中・高・大と映画に明け暮れた日々。あの頃、作り手ではなかった自分がなぜそこまで映画に夢中になれたのか? 作り手になった今、その視点から忘れられないワンシーン・ワンカットの魅力に改めて向き合ってみる。

文●武 正晴

愛知県名古屋市生まれ。明治大学文学部演劇学科卒業後フリーの助監督として、工藤栄一、石井隆、崔洋一、中原俊、井筒和幸、森崎東監督等に師事。『ボーイミーツプサン』にて監督デビュー。最近の作品には『百円の恋』、『リングサイド・ストーリー』、『銃』、『銃2020』、『ホテルローヤル』等がある。ABEMAと東映ビデオの共同制作による『アンダードッグ』が2020年11月27日より公開され、ABEMAプレミアムでも配信中。現在、NETFLIXでオリジナルシリーズ『全裸監督』シーズン2が配信中。2023年1月6日より『嘘八百 なにわ夢の陣』が公開!

第97回 ワイルドバンチ

イラスト●死後くん

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原題: The Wild Bunch
製作年 :1969年
製作国:アメリカ
上映時間 :143分
アスペクト比 :シネスコ
監督:サム・ペキンパー
脚本:ウォロン・グリーン / サム・ペキンパー
製作:フィル・フェルドマン
撮影 :ルシアン・バラード
編集 :ルイス・ロンバルト
音楽 :ジェリー・フィールディング
出演 :ウィリアム・ホールデン / アーネスト・ボーグナイン/ ロバート・ライアン/エドモンド・オブライエン /ベン・ジョンソン / ウォーレン・オーツほか

サム・ペキンパー監督の代表作のひとつで、実在した強盗団である「ワイルドバンチ」をモデルにした西部劇。1913年、動乱のさなかにあるメキシコ。パイクをリーダーとする5人のアウトローたちは、革命派の将軍マパッチから、アメリカ政府の輸送列車の襲撃を依頼されるが…。

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5月から撮影に入る作品で、任侠アウトロー達の青春の蹉跌を描こうと模索している。参考にサム・ペキンパー作品を連日見直している。『ガルシアの首』『ゲッタウェイ』『戦争のはらわた』等、少年時代から僕を夢中にした作品群は老年を迎えた僕を未だ魅了し続けてくれる。『ワイルドバンチ』は一番繰り返し観ている作品だ。

1982年11月21日、日曜洋画劇場のテレビ放映で中3の僕は初めて『ワイルドバンチ』と出会う。映画館で初めて観たのは大学入学の年、池袋文芸坐のスクリーンだった。その後ビデオ、DVDが出る度に繰り返し観た。渋谷パンテオンや早稲田松竹の希少なリバイバル上映に劇場に繰り出しては老ギャングアウトロー達の生き様を目に焼き付けた。昨年、早稲田松竹でペキンパー監督の大傑作『砂漠の流れ者/ゲーブル・ホーグのバラード』と二本立て上映は残念ながら劇場が満席で見逃した。

老ギャング達が紹介されていくオープニングカットが素晴らしい

1913年メキシコ国境で州軍の扮装をしたギャング団「ワイルドバンチ」の銀行襲撃から映画は始まる。馬上の老ギャング達が紹介されていくオープニングカットが素晴らしい。

トップにウィリアム・ホールデン(当時50)、続いて苦味走った笑顔のアーネスト・ボーグナイン(51)、続いてロバート・ライアン(59)、エドモンド・オブライエン(53)、ベン・ジョンソン(50)、ウォーレン・オーツ(40)、ストップモーションを駆使したタイトルカット。毎度ペキンパー映画はクレジットから魅せてくれる。ライアン以外は今の自分より年下とは溜息が出る。

ウィリアム・ホールデンは『第十七捕虜収容所』でアカデミー主演男優賞ですごく好きだった。晩年の『タワーリング・インフェルノ』や『ネットワーク』の重役の役でお馴染みだ。アーネスト・ボーグナインは『北国の帝王』の鬼車掌と『ポセイドン・アドベンチャー』で大好きだった。未見の『マーティー』は主演でオスカーをゲット。ロバート・ライアンは『史上最大の作戦』『バルジ大作戦』の米軍の将軍役でお馴染み。『狼は天使の匂い』のギャングが好きだ。ペキンパー作品で馬上スタントマンだったベン・ジョンソンが大抜擢されスター俳優の仲間入りをしていく。僕の大好きな『ラスト・ショー』では助演男優賞でオスカーゲット。

ウォーレン・オーツもこの作品後に念願の主演映画『ガルシアの首』で映画史に名を残す。エドモンド・オブライエンには驚きだ。当時他の共演者とさほど歳が変わらないのに、サイクス役の糞爺振りが凄まじい。オスカー助演男優賞ものだ。1970年のアカデミー賞に俳優陣はノミネートすらされていない。作品、監督賞もされていない。アウトロー達と暴力描写をアカデミー会員達はお気に召さなかったのか。

強盗団の最後の生き様を見届ける構成が面白い

国境の街の鉄道銀行を襲撃したホールデン扮するパイクが首領のギャング団は、賞金稼ぎ達が待ち伏せする罠にハマって仲間の半分を失う。賞金稼ぎの一団の中にはかつての仲間パイクの盟友ソーホン(ロバート・ライアン)が。刑務所釈放を条件に賞金稼ぎのリーダーとして鉄道会社から雇われた。「ワイルドバンチ」軍団に散々な目に遭わされて来た鉄道会社は無法者達を雇い、一般市民の犠牲などお構いなしに「ワイルドバンチ」逮捕ではなく皆殺しを命じる。

かつての仲間を追跡しながら、パイクや右腕のダッチ(アーネスト・ボーグナイン、ライル(ウォーレン・オーツ)とゴーチ(ベン・ジョンソン)のテクター兄弟、老耄のサイクス、メキシカンのエンジェル(ジェイミー・サンチェス)の強盗団の最後の生き様を見届ける構成が面白い。不埒な賞金稼ぎ達に呆れつつ、パイク達の元に戻りたいくらいだとボヤくライアンが良い。

生き残った4人が銀行から奪ったのは金ではなく大量の鉄輪っかだった。パイクを攻めるテクター兄弟。口の悪いジジイのサイクス含め、仲間割れするギャング団が、下ネタを境に皆でバカ笑いに場面に転じるシナリオが秀逸だ。脚本と音楽でアカデミーノミネート。

143分の映画に定着させたペキンパー監督の手腕に畏怖

メキシコに逃げ込む強盗団は、エンジェルの故郷の村で休息を取る。この村人達の歓待の場面が美しく、素晴らしい。ペキンパー監督は一貫して、メキシコとその土地に住む人々への憧憬を描いた。この村を搾取するメキシコ軍、マパッチ将軍と邂逅するパイク達はアメリカ軍の武器を運ぶ鉄道襲撃を多額の報酬で依頼される。アメリカ軍、マパッチメキシコ軍、パンチョビラ率いる反政府メキシコ革命軍、賞金稼ぎ達とワイルドバンチが入り乱れてのシナリオ構成が面白すぎる。143分の映画に定着させたペキンパー監督の手腕に畏怖してしまう。

これが最後の仕事と列車強盗を成功させたパイク達はマパッチ将軍から多額の報酬を得るが、仲間のエンジェルが武器の一部を反政府ゲリラに横流ししたのがバレて、拉致されてしまう。行かなくても良い道を引き返す4人はエンジェル奪還のため、アメリカ軍の武器で武装した200人のメキシコ軍の砦に乗り込んでいく。ジェリー・フィールディングの劇伴が決戦に臨むパイク、ダッチ、テクター兄弟の花道を飾る。

ペンキンパー一家は映画史に残る大仕事を成し遂げた

11日間、6カメで挑んだペキンパー一家は映画史に残る大仕事を成し遂げた。ペキンパー監督は死闘のラストカットを撮り終えた後、撮影現場に残りひとりで咽び泣いたそうだ。43歳の青春。エンジェルの村の長老が、パイクに「悪人だろうがどんな大人にも子どもの心が残っている。特に悪人ほど」という台詞が胸に沁みる。

アーネスト・ボーグナインの最後のセリフ「死ぬなパイク」の名セリフは、何を言うかではなく、誰が誰に言うかということの証明だ。死臭漂う砦の片隅に賞金稼ぎのソーホンが物言わず座り込んでしまう。かつての仲間達の心意気と壮絶な生き様に落ち込んでいる。ロバート・ライアンが素晴らしい。糞爺サイクスが反革命ゲリラ達と現れ、ソーホンに「もう一度冒険してみないか」とペキンパーがカメラを向けたラストカットのメキシコの大地。このショットを観たいがために僕は繰り返しこの映画を観ているのかもしれない。

VIDEO SALON2023年5月号より転載