高い評価を受ける三浦さんのカラー。どのように作り出しているのだろうか。

取材・文●編集部 片柳、村松美紀  

PROFILE
映像作家。2015年に日本大学芸術学部を卒業したのち、複数の制作会社勤務を経て独立。MVやライブ映像制作など活躍の幅を広げる。色味にこだわることで独自の世界観を生み出す。

 

 

三浦エント’s PROJECT introduction

自分が作った映像の中で唯一「完成した」と思えた作品

遠泳』MV

2006年生まれのボカロP・皆川溺の両A面シングル 『遠泳/銀色のQ体』のリード曲『遠泳』MV。ボーカロイド楽曲のMVは二次元アニメーションが多いなかで、あえて、アニメ原作の実写映画のような表現に挑戦した作品。制服の少女と古いPCが印象的な本作。曲を聴いたファーストインプレッションの画と構想を企画書に落とし込み撮影。使用機材は、LUMIX S1とFX3。

 

これまで自分が作った映像の中で唯一「完成した」と思えた作品です。現時点でやりたいことを集約できました。まず色ですが、ボーカロイドと実写、つまり「非現実と現実世界」の交差を表現すべく、現実とはまた違った、変に気持ち悪いくらいの鮮やかな晴天を意識。16才のボカロP皆川溺さんから見えているであろう鬱屈とした世界の色と質感を想像して再構築しました。画角については、16歳の頃の自分は、16:9ほど広い視野を持っていなかった感覚を思い出し、このくらい狭かったと思える画角までクロップしました。

機材にLUMIX S1を選んだ理由はとにかく色が好きだから。今回のMVもそうですが とにかく色味が最重要だと思う作品の撮影はS1のV-logで撮影しています。レンズはEFレンズの他にNikkorのオールドレンズを使うことも多いです。ジンバルを使うときは、FX3にFEレンズを装着してオートフォーカスで撮っています。また『遠泳』では建造物の巨大感や奇妙で不気味な歪みを出すために12mmの広角レンズも使いました。

 

 

尾崎リノ『部屋と地球儀』MV

初MV作品。「この色はまさに普段見えてるすごく綺麗な日常の色。カラーボードをカチャカチャ動かしてスッとその色に なった時すごく安心しました」と三浦さん。

 

 

◆三浦エントとはどんなクリエイター?

「映画やドラマや音楽も何も知らなかった」18歳頃まで、映像に興味がなかったという三浦さん。ただ、心に秘めた鬱屈とした気持ちや怒りを表現したいという想いがあり、日本大学芸術学部に進学。在学中に初めて制作した作品は、中国とインドを舞台にしたドキュメンタリー。それが日芸賞を受賞し、「自分には何もないと思っていましたが、映像があると思えた瞬間かもしれません」と当時を振り返った。

卒業後、いくつかの映像制作会社を経て26歳のときに独立。シンガーソングライターの尾崎リノさんと出会い、初めて撮ったMV『部屋と地球儀』が大きな反響を呼び、自身2作目のCRYAMY『月面旅行』はYouTubeで47万回再生(23年1月現在)を突破。ノスタルジーを感じる質感や色合いが評価され、多くのアーティストからオファーが舞い込んだ。

特に高い評価を受けているのが、三浦さんのカラー。普段見ている美しい色味に近づけることを意識し、「Log撮影した映像にRec.709に戻すLUTをあてたりはしますが、そのあとは自分の目と記憶で覚えている、一番良い色に戻すという感覚です」と自身の感覚を頼りに色調整を行なっている。使用ソフトはFinal Cut Pro Xで、スタンダードな機能であるカラーボードのみで作業しているそうだ。

また映像の質感は「ノイズっぽくする時もあればクリアな時もありますが、気に入っているのはちょっとピントがぼやけたような、ローファイすぎないけど懐かしい夢のような質感。具体的にはブラー(方向)エフェクトを入れると近くなります」と明かした。

主にソニー機を使っている三浦さん。「RED KOMODO 6Kで撮った映像にも魅力を感じているので、今年は自分でもKOMODOを使ってカラーコレクションしてみたい」と興味を示す。今後の目標としては、ひとりで撮影と編集をこなしているMV制作を、「今後はチームを組み、予算規模の大きな映像に携わりたい」と明かした。

 

 

主な機材・ツール

MacBook Pro 1台ですべての作業を行う。

 

 

 

●VIDEO SALON 2023年3月号より転載