社員総会の記録や広報活動など、社内案件の動画制作に携わるインハウス動画クリエイター。実際の現場ではどんな課題が発生し、どうやって解決しているのか。GMOインターネットグループで動画制作に携わる嶋田史朗氏に、日々起きている社内動画制作にまつわるエピソードを綴ってもらう。

嶋田史朗

GMOインターネット株式会社グループコミュニケーション部 クリエイティブチーム映像ディレクター。2011年入社。モバイルゲームのプロモーション映像の制作を担当後、現職。現在はグループに関わるのPR映像や社内イベント映像などを手がける。

 

社内の出来事を動画で社員全員に伝える

私はインハウス映像クリエイターとして、IT企業であるGMOインターネットグループ(以下「GMO」)で働いている。仕事の範囲は、企業ブランディングやインナーコミュニケーションの分野のほか、採用や商材に関わる映像制作が主だが、決まった映像ジャンルはない。

業務のひとつに「社員総会で上映する動画コンテンツ制作」がある。年に4回行われる社員総会「グループ全体ミーティング」で、会社の状況をニュース風に伝える動画だ。

「トピックス動画」と呼ばれているこの仕事では、撮影した記録映像のダイジェスト、サービス説明のためのデザイン、ナレーション収録など完パケまでの作業はもちろん、当日の動画出しも行う。注目度も高く、社員からのフィードバックも多い。

 

広報チームが取り仕切る「グループ全体ミーティング」

グループ全体ミーティングは、業績や商材情報などグループ全体の動向をパートナー(GMOでは社員をパートナーと呼ぶ)共有するため、グループ114社、総勢約6000名が集うGMOを象徴するイベントだ。

特に本社を構える渋谷では、今年の1月まで、約3000名を大ホールに集める大集会を催していた。以前から『同じ場所に集うこと』を社内コミュニケーションの要とする当社代表の考えから、ビデオ会議やライブ配信が発達したここ数年においても、このスタイルが貫かれてきた。

会場設営や外部イベント会社への委託などコストもかけており、イベントとしての規模も大きい。しかし、開催時間は1時間強と決して長いわけではなく、社員に対してどんなコンテンツを用意するのか、運営は毎度頭を悩ませている。

運営は、私も所属しているグループコミュニケーション部が取り仕切る。中でもグループの動向に精通している広報チームがその中核だ。主なコンテンツは、社訓の唱和、業績の共有、当社代表のスピーチ、そして冒頭で話した情報共有コンテンツ「トピックス動画」だ。

 

グループ全体ミーティング

▲GMOでは、定期的に開催される社員総会「グループ全体ミーティング」の様子。グループ114社、総勢6,000名が集まるイベントだ。

▲グループ全体ミーティングは広報チームが中心となって取り仕切る。熊谷正寿代表のスピーチのほか、社内の情報を共有するためのトピック動画が上映される。

 

 

以前のトピックス動画には社員の不満が集まる

2012年、私は当時は一参加者として会場にいた。トピックス動画も単に上映を観る側であったが、当時の率直な感想は、「専門外の誰かが、片手間で頑張って作ってるんだろうな」というものだった。

爆音で始まるBGM、表示尺のリズムにバラつきがあるテロップ、解像度の足りてない写真やロゴ素材、ノイズが多く聞き取りにくいナレーション…。時折、頑張りを感じる手の込んだモーションエフェクトが差し込まれたかと思えば、後半につれて力尽きたかのように編集点が曖昧になり、最後はBGMがブツ切りで終わる。

「社内利用であることを考えれば、そこまで気合の入った動画を用意しなくてもいい」と個人的には思うが、当時のトピックス動画は、見える、聞こえるという最低限のところがまだ満たされていない印象だった。

あとで知ったことだが、事後に取るアンケートの反応も動画の作りに関する物が多かった。「早く動く動画は苦手で、気分が悪くなってしまう」「音が割れていた」「どうせ流すならもうちょっとがんばってほしい」といった具合だ。

 

運営に参加して見えてきた怒濤の制作現場

2015年、トピックス動画の担当として、私にも運営から招集がかかった。前述の課題に取り組む初仕事。しかし、初っぱなからそのスピード感に面食らった。

トピックスの構成は広報チームが行う。GMOから発信されたサービスや商材のプレスリリースをベースにシナリオが組まれ、ストレートニュース程度のボリュームに再構成し、絵素材も広報チームが各所と連携して取り寄せる。この工程は大変な作業だ。数多あるグループ会社から複数の商材が日々リリースされており、情報をまとめるだけでも気が遠くなるというのに、私が呼ばれるまでは大量の素材を広報マネージャー自身が編集していた。さらに、トピックスを含む全コンテンツに役員が直接目を通すため、修正も多い。通常の広報業務と並行して、この仕事量である。情報の整理だけで精一杯なはずで、動画制作の細かなポイントにまで気が回らないのは当然だ。

そこに合流した私の手元に届く原稿や素材はまさに五月雨そのもので、「今見られる?」と役員確認が入るスピード感。情報整理の時間を取れず、指示や修正を都度反映する画面上のタイムラインだけが唯一のよりどころという心細い状況のまま、何とか上映にこぎ着け、初めての運営参加は嵐のように過ぎ去っていった……。

 

クオリティーを安定させるためのフロー作りから開始

2016年には現部署に移動となり、運営に本格参加することとなった。最初に意識したのは、前述のような動画のクオリティーのムラをなくすこと。構成をまとめる広報チームと制作業務を切り離し、制作業務は私のほうで進行できるようにし、スケジュール感に対応できるよう制作工程を効率化することだった。

業務の切り離しはシンプルだったが、素材の状態があまり良くない場合には私もやり取りに入り、動画内の紹介意図や画面構成を説明しながら、できるだけ状態の良いファイルを提供してもらえるように工夫した。この過程が改善されるだけでも、大きな収穫だ。

「素材集め」は、どの現場でも大変な思いをしているだろう。ファイル形式ひとつとってみても説明が難しい。素材のイメージを伝える作業も大切だが、一方で担当者への聞き込みから“より良いデータを持ってそうな人”を探すこともある。まるで社内探偵のような気分だ。

工程の効率化においては、私の中で次のような方針を持つことにした。

・ 記録撮影には可能な限り出向いて素材を確保
・ 720pで制作(上映で1080pにアップスケール)
・ 編集はPremiere Pro。Dynamic LinkでAfter Effectsを併用して一部をモーション化
・ 仮ナレーション導入で確認タイミングを早める
・ ロゴデータなどをライブラリ化

また、いつも迷うのが「Premiere Proだけでいけるか、After Effectsも使うか」という選択だ。そこに「社内だし」「共有プロジェクトじゃないし」「でも大勢が見るし」などの葛藤が絡んでくると、なおのこと面倒だ。

結論として私の進め方は、Pre miere Proに素材を一気に並べてしまい、仮のナレーションを用意して声合わせで素材ごとの尺を整え、インアウトのディテールを決める段階でAfter Effectsに送るか否かをパート別に判断するというものだ。

720pでの制作は、作業の軽減を考えてのことでもあるが、素材の解像度がフルHDに到底足りてないという事態も起こるので、スケールのバランスを取りやすい解像度という点も重要だ。また、最後はスクリーン上映で画面と視聴者の距離も遠くなるため、あまり気にならない。同時にスクリーン上映を考慮し、文字の数やサイズも大きめにしたり、テロップフォローの文言も書き換えている。修正なども想定されるためレイアウトはかなりラフだ。ここはインハウスゆえに甘えてもいい部分だと判断した。

 

社員総会で流すトピック動画


▲トピック動画の制作は、社内のさまざまな部署から素材を集めて編集することになる。そのため、スケールバランスの取りやすい720pで制作する。

 

 

インハウスの特徴を生かす独自のフローを用意

以前は話題の切り替わりが不明瞭な印象があった。そこでニュース番組を参考に各トピックの頭に数秒の扉絵と効果音を追加。話題の切り替わりが直感的にわかるように配慮した。ほかにも、取り上げられる各社、各担当者自身の心情を考え、トピックごとに映像的な濃度にムラが出ないようにしたい狙いもあった。後は作ったものを広報チームに見てもらいながらシナリオ構成と動画構成を擦り合わせ、ブラッシュアップを重ねた。

また、動画の始めと終わりには特に気を使った。フェードイン・アウトは極力使わず、画はBGMの鳴りでドンと始まって、BGM終わりでジャンと黒になって終わる。曲終わりも動画終わりと合うように編集する。これは当たり前の作業だろうが、手を抜きたいポイントにもなり得る。しかし、尻切れを良くすることで、動画が終わった後に会場内で漂う「あれ、これって終わったの?」という空気をなくし、サッと次のコンテンツへ気持ちを切り替えられるようにした。

このようにフローの見直しでは、インハウスでの制作という特徴を生かすようにした。最初に動画の構成や枠組みを決めるという型通りな映像制作的なやり方に押し込んでメンバーの納得感がないまま進めるのではなく、試行錯誤の中で共に「良い形」を探り当てていくことで、連携が強固になり、全体ミーティング以外の映像業務でも信頼感を持って進められるようになったと感じている。

扉絵を付けてメリハリを出す


▲複数のトピックを扱うので話題の切り替えでは扉絵と効果音を入れ、エンディングではBGMにタイミングを合わせで終了するといった基本的な仕様を取り入れた。ひと手間かかるが効果的なので、社内向けの動画でも取り入れたい。

 

 

社員が親近感を持てる社員総会にするための工夫

何とか安定したクオリティーのものを上映できるようになってくると、次に考えたいのは、観客である社員の関心を引き付けGMOインターネットグループ全体の動向を理解してもらうための仕掛けだ。

そのひとつが、その場で作ったエンドロール。運営メンバーに事前の準備班だけでなく、グループ各社から会場設営や誘導として参加している社員も大勢いる。「全体ミーティングは社員総出で作っている」ということが伝わればと、会場で撮影した写真をノートPCでその場でスライドショーに仕上げ、メンバーの名前をスクロールさせて簡単なエンドロールとして流してみた。

会場からは「え、エンドロールあるの?」などの声が聞こえ、「運営に参加された方々の名前が見られるのは良いですね」などのアンケートも寄せられた。チャレンジ的な取り組みで毎回できるものではないが、社員に興味を持ってもらうための仕掛けとしては効果があった。

さらに2019年には、動画制作の範囲でも社員が関われる枠を作りたいと考え、社内でナレーターを公募してみた。「ナレーターオーディション」と題してイントラネットに募集フォームを設置したところ、やりたいと手を挙げた社員が15名も集まった。実はあまり期待していなかったので、私も驚いた。全員に担当してほしかったが、全体ミーティングに相応しい声を選ぶという方針のもと、サンプルボイス動画を作成して運営メンバーで試聴・投票するという厳正な選考を行なった。そして、合格メンバーには実際のトピックス動画のナレーターを務めてもらった。

こちらにも参加者から良い反応が得られ「ナレーターの声がとても聞き取りやすい。今後もグループ全体でこの会を作っていけるといいと感じた」とありがたい声が届いた。

 

社員が親近感を持てる工夫


▲現場で即席で作ったスライドショーに合わせて流したエンドロール。社員に「自分も参加している」と感じてもらう工夫を取り入れるようにした。グループ内でナレーターオーディションも行い、ナレーションにも参加してもらった。

 

 

コロナ禍における新しい社員総会にトライ

2020年1月末、新型コロナウイルス感染症対策として、GMOはいち早く在宅勤務体制を取った。4月開催予定の全体ミーティングは中止。7月の回はZoomビデオウェビナーを活用した数千人規模のオンライン開催へと舵を切ることになった。

ただし、Zoom上での動画の共有ではコマ落ちや音ズレが起こりやすい。これまでの動きのあるハイテンポなトピックスでは意図したとおりの見栄えにならない。そこで、今回は広報チームにパワーポイント資料にまで仕上げてもらい、そのスライドにナレーションとBGMを追加する簡素な表現に留めることにした。これならコマ落ちが発生しても視聴者のストレスにならないと考えたからだ。

結果、アンケートでは「動画がカクカクしないようになっている点が素晴らしい」と理解を示してくれる声もあった。「明るい感じのトーンで会社のさまざまな情報が聞けて、テンションも上がるので良かったと思います」と、この情勢下で会社の動向を知ることができた安心感を率直に書いてくる社員もいた。もちろん、移動を伴わないオンライン開催に対してのポジティブな感想も多かった。

しかし、視聴環境によっては「音が途切れた」「映像が止まってしまった」など、オンラインイベント特有の問題も出てきている。一部では実写映像を配信したのだが、視聴しづらいという声も多数届いた。この業務の形をようやく確立できたと思っていたが、新型コロナウイルスに半分崩されたような気分だ。

しかし、目的は変わらない。今回も「もっと一体感を感じらる仕組みが欲しい」との声がある。今後は、デジタルを活用した新しい全体ミーティングを創っていくという課題に取り組むことになりそうだ。

 

社員総会をZoomビデオウェビナーで実施

オンライン総会は、会議室にベーススタジオを設営して実施。人数を抑えるため設備も最低限に抑えた。登壇者を映すのは一般的なWebカメラ、音声は会議室のPA設備をそのまま使用し、カメラマンが必要な業務用カメラなどは使用していない。3台のWebカメラの前を登壇者が順次入れ替わっていく方法を採ることで、スムーズな場面転換を図った。動画コンテンツはZoomの画面共有機能を使用。1画面では操作が難しいため、外部モニターで再生し、モニター画面全体を共有する方法で配信した。ウェビナー参加者は約4000名。


 

 

VIDEOSALON 2020年9月号より転載