航空カメラマン・野口克也の 前略、空からお邪魔します vol.37 NHKスペシャル『秘島探検 東京ロスト ワールド』撮影記<後編>


vol.37 NHKスペシャル『秘島探検 東京ロストワールド』撮影記<後編>

 

文●野口克也(HEXaMedia)

東京都生まれ。空撮専門会社「株式会社ヘキサメディア」代表。柴田三雄氏への師事の後、ヘリコプター、モーターパラグライダー、無線操縦の小型ヘリなど、空撮に関わるすべての写真、映像を区別なく撮影。テレビ東京系地上波『空から日本を見てみよう」、BS JAPAN『空から日本を見てみようPlus』などTV番組やCM等の空撮を多数手がける。写真集に夜景の空撮写真集「発光都市TOKYO」(三才ブックス)など。http://www.hexamedia.co.jp/

 

前編の記事はこちら

 

『東京ロスト・ワールド第一集 南硫黄島』

筆者が調査班兼撮影班として携わった番組『秘島探検 東京ロストワールド第一集 南硫黄島』はNHKオンデマンドで配信中。番組の視聴はこちら

●2月中旬には西之島、南硫黄、小笠原で撮影した素材で再編集した番組もBS1で放送予定。

 

スカイツリーの1.5倍の高さのアポロチョコ

番組での撮影の主体は、 南硫黄島そのものと、 10年ぶりに南硫黄島調査に挑む調査隊、そのものでした。ドローン班として、 私も撮影される側でもありました。2年前に放映された西之島のNHKスペシャルの撮影と同じ850tの船から見上げる標高916mの南硫黄島は、わかっていたつもりでも、いざ目の前にすると、呆れるくらいビッグすぎる撮影対象でした。「皇居の場所にスカイツリーの1.5倍の高さのアポロチョコを撮影するのに、東京駅あたりに浮かんでいる、およそ新幹線一両分くらいの船から撮影するような感じ」と言えば、伝わりやすいでしょうか…?

 

干からびる暑さと 途切れる電波との戦い

ほぼ亜熱帯の洋上、 平均気温は、暑かった今年の東京などに比べると32度と低いのですが、 湿度は高く100%に近い環境です。船の外にでると、常に玉のような汗が吹き出てきます。太陽の日差しが東京に比べて桁違いに強く、甲板上で作業すると中年太りの体でも急激な発汗で、あっという間に干からびてしまいそうになります。

風は、今回はあまり強くなかったものの、 外洋特有のうねりは常にあり、 うっかり痩せそうになりながら10日間、 朝から晩までInspire 2を飛ばしていました。流石に皇居サイズのアポロチョコは、今まで撮影してきたモノとはスケールが違います。1000m近くの頂上付近を撮影する時は離陸地点から直線距離で2000mくらい。そうなると機体のアンテナの設計の都合で、 少しの機体の角度の違いで電波が途切れたり、つながったりしてしまいます。もちろん、電波が切れっぱなしになったら一巻の終わり。そこをどうにか物ともせず、筆者の「スペシャルな感性(笑)」を駆使して撮影を続けました。

機体のコントロールとしては、降下速度の調整が必須となりました。通常一般の降下速度である3m/s程度になっていると、 海面付近までに降りてくるのに6分弱もかかってしまいます。しかし、Inspire 2は、設定を変えることにより9m/sの降下速度で降りることができるようになります。9m/sで降下すると、計算上は1分半ほどで海面近くまで降下できることになります。200mや300m程度の高度からではあまり降下速度は重要ではありませんが、限られた飛行時間の中で1000mの高度への往復するのは、この降下速度設定がなければ実現できないものでした。

 


▲ドローンの離発着は船から(写真は西之島での撮影の模様)。

 

激しく揺れる船では コンパスやIMUエラーが頻発

さて、今回のドローンのすべての撮影は、850tの船からの離発着でした。船の揺れが激しいと、そもそも離陸前のキャリブレーションが完了せず、離陸できません。コンパスエラーへの対応は、エラーが出ない場所、例えば発着台などの上から離陸をすることで解決し、IMUエラーは、偶発的に生じる「エラーが出ない瞬間」を狙ってフライトしました。また、試験的に船舶用の水平維持機的なものも導入しています。映像に残っているのはそこからの離陸シーンです。

 

CG制作のために 全島をドローンでスキャン

番組では島の全容紹介のためにCGが使われています。そのCGのベースになるスキャンも、ドローンの大事な役目でした。海岸線から頂上付近まで、およそ2000枚程度の写真を撮影しました。ある程度の解像度を確保するためには、機体は島に近づく必要があります。しかし近づけば、1枚で撮影できる範囲は狭くなるので、枚数は膨大な数に上ります。島の4方向に船を移動し、各方向から100m標高刻みで頂上付近まで撮影。これを4回、日にちを分けて撮影しました。

またそれとは別に、島の同じ方位での標高別の植生変化を捉えるミッションもありました。今度は動画で、海岸線から山頂付近まで縦に撮りながら上がっています。これも20レーン以上撮影、また、その逆で、同じ標高で島の方向によって植生が違うのかのスキャンも島の全周に渡って撮影しています。番組の中では触れられていませんが、研究者が後々映像を見返して、また新たな発見をすることができるかもしれません。

 


▲PhotoScanという3Dスキャンソフトでスキャンした南硫黄島。これを元に島紹介用のCGを制作する。

 

ドローン撮影だからこそ 発見できたものも

番組の構成は主に上陸調査した調査隊に主軸が置かれた内容で、ドローンは映像を撮影する装置として紹介されています。しかし今回の南硫黄島の調査では、映像撮影以外の様々な用途へのトライも行いました。いわゆる学術撮影です。

研究者たちは上陸調査、登頂という貴重な体験をしているわけですが、ルート沿いのサンプリング調査などは詳細にできるのですが、島の裏側などは、全く見ることができていません。そんな中、島を外側から撮影し続けたドローン班は、モクビャッコウの群生を発見したり、北西側に少し噴気が見える噴火口を近接撮影したり、岩脈(火山の割れ目部分の溶岩、固くて、侵食が遅いので縦に板状に残る)などをつぶさに観察し続けました。

そして繁殖地が不明とされていたアカアシカツオドリについては、集団営巣がドローンによって初めて観測されました。アカアシカツオドリは高い樹上に営巣するため、島に上陸して地上からつぶさに観察しても発見できず、空からの、ドローンからの視点によってのみ、発見ができるものでした。

チャレンジングなフライトが続く中、10日間、120フライトの撮影フライトを無事故、無損失で乗り切ることができたのは、事前の準備と支えてくれた周りのスタッフのおかげでだと言えるでしょう。


▲南硫黄島の空撮で発見した岩脈。


▲繁殖地が不明と言われていたアカアシカツオドリの巣を初めて観測した。

 

ビデオSALON2019年2月号より転載