映画祭と人。Vol.10『シッチェス・カタロニア 国際映画祭と映画監督 ヤング ポール』


ヤング ポール

1985年生まれ、栃木県出身。アメリカ人の父、日本人の母を持つ。東京藝術大学大学院修了制作作品『真夜中の羊』で国際映画祭に初参加し、レインダンス国際映画祭による「今注目すべき7人の日本人インディペンデント映画監督」のひとりに選出される。2012年の「スイッチガール!!2」で商業デビューした。

01 スペインの“熱海”!?ジャンル映画の祭典
「各国のフィルムメーカーたちが『帰りなくない…』と口をそろえていました」

—— 前号のインタビューで、『ゴーストマスター』を制作するにあたって「シッチェス・カタロニア国際映画祭」(以下、シッチェス映画祭)は意識していたとのことでしたが、実際に現地に行ってみていかがでしたか?

『ゴーストマスター』がワールドプレミア上映された「ブリュッセル・ファンタスティック国際映画祭」(ポルト国際映画祭・シッチェス映画祭と並び世界三大ファンタスティック国際映画祭のひとつ)とは、また違った熱量がありました。ブリュッセルは“世界で最もクレイジーな映画祭”と言われるだけあって、お客さんが盛り上がるために来ている、どこかフェスのようなノリを感じたんですけど、シッチェス映画祭はもっと映画寄り。街のいたるところに、ゴリラ(映画祭のシンボルマーク)のロゴ入りのフラッグが貼られていたり、深夜上映でも映画を観る行列が絶えなかったり…。シッチェスという街に根づくカルチャー、映画と街が一体化している印象を受けました。

 

—— シッチェス映画祭での『ゴーストマスター』の出品部門も深夜上映の枠ですよね。

エクストリームな映画を深夜1時から朝8時までぶっ続けで上映する「Midnight X-Treme部門」の中の、日本映画を集めた“Japanese Madness”というコーナーで上映されました。ほかの日本映画は『シグナル100』『血を吸う粘土〜派生』『翔んで埼玉』が出品されて、僕は『シグナル100』の竹葉リサ監督と一緒に舞台挨拶に立ちました。ゴリラのポーズで登壇したら、客席からも「ウォ〜!」とリアクションが(笑)。そこはやっぱりファンタ系の映画祭だけあって、抜群のコール&レスポンスでしたね。深夜上映にも関わらず、ウェルカム感がハンパなくて、ジャンル映画とその作り手たちへの敬意は自然と感じられたし、拍手や歓声には素直にグッとくるものがありました。

▲Midnight X-Treme部門」の“Japanese Madness”の上映舞台挨拶で一緒に登壇した『シグナル100』の竹葉リサ監督と一緒に記念撮影。

▲壇上でシッチェス映画祭のシンボルマークになっているゴリラのポーズを決めたヤング ポール監督。シッチェスの観客たちに大ウケ!

▲1回目の上映が行われた街の中心地にある劇場・RETIROにて。深夜にも関わらず長い行列ができ、観客の熱量の高さを改めて実感したそう。

 

—— どのような会場で上映されたのでしょうか?

映画祭の会場は、街の中にある「Retiro」と「Cine Prado」というふたつのレトロな劇場と、メイン会場となった「メリア・シッチェス」というホテルの中にあるふたつのホールの4カ所。『ゴーストマスター』の上映は、1回目が「Retiro」で、それ以降は「メリア・シッチェス」内のホールで上映されました。映画館規模でいうとTOHOシネマズ 新宿の中ぐらいのシアターほどの大きさでした。僕も含めて、招待された監督たちは、ほとんどこの「メリア・シッチェス」に宿泊していたんじゃないかと思います。

▲「メリア・シッチェス」内にあるシッチェス映画祭のメインホール。『ゴーストマスター』の上映はここではなかったが、監督も会場の雰囲気を味わった。

 

—— ホテルと上映会場が同じというのは便利ですね。

僕の場合、現地着が10月9日で、14日まで滞在していたんですが、宿泊した「メリア・シッチェス」は部屋もきれいで快適でしたね。空港やホテル・会場までの送迎といったアテンドももちろん付いてるんですが、そもそも、シッチェスはこぢんまりした港町で、会場との行き来も徒歩圏内なんです。僕自身、いったんバルセロナで1泊してからシッチェス入りしたんですが、バルセロナからは電車でたったの30分程度。現地ではバルセロナ旅行のついでに気軽に行けるリゾート地として人気があるようで、日本でいうと“熱海”のような感覚かもしれないです。映画祭の開催時期がシーズンオフに入った10月だったということもあって、それほど混雑していなかったからかもしれませんが、街の雰囲気もゆったりとしていて開放的な印象です。日が暮れて、夜風にあたりながら海沿いの遊歩道を歩いていると、右手にはおしゃれな石造りの建物が並び、左手には月明かりに照らされた海…もう最高でしたよ。日本人ゲストはもちろん、各国のフィルムメーカーたちが、口をそろえて「もう帰りたくない」って言ってましたから。もちろん僕も同じように「日常に戻りたくない!」と思ったひとりで、そう思わせるだけの魅力が、シッチェスという街にはあったような気がします。

 

02 ディレクターの言葉に“映画祭の価値”を感じた
「女性ディレクターの言葉には選んだ作品への責任の重みを感じました」

—— 『ゴーストマスター』の反響はいかがでしたか?

じつは、映画祭のセレクション作品として上映が1回増えたんです。これは、全150本の上映作品の中から“最終日に上映するのにふさわしい作品”として映画祭側が選んだものなんですが、光栄なことだとポジティブに捉えてます。それに、映画祭の公式レビューも、「ゴア表現はクラシックだけど新しさもある。アメリカンホラーのテイストと、日本の漫画やアニメ的な表現がミックスされた面白さ」といった内容のことを書いてくれて。すべての作品にレビューが出るわけではないので、素直に嬉しいなと。

 

—— 副ディレクターのマイク・ホステンも、「超自然とグロテスクを見事に融合した強烈な映像体験」と絶賛のコメントを出していましたね。

マイクは今回でシッチェス映画祭を離れるそうで、自身にとってのメモリアルイヤーだったみたいで。もちろんマイクとも現地で話したんですが、個人的にとても親身になって話してくれたのは、グロリア・フェルナンデスという女性のディレクターでした。もちろん作品を選出してくれたなりの評価の言葉も聞けたんですが、僕が一番聞きたかったのは、むしろ今後への“課題”。歴史ある映画祭に深く携わるディレクターから、作品の率直な感想と彼女から見た課題を自ら突っ込んで質問していきましたね。

▲ヤング ポール監督に、厳しくも温かい提言をしてくれたグロリア・フェルナンデスとの2ショット。映画祭は人との出会いが何よりの収穫かもしれない。

 

—— 具体的にはどういった言葉だったのでしょうか?

例えば、『ゴーストマスター』はゴア表現が非常に面白いし、観客にもウケているけれど、それで突き詰めていくと、観る対象が限定的になりすぎてしまうかもしれない、と。もし、僕がより多くの人に観てもらいたいと思っているなら、ゴア表現とストーリーのバランスはもっと考えてみてもいいんじゃないか…というようなことです。グロリアが、「『ゴーストマスター』には、エクストリームな表現性と普遍的なストーリー性の両方の可能性がある」と言ってくれたんです。特に僕が若手監督だからそういう言葉をかけてくれたのかもしれないけど、彼女の言葉には、自分が選んだ作品とその監督へのある種の責任を感じました。選んだ監督たちが、また次により良い作品を作り続けていくために“育てる”という意識があるんじゃないかなと」

 

—— シッチェス映画祭での最大の収穫は何でしょうか?

グロリアのような立場の人と、直接話さないと分からないことが聞けたのは良かったですね。作品をピックしている側の人の言葉だなとしみじみ感じました。それに、コンペティション作品とか、いわゆる映画祭で評価される作品に触れて、監督として自分は今後どうあるべきか…そんなことをベース(=東京)とは離れたところで考えるということが、非常に刺激になりました。

 

 

ジャンル映画をとことん楽しむオープンな気風

毎年10月、ジャンル映画の祭典「シッチェス・カタロニア国際映画祭」が開催されるスペイン有数のリゾート地・シッチェス。映画祭期間中、美しいビーチ沿いに、血しぶきがプリントされた映画グッズの露店がズラリ。街行く人のファッションが「誇張抜きで映画Tシャツ率が6割以上だった」というヤング ポール監督の証言通り、ジャンル映画愛にあふれた人種で賑わうのが通例だ。イベントの一環として、子どもによる映画工作コンテストも開催されているが、その出品作として“残虐に殺された人形”が堂々(!?)と展示。監督の目には「むしろ健全」に映ったそうで、“何事も受け入れる”懐深いシッチェスの気風が大好きになったという。


 

 

開放感にあふれた地中海を臨む絶景ビーチ

坂上の駅から路地裏の石畳を抜けた先に広がる、地中海を臨むビーチがシッチェス最大の特徴。監督曰く「熱海のような規模感の観光地」とのことで、2km以上続くビーチ沿いの遊歩道は開放感たっぷり! シーズンオフに入る映画祭会期の10月は、それほどの人混みではないものの、散策にも最適なロケーションとあって、思い思いにビーチを満喫する姿が見られたそう。また、シッチェスはLGBTの街という側面もあり、毎年6月には大規模な“プライド・パレード”も行われている。街中にLGBTのシンボルであるレインボーフラッグがはためき、トップレス状態のカップルたちや、ヌーディストビーチで日光浴を楽しむ姿も、シッチェスでは当たり前の風景だ。


 

 

海辺のレストランで味わうシーフード料理

年間を通して晴天の日が続くという気候のせいか、海沿いのレストランのテラス席は大人気。映画祭では、ゲストへのホスピタリティのひとつとして、指定のレストランで使用できる“フードチケット”が渡されたそうで、ヤング ポール監督も、マリーナを臨むガラス張りのレストランなどで利用。グリルしたタコの足が豪快に乗った一品など、現地のシーフードを堪能したようだ。ほかにも、映画祭会場にはフードトラックが集結したコーナーがあり、鉄板の上で焼き上げられた巨大肉のグリルや、鑑賞の合間に手軽に楽しめるファストフードなど、豊富なメニューが揃っていたという。


 

Information

シッチェス・カタロニア 国際映画祭とは?

スペイン・バルセロナ近郊のシッチェスにて毎年10月に開催。1968年に始まった同祭は、ジャンル映画に特化した「世界三大ファンタスティック映画祭」に数えられ、国際映画製作者連盟(FIAPF)公認の国際映画祭として認知されている。第52回は、実写作品も含めたセレクションから最高峰を選出する長編コンペ部門に『空の青さを知る人よ』ほか、日本のアニメ作品が多数選出された。

第52回シッチェス・カタロニア国際映画祭
開催日程:2019年10月3日〜10月13日
https://sitgesfilmfestival.com

『ゴーストマスター』

[監][脚]ヤング ポール
[脚]楠野一郎
[撮]戸田義久
[照]中村晋平
[編]洲崎千恵子
[出]三浦貴大、成海璃子 ほか

12月6日(金)公開

ヤング ポール監督の劇場長編デビューとなるホラーコメディ。B級ホラー好きの助監督が書いた脚本に悪霊が宿り、地獄絵図と化す“壁ドン”映画の撮影現場を描く。シネマカリテほかにて全国順次ロードショー。
[2019年/日本/カラー/DCP/アメリカンビスタ/90分]
http://ghostmaster.jp/

 

 

ビデオSALON2019年12月号より転載