レポート◉染瀬直人

写真家、映像作家。日本大学芸術学部写真学科卒。360度作品やシネマグラフ、タイムラプス、ギガピクセルイメージ作品を発表。VR未来塾を主宰し、360度動画の制作ワークショップなどを開催。Kolor GoPro社認定エキスパート・Autopano Video Pro公認トレーナー。YouTube Space Tokyo インストラクター。

 

vol.2 リグを使ったVR動画の撮影方法とそのメリット・デメリット

 

一体型カメラが増えてきた今、 リグを組む利点とは何か?

近年、プロ向けVRカメラの進化がめざましい。2016年のGoPro OMNI、ノキアOZOからはじまり、昨年はInsta360 Pro、Kandao Obsidianなど一体型カメラが続々と登場した。一体型にはカメラ間の映像の同期や取り扱いが容易といった利点があるが、現状ではGoProと同様の小型なイメージセンサーを採用するものが多く、ダイナミックレンジや光学性能には限界がある。それ以上の画質を求める場合には、一眼やシネマカメラを複数台用意して、リグを組んでVR動画の撮影をすることになる。

このようなリグ撮影では、基本的にレンズはフィッシュアイを選択することが多い。下のように2台のカメラをリグで前後に配置して、後からそれぞれ撮影した映像をステッチすれば、全天球の360度動画を作れる。

リグを組む時、カメラの数が多いほど解像度は高くなるが、カメラと被写体との距離が近すぎるとステッチライン(つなぎ目)をまたいだ時、それが目立つことがある。2台のリグ構成はステッチラインが少ないこともあり、被写体が動く範囲が大きくとれ、カメラと近接した撮影も可能だ。

 

◉ソニーの高感度業務用ビデオカメラと超広角フィッシュアイレンズでリグを組んだ

1/ソニーUMC-S3CAとインタニヤHAL250の6mmを2台ずつVR撮影用に前後にリグを組んだ状態。このようなリグの組み方をバック・トゥ・バックという。HAL250はEマウントの他、EF、M4/3、Cマウントのモデルをラインナップし、よりハイエンドな現場ではシネマカメラでリグを組むこともある。2/S3CAはEマウントでイメージセンサーはフルサイズ。3/リグはインタニヤのRIG-UMC-SS-13を使用。

 

カメラ単体では露出や録画等の各種操作ができない

今回は超高感度業務用4K対応ビデオカメラのソニーUMC-S3CAと、HAL250の6mmの組み合わせで試用してみた。このカメラは暗所性能に定評のあるフルサイズCMOSを搭載している。S-Logでの撮影にも対応し、明暗差の広い場面の撮影でも白飛び・黒つぶれを抑えられる。さらにはHDMI出力することで、モニター一体型レコーダーでApple ProResのより高画質な保存形式で収録できる。

操作、モニタリング、バッテリー残量の表示などはボディ単体ではできず、PCにインストールしたアプリ「Camera Control Manager」から行うため、全体の撮影システムとしては必ずしも取り回しがいいとは言えないが、筐体がコンパクトなのでバック・トゥ・バック(写真1参照)の配置はしやすい。

このカメラのもう一つ大きな特徴は、複数カメラの外部同期が可能なゲンロック機能を実装している点にある。360度全天球撮影で重要なカメラ間のシンクロに活用できるのだ。

 

◉カメラをPCソフトで操作するため、撮影時のセッティングはやや大掛かりになってしまう

1/撮影時のセッティング。2/S3CAは専用PCソフトCamera Control Managerで露出や録画等の操作をする。3/ProRes収録に使用したBlackmagic Video Assist。4/シンク・ジェネレーターで2台のカメラの映像を同期させている。

2つのカメラの映像はステッチングソフトで行う

素材となる2つの映像のステッチはステッチング・ソフトAutopano Videoを使用した。最新版の3.0であればD.WARP(オプティカルフローに近い画像処理を行う新ステッチ技術)を使用したいところだが、残念ながら2つのレンズ構成のステッチには対応していない。そのため、今回は従来のコントロールポイントによるステッチ方法を使用した※。

筆者の経験では、インタニヤ社のサイトから専用テンプレートをダウンロードしてステッチ時にあてがい、さらに緻密なステッチができるAutopano Gigaで調整を追い込んでいくと良い結果が得られる。

GoPro OMNIと比べてもダイナミックレンジが広い

上がGoPro OMNI。下が今回のリグ(S-Log3収録)。部分拡大を比べてみると、OMNIでは看板の文字が白飛びして読めないがUMC-S3CAで撮ったものは白飛びせずに情報が残っている。

 

テストを終えての総括

HAL250はマウントのラインナップも豊富で、各社シネマカメラやミラーレス一眼にも使用できる。また、後群レンズを交換することで焦点距離を変更することもできる。これにより、センサー上のイメージサークルの調整も可能となり、被写界深度や周辺部の解像感までコントロールできるのである。

リグによるVR動画撮影は機動は損なわれるものの、より高画質の360度VR動画を目指す人にとっては現状では有効な撮影方法と言えるだろう。

 

●この記事はビデオSALON2018年7月号より転載