中・高・大と映画に明け暮れた日々。あの頃、作り手ではなかった自分がなぜそこまで映画に夢中になれたのか? 作り手になった今、その視点から忘れられないワンシーン・ワンカットの魅力に改めて向き合ってみる。

文●武 正晴

愛知県名古屋市生まれ。明治大学文学部演劇学科卒業後フリーの助監督として、工藤栄一、石井隆、崔洋一、中原俊、井筒和幸、森崎東監督等に師事。『ボーイミーツプサン』にて監督デビュー。最近の作品には『百円の恋』、『リングサイド・ストーリー』、『銃』、『銃2020』、『ホテルローヤル』等がある。ABEMAと東映ビデオの共同制作による『アンダードッグ』が2020年11月27日より公開され、ABEMAプレミアムでも配信中。現在、NETFLIXでオリジナルシリーズ『全裸監督』シーズン2が配信中。2023年1月6日より『嘘八百 なにわ夢の陣』が公開!

 

 

第96回 アンタッチャブル

イラスト●死後くん

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原題:The Untouchables
製作年 :1987年
製作国:アメリカ
上映時間 :119分
アスペクト比 :シネスコ
監督:ブライアン・デ・パルマ
脚本:デヴィッド・マメット
原作:エリオット・ネス
製作:アート・リンソン
撮影 :スティーヴン・H・ブラム
編集:ジェラルド・B・グリーンバーグ
音楽 :エンニオ・モリコーネ
出演 :ケビン・コスナー/ショーン・コネリー/ロバート・デ・ニーロ/アンディ・ガルシア/チャールズ・マーティン・スミス/ビリー・ドラゴ ほか

1930年、禁酒法時代のアメリカ・シカゴ。酒の密造と密売で莫大な利益を得るギャングのボスであるアル・カポネに闘いを挑んだ、アメリカ合衆国財務省捜査官チーム「アンタッチャブル」の活躍を描いた作品。捜査チームの主任捜査官だったエリオット・ネスの自伝が基になっている。

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1月13日から公開されている『モリコーネ 映画が恋した音楽家』が素晴らしい。2020年7月に亡くなったエンニオ・モリコーネの偉業を『ニュー・シネマ・パラダイス』のジョゼッペ・トルナトーレ監督が見事な手腕で描いた。本コラムでも取り上げた『1900年』『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』『ウエスタン』『ミッション』のマエストロと監督、俳優達の軌跡に魅せられて、何度も熱いものが込み上げてきた。

2度のオスカーノミネート(『天国の日々』、『ミッション』)も受賞を逃す屈辱でもう映画音楽を辞めると公言していたマエストロにブライアン・デ・パルマ監督が熱烈なラブコールを送った『アンタッチャブル』の軌跡も大変興味深い。鬼才、ブライアン・デ・パルマ監督のキャリア最大作にはモリコーネが必至だった。監督達の勝負作にはモリコーネが必要なのだ。

 

映画の名場面のオマージュが呆れるほどに見事だ

僕が『アンタッチャブル』を観たのは東京に来た大学1年の時で、今はなき渋谷パンテオンの大スクリーンで堪能した。1960年代アメリカの人気ドラマの映画化だが、まるで知らなかった。何よりも、ロバート・デ・ニーロがアル・カポネを演じ、ショーン・コネリーも出演するというキャスティングとブライアン・デ・パルマ監督作ということで、僕は10月3日の初日から劇場に駆け込んだ。『殺しのドレス』『ミッドナイトクロス』『キャリー』で、僕はデ・パルマ監督の映画オタクぶりが大好きで、毎回、映画の名場面のパクリ、オマージュが呆れるほどに見事だった。

『殺しのドレス』ではヒッチコックの『サイコ』のシャワーシーンをエレベーターに置き換えてみたり、『ボディ・ダブルでは『裏窓』、『ミッドナイトクロス』ではワイダ監督の『灰とダイヤモンド』の名シーンを彷彿させる撮影ぶりが楽しかった。

 

見どころはオデッサの階段シーンを引用した銃撃戦

『アンタッチャブル』の見どころは、映画史に残るエイゼンシュテイン監督の『戦艦ポチョムキン』オデッサの階段シーンを引用した銃撃戦で予告編でも流れ、期待が昂まった。

オープニングタイトル、モリコーネの音楽がいきなり“ダダダン”と鮮烈で、口ずさみたくなる。禁酒法という悪法を逆手に暴れまくるアル・カポネをデ・ニーロが演じている。ぞんざいな態度のシカゴギャングの親玉を憎々しく嬉々として演じる姿は圧巻だ。

やりたい放題のカポネを何とか刑務所にぶち込む手はないかと、財務省から指名された、エリオット・ネス捜査官役にケビン・コスナーが大抜擢され、この作品を足がかりに『フィールド・オブ・ドリームス』『ボディーガード』『ダンス・ウィズ・ウルブズ』と90年代の顔となる。僕は『ファンダンゴ』というコスナーが無名時代の主演作が大変気に入っていたので、誇らしかった。

シカゴ警察自体もギャングと臭い仲で腐敗している。ショーン・コネリー演じる、夜のパトロール20年勤務の警察官マローン。出世しないのは悪いことをしていない証拠と、ネスは定年間近のベテラン警官をチームに入れる。不撓不屈のアイリッシュ警官を演じたコネリーは文句なしにオスカー助演男優賞をゲット。

財務省の簿記係で応援にやって来たウォレスは脱税で、カポネを追い詰めようとネスに提案する。ユーモラスなメガネの小男を演じたチャールズ・マーティン・スミスは『アメリカン・グラフィティ』のテリー役で大好きだったので嬉しい再会だった。ウォレスが馬に乗って、ショットガンをぶっ放す場面はまさかの大活躍で心憎い演出だった。

 

脇役達の人選の見事さに毎回感心してしまう

新米警官のイタリアン、拳銃の凄腕ストーン役にアンディ・ガルシアが颯爽と登場した。後に『ブラック・レイン』『デンバーに死す時』『ゴッドファーザー PART III』での躍進は周知の通り。この4人でアンタッチャブルズ(手出しできない)を結成。カポネを追い込んでいく。カポネの周りにいるギャング役が適選で、こういう脇役達の人選の見事さにアメリカ映画の奥深さに毎回感心してしまう。

歴史に名を残したカポネの懐刀、殺し屋フランク・ニッティ役のビリー・ドラゴはこの作品で名を残した。上下白スーツ、白ハット白手袋の殺し屋がアンタッチャブルズに襲いかかる。数多の悪役で活躍してくれたビリー・ドラゴも2019年にこの世を去り寂しい限りだ。

 

壮絶な場面に静謐なメロディーを用意するモリコーネ

ウォレスをフランクに殺害されチームの解散をほのめかすネスに、最後まで諦めるなとマローンが焚き付ける。高跳びを目論むカポネの会計係の居所を自らの命と引き換えにネスに伝える血塗れのショーン・コネリーの名演をモリコーネの美しいメロディーが後押しする。壮絶な場面に静謐なメロディーを用意するモリコーネの天才ぶり。

計士がギャング達に保護され、シカゴユニオン駅にやって来るのをネスとストーンが待ち伏せする。深夜の駅に乳母車を抱えた若い婦人がやって来る。乳母車の階段落ちとギャング達との銃撃戦がハイスピードで描かれていく前代未聞の銃撃戦モンタージュ。ブライアン・デ・パルマ監督の映画愛に拍手だ。モリコーネはオルゴールと不穏なメロディーの両旋律の両立てをこの銃撃戦に用意している。これは大変興味深い仕事ぶりで、今後の僕仕事にも重要な要素になりそうだ。

 

是非観てほしいモリコーネのアカデミー受賞の感動的なスピーチ

エンニオ・モリコーネは3度目のノミネートも受賞には至らなかった。音楽賞はかつて『革命前夜』『1900年』で共闘したベルトルッチ監督作『ラストエンペラー』の坂本龍一。日本人初の音楽賞受賞の快挙だった。モリコーネはまた、映画音楽はもうやらないと言ったのだろうか。

結果、1991年『バグジー』、2000年『マレーナ』でノミネートも受賞できず。2007年アカデミーが長年の過ちを認めるかの名誉賞。2016年、彼の映画は嫌いだ、というタランティーノ監督作『ヘイトフル・エイト』で念願のオスカーを88歳でゲット。アカデミー受賞の感動的なスピーチは先のドキュメント映画で観ることができる。是非とも。

 

 

 

●VIDEO SALON 2023年3月号より転載