レポート◎三島元樹

 

みなさまお久しぶりです!作曲家/MAエンジニアの三島です。今回は、ポータブル・レコーダーの新製品、TASCAM Portacapture X6(以下、X6)のレビューをお届けします!

実は、最初は既発売のPortacapture X8(以下、X8)を個人的にお借りして試用する予定だったんですが、ちょうどX6発表のタイミングと重なったので、発売前のX6とX8の両方をお借りし、こうしてレビュー記事を書く運びとなりました。

リリースノートによると、X6は僕が長年求めていた製品仕様にドンピシャな感じ。購入を視野に入れたマジな品定め!Web記事は文字数制限がないので、言いたいことは全部書きました!! 長文覚悟でお読みください(笑)。

 

目次

  1. 製品概要
  2. 32bit floatとは?
  3. 録音準備と操作性
  4. フィールド・レコーディングでのテスト
  5. ピアノ録音でのテスト
  6. 映像制作現場での活用法
  7. 結論
  8. おまけ(RODE NTH-100 レビュー)

 

 

1. 製品概要

詳しい仕様などについては、メーカーの製品ページをご覧ください(笑)。

 TASCAM Portacapture X6 製品ページ
https://tascam.jp/jp/product/portacapture_x6/top

X8との大きな違いは以下の通り。

・XLR入力×2ch(X8は4ch)
・サンプリングレートが96kHzまで(X8は192kHzまで)
・搭載マイクのサイズが違う(X8の方が大口径)

当然、サイズや重量も違いますが、質感を含めそれ以外に目立つ違いはないように思われます。

 

 

2. 32bit floatとは?

32bit floatについては、もうだいぶ認知されてきていると思うので詳しい解説はまたまた省きます。この辺は拙著『映像制作のための自宅で整音テクニック』でも詳しく解説してるので是非(笑)。

amazonリンク先   https://amzn.to/3kEg4Fp

 

とりあえず、32bit floatに関して一番お伝えしておきたいことを書いておきます。

音割れしないといっても、編集時に素材のダイナミクス管理はちゃんとしましょう!

録音時にレベルオーバーしたファイルは、映像編集時などに必ずゲインを下げてください! 下げずにそのまま編集して、割れてるのに気づかないままMAに渡すためのAAFやOMFを書き出してしまうと、音割れした状態で16bit整数や24bit整数のファイルに書き出されてしまうので、こちらではもうどうしようもなくなってしまいます。こういうの、思ったよりありがちなんですよ。

特にDaVinci Resolveは書き出しフォーマットで「32bit」が選べるんですが、これは32bit整数なので要注意です!! この辺りの表記はメーカーによってまちまちで、「32bit」表記でも32bit floatを指していることもあるのでややこしいんですよね。また、マイクやマイクプリなど、アナログの部分で歪んでしまってる場合は、当然そのまま録音されてしまうのでご注意を。

あと、0dBFSを超えちゃった音を、音割れしない状態までゲインを下げた場合、音量が突出した部分とそうでない部分の音量差が激しくなるので、素材としては使いにくいです。ダイナミクスは広けりゃいいってもんではありません。聞きやすいダイナミクスに調整するのも、MAの大事な役割のひとつです。なので、波形編集やコンプ/リミッターなどでのダイナミクス管理が必須。ご自分で音声編集までやる人はその辺りのテクニックを身につけないといけませんね。

余談ですが、春頃(2023年)までには僕の自宅スタジオ(都内から1時間ほどの某所)でのMAトレーニングサービスを計画しております。本格的なMAと言うよりは、音響的な体験と、作品を世の中に出す上で最低限必要となる技術の習得がメインとなります。開始告知などは主にTwitterでしますので、気になった方は https://twitter.com/monoposto_gm のチェックをよろしくお願いします!

 

 

3. 録音準備と操作性

まず注意したいのは、X6、X8ともにマイクが剥き出し状態なので、吹かれにはめちゃくちゃ弱いです。なので、ウィンドスクリーンは必須ですね。今回は純正オプションのウィンドスクリーンもお借りできたので、X6にはそれを装着し、X8には自前の他社製品を着けて臨みました。

オプションとしては、Bluetoothアダプターも用意されていて、これを使うとスマホの専用アプリでのワイヤレス操作や、Atomos UltraSync BLUEなどによるワイヤレスでのタイムコードシンクが可能になります。ちなみに、本体の3.5mm LINE OUTからは録音時にタイミング合わせのための信号を出力する機能もあるので、それをカメラに入力しておけば、本体の録音ファイルとカメラの録画ファイルに、いわゆるカチンコ的役目の音声が記録されているので、編集ソフトでの画音合わせが楽になりますよ。

※BTシンクに関しては、X6は2023年春のファームウェアアップデートで対応予定。X8は対応済み。

実際の録り音を聴いていただく前に、録音設定についても軽く説明しておきます。まず、このPortacaptureシリーズから採用された「アプリランチャーシステム」という機能があります。これは録音目的に合わせて用意されたいくつかの録音アプリからひとつを選んで使うというもの。録音の際には、必ず何かしらのアプリを選ぶ必要があり、それぞれのアプリは最初からその目的に最適な録音設定がされています。トップ画面に表示されるパラメーターや機能も異なるので、操作性も変わってきますね。そして、そのうちのいくつかのアプリには複数のプリセットが用意してあり、そこではローカット、コンプ/リミッター、EQなど、さらに細かい設定が保存されています。

▲X6製品ページより

 

僕は基本的にスッピンで録って、後でトリートメントしたい派なので、録音時に使うのはローカットくらい。なので、当初は「結局『MANUAL』だけしか使わなくなるんだよねぇ」なんて思ってたんですが、それは大間違いでした!この録音アプリの使いこなしがPortacaptureシリーズ使いこなしのカギです!今回は、個人的によく使うことになる「MANUAL」と「FIELD」に注目してみます。

※以降、操作画面はスマホ用コントロールアプリ「Portacapture Control」の画面を掲載します。

 

使いこなしのカギとなる理由として、まずは操作性。先述の通り、それぞれのアプリで操作が変わってくるんですが、フィールド・レコーディングの現場で一番ON/OFFの切り替えをするのがローカット。

「MANUAL」の場合、これがトップの「HOME」画面→「入力」画面→「入力設定」と進まないと出てこないんですが、例えば「FIELD」の場合、トップ画面にローカットのスイッチが表示されるんです。これは便利!

 

そしてもうひとつ。「MANUAL」で録音すると、録音選択した入力chに加え、それらをミックスしたステレオファイルが必ず作成されます。例えば、内蔵マイクだけ録音すると、1-2chステレオファイルと2MIXファイルの計2つの音声ファイルが作成されるということ。「MANUAL」に用意されているミキサー画面でバランス等をいじらない限りこの2つは実質的に同じものなので、管理する上でも面倒だし、僕の使い方だと2MIXファイルは必要ない。ところが、「FIELD」では内蔵マイクで録った場合、そのファイルひとつしか作成されないので非常に分かりやすいし、容量節約にもなる。これはもう、普段使いにはこっちの方が適してますよね!

 

また「FIELD」の中には「市街」「自然」「乗り物」「野鳥」などのプリセットが用意されており、それぞれ入力ゲインやローカット、コンプ/リミッター、EQなどが設定されています。とはいえ、「FIELD」は基本的にナチュラルに録るものなので、ローカットとリミッターが設定されてたりするくらいで、EQの適用はないようですね。ちなみにローカットは「PODCAST」と「VOICE」を除くすべてのアプリで40Hz/80Hz/120Hz/220Hzの4つから選べます。「FIELD」の場合はどのプリセットもデフォルトで120Hzに設定されてましたが、「MUSIC」のプリセット「VOCAL」では80Hzになってたりしました。

 

ただ、これらの細かい設定や録音フォーマットなどをカスタマイズしても、他のアプリに行って戻ってきたりするとすべてデフォルトに戻っちゃうのが残念だなぁ……と思ってたら、どうやら先述のファームウェアアップデートで、お気に入りのアプリ設定やら入力設定を保存し呼び出せるようになるようです!(X8は最新ファームウェアで対応済み)

録音操作に際してもうひとつ言っておきたいことが。Portacaptureシリーズは32bit float録音時でもマイクゲインの設定ができます。他社製品では固定ゲインになってるものもあり、その方が手軽で初心者に優しいのは間違いないんですが、僕みたいな古臭い人間からすると、自分で設定できる方が安心感があります(笑)。ここで「なんだ、結局面倒なんじゃん」と思うことなかれ!そのための録音アプリです! 各アプリの各プリセットには、それに適したと思われるゲイン値が設定されてるので、それを選んでRECボタンを押せばいいだけ。レベルオーバーしたり、小さすぎたりした場合は、編集の時に調整すればいいのです。

あと、初回起動時には「録音待機」という設定がOFFになっていました。つまり、電源を入れた時点からモニタリングが始まっていて、ヘッドフォンアウトからは音がリアルタイムに出力されるし、画面のメーターは常に振れている状態です。なので、そのままRECボタンを押せば、即録音が始まります。けど、僕はやはり昔ながらのREC待機スタイルに慣れてるので、「録音待機」はONにしました。この方が節電にもなります。

 

 

4. フィールド・レコーディングでのテスト

前置きが長くなってしまいましたが(汗)、ここからは実際の音を動画(といっても中身は静止画ですが……。動画スキル低くてスミマセン)で聴いていただきましょう。コンプやEQはかけてませんが、X6とX8の比較にあたり、音量差に惑わされないよう編集時にラウドネスだけは揃えました。また、動画アップ時の圧縮で起こりうるTrue Peakによる歪みを防ぐためのリミッター(ほとんど動作してません)だけは入れてます。なお、この記事の最後には、動画で紹介した音声のWAV(32bit float/96kHz)をDLできるリンクも掲載しておくので、厳密に聴き比べしたい方はそちらもどうぞ。

いかがでしょうか? X6の音質については結構フラットな印象ですね。ABステレオとXYステレオの違いは聴いての通りで、当然ながらABの方が左右に広く、XYの方がセンター定位がしっかりしています。この辺りの使いこなしは後述します。X8との音の違いですが、X8の方が低域が太く、高域も少しだけ明るめに聴こえますね。こちらの方が実際に現場で聴いていた生音に近い気がします。この辺りの検証も後の項目でガッツリ検証します!

吹かれに関しては、やはりどうしても発生してしまいます。ローカットを入れるとある程度は軽減できますが、完全に防ぐのは無理です。とは言え、現場で吹いていた風は体感で風速3~4mくらいなので、どんなマイクでも吹かれちゃうでしょう。どうしても防ぎたい場合はレコーダーが入るカゴ型のウィンドスクリーンを使うとか、マイクに直接被せるスポンジタイプのものを併用するなどの工夫が必要ですね。その場合、さらなる高域の減衰は不可避なので、その辺りも考慮して使う必要があります。

ボーナスサンプルの最後に紹介していたのは、3.5mm外部入力に安い水中マイクを繋いで、地元の沼で録った水中音。作曲仕事なんかでは、こういった特殊な音を使ったりすることもあるんです。これは「MANUAL」で他のサンプル録音と同程度のゲイン値で録音しましたが、小さすぎたので後からゲインをガッツリ上げました。マイクの性質上、S/Nは悪いですが、水の流れる音や気泡の音などがしっかりと聴こえますね。周りに群れていた白鳥たちの鳴き声も微かに拾ってます。ラストでは水から引き上げた空気中での音を。水中と空気中の圧力変化(音の伝わり具合の違い)が面白いですね。

 

正直、水量の多い滝は近くで録るとほとんどノイズのようになってしまうのですが(汗)、それでもボーナスサンプルとして1つめに紹介した例では、滝壺に落ちる水の音に加え、レコーダー近くの水面の小さな波音が埋もれることなくしっかりと捉えられていて、自宅でチェックした時に感心してしまいました。

ボーナスサンプルの2つめは、渓流の音。やはり録音対象から3メートル以上離れるようなら、ABの方が自然な音像になりますね。逆に、近距離の音はXYの方が音が散らからずに対象の存在感が出てきます。レンズ選びで言うと、景色も写し込んでスケール感や情報量を出したい場合は広角(AB)を、日の丸構図のポートレートには中望遠(XY)を選ぶ……という感覚に近いかもしれません。何を主役にするかを考えるのが大事ですね!

ここでひとつ気になったのがハンドリングノイズ……つまり手から伝わってくるノイズです。これをすごく敏感に拾ってしまうようです。海や滝はミニ三脚を置いて録っていましたが、渓流ではミニ三脚をグリップ代わりにして手持ちで録音してました。なので、よく聴くと指の関節がちょこっと動いた時の音が「ゴンッ」という感じで小さく入っちゃってます。微動だにしていないつもりでも、結構動いちゃってるんですよね。

ということは、オンカメラで使う場合も気をつけないといけません!これを防ぐにはレコーダーを乗せられるようなサスペンションが別途必要になるでしょう。あとは、電池蓋周りなども軋み音が出やすく、録音中に気温差などで軋むことがあるので、剛性感がもっとあったらなと思いましたが、これは蓋の裏に薄いスポンジを貼るなどの工夫次第で簡単に解決できそうです。

 

 

5. ピアノ録音でのテスト

さて、お次は自宅スタジオへ場所を移し、ピアノ録音でテストしてみました。手前味噌ですみませんが、以前、庵治石という香川県の銘石のCM仕事で書いた「キズナノカケラ」という曲の抜粋版です。ここでは内蔵マイクに加え、外部コンデンサーマイクとしてsE ElectronicsのsE8も同時に使用。sE8はNOSステレオ方式(ダイアフラム間30cmで開き角90度)でセッティング。PortacaptureシリーズのABステレオはNOSの縮小版とも言えるものなので、この方式にしました。都合4ch録りになるため、録音アプリは「MANUAL」にし、内蔵マイク、外部マイクともにX6とX8とで同じゲイン値にして録音しました。また、内蔵マイクに関してはXYでも録っています。

内蔵マイクのアレンジによるステレオ音像の違いは、いままでテストしてきたものと同じ印象ですね。sE8に関しては、内蔵マイクのABステレオよりもダイアフラム間隔が広いので、そのぶん音像も広いし、そもそもの周波数特性も違いますね。もし、ピアノ演奏会などでグランドピアノを録るとしたら、内蔵マイクをXYにしてピアノのすぐ側から内部を狙い、外部マイクはABステレオ(無指向性、60cm間隔くらい)でピアノから3~5m離れたところに立てて、それらを混ぜる(位相合わせが必要になりますが)と、それらのバランスで好みの音像を作れるのでオススメです。

さて、ここで注目したいのがS/Nです。「X6の内蔵マイクが他に比べてノイズが少ないんじゃないか!?」というのが第一印象でした。スペクトログラムで見てみても、それは一目瞭然。X8やsE8は無音部分も青っぽくなっているので、ヒスノイズが多いことが分かります。

▲X6 ABステレオ

▲X8 ABステレオ

▲X6 外部マイク(sE8)

▲X8 外部マイク(sE8)

▲X6 XYステレオ

▲X8 XYステレオ

この結果に、最初は随分と興奮したんですが、いったん冷静になって各音源をじっくり聴き比べてみると、ある事実が見えてきました。

まずsE8に関しては、いつも録音に使ってるマイクプリと同じノイズ量に感じたので、マイクプリの性能が悪いわけではなく、マイク自体の性能によるものだと分かります。では、X6とX8でどうして違うのか?それは、搭載マイクや音作りの差でした……たぶん(笑)。X8の方が少し高域が明るいと先述しましたが、これに似せるようにX6の録り音に対し、ざっくりと3kHz以上をシェルビングEQで4dBほどブーストしたところ、ヒスノイズもX8と同程度に聴こえるようになりました。加えて、200Hzあたりの低域をピーキングで4dBほど持ち上げると、X8の音にすごく近くなったのです。その逆も然りで、X8に対し先ほどとは逆のEQをかけたところ、X6の音に近くなりました。

細かく見ればもっと違いがあるかもですが、大まかにはこれが両者の音の違いですね。ちなみに、今回のテストを通して内蔵マイクでの録音時のゲイン値は両者同じにしてテストしてきましたが、そのままだと、どれもX8の方が大きく聞こえました。その証拠という訳ではないですが、各録音アプリのプリセットもX6とX8では同じプリセット名であってもX6の方が5dBほど高いゲイン値に設定されています。先ほどのEQ補正値と大体符合しますね。これはX8の方が低域や高域のエネルギーが大きいぶん、全体の音量も大きくなるためだと思います。

X6とX8、どちらが良いかは人にもよるでしょうけど、パッと聞きではX8の方がリッチに聞こえますね。X6は少し素っ気ないけどフラットな感じで素材録りには向いてそう。「X6が気になるけどX8の音が好み」という人は、前述のアップデートを待って、搭載されている4バンドのパラメトリックEQで上記のような感じに設定して登録しておくと便利に使えるのではないでしょうか?僕なら、X6とX8の中間くらいの音色になるように作って運用すると思います(笑)。

マイクプリに関しても、TASCAMらしい堅実な音で好感触。いつも使ってる20万円台のオーディオI/F内蔵のマイクプリと比べても遜色ないですね。一聴するとX6とX8とではあまり違いがないようですが、X8の方が若干音が太い気もします。僅かな差なので、マイク設置時の誤差の範囲かもしれませんが(諸所の事情によりそれぞれ別日に録ったので)。

 

 

6. 映像制作現場での活用法

VIDEO SALONは映像制作の専門誌なので、この辺にも触れておかねばなりません(笑)。

僕がお受けするMA案件の多くは広告系ですが、その中でもドキュメンタリータッチの広告映像がもっとも多いです。そこでいつも思うのが、現場の環境音などがすべてモノラルなのがもったいないということ!かっちりしたインタビュー音声などはモノラルの方がいいんですが、それ以外の環境音などもすべてモノラルだとあらゆる要素がセンターに集まってしまい音が渋滞するし、広がりが出ないぶん臨場感にも欠けてしまいます。TVやタブレット端末なんかで視聴する場合はスピーカーの左右間隔や視聴距離によってあまり気にならないかもしれませんが、スマホとイヤフォン/ヘッドフォンで視聴する人が多くなった現在では、コンテンツとしてリッチさに欠けるのではないかと。

ましてやDolby Atmosなど没入型立体音響も盛り上がりを見せてる中、それでいいのか? と思ってしまうんです。まぁさすがにアンビソニックスマイクとか使って制作するのはなかなかハードル高いと思うし、制作フローも複雑になります。現在の再生環境の大多数がステレオということを考えれば、この2chの音像を上手く使ってあげたいなというのが本音です。

とは言え、僕は撮影現場の人間ではないので、現場の苦労というものを肌身で知っているわけではありません。実際、知り合いの映像作家さんたちや、機材コンサルを依頼していただいたお客さんとお話しすると、やはりオペレートの問題が大きいようですね。ステレオで全体を押さえながらガンマイクとラベリアで声を押さえる……というのが理想だけど、いくら32bit floatで録音レベルを気にしなくてよくなっても、ワンオペでそれは、さすがに手が足りないと。

そこで思いました。X6をXYでオンカメラ設置し、外部入力にワイヤレスのラベリアを入れるのはどうだろうか? PortacaptureシリーズのXYステレオは完全な同軸(左右のダイアフラムが同じ位置にくる)になるため、パンを狭めても音質への悪影響が出にくい。対してABステレオは左右のマイクの位相差でステレオ感を作るため、パンを狭めた時に音質が悪化する恐れがあります。なので、XYステレオをガンマイクの代わりとし、ポスプロ段階でステレオ幅を調整すると、現場で拾える音の範囲も超指向性のガンマイクより広がるし、臨場感も出しやすいのではないでしょうか? なお、このテクニックはMSステレオでに応用できますね。

ただ、ここで問題になってくるのがレコーダーのサイズや重量です。X8を使っている映像作家さんにご意見を聞いたところ、やはり大きくて重いからオンカメラでは使いにくいとのこと。理想は手のひらサイズくらいだそう(笑)。そうなると、X6でもちょっと大きいのかもしれませんね。あとは電池の持ちも気になるそうです。X8は液晶も大きいし、確かにその点は不利かもしれません。X6はどうかと言うと、X8よりは若干持ちがいいとは思いますが、僕が長年愛用している手のひらサイズのレコーダーよりは減りが早いなというのが実感です(アルカリ電池使用時)。

まぁスペックを考えれば当然ですが。ただ、電池マークの半分くらいまでは割とすぐに減るんですが、そこからは結構粘ってくれるような印象はありました。使ってる電子部品のクオリティなどを考えると、納得できる持久力だと思います。USB-C端子からの給電も可能なので、大容量モバイルバッテリーによる長時間運用も可能でしょう。また、「電源/画面設定」内には「省電力モード」スイッチや、それに関するパラメーターをマニュアルで設定できたりするので、それらを活用すると節電に繋がると思います。

それと、X6とX8を併用して実感したんですが、内蔵マイクのアレンジ変更は、マイクを捻るだけのX6の方が圧倒的に楽ですね。X8は取り外して左右を付け替えないといけないので、現場ではそれが結構面倒でした。

ということで、X6をオンカメラ、もしくはそれに近い形で運用できるなら、以上のような使い方はありな気がします。X8は録音部など音の専門家が録音に集中して使うのに向いてるでしょう。そして、TASCAMさんにはワンオペのビデオグラファーさんたちのために、さらに小型のマイク内蔵 32bit float録音対応モデルを期待したいところですね!そういう製品はまだどこからも出てきてないので。

 

 

7. 結論

で、「結局、Portacapture X6はどーよ?」と聞かれたら、「素晴らしいよ!」と答えるでしょう(笑)。もちろん、使う人が何に重きを置いているかによっても変わってきますけどね。とりあえず、僕にとっては圧倒的に「買い」なレコーダーでした!というか、もう買いました(笑)。僕が求めていたものすべてが詰まったレコーダーです!! 特にS/Nの良さと32bit floatはマストだったので大満足です。

これで数年前に敗北を喫した富士の樹海の中にある氷穴でのフィールド・レコーディングにもリベンジできそうです。そこは多孔質の溶岩でできた洞窟なので、スタジオ並に吸音されてしまい、手のひらサイズのレコーダーではただただヒスノイズばかり目立ってしまったのでした(苦笑)。またガイドさんに連れて行ってもらおうっと。

ファイルDLリンク
https://app.box.com/s/ibcw8fqc2zvnqdu2yc7bi3c317f7r8iw

※音楽の著作権は三島元樹に帰属しますので許可なく使用することは禁止ですが、それ以外の音はご自由にどうぞ。

 

 

8. おまけ(RODE NTH-100 レビュー)

今回のテストにおいて、現場でのモニタリングや帰宅後の録り音チェックにRODEのヘッドフォン、NTH-100を使用しました。

これもちょうど輸入元の銀一さんからお借りしているものなんですが、これがすごく良くてですね。

・明瞭な高域と、タイトだけど少しだけ強調感のある低域が特徴で、ビックリするくらいベース(楽器)の動きが良く見える!
・トランジェント(音の立ち上がり/立ち下がり)も優れているので、音の輪郭が良く見える!
・なので音の隙間も良く見えるし、解像度も高い!
・もっちり冷んやりなベロア調のイヤーパッドは装着感も良いし、遮音性にも寄与!
・ヘッドバンドの調整機構が秀逸で、簡単にロックできる!
・ケーブルは左右どちらにも取り付けられるし、ケーブル自体も癖が付きにくい素材で素晴らしい!

という感じで、とにかく現場のことを徹底的に考慮して作られたヘッドフォンだというのが良くわかります。届いたその日にMA仕事で使ってみたんですが、それまで手こずってた7~8本のマルチマイクの位相合わせ(被りの音で合わせる必要があったので、波形見てもよく分からないから耳で合わせるしかなかった)が、あっという間に判断できて大助かり!お世辞抜きで、所有してるいくつかの定番密閉型ヘッドフォンたちより使いやすいじゃあないか!これはもはや手放せないなぁ……。というわけで、これも「MY NEW GEAR」決定ですね(笑)。