レポート◉編集部 一柳   協力◉キヤノン株式会社/キヤノンマーケティングジャパン株式会社

 


Canon Sumire Prime Lens (PLマウント)ラインナップ
CN-E14mm T3.1 FP X
CN-E20mm T1.5 FP X
CN-E24mm T1.5 FP X
CN-E35mm T1.5 FP X
CN-E50mm T1.3 FP X
CN-E85mm T1.3 FP X
CN-E135mm T2.2 FP X

 

▲キヤノンが作成したデモムービー。現代のレンズはピントが合った部分のエッジのシャープさを強調するものが多いが、Sumire Primeは、それとは正反対。ピントが合わせにくいようにも見えるが、少しピントがずれていても画として充分成立するので、映像向きのように感じた。手前の人物のボケ方に特徴があり、前ボケを積極的に使いたくなるレンズだ。

 

 

画やCMの業界では、キヤノンが1970年代に単レンズとしてラインナップしていたK-35が人気でいまだにリハウジングして使われている。キヤノン側にもそのリバイバルを望む声があったという。しかし、当時のレンズには鉛が入っていて今では作ることはできない。

ただこのK-35の何が評価されているかという分析はできる。放送系であればリアルさの追求が重要だが、映画、CM、ドラマの世界は、目に映るものがそのまま映ればいいわけではない。デジタルシネマカメラが4K以上の解像度を持ち、高精細になるにつれ、クラシカルなレンズが現場で評価されるようになってきたことから、何が求められているかというエッセンスを集めていったという。

そうしてできあがったのが、今回のSumire Primeだ。被写体、特に人物を印象づける柔らかな映像描写を実現したシネマカメラ用単焦点レンズシリーズである。キヤノンのCINEMA EOS SYSTEMには単レンズのラインナップがあるが、これまではEFマウントのみ。PLも用意してほしいという声は以前からあった。しかし市場にはすでに多くのPLマウントレンズがある。これからキヤノンがやるからには魅力ある個性がなければ、映像を描く絵筆の一つとして選んでもらうことはできない。

そこで、高い解像感を特徴とするEFマウントの単レンズシリーズに対し、Sumire Primeは、カラーバランスはそのままに、「柔らかさ」に振った。英語でレンズの味を語るのに、オーガニック、クリーミー、ドリーミー、スムーズスキントーンなどと表現される方向性だ。

「これはチャレンジでした。設計としてはかなり思い切ったことをしています」と、長年シネレンズを開発してきた塗師隆治氏は言う。

実際に映像を見てみると、現在のデジタルシネマカメラと現代のレンズで見るルックとは明らかに違っていた。ピントが合ったところの屹立感は弱めで、そこからなだらかにボケていく。背景は離れれば大きくボケるが、被写体の少し背後ではモノの形が認識できる。ボケはオールドレンズのようだが現代的な要素もある。「ヴィンテージルックのリバイバルではない」と塗師氏も言う。

何をどう変えればこうなるのか。残念ながらそこは企業秘密であり教えてもらえなかった。コーティングを剥がすことでフレアを出し、柔らかくするという手法は各所で採られているが、そうではないと言う。

収差の出し方、残し方にポイントがありそうだ。かつて塗師氏は2000年代前半のデジタルシネマの黎明期、キレが良くパキパキなレンズを開発したことがあった。当時は設計者としては理想のレンズだと思ったが、ピントが1点でしか合わず、無機質で冷たく、人間味がないと酷評されたそうだ。

2011年に立ち上げたCINEMA EOS SYSTEMでは、高性能は重視しつつも、その反省に立って設計したという。そして今回のSumire Primeはその収差をさらにどうコントロールしたら、どういう絵筆になるかという塩梅のノウハウが注ぎ込まれているのだろうか?

キヤノンの強みはこのテイストをラインナップで揃えて、かつ量産できること。そこがオールドレンズとの最大の違いである。

この独特な世界観をやりすぎと思う人もいれば、もっとやってほしいという人もいるはず。

「万人受けするものではないかもしれませんが、人物描写に必要なエッセンスを盛り込みました。この世界観が気に入っていただけたら、絵筆のひとつとして加えていただき、ぜひ、新たな表現にトライしていただければと思っています」


▲キヤノン株式会社 宇都宮事業所の塗師隆治氏。入社以来、シネレンズの設計、開発に携わってきた。

 

▲EOS C700 FF PLにCN-E24mm T1.5 FP Xを装着。T1.5開放でスーパー35mmモードで撮影している状態を4Kモニターにスルーで出した。背景は完全にボケてしまわず、モノの形をとどめている。印象的なのは女性の右袖の服の質感で、ふわっとボケることで、モヘア素材のように見える。

 

<CINE LENSのラインナップ>
EF/PLマウントのプライムレンズだけでなくネイチャー向きのズームレンズも用意

CINE-SERVO Lens

▲(左)CN7×17 KAS S/E1(EF)340万円 (右)CN20×50 IAS H/E1(EF)810万円、PLマウント版もあり

 

▲(左)CN-E18- 80mm T4.4 L IS KAS S (右)CN-E70-200mm T4.4 L IS KAS S

 

Sumire Prime Lens (PL)

▲CN-E14mm T3.1 FP X/CN-E20mm T1.5 FP X/CN-E24mm T1.5 FP X/CN-E35mm T1.5 FP X/CN-E50mm T1.3 FP X/CN-E85mm T1.3 FP X/CN-E135mm T2.2 FP X

 

Prime Lens (EF)

▲CN-E14mm T3.1 L F/CN-E20mm T1.5 L F/CN-E24mm T1.5 L/ CN-E35mm T1.5 L F/CN-E50mm T1.3 L F/CN-E85mm T1.3 L F/CN-E135mm T2.2 L F

 

ヤノンのシネレンズというと、CINEMA EOS SYTEMからという印象が強いかもしれないが、実はその歴史は長い。Super16㎜用ズームレンズも長く手がけ、今でも現場で使われているものがあるという。もちろんビデオの世界では放送用ズームレンズのトップメーカーであり、大判センサーにおいても特にズームレンズのラインナップが充実している。上で紹介した以外にフラッグシップとしてフルマニュアルタイプのスーパー35㎜対応トップエンドズームレンズがある。

CINE-SERVOレンズはテレビ局に数多く導入され、CN7×17 KAS S/E1(EFマウント)/CN7×17 KAS S/P1(PLマウント)はドラマ撮影に、CN20×50 IAS H/E1(EFマウント)/CN20×50 IAS H/P1(PLマウント)はその高倍率ズームを活かしてネイチャー番組に多く利用されている。

COMPACT-SERVOは小型軽量タイプで、EOS C200、C300 Mark IIとの組み合わせで、基本はEFレンズで運用しながら、ワークでズームを使いたい時に使われる。フランジバックを調整できズームをしても焦点が移動しないという本来のズームレンズとしての特徴を持っているからだ。

プライムレンズはこれまでEFマウントのみだったが、そこに今回、PLマウントのSumire Primeシリーズが加わった。EFマウントへの変換サービスも有償にはなるが用意されている。

シネレンズのラインナップは、実は写真用のEFレンズとカラーバランスが異なっている。一言でいうと暖色系。明るいところで見るテレビに対して、映画は暗所でプロジェクターで見る。当然、人の目の視覚特性も変わってくる。暖色系のカラーバランスにすることによって、結果としてニュートラルで落ち着いた視聴が可能になる。視聴環境と視覚特性については、キヤノンの中でも多角的な研究により、カラーバランスの方向性が見えてきた。理論的なバックボーンがあった上で、シネレンズのカラーバランスが確立したというわけだ。

ビデオグラファーがEFレンズとCN-Eレンズを同じ現場で併用する場合は、そこは知っておきたい。もちろんホワイトバランスを取り直すことで色を合わせることは可能だ。

▲左からキヤノン株式会社イメージソリューション21事業推進センター飯島邦明氏、同ICB光学開発センター 塗師隆治氏、キヤノンマーケティングジャパン株式会社 矢作大輔氏。

 

キヤノンCINEMA EOS SYSTEMのページ

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●MOOK「ムービーのためのレンズ選び」より転載