映画監督・武 正晴の「ご存知だとは思いますが」 第94回 明日に向って撃て!


中・高・大と映画に明け暮れた日々。あの頃、作り手ではなかった自分がなぜそこまで映画に夢中になれたのか? 作り手になった今、その視点から忘れられないワンシーン・ワンカットの魅力に改めて向き合ってみる。

文●武 正晴

愛知県名古屋市生まれ。明治大学文学部演劇学科卒業後フリーの助監督として、工藤栄一、石井隆、崔洋一、中原俊、井筒和幸、森崎東監督等に師事。『ボーイミーツプサン』にて監督デビュー。最近の作品には『百円の恋』、『リングサイド・ストーリー』、『銃』、『銃2020』、『ホテルローヤル』等がある。ABEMAと東映ビデオの共同制作による『アンダードッグ』が2020年11月27日より公開され、ABEMAプレミアムでも配信中。現在、NETFLIXでオリジナルシリーズ『全裸監督』シーズン2が配信中。2023年1月6日より『嘘八百 なにわ夢の陣』が公開!

 

第94回 明日に向って撃て!

イラスト●死後くん

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原題:Butch Cassidy and the Sundance Kid
製作年 :1969年
製作国:アメリカ
上映時間 :110分
アスペクト比 :シネスコ
監督:ジョージ・ロイ・ヒル
脚本:ウィリアム・ゴールドマン
製作:ジョン・フォアマン
製作総指揮:ポール・モナシュ
撮影 :コンラッド・L・ホール
編集 :ジョン・C・ハワード
音楽 :バート・バカラック
出演 :ポール・ニューマン/ロバート・レッドフォード/キャサリン・ロス/ストローザー・マーティン/クロリス・リーチマンほか

アメリカン・ニューシネマの代表作のひとつ。1880年代の西部開拓時代から20世紀初頭にかけて実在したアウトローをモデルに、彼らの生きざまをユーモラスに描く。強盗として名を馳せたブッチとサンダンスだったが、時代の流れには抗えず、新たな夢を求めてボリビアへと旅立つが…。

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12月1日の映画の日に、キネカ大森に駆けこんだ。「碧い瞳の反逆児・名優ポール・ニューマン特集」の『明日に向って撃て!』最終上映に何とか滑り込んだ。

僕が最初にこの映画を観たのは中学2年の時で「月曜ロードショー」のテレビ放映だった。アメリカン・ニューシネマの先駆けの傑作を遅ればせながらようやく観ることができた。

ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードの出演作を見まくっていた僕は、ふたりの初共演の映画にすっかりやられてしまった。東京に出てきた大学時代、文芸坐で初めて劇場で観ることができた。それ以来、約35年ぶりのキネカ大森でのスクリーンだった。

 

バディ映画としての巧妙さと掛け合いのシナリオの秀逸さ

ポール・ニューマン、ロバート・レッドフォードのバディ映画としての巧妙さ、掛け合いのシナリオの秀逸さが楽しい。ウイリアム・ゴールドマンが8年かけて書いた西部のお尋ね者達の伝承奇談シナリオを、ポール・ニューマンとスティーヴ・マックイーンが買い取った。

出演できなくなったマックイーンの代役が無名の新人レッドフォード。レッドフォードは左利きの泳ぎが苦手な名ガンマン役で一躍名を上げた。彼が主催するサンダンス映画祭はもちろんここから命名されている。

特筆すべきは撮影の素晴らしさ。今回の上映で改めて思い知らされた。本作で撮影のコンラッド・L・ホールはアカデミー撮影賞のオスカーをゲットしている。サム・メンデス監督『アメリカン・ビューティー』『ロード・トゥ・パーディション』でも後年撮影賞を受賞している名匠だ。映画の冒頭に魅せられて僕は身動きできなくなる。ジョージ・ロイ・ヒル監督のサイレント映画期の『大列車強盗』へのオマージュか、オープニングタイトルロールがサイレント調の小窓で始まる。

 

絵画、写真を思わせる美しさに息を呑む

タイトル開け、ポール・ニューマン扮するアウトロー、ブッチ・キャシディの登場カット。セピア調の強烈なコントラストのクローズアップ。絵画、写真を思わせる美しさに息を呑む。銀行強盗を企む彼が銀行の強固な金庫を睨み、諦めて立ち去る。ロバート・レッドフォード扮するサンダンス・キッドの酒場での登場カットの美しさ。『ブッチ・キャシディ&サンダンス・キッド』という原題を『明日に向って撃て!』と名付けたのが最高殊勲。主人公ふたりが馬に跨って荒野を走っていく様がセピアからクールなブルートーンへとルックカラーが変化していく場面に毎度身震いする。いかようなフィルムタイミングの作業がなされたかその工程を猛烈に知りたい。

 

不器用に奮闘する様が今見ても楽しい

20世紀初頭のアウトロー達が時代の変化に争いながら不器用に奮闘する様が今見ても楽しい。牛泥棒、銀行強盗、と「壁の穴」強盗団を率いてきたブッチも30代後半を迎えて「俺たちはもう歳だ」と嘯きながら、列車強盗に活路を見出す。新時代の象徴パンパシフィック鉄道も強盗団に負けじと、ピンカートン探偵社を巨額な金で雇い、強盗団の壊滅に乗り出す。

今までの西部劇だと主人公になり得なかったアウトローの逃走劇が素晴らしい撮影と共に語られていく。どこまでも追いかけてくるピンカートン探偵団は顔が見えないが、被っている帽子の演出で表現していくのが面白い。

昼間に撮影して夜のように見せる擬似夜景も巧みで効果的だ。追い詰められたふたりが川にダイブする名シーン。キッドの名セリフ「俺は泳げないんだ(I can’t swim)」は何度見ても楽しいが、物凄いスタントシーンだ。

 

映画史に残る名シーン

逃げる男達はヒロインの元へ。キャサリン・ロス扮するエッタ・プレイスはもうひとりの主人公。サンダンス・キッドの恋人の女教師も伝説の実在の人物。未来の乗り物、自転車をポール・ニューマンとキャサリン・ロスがふたり乗りする名場面。B・Jトーマスの「雨に濡れても」が奏でられ、映画史に残る名シーン。音楽のバート・バカラックはふたり乗りシーンの編集ラッシュを見て「雨に濡れても」を書き上げたそうだ。制作年の歴史的激動の1969年を象徴する内容の歌詞が身に染みる。太陽光の逆光が逃亡者のアウトローふたりの救いの女神としてキャサリン・ロスを浮立たせる見事な撮影。

 

当時の写真を使ってのモンタージュ編集が素晴らしい

ブッチはアメリカから逃げて、新天地南米ボリビアで金を掘り当てて一旗あげようと、未来の乗り物自転車を捨てて馬車で旅立つ場面が印象的だ。キッドと女教師3人でニューヨーク経由で船でボリビアへ。当時の写真を使ってのモンタージュ編集が素晴らしい。3人を巧みに合成して写真に入れ込んでゆく監督のジョージ・ロイ・ヒルのセンスが抜群だ。

 

アメリカ西部とボリビアの対比が巧く撮影で工夫されている

ボリビアはゴールド・ラッシュに沸いていなかった。結果、銀行強盗をして凌ぐが、言葉が通じない。女教師から強盗に必要なスペイン語を学ぶ日々を過ごす。女教師も銃を構えて馬に跨りの銀行強盗がユーモアに溢れて、3人が実に楽しそうに演じている。 後半戦、広大なアメリカ西部と違うボリビアの対比が巧く撮影で工夫されている。初めて人を撃って命を奪ってしまうブッチ・キャシディのシーンが、人を殺すと元の自分のいた世界へと戻れなくなる、ということを暗示する撮影がスローモーションを使って表現されていた。

 

知らず知らずに、ブッチとサンダンスに影響を受けていた

そしてあまりにも有名な映画史に残るラストシーン。食堂でボリビアの軍隊に包囲された絶体絶命のブッチとキッドの会話が前向きで素晴らしい。「二度とこの店に来たくない。次はオーストラリアに行こう。英語も通じるし」

僕は拙作『嘘八百』シリーズのふたりの主人公が同じような台詞を言っていることに、はたと気づいてしまった。知らず知らずに、ブッチとサンダンス・キッドに影響を受けていたとは。恥ずかしくも嬉しくもなり、劇場を後にした。

 

 

 

VIDEO SALON 2023年1月号より転載

vsw