Inter BEE 2019会期中の11月13日と14日の2日間、カールツァイスは東京都心の麹町にある本社において、ZEISS Supreme Prime Radiance Lensの発表会を行なった。業界関係者が集う幕張メッセやその周辺ではなく、なぜ距離をおいた本社で発表したのか。シネレンズの担当マネージャーである小倉新人氏は、「このレンズは決して主力製品ではなく、Supremeをすでに持っているところに付加価値を与えるものとして提案するものなので、Inter BEE会場では出さずに、発表したあとは個別訪問してデモをしていく」という。発表会は撮影監督やレンタル会社、プレスなどの関係者向けに行われた。

新製品について説明するシネレンズ担当の小倉新人氏。

 

その個性とは、「フレア」、しかも撮影者、視聴者にとってグッとくるフレアを出すこと。ベースになっているのは、昨年発表されたフルサイズをカバーする新しいプライムレンズのシリーズ、ZEISS Supreme Prime。このレンズはすでに21mmから150mmの10本がラインナップされ、2020年末までに13の焦点距離をカバーするフルフレーム時代の定番になるプレイムレンズである。

実はSupreme Lensを発表する1年前から開発していたのが新製品のRadiance(ラディアンス)。Supreme Primeの隅々までクリアでコントラストの高い描写はそのまま残しながら、個性を加える光学的な特徴を与えることを検討していった。ドイツ本社の開発陣としては正直、戸惑いもあったという。撮影が評価されている200本ほどの映画をピックアップし、社内のシアターで毎週10本ほどのペースで視聴しながら、人気のある描写とはどういうことなのか、光学的に分析していった。また過去のレンズ、たとえばキヤノンのK35や某社のアナモフィックレンズなども分析。そこからわかってきたのは「フレア」の扱いかただった。フレアを抑制するためにコーティングがなされるわけだが、このRadianceは、最近各社でやられているような、いわゆるノンコート、アンコートではない。コーティングによって色の反射が変わってくるわけだが、好ましさを感じるのは青の反射だと分析し、青のみを内面反射するT✴︎blueコーティングを開発。純光の状態では、Supreme Primeとほとんど違いはないが、レンズに光が入ると、青いフレアが入る。

逆光が入らない場合。左がSupreme Prime、右がSupreme Prime Radiance。

レンズに光が入った場合。同じく左がSupreme Prime、右がSupreme Prime Radiance。

レンズの前玉を覗いてみると、コーティングが違うことがわかる(写真下・右側がRadiance)。ポイントはこの効果を21、25、29、35、50、85、100mmという7本のセットで再現できることこと。

この発表を受けて、2020年3月まで受注し、4月から6月にデリバリーするという。このレンズは決して主力製品ではなく、期間を区切って生産するという。価格は7本セットで1741万5000円。

Radianceは基本的にレンズ群などの構成、サイズなどは、従来のSupreme Primeと同じ。レンズの上にRaeiance、コーティングにT✳︎blueの文字が入っている。

 

発表会では、このSupreme Prime Radienceで日本人スタッフにより日本で撮影されたショーリールも上映された。本篇とビハインド・ザ・シーンはYouTubeで見られる。

制作したプロデューサーのカズ品川さん(トボガン東京)、撮影監督の石坂拓郎さん、ディレクター、編集のAki Mizutani(Cutters Studio Tokyo)さん(下の写真右から)を招いて、制作過程の話をうかがった。

カールツァイス側からはRadianceの特徴と魅力を引き出してもらえればどういう作品でも良いということで、クリエイティブの部分にはほとんど制約なく作られた。

現場写真より。

今回、カメラはソニーのVENICEが使われた。昨年のZEISS Supreme Primeの発表とソニーのVENICEの発表が近い時期であり、フルフレームというコンセプトも一致したため、今回のショールームの制作、発表会においてもソニーが協力して行なっている。

レンズによる表現バリエーションについては、オールドレンズを使ったり、コーティングに手を加えるなど、撮影現場に近い側からのアプローチがあったが、ここ最近はレンズメーカー側からの試みが続いている。キヤノンはコーティングではないが、従来とは違う柔らかさを収差をコントロールすることで表現するSumire Primeを発売したり、シグマもコーティングを一部施していないClassicというシリーズを出すなど、今のトレンドになっている。この3社は、その手法も異なり、実際かなり描写も違っているのも各社の考え方を反映していて、興味深いところだ。