vol.11「ドローンによる山岳救助コンテスト出場で
安全飛行の知見が深まった」

文●野口克也(HEXaMedia)

東京都生まれ。空撮専門会社「株式会社ヘキサメディア」代表。柴田三雄氏への師事の後、ヘリコプター、モーターパラグライダー、無線操縦の小型ヘリなど、空撮に関わるすべての写真、映像を区別なく撮影。テレビ東京系地上波『空から日本を見てみよう」、BS JAPAN『空から日本を見てみようPlus』などTV番組やCM等の空撮を多数手がける。写真集に夜景の空撮写真集「発光都市TOKYO」(三才ブックス)など。http://www.hexamedia.co.jp/


コンテストで学んだ安全飛行についての知恵

 10月17日〜22日まで、北海道の上士幌で行われた「ジャパンイノベーションチャレンジ」というドローン(無人機)による山岳救難のコンテストに出場してきました。山岳救難は映像撮影、ドローン空撮と直接の関係はありませんが、このコンテストに参加したことで、安全にドローンを飛ばすための知恵や経験を得ることができました。今回は、そのうちの幾つかを紹介します。
 コンテストでは2km四方程度の山林に遭難者を模したマネキンが置かれていました。このマネキンには発熱、発声、二酸化炭素を放出する装置がついていて、参加者はそれを頼りにマネキンを見つけます。参加者には3つのタスクが課されました。まずはマネキンの「発見」。さらにマネキンのそばに3kg程度の救難物資を模した箱を届ける「駆け付け」、そして、約50‌kgのマネキンを基地まで連れ帰る「救助」。「発見」には50万円、「駆け付け」は500万円、「救助」は2000万円の賞金がかかっていました。私達は「発見」と「駆け付け」を何とかドローンで乗り切るつもりで、試行錯誤しながらの参加となりました。
 10数チーム同時でのフライト。そのため、DJI社製の映像伝送機体を使っているチーム(=ほぼすべてのチーム)は、電波帯域の不足のために機体からの映像が届かない状態となり、映像を観ながらFPVをして捜索するつもりのチームはあてが外れたようでした。
 その他、赤外線カメラを持ち込んだチームが我々を含め3、4チームいました。赤外線カメラは熱分布を捉えるので、天候が悪かったり夜間だったりすると効果を発揮しますが、日照のある昼間になると、木々や岩などが日照によって暖められ、人体(に模したマネキン)との区別がつきにくくなり、短時間での判別が難しくなりました。
sorakara_droneinovationchallenge.jpg
▲10月17日〜22日に開催された「ジャパンイノベーションチャレンジ」。ドローンによる山岳救難のコンテスト。10数チームが参加し、「発見」のタスクをクリアできたのは2チームのみだった。写真中央が筆者。

FPV、赤外線、自動運航の3班体制で捜索に挑む

 
 10チーム程度の同時フライトということは事前に想定していたために、我々のチームでは「FPV捜索」「赤外線捜索」「自動運航捜索」の3班体制で挑みました。初日は10数チームの混戦。電波状態も悪い、空中接触もあり得る、機体損耗があったチームはその時点で離脱するだろうという推測のもと、初日は様子見程度にする、という作戦を立てました。
 初日と2日目で「発見」をしたチームはありませんでしたが、2日間で数チームから合計10機程度が捜索範囲周辺に墜落したようでした。各チームを取材して回ったわけではないので、ある程度推察になりますが、おおよそ原因は3つ。「長距離・高高度FPVに不慣れであること」、「FPV電波断時のフェイルセーフ設定の誤り」、「自動運航時の運航高度の設定見積の誤り」に集約されます(同じチーム同士の空中接触など例外もありました)。この墜落の要因は空撮をする時にも参考になります。

【長距離・高高度でのFPVに不慣れ】

 設定された捜索範囲の一番遠いところに飛ばすと、直線距離で1500m以上、高度にして400m程度(対地高度が100mでも)上げる必要があります。まず、このような状況でドローンを飛ばすことに慣れていないということです。長距離になればアンテナの向きや、コントローラーを持つ自分の位置なども厳しい条件となってきます。コントローラーと機体の間に、木々や手前にある山や人間などを入れないような配慮、位置取りなどがシビアになります。
 コンテスト取材のカメラクルーが見えない電波に気を使って飛ばしている我々に気が付かずに機体とコントローラーの間に割り込んできて、とっさに声を荒げるシーンもありました。また、高度を下げすぎると手前の山などの障害物の後ろ側に入ることもあるので、機体の位置と障害物との3次元空間的な把握ができないと、それが墜落の原因になったりしたと思います。

【FPV電波断時のフェイルセーフ設定の誤り】

 多くのDJIの機体は、電波がロストした時もフェイルセーフ機能が効き、自動で離陸地点に戻ってきます。しかしその設定が甘いと、戻ってこられない可能性があるわけです。電波ロスト地点がGoHome設定高度よりも低い場合は、機体は自動的に設定高度まで上昇しますが、設定高度よりも高い所を飛んでいる場合は、そのまま帰って来る仕様になっています。
 この場合は想定される最大高度にフェイルセーフ高度を入れておくか、充分な高度を保っていれば問題ないはず。しかし「マネキンをより近く、低い高度で捜索したい」という気持ちのせいか、限界を超えて高度を下げて、罠にはまったチームが多いような気がしました。

【自動運航時の運航高度の設定見積の誤り】
 これもなるべく低い高度で探したいという気持ちのせいなのか、全体的に設定高度が低いように思われました。「150m以上は違法、もしくは申請が必要である」という航空法への配慮も影響したと感じます。実際は対地150mであれば、飛ばした地点が標高400mでも500mでも適法になるのですが、実際に自動運航のパラメータに400mなどと入力するのは気が引けたのかもしれません。
 自動運航でムラなく撮影をしようとすると、画角と高度の関係で配慮が必要になります。すなわち高度を低くするとライン数が多くなりすぎるので、ある程度の対地高度が必要になるのです。我々のチームは、飛ばしたことのない起伏のある山林を安心して自動運航させるために、画角と勘案して対地100〜150m程度での高度設定をしました。3日間で6、7本自動運航でPhantom 4を飛ばして、電波状況は前記のような危うい感じで離陸後すぐ電波ロストしているような状況ではありましたが、すべて無傷で帰還しました。
 結果として自動運航で4K撮影、安全に着陸させた後、Macで映像を確認してマネキンを一番に発見でき、賞金を獲得しました。発見方法もさることながら、ドローンに対しての基本姿勢や電波特性の知識、飛行経験が多いメンバーによる勝利だと確信しています。

___________________________
★○ 改正航空法概要ポスター
http://www.mlit.go.jp/common/001110369.pdf
★ 「無人航空機(ドローン・ラジコン機等)の飛行ルール」国交省HP
http://www.mlit.go.jp/koku/koku_tk10_000003.html
___________________________

___________________________
◆この記事はビデオSALON2016年12月号より転載
http://www.genkosha.co.jp/vs/backnumber/1602.html
◆連載をまとめて読む
http://www.genkosha.com/vs/rensai/sorakara/