文=長谷川修(大和映像サロン会長)
タイトル=岩崎光明

長いことアマチュアビデオを趣味としてやっていますと、一度ぐらい創作ものを撮りたいと思うものです。あなたも思いません? 思うでしょ? でも躊躇するのにはワケがあるのです…そうですよ、ネ?

(1)どんなストーリーにするのか
(2)脚本が書けるのか
(3)出演してくれる役者をどうするのか
(4)ロケ地を探すのが大変そう

だいたい以上のようなことが脳裏をよぎり、結局あきらめてしまいます。かく言う私もそのような考えで創作物を諦めていました。それがひょんなことがきっかけで、思わぬドラマ、しかもミステリードラマ(?)を撮ることになったのです。まあ、その顛末をどうか聴いてくださいよ。

私の住む最寄りの駅からひと駅先に、かつての鉱山跡があることを偶然知りました。鉱山といっても石膏の原料となる粘土が採れた程度で、戦後の一時期まで操業していたとか。その鉱山跡で今でも金と見まがうようなキラキラした黄鉄鉱(おうてっこう)が採れるので、マニアが訪れていることが判りました。鉱石ラジオに使われたり、鉱物標本になるぐらいかな? 金銭的価値はほとんどありません。この黄鉄鉱のことを別名「FOOL’S GOLD 愚か者の金」と呼ぶそうです。

とっさにひらめきましたネ! そうだ、この鉱山跡を舞台に黄金に魅せられた男を主人公に黄金郷奇譚のようなミステリードラマができそうだ。タイトルはそのまま『FOOL’S GOLD 愚か者の金』としよう! 善は急げとばかりに『ボクの純情映画館』の名助監督(?)M会員(この作品の主役)を口説き、二人で鉱山跡へロケハンに出かけたのでありました。

目的の駅で下車し、1時間に1本しかないバスで終点の小さな集落で降りて鉱山跡へ向いました。10分程歩くとうっそうと茂る森の中へ…。川の流れに架かる丸太を何度か渡り返しジャングルのような奥地へ進むと、何やら人の声が聞こえるではありませんか。鉱山跡の崖下に流れる小川で砂金を採るようにして黄鉄鉱を採取している若者が2人いたのです! M会員と崖の上の鉱山入口を無事発見し、帰りに駅前の食堂でビールを呑みながら思いついた構想を語り合い、帰宅後、撮影台本(プロット)を一気に書きあげました。

脚本というと身構えてしまいますが、私の場合は脚本と呼ぶレベルのものではありません。撮影台本としてプロット1、プロット2というように、それぞれの出演者と情況説明、セリフを書いた簡単なものです。

あらすじは、家に伝わる金山秘図を頼りに幻の金山に足を踏み入れた男、そこはなんと江戸時代の金山だった。男はタイムスリップから何とかして現代へ戻ろうとするが、果たしてどうなるのでしょうか…という筋立て。主役はM会員にお願いすることにして、準主役の金掘りの男を誰にするか。結局芝居気のあるK会員にお願いし、クランクイン!

この作品の制作にあたり、上記お2人以外にも助監督兼セカンドカメラのS会員と、エキストラとして男性会員3名、女性会員3名が自主的に出演を申し出てくれました。やはり創作ドラマに魅力があるようで、会員一人一人が嬉々として役割を演ずるというか、楽しんでいましたネ! 誰しも一度は役者として演じてみたいという願望を持っているようですね。

準主役のK会員なんぞは、自分で編んだ草鞋を履いて出演するという力の入れようでした(60年ぶりとか)。また重要な役割をする小道具の「小判」は、M会員が神田の貴金属店で購入、1枚300円だったかな? もちろんイミテーションの小判ですけどネ。

金山からやっとの思いで抜け出したM会員が江戸時代の無人の村や町を彷徨うシーンのロケ地は「ワープステーション江戸」で撮ることに。入口で我々一行、といっても主役のM会員と助監督のS会員と私の3人だけですが、大型の三脚や人相風体をみて「今日はテレビの撮影が入っているので近づかないように、この中で撮影した映像はネットなどにのせないでください!」という強い要望がありました。何とか中に入ったものの、常に我々の行動が監視されているようで、そそくさと撮影して終了。そんなわけで不足したカットは以前撮った「日光江戸村」と信州「海野宿」の街並みの映像などを使いました。

金山内部の撮影は静岡県にある「土肥金山」で行いましたが、こんなトラブルも。途中休憩した喫茶店で、主役のM会員の帽子が本番のものと違うので「Mさん、帽子はいつ本番用の帽子に取り換えるの?」と聞くと、途端にM会員は真っ青!「いけね~帽子のことを忘れてた~」「どひゃ~!」同じ色の帽子を探して土肥の町を駆けずり回り、似たような帽子をやっと見つけると、新品じゃおかしいので地面に叩きつけ、さらに踏んづけて古い感じを出して乗り切ったということもありましたね。

作品の出来はまあまあでしたが、「自分たちも参加した作品」ということで会員のコミュニケーションも図れたと思います。いつも提唱している自分撮りとはまた違った楽しさのある創作ドラマに、一度挑戦してみてはいかがでしょうか? きっと新しい発見があると思いますョ!

『黄金郷奇譚』(10分17秒)

▲長谷川さんが所属するビデオクラブの仲間と制作した創作ドラマ。2012年春日部全国映像コンテスト入賞。『FOOL’S GOLD 愚か者の金』の音楽改定バージョン。

月刊「ビデオサロン」2015年12月号に掲載