今回から3回連続で、マイクロシネマコンテストの地方プロモーション部門の注目作品とその制作チームにスポットを当てていく。その第1回目はグランプリを獲得した『街と二重奏 マリンバネリネリ in ニイハマ』。マリンバの音と街の音を一緒に聞かせるという企画の切り口の勝利。既存の作品を企画に合わせて再編集したという。マイクロシネマコンテストの結果発表サイトはこちら

取材・文/編集部 一柳

 

『街と二重奏 マリンバネリネリ in ニイハマ』
あかがねミュージアム運営グループ 山本 清文さん

愛媛県新居浜市に流れる浜や街の音とマリンバの即興セッション。野木青依さんのマリンバが練り歩き、街の音とセッションしていく。地元で暮らす人たちに「新居浜っていいところだな」と気づいてもらうことを意識して作ったという地域プロモーション作品。現場音とマリンバの音も丁寧にミックスされていて、大画面で映像と音を堪能したい作品。

スタッフ●企画・演奏:野木青依 ●撮影・編集:浅野裕基(Landeel.co) ●撮影:眞弓莉沙子(ハートネットワーク) ●企画・制作:河島琴音・山本清文(あかがねミュージアム) ●制作・著作:あかがねミュージアム運営グループ

 

なぜミュージアムが映像制作をしているだろうか。山本さんの立場とは?

「あかがねミュージアムというのは、愛媛県新居浜市というところにある文化施設なんですけれども、指定管理者制度で運営をされてまして、私は業務委託という形で、主にホール事業を運営していて、自主事業をやっています」https://akaganemuseum.jp/

山本さんご自身は松山で生まれて、東京の『座・高円寺』の劇場創造アカデミー俳優コース1期修了後に同劇場の主催事業に参加。地元に戻ってからは演劇活動をしながら、愛媛のテレビ・ラジオ番組に司会、レポーター、パーソナリティとして出演しているという。

つまり山本さんは出演したり、企画する側。ただ、制作スタッフとの関わりは深くて、そもそもミュージアムの運営を依頼されているのがケーブルテレビであり、地元にもビデオグラファーがいるので、撮影、編集を依頼してできたのが応募作ということになる。


山本清文さん

「マリンバ奏者の野木青依さんの音楽イベントをミュージアムでやろうとしていたのですが、コロナでできず、それなら野木さんがマリンバを引いて練り歩くというコンセプトの映像を作って、それを上映しながら、生でも演奏する事業をやったらどうだろうかと」

実は練り歩き映像とコンサートの映像のふたつの作品をもとに再編集して5分にしたのが応募作。全体的に野木さんのプロモーションムービーのように見えたのはそういう理由だった。それでもタイトルが『街と二重奏』、最後の「わたしたちの街の音を楽しむ」というテロップによって、新居浜のプロモーション映像になっていた。別の目的で作った映像であっても、編集によって、主旨が異なる作品にできる好例。

音もしっかり録る

映像的にも気持ちがいい仕上がり。マリンバの音はアフレコではなく、実際にその場で録音している(マイクが映り込んでいる)という。森や海岸、工場、商店街、子供の声が混じり合ったマリンバの音が新鮮。移動中の様子も入れたことが臨場感につながった。

演劇をやってきた山本さんらしく、次の展開としてショートムービーの脚本を市民から募集。監修、制作に地元出身の映画監督、西山将貴さんを迎えて、短編映画を作って上映してしまおうと企画している。

新しい映像の作られ方、楽しみ方が、アイデアのある個人と地域から生まれようとしている。


いきなり映像作品を募集するのはハードルが高いので、まずはストーリーを募集した。そのあと一緒になって作りましょうという企画に今まさに挑戦している。

 

撮影現場

新居浜の各地にマリンバを持ち運んでそこで演奏。フェリーに乗ってヤギのいる大島に移動したり、アーケードの商店街を練り歩いたりと臨場感たっぷり。保育園児とのやりとりは想定になかったそうだが、許可をいただき、作品に盛り込んだ。無人の街だけでなくこのシーンが温かみを生んだ。





今回の作品で撮影を担当した浅野裕基さん(Asano Yuuki)/Landeel.co 代表)は香川県出身。地元の制作会社を経て独立。現在はクライアントワークを中心にフリーカメラマンとして活動中。「移動しながらの即興演奏をドキュメントとして撮影するという趣旨でしたので、始まり・終わりがハッキリしない中での撮影となり非常に難しかったのを覚えています。新居浜の景色とマリンバ奏者野木さんの感性・演奏が素晴らしく、少しでも心に残るものがあれば嬉しいです」

 

 

主な機材リスト

 

VIDEO SALON 2023年11月号より転載