中・高・大と映画に明け暮れた日々。あの頃、作り手ではなかった自分がなぜそこまで映画に夢中になれたのか? 作り手になった今、その視点から忘れられないワンシーン・ワンカットの魅力に改めて向き合ってみる。

文●武 正晴

愛知県名古屋市生まれ。明治大学文学部演劇学科卒業後フリーの助監督として、工藤栄一、石井隆、崔洋一、中原俊、井筒和幸、森崎東監督等に師事。『ボーイミーツプサン』にて監督デビュー。最近の作品には『百円の恋』『リングサイド・ストーリー』、『銃』、『銃2020』、『ホテルローヤル』等がある。ABEMAと東映ビデオの共同制作による『アンダードッグ』が2020年11月27日より公開され、ABEMAプレミアムでも配信中。現在、NETFLIXでオリジナルシリーズ『全裸監督』シーズン2が配信中。

 

第90回 フリービーとビーン/大乱戦

イラスト●死後くん

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原題:Freebie and the Bean
製作年 :1974年
製作国:アメリカ
上映時間 :113分
アスペクト比 :シネスコ
監督:リチャード・ラッシュ
脚本:ロバート・カウフマン/リチャード・ラッシュ
製作:リチャード・ラッシュ
撮影 :ラズロ・コヴァックス
編集:マイケル・マクリーン/フレドリック・スタインカンプ
音楽 :ドミニク・フロンティア
出演 :ジェームズ・カーン/アラン・アーキン/ロレッタ・スウィット/ジャック・クルーシェン/マイク・ケリンほか

サンフランシスコを舞台に、型破りなふたりの刑事が活躍するアクション・コメディ。違法賭博の大物レッド・マイヤーズを捉えようと、最初から最後までやりたい放題の刑事をジェームズ・カーン(フリービー)とアラン・アーキン(ビーン)がユーモラスに演じる。

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7月6日、ジェームズ・カーンが逝去した。82歳だった。数年前、『ゴッドファーザー』の出演者の同窓会みたいなテレビ番組でコッポラ監督達と元気な姿を見せていた。ゴッドファーザー』コルレオーネ一家の長男ソニーの壮絶な死に様は映画史のひとつだ。粗雑だが、家族思いのやんちゃなソニーが僕は大好きだった。当初『ゴッドファーザー』の続編は若きソニーが父親と一家のために凌ぎをけずる物語予定していたそうだ。原作にもある件だが、実現はしなかった。

僕が少年時代に観たジェームズ・カーンは何処か憎めないアウトローの役を毎度見事に演じていた。『ローラーボール』や『熱い賭け』の主人公も好きだった。『遠すぎた橋』の瀕死の中隊長を救出する寡黙なエディ・バートン軍曹は僕にとって特筆すべき存在で、森の中のジープでの疾走シーンは永遠だ。マッチョ役の多いカーンを逆手にとって、手も足も出ない『ミザリー』の作家役のキャスティングは見事だった。

 

カーンの訃報を聞いて真っ先にもう一度観てみたいと頭によぎった

数多の出演作の中で、僕はカーンの訃報を聞いて真っ先にもう一度観てみたいと頭によぎったのが『フリービーとビーン』だった。高校2年の時に「日曜洋画劇場」のテレビ放映で観た。劇場では未見だ。スタンリー・キューブリック監督が「1974年の最高映画」と言ったくらいの凄まじいバディアクションコメディだ。

 

アラン・アーキンの芸達者ぶりが健在で嬉しかった

ジェームズ・カーンと相棒刑事アラン・アーキンがサンフランシスコで賭博の胴元レッド・マイヤーズをとっ捕まえて、出世しようと企んでいる。アラン・アーキンは名怪優で、『アメリカ上陸作戦』のロシア人潜水艦隊員には驚いた。映画デビュー作でいきなりの主演男優オスカーのノミネーション。『キャッチ=22』の戦争恐怖症のヨサリアン大尉もケッサクだった。一転『暗くなるまで待って』のオードリー・ヘプバーンを追い詰める得体の知れないハリー・ロート役はなんと恐ろしかったことか。最近の『リトル・ミス・サンシャイン』ではスキンヘッドの不良おじいちゃん役で見事助演男優賞のオスカーをゲットしての芸達者ぶり健在が嬉しかった。

 

フリービーとビーンの登場は オープニングから笑わせてくれる

オープニングから笑わせてくれる。夜、老紳士レッドがゴミを捨てると、奥にいた不審な車がゴミ箱横にやって来る。怪しいふたり組がゴミ箱を抱えて中のゴミを車のトランクにぶちまける。フリービー(ジェームズ・カーン)とビーン(アラン・アーキン)の登場だ。トランクのゴミを漁る芸達者ふたりのアドリブが楽しい。ゴミの中から事件の証拠のメモを見つける。トランクを閉めるとタイトルが。見事なオープニングに期待しかない。ふたりの車が疾走する夜のサンフランシスコにセンスの良いタイトルロールが続く。

 

型破りな展開は約半世紀経った今でも呆れてしまう

撮影は名匠ラズロ・コバックス。『イージー・ライダー』や『ファイブ・イージー・ピーセス』の匂いを残しながらのルックが嬉しい。警察署が一度も出てこない、刑事映画『フリービーとビーン』の型破りな展開は約半世紀経った今でも呆れてしまう。

有罪の証拠を握っているモトレイという男をさんざん探すが、結果、なんと一度も登場しない。居場所を聞き出そうとふたりに殴られた者達が浮かばれない。刑事ふたりによるコミカルな脅しは『フレンチ・コネクション』の影響か。

賭博の胴元レッドを捕まえることが出世の鍵だと思い込んでいるふたりは、レッドを狙う殺し屋からレッドを守って危険に晒される。結果一般市民までふたりから殺し屋に疑われ巻き添えになる。

 

コミカルな要素を入れ込んだアクションの工夫に感心

フリービーとビーンが殺し屋を車で追って車内で口論となり、高速から転落する。老夫婦がベッドで食事をしているアパートに車が落下してしまう場面は名場面でカーン、アーキン、老夫婦の見事なリアクションに笑った。監督のリチャード・ラッシュはスタントマン出身らしく、カースタントアクションはえげつないがコミカルな要素を入れ込んだアクションの工夫に感心する。

今ではCGで処理するだろうが、運転する主人公の後部座席からカメラを向け、目の前で車が横転したり、車が突っ込んでくる。観客が主人公達と同じ目線で体感する。難度の高い撮影を選択して挑戦している。横転したトラックから酒瓶が転がり、それを野次馬がかっぱらうのにも笑った。

殺し屋との二度の対決の場が何故か、公衆トイレ。2丁拳銃の過剰な発泡シーンは呆れてしまうほど凄まじく、今の時代では確実にアウトだろう。これも『ダーティーハリー』の影響か。

 

ゴミ箱で始まり、ゴミ箱で終わる

事件解決に物語が進まない。目的でもない。出世したいふたりの刑事が奮闘するには理由があるのだ。フリービーと恋人の晩餐シーン。同様にビーンが妻の浮気を疑う場面も秀逸だ。物語は予想のつかない方向に進む。言葉では説明がつかないので、ぜひ観てほしい。そんな馬鹿なというようなラストが用意されている。

ともあれ高校2年生の僕はこの映画の終わりにふたりがゴミ箱に放り出される構成がうまいなあと思ったことを覚えている。ゴミ箱で始まり、ゴミ箱で終わる。その間は名優達と面白おかしく時間を使う。

 

映画はオープニングとラストを思い付いたらしめたもの

映画とはこういうことでいいのではないかと、今映画を撮っている僕は毎度思う。映画はオープニングとラストを思い付いたらしめたもんで、あとは面白く最後まで繋いでいく。

気の利いた音楽ももちろん必要だ。チャップリンも言っているが、多少のお金も勿論だ。これが僕の映画創りの持論である。

 

 

 

VIDEO SALON2022年9月号より転載