映画監督・武 正晴の「ご存知だとは思いますが」 第78回 オーメン


中・高・大と映画に明け暮れた日々。あの頃、作り手ではなかった自分がなぜそこまで映画に夢中になれたのか? 作り手になった今、その視点から忘れられないワンシーン・ワンカットの魅力に改めて向き合ってみる。

文●武 正晴

愛知県名古屋市生まれ。明治大学文学部演劇学科卒業後フリーの助監督として、工藤栄一、石井隆、崔洋一、中原俊、井筒和幸、森崎東監督等に師事。『ボーイミーツプサン』にて監督デビュー。最近の作品には『百円の恋』『リングサイド・ストーリー』、『銃』、『銃2020』、『ホテルローヤル』等がある。ABEMAと東映ビデオの共同制作による『アンダードッグ』が2020年11月27日より公開され、ABEMAプレミアムでも配信中。現在、NETFLIXでオリジナルシリーズ『全裸監督』はシーズン2が6月24日より配信スタート。

 

第78回 オーメン

イラスト●死後くん

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原題:The Omen
製作年 :1976年
製作国:アメリカ
上映時間 :111分
アスペクト比 :シネスコ
監督:リチャード・ドナー
脚本:デヴィッド・セルツァー
製作:ハーヴェイ・バーンハード
撮影 :ギルバート・テイラー
音楽 :ジェリー・ゴールドスミス
編集:スチュアート・ベアード
出演 :グレゴリー・ペック/リー・レミック/デヴィッド・ワーナー/ハーヴェイ・スティーヴンス/ビリー・ホワイトロー/パトリック・トラウトン/レオ・マッカーンほか

6月6日午前6時に誕生した、悪魔の子ダミアン。アメリカ人外交官のロバートは、同時刻に誕生し死産した我が子の代わりに妻に秘密で養子として引き取る。ダミアンの成長とともに、周囲には不穏な出来事がたびたび起こり始め、ついには自身にも恐ろしい事態が待ち受けていた。

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6年ぶりに撮影のない夏を静かに過ごしている。ウイルスの猛威は止むことなく、猛暑の中オリンピックが開催されているようだ。東京は大丈夫なのかと思ってしまう。

 

トラウマ映画をこの世に遺した名匠監督

7月5日、職人リチャード・ドナー監督が91年の人生を終えた。『スーパーマン』『グーニーズ』の監督と紹介されていたが、僕にとっては『オーメン』というトラウマ映画をこの世に遺してくれた、名匠監督だ。小学3年の時に公開され、大ヒットした『オーメン』を僕も少し遅れて、公開から半年後ぐらいに観ている。『エクソシスト』の大ヒットから、ハリウッドは悪魔の子どもを本気で映画に登場させた。えげつないショッキングシーンをテレビスポットで連日見せつけられていた僕は、少し尻込みしながらも、父親の誘いに乗っかって劇場へと向かった。

6月6日の6時6分にふたりの子どもが産まれ、ひとりが死んで、ひとりが生き残った。生き残った子どもの母親は亡くなる。場所はローマの産院。亡くなった子どもの父親ロバート・ソーンはアメリカ人外交官。産院に駆けつけたソーンに怪しげな神父が「神は人智に及ばぬ業を成し給うのです…」と同時刻に産まれた男の子を養子にと怪しく誘う。妻、キャサリンに内緒で引きとり、自分たちの子として育てる。 

 

悪魔の子どもの本気度が増してくる      

オーメン(omen)とは前兆という意味。僕たちはもちろん不吉な前兆としてこの映画を見始める。ロバートは駐英大使になり、大統領候補とまで噂される人物に出世していく。ロバート役にグレゴリー・ペック。『アラバマ物語』の弁護士、『ナヴァロンの要塞』のマロリー大尉、 『白鯨』のエイハブ船長でアメリカ人の不撓不屈を演じてきた人が出演することで悪魔の子どもの本気度が増してくる。『エクソシスト』のマックス・フォン・シドーが悪魔祓いをしたのと同じ効果だと感じた。『ローマの休日』の新聞記者がローマの駐在員というシャレも最高だ。

賢妻キャサリンと天使のようなダミアン坊やとロンドンの洋館で駐英大使の生活を満喫するロバート。坊やの5歳の誕生日あたりから次々と前兆が起こり始める。パーティー会場に招待された子ども達の面前で、「ダミアンあなたのためよ」と突如自殺する若い乳母。子ども達のリアクションが凄い。

 

美しい人が恐怖に慄く瞳がなんとも恐ろしい

妻は情緒不安定に。キャサリン役にリー・レミック。この美しい人が恐怖に慄く瞳がなんとも恐ろしいのだ。ローマからやってきたブレナン神父がロバートに纏わりつく。ダミアンの出生の秘密を知り、悪魔の子どもであることを伝える。「地獄で会いましょう、そこでお互い罰を受けましょう」と去っていく。      

もうひとりロバートに付き纏う報道カメラマン、ジェニングス役にデヴィッド・ワーナー。オーメンで一躍有名になってしまう彼の顔は『戦争のはらわた』でヒッピーのようなドイツ将校役で現れた時も、「ああ、あの首の人だ…」と思い出した。ダミアンを守る、悪魔主義者のミセス・ベイロックがふたり目の乳母として現れる。演じたビリー・ホワイトロウが最高に恐ろしく、緑のパジャマで襲いかかってくるところなんか、悲鳴をあげそうになってしまった。後に観た、月曜ロードショーの日本語吹き替え版も恐ろしく、忘れない。

幼い子どもの無垢な部分に潜む邪悪さをうまく引き出し、ダミアンの悪魔性を演出した職人ドナー監督が見事だ。キャサリンとダミアンがサファリパークに遊びに行く場面が秀逸で、ふたりの乗った車にマントヒヒの集団が襲いかかる場面が凄い。長年どう撮ったのかと疑問に感じていた。

先日、DVDのオーディオコメンタリーでドナー監督自身が実に楽しそうに話しているのを聞いて納得した。マントヒヒのボスをカメラの乗っている車中に同乗させたそうだ。ボスを助けようとお猿さんたちが怒り狂った結果なんだと楽しい思い出として語っていた。「覚えているかい、この時の飼育係が翌日虎に襲われて亡くなったんだ」と。

 

ホラー映画だがアクショ映画のテクニックが満載

ホラー映画ではあるが、アクション映画のテクニック満載である。避雷針落下による串刺し、ガラスを積んだトラックが動き出し切断される首…、山犬の群れの攻撃、悪魔の子守ミセス・ベイロックの噛みつき攻撃。実に巧みな編集だ。ドナー監督と編集スチュアート・ベアードのコンビは『リーサル・ウエポン』シリーズでも大暴れしてくれる。ガラストラックのネタは『リーサル・ウエポン2』で10倍ぐらい派手になっていて僕は呆れて劇場で大笑いした。スチュアート・ベアードは『007カジノ・ロワイヤル』『007スカイ・フォール』で健在ぶりを見せてくれている。

 

構図や不穏なルックがこの映画に格調を与えている

撮影に引退していた名匠ギルバート・テイラーを引っ張り出したことにも注目だ。『博士の異常な愛情』でキューブリックとタッグを組んだ名匠による構図や不穏なルックがこの映画に格調を与えている。音楽はジェリー・ゴールドスミス。僕はこの人の名前を小学3年の時に覚えた。本作でアカデミーのオスカーを当然のようにゲットしている。18回ノミネートされて受賞は一度だけ。僕は『パピヨン』のテーマが一生好きだ。

 

続編の『オーメン2』もかなり気に入っている

ドナー監督は『オーメン』の大ヒットで抜擢され『スーパーマン』『グーニーズ』『リーサル・ウエポン』と80年代を席巻していく。娯楽作品の主人公達がどこか影のあるアンチヒーロー達であることを見逃せない。

続編を予感させてくれる選択をして、ラストシーンの撮影をやり直したドナー監督と関係者に敬意と感謝しかない。僕は続編のダミアン少年の恐るべき自立を描いた『オーメン2』もかなり気に入っているのだ。

「心ある者は獣の数字を数えよ。獣の数字は人の数字にして、その数字は666なり」というヨハネ黙示録の一節を僕らボンクラ小学生はすっかり覚えてしまった。自分達のつむじに666の数字が隠されてないか後頭を必死になって確認しあっている姿を懐かしく思い出してしまった

 

 

VIDEO SALON2021年9月号より転載