第5回「各プラットフォームが対応を始めている360°ライブ配信事情について」
写真・文●染瀬直人

写真家、映像作家、360度VRコンテンツ・クリエイター。日本大学芸術学部写真学科卒。360度作品や、シネマグラフ、タイムラプス、ギガピクセルイメー ジ作品を発表。VR未来塾を主宰し、360度動画の制作ワークショップなどを開催。Kolor GoPro社認定エキスパート・Autopano Video Pro公認トレーナーYouTube Space Tokyo 360度VR動画インストラクター。http://www.naotosomese.com/

※この連載はビデオSALON2017年3月号より転載

各プラットフォームが360°ライブ配信に対応を開始

360°のライブ配信への関心が高まっています。YouTubeは昨年4月に360°ライブ配信動画と空間音声(spatial audio)に対応しました。世界最大級の米の野外音楽フェスである「Coachella Valley Music and Arts Annual Festival」の360°ライブ配信で、初披露されています。既に一昨年の3月から360°動画の投稿とインタラクティブな視聴はサポートされていましたが、それを生中継でも可能にしたわけです(11月には4Kまでサポート)。このライブ配信のプラットフォームの実現には私も親交があるフランスの360°動画のソフトウェア・メーカーVideoStitch社が協力しています。

▲YouTubeは昨年4月に音楽フェス「Coachella」をVRライブ配信。

一方、Facebookも昨年12月に360°ライブ動画の機能「Live360」を実装、その最初の配信はナショナル ジオグラフィックの協力で米ユタ州のMars Desert Research Stationから導入されました。先日のトランプ大統領の就任式なども360°配信されたので、ご覧になった方もいらっしゃるかと思います。その際の配信用カメラは特別にチューニングされた「Nikon KeyMission360」(現行発売品では不可)でした。当初は「Live360」の投稿はデモ的に一部でしか行われていませんでしたが、この3月29日にすべてのユーザーが全面的に利用できる仕様になりました。対応しているVRカメラは先日発表されたばかりのサムスンの新機種「Gear 360(2017)」や「Insta360 」(iPhone用のNano、Androidに挿して使用するAir、プロ向けに発売予定のPro)、「ALLie Camera」、「Giroptic IO」、「Z CAM S1」「Nokia OZO」で、今後も追加されていく見込みです。

▲Facebookは昨年12月に360°VRライブ配信機能「Live360」を実装。

▲4月に発売予定のInsta 360 Pro。Insta360シリーズも3月30日に、Facebook Liveへの対応を発表した。
また、Twitter社がリリースしているライブ配信アプリPeriscopeも、昨年12月から一部で実験的に360°ライブ配信を行なっており、まだ一般のユーザーは視聴のみとなっていますが、こちらも将来的には誰もが配信を行えるようになる予定です。現在は希望者にウェイティングリストへの登録を受けつけている状況です。

SNSが360°ライブ配信に参入する背景

このように相次いでソーシャルネットワークが360°ライブ配信に進出している背景には、ユーザーの視聴の長時間化への期待があると思われます。中国ではライブ配信を課金化するビジネスモデルに成功しており、今後はVRでもそのようなサービスが提供されていくものと予想できます。

米のVR動画配信の大手Next VR社はNBA、NFL、USオープン、LIVEネーションなど、スポーツやコンサートの配信に実績があり、FOXテレビやタイム社と提携、ソフトバンクなどから投資を受けています。

 

360°ライブ配信の実例や配信機材の現状

国内では昨年6月に日本科学未来館の展示「Björk Digital ―音楽のVR・18日間の実験」の前夜祭的に行われた360°ライブ配信が記憶に新しいところです。ビョークは「VRはライブを超える」と語っていますが、コンサートのVR配信も新しい音楽ビジネスの可能性が考えられます。

その他、idogaの株式会社クロスデバイスがTHETA Sから4K高精細カメラまで使用したリアルタイムのライブ配信サービスを手がけていますし、カディンチェ株式会社のPanoPlaza Liveや、ダックリングズ株式会社の結婚式の模様を遠隔地に配信するHUG Weddingなどもすでにサービスを開始しています。

ライブ配信の可能なVRカメラも増えてきており、前述の他にシンプルなフローを実現したOrah4i、iOSユーザーを対象とした360fly、そしてRICOH THETA Sなどがあげられます。1月に米で行われたCES2017ではRICOH R Development Kitが展示され、2K 30fpsで24時間連続のライブストリーミング可能なことを謳っています。2月からはプレオーダーを受け付け開始。またRICOH TAMAGO 360 VR Live というRICOH THETA SとRICOH UCS(Web会議システム)を用いた360度映像のリアルタイムな遠隔コミュニケーション・ツールのベータ版ソフトウェアも公開されています。

 

CESではリコーが24時間の連続動作が可能な全天球ライブカムを参考展示

 

▲CESで展示されたRICOH R Development Kitのプロトタイプ。価格は未定だが、今年春の出荷を予定。光学系やセンサーはTHETA Sと共通で、二眼の1920×960/30p映像ををリアルタイムステッチ。microSDに記録できる他、USBやHDMIからストリーミング映像が出力される。それをPCに接続し、専用ソフトでライブ配信を行う仕組み。

 

 

パナソニックもベースマウントと一体で機能し、リアルタイムステッチと、ライブ配信を実現するProject PHAROSのプロトタイプを昨年、発表しています

株式会社キャムキャスト7が代理店であるTeradek社の「Sphere」は、最大4台のカメラで撮影した映像をiPad用ソフトウェアのエンジンでリアルタイム・ステッチして360度コンテンツを制作。Sphereを2台つなげることで最大8台までの1080pの映像のステッチが可能となり、対応プラットフォームへの配信や、iPadへの録画が可能というユニークなソリューションとなっています。

 

自分主催のイベントで配信を検証してみた

筆者はこれまでしばしば360度ライブストリーミングのデモを行なってきました。先日もYahoo!JAPAN本社LODGEで「VR未来塾~New year’s Meetup」のトークイベントの模様を、GoPro6台をFreedom360社製のリグBroadcasterで保持して使用。Video Stitch社のVahana VRというソフトウェアと、サードウェーブデジノス提供の6つのHDMI入力可能なマシンで、YouTubeのチャンネルから配信をおこないました。高品質な360度ライブストリーミング配信の課題としては、いかに大容量のデータを載せる安定した回線を確保するかといったことがあげられます。

 

LODGEでのイベントでライブ配信の機材やソフトの紹介

1:Freedom360社の360°ライブ配信用リグBroadcaster/2・3:配信にはサードウェイブデジノス社が開発中のPC「VR ready染瀬モデル」を使用。HDMI6本を入力できる。4 :Vahana VRという配信ソフトで6つカメラ映像をリアルタイムにステッチ&エンコード。5:会場のモニターにも配信映像を送出/6:配信時の回線速度は上り約123Mbps。約1分程の遅延が発生していた。

 

一方、一般のユーザーが気軽に参入できるコンシューマー向けの配信は、今回のFacebookのサービス開始や対応VRカメラの増加で敷居が下がってきたと言えるでしょう。Facebookの創始者ザッカーバーグやHigh Fidelity社のフィリップ・ローズデール氏(元セカンドライフ)は、VRを将来のコミュニケーションの重要な手段になると位置づけています。360度ライブストリーミング配信のチャレンジはその一歩と言えるでしょう。

360度VR動画のライブストリーミング対応プラットフォーム

YouTubeでコンテンツをインタラクティブに楽しむには、パソコンではChrome、Firefox、Internet Explorer、Opera の各ブラウザを使用することにより、360 度動画のライブ ストリーミングの取り込みと再生がサポートされています。また、YouTube アプリと YouTube Gaming アプリでも 360 度動画の再生がサポートされています。

Facebookにおいては、360度VR動画はChromeやFirefoxなどのブラウザの最新バージョン、またiOS8以降のAppleのデバイスと、Facebookアプリの最新バージョン。2012年以降でOS4.3のAndroid機で再生可能です。

◆この記事はビデオSALON2017年3月号より転載
http://www.genkosha.co.jp/vs/backnumber/1612.html