【新連載】インハウス動画制作の現場から〜社内ビデオプロダクションのススメ〜 第1回株式会社すかいらーくホールディングス


SNSでのPRや社内教育など、企業の動画利用が急速に広がっている。用途はさまざまだが、ニーズの高まりに合わせて社内に動画制作部門を設置するケースも増えている。本連載では、そんなインハウス動画制作に踏み切った企業の導入理由や運用状況などをレポートしていく。初回は、全国に3000店以上の店舗を持つ外食企業すかいらーくグループに話を伺った。

取材・文・構成●矢野裕彦

 

株式会社すかいらーくホールディングス

https://www.skylark.co.jp/

▲ 株式会社すかいらーくレストランツ セールスサポートチームの安藤克也リーダー。すかいらーくグループの動画マニュアルの制作を担当しており、自らも動画制作の研修を受けつつインハウスの動画制作チームの立ち上げを行なった。

 

店舗スタッフ向けの動画マニュアルを制作

ガストやジョナサン、バーミヤン、夢庵など、20以上のブランドで多彩な外食チェーンを展開する、すかいらーくグループ。全国に3000店舗以上の店を構え、従業員数は約10万人にも及ぶ。各店舗には少人数の社員が常駐し、パート・アルバイトを含む多人数のスタッフを束ねる。そのため、各店舗の重要な業務としてスタッフのトレーニングがある。

トレーニングする項目は、調理方法はもちろん、手の洗い方から挨拶、ユニフォームの着用方法などの身だしなみ、器具の使用方法から控え室のルールまで多岐にわたる。さらに、ブランドごとに違いがあり、時期によってはキャンペーンなどの特別なトレーニングも発生する。それらを各店舗の社員で指導するには、時間的な制限もあり、各個のスキルによりバラツキの可能性も出てくる。その解決方法として考えられたのが、見るだけで具体的な方法が理解できる動画マニュアルの制作だ。

「店舗スタッフ向けを含めたさまざまなトレーニングプログラムは、基本的にすべて紙のマニュアルで用意されていました。その数が膨大で、全ブランドで3000項目くらいあるんです。そのうち動画にしたほうがいいものが40%程度ありました」

そう語るのは、セールスサポートチームの安藤克也リーダーだ。

「数が多い上に、季節ごとのキャンペーンなどクイックに作らなければならないマニュアルもあります。これをひとつひとつ外注していると、コスト面でも時間の面でもとても追いつきません。そこで、各ブランドごとに動画マニュアルを内製していこうという話になり、私が統括するセールスサポートチームがそれを担当することになったんです」

元々セールスサポートはグラフィックデザインなどを行うチームで、ポスターやポップなどの個店販促物や屋外広告物などのデザインを担当していた。当然ながら使用ツールはIllustratorとPhotoshopがメインで、動画制作を専門的に行なっていた人はおらず、体制作りが必要だった。

「まずは誰かにコンサルティングをしてもらおう、ということになりました。そこで以前、社員啓発のためのマニュアルDVDを制作してもらっていた株式会社LOCUSさんに相談することにしたんです」

LOCUSは、動画制作のほか、動画を使ったPRやクリエイターのアサインなど、動画回りのコンサルティングに長けた企業だ。また、動画の内製化のコンサルティング事業も行なっている。

LOCUSでは、すかいらーくへのヒアリングを実施。安藤さんのチームの状況と、マニュアル作成という目的を踏まえてコンサルティングし、通常業務を行いながらの9日間に及ぶ研修プログラムを組んだ。

「チームのうち、私を含む4名が研修に参加しました。家庭用カメラを使っていた程度の知識しかありませんでしたから、業務用カメラの使い方を一から習いました。動画マニュアルの作成が目的だったので、座学のほかに、実際の店舗でも撮影指導を行なってもらいました」

研修は「撮影」のほか、「ディレクション」「編集」を柱として、屋内外での撮影、インタビュー撮影といった必要なシチュエーションに合わせた内容で実施された。

4名が研修を受けて始まった動画の内製だが、動画マニュアルの作成目標は1年間で700本と大量の本数だった。チームにはグラフィックデザイナーが7名いたが、新規に動画制作チーム7名を増強した。こちらはいずれも動画編集の経験者だ。ただし、ロゴやタイトルの制作など、動画編集にもグラフィックデザインの要素があるため、ゆくゆくはグラフィックデザイナーも動画編集に加わってもらう予定だという。

 

◉マニュアル動画からSNSの投稿コンテンツまで制作

トレーニングのための動画マニュアルの制作を始めてみると、内製化のメリットは大きかったことがわかったという。例えば、ミスが起こりやすい場面の注意喚起の動画を作りたいと思っても、実際の店舗で生きた情報を拾ってくる必要がある。そのためには、社内でのリサーチや情報交換が最もスムーズだ。また、社内に気軽に相談できる動画作成チームが発足したことで、Web広告や店舗ごとのSNS用動画、広報用の動画などの相談の舞い込み、他部署の潜在的なニーズが掘り起こされることとなった。

動画マニュアル(社内トレーニング用)

店舗案内動画(Web広告用)

広報/CSR用動画(Webサイト用)

 

◉7名の動画制作チームを新設

動画研修の後にチーム体制を増強して、新たに7名の動画経験者が加わった。ソフトはAdobe Premiere Pro CCを使用する。また動画におけるBGMの重要性を知り、著作権と選定の自由度をクリアするため、DAWを導入。Studio Oneを使っての作曲も開始した。

◉動画制作のための集中トレーニングを実施

内製化を実施する以前は初心者レベルの知識しかなかったため、専門のコンサルタントによる動画制作の研修プログラムを受講。自社の体制や目的に合わせた内容で、自分たちで実践することを前提に実施したことで、内製化が可能なレベルに至った。

◉小型業務用カメラ3台を軸に機材を準備

【カメラ】ソニーHXR-NX80/キヤノンEOS 6D/GoPro Fusion

 

【マイク】ソニーECM-MS2(ステレオマイク)×3本/ソニーUWP-D11(ワイヤレスマイク)×2セット

 

【三脚】リーベックTH-X/マンフロットMVH500AH(雲台)+MVT535AQ(三脚)/マンフロットMTPIXI-B(ミニ三脚)/リーベックDL-2RB(ドリー)

 

【照明】NEEWER CN-160×2台/マンフロットLumi muse×2台

 

【編集機材】マウスコンピューターDA IV-DGZ520H5-SH5(パソコン)/Adobe Creative Cloud(編集・ロゴ制作など)/PreSonus Studio One(DAW)

 

動画制作チームの発足が潜在ニーズを掘り起こす

こうして動画マニュアル作成のために編成されたチームだったが、社内に動画作成部門ができてみると、社内の他部署から動画作成の相談が舞い込むようになったという。

「各店舗の案内の動画であったり、Web広告用の短めの動画など、広告代理店に発注すると、価格が見合わなかったり、時間がかかりすぎたりする動画の制作依頼が、社内から来るようになりました。こういうチームができたということを社内にPRしている最中なのですが、やはり声をかけやすいのが大きいようです。これまでは自前のカメラで撮影していた店舗ごとのSNS投稿用の動画など、外注するほどではないけれどきちんと作りたいという動画の相談が多いです」

社内に動画作成チームができたことにより、潜在的な動画のニーズも掘り起こされた格好だ。

▲ 他部署からの依頼も集まってきた。広報チームの北浦麻衣さん(右)によれば、ホームページ掲載用や、社員への告知など、広報からも動画の案件が多数出てきたという。

現在、動画制作チームでは、店舗のマネジャーやリーダークルーに積極的に動画マニュアルを見てもらうための動画を構想中だという。

「内容はこれから詰める段階ですが、動画マニュアルを重視していないマネジャーが登場するストーリー仕立ての動画を考えていて、シナリオを練っている最中です」

すかいらーくのインハウス動画制作は、社内向けのソリューションツールとして確実に根付き始めているようだ。

 

動画の内製化専門のコンサルティング
「インハウスビデオ」株式会社LOCUS

LOCUSは、動画を使った広告やPRのコンサルティング、クリエイターのアサインを通じた動画制作などを行なっている。そして、同社の注目の新事業が、動画内製化コンサルティング「インハウスビデオ」だ。LOCUSがこれまでに培ってきた動画制作のノウハウを生かして、企業のニーズや環境に合わせたインハウスでの動画制作環境を構築するサービスで、すかいらーくグループも同社の研修プログラムを受けて内製化を実現している。瀧 良太代表取締役は、企業での動画の内製化のニーズを肌で感じているという。

「リクルーティングやネット広告のほか、SNS投稿などの手軽なもの、社内教育やマニュアルなどの社内向けのものと、動画の用途が広がっています。それに伴い『よりクイックに動画を仕上げたい』『SNS用や社内向け動画まで外注すると、コストと時間がかかりすぎる』といった、次の段階の要望が出てきました」

▲ 動画コンサルティング担当の森田 明さん。内製化には、各企業に合わせた個別の研修が必要だと語る。 https://www.locus-inc.co.jp

コンサルティングを担当した同社の森田 明さんによれば、一方通行の講義だけでは、インハウスでの動画部門の設立は難しいという。

「人数や社内の体制、個々人の知識やスキル、求めている制作レベルなどによって、必要なサポートは異なります。インハウスビデオでは、ニーズに合わせてカリキュラムを組み、数日間の研修を行います。実際の現場で撮影し、必要な技術をアドバイスしたり、現場で生じる疑問に答えたりと、相互のやり取りがあって初めて内製化につながります」

アフターケアの部分も重要だ。

「研修後も、新体制で業務を回せているかどうか何度も確認し、必要があれば、クリエイターのアサインも行う体制でフォローしています」

▲ 店舗で研修を行う森田さん。業務用カメラの使い方を始め、場面ごとの撮影のコツや周辺機器の効果的な使い方など、初心者向けに事細かく説明していく。
▲ 座学では、カメラマン、エディター、ディレクターという役目の必要性、および業務内容と持つべきスキルの解説のほか、クライアント企業の体制に合わせた現時点での組織作りの提案にも及ぶ。

 

●この記事はビデオSALON2018年9月号からの転載です