

ただ、このボタンとスイッチは鏡筒の真横に配されているため、”順手”だとリング操作をしながらでは瞬時に押しにくい位置にある。一部のG Masterレンズのように鏡筒の上面、もしくは斜め45度にレイアウトされていていれば、なお使いやすかった。

フォーカスリングとズームリングの間にAF/MFの切替スイッチ類がレイアウトされた
Eマウントの G Masterレンズの中には、このようなボタン配置のモデルも



ズームレスポンス

さて、気になるズームリングによるズームレンズのレスポンスの評価だ。昨今のハンドヘルド機は、一部を除いてそのほとんどが、サーボ式のレンズ駆動機構を採用している。ミラーレス一眼カメラ用のレンズだと、電動ズームを謳っているレンズ以外は、大抵が機械式(カム機構)を採用したレンズだと思うが、ハンドヘルド型ビデオカメラ場合は、フォーカス・ズームリングの回転をセンサーが検知して、それをサーボモーターに伝えて電動で動かすという方式が主流だ。そのため、機種によってズームリングによるズーム駆動のレスポンスが違い、そこが性能評価の大きなポイントとなっている。

Z200のズームの追随性はさすがにソニー製といった動きで、ズームリングの回転にキビキビとズームがついてくる。リングの動きに遅れてズームレンズがヌメ〜と遅延して動くこともない。リングの重さも軽めで、その回転にカメラ本体が振られることもない。パッと触った感じファーストインプレッションは非常に良い。しかし様々なズーム操作を行なってみると、思った以上にZ200の操作感に違和感を覚えることが分かった。

まず、短距離のズームストロークは良い。過去イチ……いやサーボズーム式の全デジの中で最高の反応速度だ。本当にキビキビ動く。NX5Rも良い動きだと思っていたが、Z200を触った後だとヌメッとした動きに感じるほどだ。このレスポンスはバラエティー撮影向きで、テレビカメラマンなら分かると思うが「ENGなら寄れるタイミングだが、NX5Rなどのデジだと寄るのを躊躇する時」というのがあるはずだ。それが、Z200ならかなり自信を持って寄れるし、その後の引き操作にもついてこられる。

一方、違和感を感じる操作が何点かある。

1点目は、中望遠と望遠端方向での遷移量の違いだ。数値化するのが難しいのだが、例えば2ショットウエストから1ショットに寄るのは、上述の通りかなり感覚通りにズバっと寄れる。しかし、そのあとさらに手元や顔に寄ろうとすると、さっきのズームリングで操作で指が覚えた遷移量よりも小さい動きしか得られない。リングを多めに回してヌルっと寄るような感じなる。

2点目は全域での高速ズームの遷移量。Z200は光学20倍ズームを搭載しているが、リングの90度回転では広角端から望遠端まで一気に動かせないことがある。多くのENGレンズやまたNX5Rなどもそうなのだが、広角端から望遠端への遷移はリングの回転角90度程度で完了する設計のレンズが多い。

ソニーのハンドヘルドカメラの場合は、リングの回転角度だけでなく回転速度でもズームの遷移量が変化する。Z200のズームリングでは、中速度ぐらいのズームだと90度〜100度前後でズーム全域を往き来できるが、クイックズームを行うと150度ぐらいの回転角が必要だった。感覚的には、リング回転操作にズーム速度が付いてきていないような感じになる。これは高速ズーム設定を有効にしても変化はない。

3点目はズームアウトの勝手な加速だ。望遠端もしくは中望遠をスタートにして広角端あたりまで一気にズームアウトしようとすると、広角端付近で一気に加速したようなズームワークになる。こういうズームカーブを描かれると、ズーム終わりの画角が想定通りに決まらない。カメラマンはズームの動きとカメラ自体の動きを合わせて、ズームアウト点で意図する画角に決まるように操作しているのだが、ワイド端でズームが想定外の加速をするため、画がズレるのだ。

4点目はガクガクスローズームだ。後述するが、Z200はスローズームができるようになった。あえて言い切るが、今までのソニーのデジはスローズームができなかった。それが、Z200ではスローズームができるのだ。ただし、それはズームシーソーを使った場合。ズームリングを使ってスローズームをかけると、ガクガクしたスローズームしかできなくなる。ズームリングに備わったエンコーダーの解像度の問題か、その信号を受け取ったアクチュエータの処理の問題かは分からないが、とにかくズームリングでスローズームをしてはいけない。

そう考えると、NX5Rのズームはクセが少ない操作性だったことが改めて認識できた。現在時点でのZ200のズーム操作性能は、カメラマンをかなり悩ませると思うので、今後ファームウェアアップデートなどで改善されるなら、ぜひ対応していただきたい。

Z200の広角端(35mm判換算24.0mm)

光学20倍ズームの望遠端(35mm判換算480mm)

4K収録時の全画素超解像ズーム x1.5の望遠端(35mm判換算720mm相当)

HD収録時の全画素超解像ズーム x2.0の望遠端(35mm判換算960mm相当)

スローズーム

クイックズームに関しては上記の通りなのだが、反対にスローズームはどうだろうか? 実は、私はソニーのハンドヘルド機のスローズーム性能にはずっと低評価を付け続けてきた。とにかくスローズームが速すぎるのだ。他社機であれば 広角端⇔望遠端 を最低速で4分半以上かけてストロークする機種もあるのだが、とにかくソニー機は最低速ズームが速すぎて情感のない速度でしかスローズームができなかった。

これは、料理撮りや商撮でスローズームを多用する筆者の撮影スタイルにはかなり致命的な欠点だった。また、音楽ライブなどでもバラードなどの曲調にズーム速度が合わず、カメラマンが苦労しているのも知っている。

この Z200 ではスローズームがちゃんとスローになっており、ハンドルズームシーソで固定速度で最低速の「1」を設定すると、充分にゆっくりなズームが可能になっている。またグリップ部のズームシーソを使うことでさらに低速度のズームも可能になっており、放送用ENGレンズと同程度のスローズームが可能になった。

REMOTEコントロール

ズームデマンドなどによる有線リモートコントロールは従来どおり LANCプロトコルを使用している。LANCによるズームでも、しっかりとしたスローズームが可能になっており、音楽モノの撮影で威力を発揮しそうだ。ただし、デマンドによるズーム速度の可変は、相変わらずギアチェンジしたように段階的に速度変化する。これは LANCのズームコマンドの仕様なので仕方ないのだが、キヤノンやJVCのように独自のアルゴリズムを加えて LANCズームでもステップレスとなる様に工夫している機種もあるので、ソニーにも頑張ってほしい点である。

オートフォーカス

オートフォーカス(AF)の性能、特に人物へのフォーカシングは文句がないに思える。Z200のAFでの被写体認識は人物のみで、最近のミラーレス一眼カメラのような動物や乗り物などの認識機能は搭載されていない。

AF機能の設定では、「人物限定AF」と「人物優先AF」それと「OFF」のみ用意されている。またフォーカスが遷移する速度「AFトランジション速度」やその感度「AF乗り移り感度」、その他「フォーカスエリア」なども設定可能。

AF時の動作を見てみると、フォーカスを前後に探るようなウォブリングも見られないし、フォーカスが別の人物に乗り移る際も自然な動きを見せている。顔だけの認識だけではなく、後ろを向いた場合の頭部も認識しているし、また顔を写さず身体だけをフレームに収めても人間の身体を認識してフォーカスを決めてくれる。どうも人間の骨格を学習させているようで、人物を撮影する上では高いAF能力をもっている。

さらに Z200 では「AFアシスト」が復活している。これはAF動作時でもフォーカスリングを回すと一時的にマニュアルフォーカス操作を行える機能だ。カメラマンが意図している被写体にAFではフォーカスが合っていない場合に、マニュアルフォーカスで意図する被写体にフォーカシングすることができる。その後は、カメラがその被写体をAFの対象として認識してくれる。NX3とNX5Rではオミットされてしまった機能で、カメラマンの間からは不満の声が上がっていた。オートフォーカスがどれだけ優秀になっても、カメラマンがどの被写体にフォーカシングしたいかは機械には判断できない。AFと上手く付き合って行くにはこの「AFアシスト」機能は必須機能だ。

後頭部でもしっかりと人物を認識
骨格認識機能で顔が写っていなくても人物と判断

電子式可変NDフィルター

ソニーのカムコーダで外せない独自機能である電子式可変NDフィルター。動画カメラ(ビデオカメラ)の場合は、シャッタースピードによる露出の調整ということは基本的には行わないため、アイリス・ゲイン(ISO)・NDの3つの要素で明るさをコントロールする。

放送用・業務用ビデオカメラの場合は、NDフィルターがカメラ本体に内蔵されているのが一般的で、スチルカメラのようにレンズ前にNDフィルターを別途装着する機会は少ない。

旧来、カメラ内蔵式 NDフィルターは 3〜4段階で濃度の違うNDフィルターがセットされており、必要に応じてフィルターを切り替えていたのだが、ソニーの電子式可変NDフィルター機能によって無段階に調整できるようになった。

電子式可変NDフィルターは 1/4 から始まり、1/128まで調整可能だ。これにより、例えばアイリス値を固定したまま、ゲイン値を触らずにNDフィルターのみで露出を微調整できるようになった。

フルサイズセンサーを積んでいるソニーFX6などではレンズのアイリス開放で被写界深度を浅く保ったまま電子式可変NDフィルターで露出調整する、といった使い方が多いだろう。

Z200は1インチセンサーで望遠にかけてアイリス値が落ちていくので、大きく被写体の背景をボカすことはできないが、それでも電子式可変NDフィルターによって極力アイリス開放で使うなどの対応ができる。

また、ND値を連続可変させるだけでなく、プリセットでND値を3段階設定することができる。旧来の切替式NDと同様の使い勝手だが、それぞれの濃度の切替がシームレスに行われるため、例えば収録中や生中継・配信中に切り替えても視聴者に気が付かれる可能性が小さい。これは、屋外から屋内に移動してNDフィルターを切り替える必要があったりする場合に便利な機能だ。

ただし、電子式可変NDフィルターにも課題がないわけではない。NDフィルターが入っていない”CLEAR”と最低濃度の 1/4 の切替時だけは、機械的に電子式可変NDフィルターの機構がセンサー前に挿入されるため、この時だけはフィルターの枠が写ってしまう。現状、電子式可変NDフィルターの濃度をゼロ=”CLEAR”にすることはできないようなので、これは仕方ない動作である。将来さらに薄いND濃度から始められるようになることを期待したい。

感度

カメラのレンズ性能に並んで気になるスペックは感度だろう。このレビューを書いている時点では公式な感度情報は耳に入っていない。そこで感覚的は話にはなるが、Z200を屋内や屋外、夜間などで使ってみた印象を記したい。Z200では感度表示の設定を ISO と dB から選択可能だ。一眼カメラから入ったユーザーが使うならば ISO表示のほうが分かりやすいだろうし、従来からのビデオカメラユーザーであればゲイン(dB)表示の方が馴染みがあるだろう。

ISOもゲインも電気信号を増幅するカメラの機能で、表記の違いだけだ(ISOは元々はフィルムの感度)。ただし、ISO何が何dBに相当するかはカメラ次第であり、それはカメラによって基準感度が違うため、0db=ISOいくつ…という決まりはない。ただし、基準が決まってしまえば、ISO とdBの増減幅には電気的な法則が適応できるので、ISO⇔dB 対応表を作ることは可能だ。

Z200は ISO表記では 250〜16,000、dB表記では -3〜36 までの増減が設定されている。dBで示されるゲインは、0dB が基準感度に設定されていると思われるため、ISO 250 が Z200の基準感度ではないかと推定する。「あれ? -3db が下限なら、-3dB=ISO 250でISO表記の基準感度は 320〜400ではないのか?」と思うかもしれないが、どうもdB表示の時にのみマイナスゲイン(減感)表示が現れているのではないかという感度変化を見せている。

実際、最大感度の ISO16,000と36dBから逆算していくと、ISO250で0dB になってしまう。-1〜-3dB に相当する ISO値が用意されていない。ちなみに、ISOは18段階、dB は 1dB単位で40段階で調整できるので、単純にメニューに現れる選択肢数だけでは比較できない。

実写での比較でも、ISO250よりも-3dB の映像のほうが暗く映っており、0dBで明るさが揃うという結果が出ているのだが、ISO表示では減感ができないということがあるのか? と執筆していても不安が…。この認識で合っていますか、ソニーさん?

さて、このISO/dB表示を基準に話を進めて行こう。

まず ISO 250/0dB では、屋内撮影は暗いと感じる。一般住宅の蛍光灯や白熱灯(今はLEDだが)が作る屋内照明での照度において、基準感度では暗すぎる。筆者としては ISO 800/10dBぐらいの設定で撮影したいと感じた。

古くからのビデオカメラユーザーの感覚からすると、9〜12dBというのは結構な増感に感じるはずだ。実際、NX5Rなどで12dBぐらいまで感度を上げると「ゲインアップしています!」というノイズを感じる映像になってしまう。

だが、Z200での 9〜12dBはそこまでのノイズ感はない。Z150も散々暗い暗いと言われていたが、それはゲインの値を見てのことだと思う。ビデオカメラユーザーは 0dBからできるだけゲインアップしたくないという観念に取り憑かれているはずだ。もちろん私もそうだ。しかし、実際にZ150などはゲインを 9dBや12dBまで上げても大きく画質は荒れなかった。

同様に Z200でもその程度のゲイン値では増感ノイズは大きく目立ってこない。実際に映像を見ていると、ISO1000/12dBあたりからノイズを感じるかな? という程度で、ISO 800までぐらいなら充分に常用感度だと評価する。これは、Z200が1インチセンサーというビデオカメラとしては大型の撮像素子を載せていることからくる回路の余裕もあるだろうし、実際Z150よりもセンサー感度は向上しているという話だ。

一方、光が充分にある屋外などでは ISO250/0dB での撮影で問題ない。基準感度とはセンサーの性能を最大に引き出せる感度で、最もダイナミックレンジが広くなるため、照度に余裕があるなら積極的に基準感度に設定して使っていきたい。

ISO/dB の調整・設定だが、ミラーレス一眼カメラなどでは、カメラに備わっているダイアルを回して直接ISO値を変更していくユーザーインターフェイスが一般的だが、プロ用ビデオカメラの場合は3段階に切り替えるトグルスイッチで変更するのが一般的だ。

L/M/H の3段階の切替ができるスイッチで、それぞれに予め任意の dB設定を割り当てておく。例えば L=0dB/M=3dB/H=9dB みたいな感じだ。たった3段階しかISOが切り替えられないのは不便に思えるが、ロケに使っているテレビカメラも含めて、プロ用を謳っているビデオカメラはこのインターフェイスが基本だ。

ソニーの場合、今では「ダイレクトメニュー」機能などでジョイスティックやジョグダイアルを使って、ミラーレス一眼カメラのように直接 ISOやdB を変更することもできる。

ちなみにトグルスイッチへの感度の割り当てだが、Z200の感度性能と実際に使ってみた感覚では、私の場合  L=0dB=250/M=10dB=800/H=18dB=2000あたりの設定が使いやすかった。もちろん撮影環境によって変化するため、これが私にとっても絶対的な設定ではない。

液晶モニター/ビューファインダー

液晶モニターは3.5型カラー液晶を採用。執筆の時点では液晶モニターのスペックは不明だが、恐らくFX6と同等の約276万画素相当の液晶パネルを採用しているものと思われる。

大変に精細な表示画面であり、画素感は皆無。マニュアルフォーカスでも充分にピントを掴める。

液晶の明るさは 15段階に調整可能。視認性も高く、明るさ”15″にすれば晴れた日の屋外でも付属の液晶フードなしで充分に視認できた。ただしグレア液晶のため反射は多い。

液晶モニターの収納・展開の形は、従来のカメラ上面から展開するタイプではなく“横開き”になっている。いわば家庭用の小型ハンディーカメラのような液晶モニタ−の開き方に変化している。

新設計となる液晶モニタ収納構造

上面展開式は 2004年10月に発売されたソニーHDR-FX1で初めて採用され、それ以降の業務用ハンドヘルドカメラに採用され続けてきたスタイルなので、実に20年ぶりのグランドデザインの変更と言えるだろう。なお、横展開式を採用している業務用ハンディカメラとしては JVCのHM600/HC500シリーズがあり、また実はソニー製品でもNEX-EA50が横展開型の液晶モニター機構を採用している。

この展開方式のメリットはふたつある。ひとつはワンアクションで撮影体制に入れること。従来の上面展開は、まずは一旦液晶モニターを水平方向に180度開き、その後垂直方向に90度前後の角度を調整——というツーアクションを経ることで、カメラマンが使用できるモニター角度になっていた。

しかし、横展開式だとワンアクションでモニター画面がカメラマンの方向を向くことになり、素早く撮影に入ることができる。

また液晶モニターの展開部のヒンジ構造の工夫により、モニターとカメラ本体(ハンドル部分)とのあいだに空間あり、モニター自体に俯角/仰角の角度をある程度付けたまま収納が可能。そのため、カメラマンが見やすい角度を維持した状態で展開することもできる。

Z200から採用された液晶モニタのヒンジ部

くわえて、展開すると従来機よりも前方にモニターが位置するようになるため、モニターと被写体の位置のズレがわずかに小さくなり、さらにモニターの上下位置も従来よりもレンズ光軸に近づくために、いっそうシューティングしやすいモニターレイアウトになっている。

またカメラマンから、より遠い位置にモニターがあるおかげで、ちょっと老眼に優しい……。ただし、前後方向は動かせないので、今後は視度調整機能として前後に液晶モニターが多少スライドするような構造も検討してほしい。結構切実…。

液晶モニターとビューファインダーの使用は排他式で、同時には点灯しない。ビューファインダーには接眼センサーが搭載されているため、ファインダーを覗きこめば液晶モニターが自動的にOFFになり、ビューファインダーが点灯する。

もしくは、ビューファインダー側面に備わっている切替ボタンを使って、切替・固定することも可能だ。

専ら液晶モニターで撮影することが多いと思うので、ビューファインダーがOFFになるのは部材保護や消費電力の観点からも歓迎だが、同時点灯できないのは使い方を制限されるようで残念だ。

Z200のビューファインダー部分には大きな特徴がある。従来は水平から上に90度ほど跳ね上げられる機構がほとんどで、下方部には折り曲げられなかったのだが、Z200では下方に45度ほど折り曲げることができる。これはハイアングル時に下から覗けるように…というのもあるが、下方に折り曲げることでカメラ全体のサイズをコンパクトにでき、収納時などに小さめのカメラバッグ等にしまえるというメリットがある。

同様の考え方で、マイクフォルダーも工具なしで簡単に取り外せるようになっており、よりコンパクトに、また突起部分が減るために輸送中の破損なども防ぐことができるようになる。

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VFの折り曲げ角度

液晶モニタは俯角・仰角が付いた状態でも収納可能

付属の折り畳み式液晶モニターフード
フードは折りたためばモニターに取り付けた状態でも格納できる
マイクホルダーは工具無しで脱着可能
FX6などと同様にPEAKINGやZEBRAは専用ボタンに。

オーディオ収録

ミラーレス一眼カメラの場合、音声収録を充実させるためにはオプション製品を併用することが多いが、業務用ハンドヘルドカメラは音声収録に関しても最初から様々な機能が実装されている。特にプロ用の収音機材と接続するためのXLR端子の搭載は、業務用か否かを分ける大きなポイントでもある。

Z200の音声収録は、最大4CHに対応。XRL端子による入力2系統・3.5mmφのステレオマイクジャックによるステレオ入力(L/Rで2系統)・マルチインターフェイスシュー(MIシュー・L/Rで2系統)・内蔵マイク、からそれぞれ入力ソースを選べる。

もしかすると、ソニーの業務用カムコーダとしてはXLR端子と3.5mmφジャックによる音声入力系を同時搭載するのは初めてではないだろうか?

3.5mmφジャックによる音声入力が可能になったことで、ミラーレス一眼カメラへの入力を想定して作られているRODE Wireless GoやHOLLYLAND LARKシリーズなどの2.4GHz系ワイヤレスマイク機器が使いやすくなる。

1点気になったことは、この3.5mmφジャックはプラグインパワーが働いているのだが、メニュー内にインパワーをOFFにする項目が見つからなかった。組み合わせる機材によっては注意が必要だ。

入力ソースと収録チャンネルの割り当ては比較的柔軟に行えるようになっているが、組み合わせの制限も少しあり、3.5mmφのステレオマイクジャックのLとRはそれぞれ、Lは 1CHか3CH、Rは2CHか4CHに、同様にMIシューのL/Rも割り当てが制限される。これは、あくまでL/Rの入力として捉え、左右チャンネルが入れ替わる逆相事故を予防するためだと思われる。

また、PXW-Z280やZ190に備わっていた2箇所の MIシューがひとつに減っており、ひとつがコールドシューに置き換わっている。PXW-Z280やZ190は、カメラ前方上部とハンドルグリップ部分の2箇所に、ケーブルレス・バッテリーレスでビデオライトやワイヤレスオーディオ機器を接続できるMIシューが搭載されていた。

しかし、Z200では前方一箇所のみとなっている。これは少し残念な点で、私の場合、前方には他社製ビデオライト、後方(ハンドル部分)にはソニー製ワイヤレスマイクの受信機を装着——という使い方が多いため、引き続き後方のハンドル部分のMIシュー機能も残してほしかった…。

音声モニタリングに関しても、嬉しい改善が見られる。

イヤフォン端子はハンドルグリップの後方根元のカメラマン側に備わっているため、抜き差ししやすい。そして、そのすぐ下にイヤフォンモニタリング用の+/−のボリュームスイッチが物理ボタンとして実装されている。最近はモニタリング音量調整をメニューの中に入れてしまったりする機種もあるので、ちゃんと物理ボタンとして残してくれているのは嬉しいし、ボタンの配置も理に適っている。使い勝手を考えれば当然の設計だが、これができていない機種やメーカーが多い。

アサインボタン類・音声調整部・メニュー操作部
オーディオステータス画面。この画面からも直接設定を変更できる


メディアカード/入出力端子

収録メディアは、CFexpress Type AメモリーカードとSDXCメモリーカードに対応。どちらのカードも使用可能なデュアルスロットを採用してる。この点は FX6と同等で、AスロットとBスロットを備え、同時記録やリレー記録に対応する。

デモ機試用の段階では、メディアの規格別の記録フォーマットの制限は不明だが、XAVC-I やS&Q のモードによる対応・不対応があるはずだ。

なお今回のテストでは、主に記録フォーマットを 3840×2160pix 60p XAVC-Lに設定し、手持ちのSDXC UHS-IIのカードに収録しているが、特に問題なく記録可能だった。

入出力端子は、音声に関しては上述の通り、XLR x2系統、3.5mm ステレオミニジャック・マイク入力 x1、3.5mm ステレオミニジャック・イヤフォン出力 x1。映像出力は、HDMI端子 Type-A(2.0b以上?)x1、12G-SDI対応BNC端子 x1(Z200のみ)。

その他に、TC入力/出力 対応BNC端子(切替式)x1(Z200のみ)、REMOTE端子 2.5mm ステレオミニミニジャック x1 を備えている。

Z280にあったGENLOCK端子は非搭載。

メディアカード挿入部
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XRL端子のほか3.5mmステレオミニジャックの端子も見える

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右後方の端子部分
各種外部接続端子とバッテリー装着部

メニュー

メニュー設計は、最近のソニーのハンドヘルド機Z280/Z190やFX6などと同じ系統の GUIとなっている。

FX6と同様に、メニューボタンを短く押すと一覧性の高いステータス画面になり、カテゴリー別のマトリクス表示となる。この画面はステータスのチェックだけでなく、マルチファンクションダイアル(メニューダイアル)を任意の項目で押し込むことで、直接設定を変更可能になっている。例えば、オーディオ入力系統の変更をする場合などは、各収録チャンネルのアサインが見やすく表示された画面を見ながら、変更が必要なチャンネルの入力系を選択できる。

オーディオステータス画面。この画面からも直接設定を変更できる

一方、メニューボタンを長押しするとフルメニュー画面になり、細かな設定行える。メニュー項目の移動など、ジョグダイアルによるレンスポンスは良い。

またユーザーメニューも作成可能なため、よく使うメニュー項目を登録して、自分用のメニューメージを作成できる。私の場合は、メディアフォーマットやタイムコード設定など、現場で必ず操作が必要、もしくは頻繁に設定を変える項目を集めて登録している。なお、メニューの項目移動は、一番下の項目まで移動したら一番上の項目に戻るというループ移動はしないタイプになっている。

MENUボタンの長押しで現れるフルメニュー画面
プロジェクト設定のステータス画面

オートフレーミング

ハンドヘルド機では初搭載となるオートフレーミング機能が面白い。この機能は、4Kで撮影している画面内から、対象となる人物をHD解像度にクロップして自動的に追いかけて続ける機能だ。Z200は PTZカメラではないので、あくまでも被写体は全体の画面内に収まっている必要があるが、いろいろと使い道はありそうだ。

もともとは、Vlogカメラの ZV-E1やミラーレス一眼カメラのα7C などに搭載されていたAIによる被写体認識機能で、どちらかと言えば「自撮り」を動的に撮影するための機能だったと思われる。

業務用ビデオカメラのZ200で「自撮り」を目的とするユーザーは少ないと思うが、例えば講演会やセミナーの配信や収録などで、登壇者の1ショットを狙い続けるような撮影に使えそうだ。

オートフレーミング機能では、クロップのサイズを大・中・小の3段階から選択でき、「大」が最もアップしたサイズになる。撮影画面にはクロップされている範囲が白枠で示され、被写体が動くとその白枠も動く。

クロップの結果は、メディアへの記録と外部出力で別々に扱うことができる。つまり、メディアにクロップ結果を録画し、外部出力(HDMI)には全画面を。反対にメディアには全画面を録画し、HDMIにクロップ結果を出力するということができる。もちろん、メディアも外部出力も両方にクロップ結果を出力することもできる。ただし、オートフレーミング時は SDI出力はOFFになるようだ。

またメディアカードへの収録は、クロップか全画面かのどちらかとなるので、例えばスロットAにクロップ結果、スロットBに全画面…という記録方法はできない。スロット別に設定ができれば完璧だった。

このように、メディア収録と外部出力で出力結果を分けられるので、例えばセミナーの生配信などでは、メディア収録は全画面記録・外部出力でクロップ画面をスイッチャー経由のワイプ画面に入力——などとすると、ワンオペ現場での労力軽減になるだろう。メディアの全画面録画は”保険”として残しておけば、万が一配信中にワイプから被写体が外れるようなことがあっても後日の完パケ納品では修正対応できるかも知れない。

そのクロップ(白枠)の動きも5段階に調整可能で、「1」が最も緩慢で「5」が素早く動く。動きとしては「5」は被写体の顔を白枠のど真ん中に捉え続けるのでズレのない機敏な動きとなるが、反面、機械的だとも感じる。カメラマンが操作しているような少し後追い感を残したいのなら「3」程度に設定しておくと、自然な動きに見えた。「3」だと被写体が多少身体を左右に揺すっても「ヘタに追わない」ので見ていて気持ち悪くないのだ。

これは映像の使い道にもよるので、例えば小さなワイプ画面に捉え続ける使い方なら「5」のほうが見やすかったりするだろう。

画質面だが、解像度は先にも言ったようにHDになる。画質・動きともにおおむね違和感のない映像になっているが、被写体の動き方によってはアーティファクトを感じる瞬間もある。

オートフレーミングの様子。左:フレーミング時の液晶モニタ表示/右:クロップされた結果

総括

Z200/NX800は、デザインを刷新し、最先端の技術を詰め込んだ次世代の礎となるモデルだ。特に、液晶モニターの展開機構やMF/AF切替スイッチ類の配置、イヤフォンボリュームボタンの位置などは、合理的で正しいアプローチだと思う。

なかんずく今回私が衝撃を受けたのが「ショルダーベルトの取付金具位置の変更」だ。ソニーDCR-VX1000以降、大きな変化のなかったショルダーベルトの取付位置。前方はハンドルグリップ左側、後方は本体後部右側という位置関係であり、これは他社のハンドヘルド機も同様な設計だった。VX1000のデザイン当時では問題なかったレイアウトだったが、昨今のハンドヘルド機ではその設計では支障があると感じていた。理由は、現行機種ではハンドル前部上面には多くのボタンやスイッチが配されるようになってきたからだ。ショルダーベルトを使わない際は、カメラの右側にベルトが垂れるように避けておくのだが、ベルトの取り付け金具がハンドグリップ前方左側に設けられているためにストラップがそれらのボタン類を覆ってしまい、咄嗟の時に使いにくい…という問題があった。

このショルダーベルトの取り付け問題に関しては、以前より他社メーカーには改善を要望していた。構造的な問題がないならば、取付金具の位置を左右入れ替えて設計してほしいと。それが、まさかソニーが先陣切って対応してくるとは思っていなかったのだ。これには本当に大きな拍手を送りたい。

しかし、残念ながら Z200の設計は完璧ではなかった。後方金具が左側に来たのは良いのだが、ハンドル後部のシュー金具と並んで取付金具が配置されてしまった。これだと、シューにアクセサリー機器を取り付けたときにストラップ部分が干渉してしまう。他のボタン類のレイアウトの再検討が必要になってしまうが、もう少し干渉を避けられる場所に取付金具が配置できなかったのかと……その点は残念だ。

このベルト取付金具位置が端的に表すように、Z200は従来機で当たり前だった設計を見直し、新しい提案を盛り込んできモデルになっている。一方でもう1歩、実際の現場の使い勝手に踏み込んだ設計をしてほしかった……という至らぬ点も残ってしまっている。

配置が変更されたショルダーベルト取付金具
後方の取付金具の位置ではコールドシューに取り付けた機器にベルトが干渉する


しかし総じて、Z200/NX800 は他社のハンドヘルド機を研究し、自社のレガシーに縛られない新設計と積極的な新機能を搭載してきたことに好感を覚える。

数年にわたってソニーの業務用ハンドヘルド機が沈黙を守り続ける一方で、α7シリーズを代表とするミラーレス一眼カメラ市場では苛烈な競争が繰り広げられ、動画撮影機材の主戦場が完全にそちらへ移行してしまったと感じていたが、そのフィールドで培われた先進的でスマートな機能が業務用ハンドヘルド機にも搭載される流れが生まれたことは歓迎だ。

ソニーHVR-Z5Jを始祖としてHXR-NX5R まで続いたひとつの様式が、次なる進化を迎え、またこの先10年は、Z200やNX800を始祖としたモデル群が誕生してくる予感を覚える。そんな新世代のハンドヘルドビデオカメラが登場した瞬間と言えるだろう。

ロケを想定した場合の当ラボの標準装備