航空カメラマン・野口克也の 前略、空からお邪魔します vol.36 NHKスペシャル『秘島探検 東京ロスト ワールド』撮影記<前編>


vol.36 NHKスペシャル『秘島探検 東京ロストワールド』撮影記<前編>

文●野口克也(HEXaMedia)

東京都生まれ。空撮専門会社「株式会社ヘキサメディア」代表。柴田三雄氏への師事の後、ヘリコプター、モーターパラグライダー、無線操縦の小型ヘリなど、空撮に関わるすべての写真、映像を区別なく撮影。テレビ東京系地上波『空から日本を見てみよう」、BS JAPAN『空から日本を見てみようPlus』などTV番組やCM等の空撮を多数手がける。写真集に夜景の空撮写真集「発光都市TOKYO」(三才ブックス)など。http://www.hexamedia.co.jp/

 

読者のみなさんは「南硫黄島」という島をご存知でしょうか? 東京都心から1300km南洋にある、小笠原諸島からさらに南西に位置する無人島です。

周囲7.5km、標高916mのアポロチョコ型をした、貴重な生態系を保っている島。その貴重さゆえに、調査目的以外の立ち入りは厳しく禁止されているのですが、昨年2017年夏。10年前の調査以来の、本格的な調査が行われました。

その調査班兼NHK撮影班として筆者も参加した映像が、今年の8月のNHKスペシャル『秘島探検 東京ロストワールド第一集 南硫黄島』として放映されました。ご覧になっていただけた方はおわかりのことと思いますが、天候も内容も、本当に熱かった特別な日々。今回は、その熱い島でのドローン撮影記です。

 

『東京ロスト・ワールド第一集 南硫黄島』

筆者が調査班兼撮影班として携わった番組『秘島探検 東京ロストワールド第一集 南硫黄島』はNHKオンデマンドで配信中。番組の視聴はこちらから

高度500mの壁を超えるために 気圧計の減圧に挑戦

現在、筆者が主流で飛ばしているDJI社のドローンは、対地高度のいかんに関わらず、 飛ばした地点から500mまでしか上げることができません。「916mの山頂の風景や 調査隊の登頂風景、 頂上付近の植生はどうやって撮影するのか?」というのが、まず一番の難関でした。

調査隊と一緒に筆者も山の途中まで登れば、頂上まで飛ばせなくはないのですが、 上陸調査をする人数の制限や電源の確保、 荷揚げ時の海水にふれるリスクなどから、洋上の調査船からのフライトがマストでした。しかし、そうするとドローンは、離陸した船の高さから500m上がったところで、見えない壁にぶち当たります。ここまできて頂上が撮れないなんて、せっかくドローンが行く意味がない! そんなわけでこれを克服するために、思いつく限りの様々な予備実験を行いました。 通常、ドローンの高度計は気圧高度計です。ということは、飛ばす前にセンサー上の気圧を変えることができたら…。

例えば、実際は0m地点でもうまく操作して-500mと認識させた地点から離陸できれば…? そうすると実際には、本来の0m地点から+500m上がったところがセンサー上では1000mとなり、916mの頂上まで上げることができます! 実際にこの方法で、Phantom 3を1000m近く上げている外国人の動画が存在しました。 エアを減圧した状態で電源をONにしてペラを回し、 次に通常の気圧に戻した状態で離陸できれば、 -500mの状態で機体を離陸させられるはず…。

よし、減圧といえば…、布団圧縮袋! 安物はだめか…じゃあ高級品に…いや、それだけだと弱いか…、じゃあアクリルかなんかでしっかりした減圧ボックスを作ろう! Inspire 2の機体が、ペラを回した状態で入る大きさで…、と自作してみた箱はあっという間にぺちゃんこ。よし、餅は餅屋。アクリル屋さんへ、発注だ!

 

気圧計による高度500mの壁を超えるために試行錯誤を繰り返した


▲布団圧縮袋で気圧計を減圧させることで高度を誤認識させて、高度を稼ごうと試行錯誤を繰り返した。


▲アクリル板で作った減圧器。


▲減圧をかけてアプリ画面をみると高度が「−236.3m」になっている。

 

試行錯誤もむなしく… しかし救いの手が

トライアンドエラー。高級布団圧縮袋とお手製の減圧ボックスは酷使のし過ぎで、何個も壊れました。また、アクリル屋に特別発注した減圧ボックスは立派でうれしくなりました。お値段も立派でした。が、しかし…。最近のDJI機は、頭が良くなっていました。「アイドリング状態で機体の高度が数百mも下がるなんてありえないよねー!(筆者意訳)」と、さらっと離陸を拒みやがります。それでも200m程まではうまくいくのですが、500mでは「あ、なんか小細工しちゃってんでしょ? まぁ騙されませんけどね」とばかりにリセットされるわけです。

…結局うまくいきませんでした。 そしてうまくいかないまま、撮影出発1週間前になってしまいました。悩みに悩んだ末に、「あ、正攻法で行こうじゃないの?」と思い浮かび、メーカーから公式に高度制限がないファームが入ったInspire 2を借りることができ、なんとか撮影できるようになりました。ひと安心です。

 

いざ撮影本番の旅に出発! しかし事件が発生…

撮影本番の旅が始まりました。まず出発前月、2017年6月にはまだ火山活動があった西之島を撮影して、 一旦父島に上陸。 ここまで順調です。大丈夫、イケるぞと意気込みつつ、そこで機材の最終確認、 調整をしようとしている中で、その事件は起きたのです。

一瞬、何が起きたのか、わかりませんでした。なにか良くないことが、あってはいけない何かが、目の前で静かに起きていました。認めたくないものの、理性が状況を判断します。これはヤバいやつ。つまり、せっかく苦労の末に借りられた機体、高度制限が入っていない機体のファームアップデートが、目の前で進行している。送信機のアップデートと勘違いして、うっかり機体がアップデートされてしまっていたのです。

「待って。待って。止まって。戻って!!!」……もちろん、時間は戻りません。今までさんざん苦労してやっとこぎつけることができた500m超えの空撮が、絶たれた瞬間でした。

 

撮影直前に綱渡り

筆者もそろそろ中堅からベテランに差し掛かるお年頃。真っ白になった頭で、それでも足掻きます。今日、父島を出る船にこの機体を載せて東京でピックアップしてもらう、 その日中にファームを前のバージョンに戻してもらって、 次の日の父島行きの船に載せてもらえれば、 父島から後発で出て合流予定の船に間に合う。そしたら南硫黄島沖の調査船の手元までつくはず…!

そんな綱渡りを、無事に渡り終えました。今までの経験や人脈を駆使し、 関係各位に尽力をいただいて、 事件の5日後には無事に! 高度制限が解除された機体が手元に戻ってきました! 絶たれたはずのミッションを、再び現実に戻すことができました。と、こんなところで今回は紙幅の限界に達しました。次回は撮影の模様をレポートします。

 

ビデオSALON2019年1月号より転載