「人に近づいて撮れる」「狭い空間を通り抜けられる」これまでの空撮ドローンでは難しかった映像表現が可能なマイクロドローンが注目されている。この連載では初心者が導入にあたってつまづきそうなポイントを中心に解説していく。
文●青山祐介/構成●編集部
講師●田川哲也/ドローンにも使われている、アイペックスコネクターの設計を本職とするドローンエンジニア。まだドローンを「マルチコプター」と呼んでいた6年ほど前から、空撮用ドローンを製作し始める。2014 年からレーシングドローンの製作も手掛ける。Facebookグループ「 U199 ドローンクラブ」の発起人、管理人。2016 年 ドバイ国際大会日本代表チーム エンジニア。現在 DMM RAIDEN RACING チーム エンジニア。
マイクロドローンの連載を始めてから早一年余り。その間にマイクロドローンもさまざまな進化を遂げてきました。当初、この連載で扱うマイクロドローンは対向プロペラ軸間100mm以下で、プロペラサイズは2インチ以下、バッテリーは2S(セル)以下の機体がほとんどでした。しかし、現在マイクロドローンと呼ばれるものはプロペラサイズが2.5インチあるものもあり、バッテリーは4Sというものも増え、機体も大型化しています。
もともとマイクロドローンは、アメリカの愛好家グループが、ホライゾンホビーの「Blade Inductrix」にFPVカメラを積んでレースする映像を公開するや否や、その存在が世界中で注目されるようになりました。そして日本でも2017年頃からこのInductrixや類似のモデルでレースを楽しむユーザーが急増したのです。
また、マイクロドローンは、その小ささから屋内でも飛ばせて、また、ダクト状のプロペラガードがあることで人やモノの近くでも飛行できます。そのため、マイクロドローンのFPVカメラを使って映像を撮影する「CineWhoop」として、レースとは別に撮影ツールとして認知されるようになったのです。特に日本では、2018年春に増田勝彦さんがマイクロドローンで撮影した映像作品を発表したことで、撮影ツールとしての存在感が増したと言えます。
マイクロドローンの 人気を高めたBETAFPV
もともとは初心者向けのマイクロドローンでしたが、こうした本格的なレース志向と撮影のニーズが高まると、よりスピードや映像のクオリティに対するニーズが高まってきました。スピードを出すために、そして高画質なカメラを搭載するために、パワーが必要となり、その結果、機体も次第に大きなモデルが続々とリリースされるようになったのです。
特にこうしたパワーや機体サイズという点で選択肢が増えたのは、BETAFPV社によるところが大きいといえます。同社はBeta65Sでマイクロドローンに参入すると、その後、75X、85Xというように、ユーザーのニーズに応える形でサイズアップしたモデルを次々とリリースしていきました。
さらにCineWhoop愛好家のニーズに応える形で、録画機能を持たせたFPVカメラを搭載したHDシリーズを続々と展開。当然、映像のクオリティを求めるユーザーに応える形で、当初はFHDだったものが、4Kを撮影できる85X 4Kをリリースするなど、機体のペイロードの増加に合わせて、よりパワーのあるサイズの機体を増やしています。
また、多くのマイクロドローンは樹脂製のフレームとプロペラガードが一体となっていて、プロペラガードにモーターを載せる構造をしています。一方、3インチ、5インチといったレース用ドローンは、基板やバッテリーを搭載するメインフレームからローターのアームが伸びるスタイルとなっています。そこでBETAFPVでは、このレースドローンのスタイルを模した、「Toothpick」シリーズも展開してレースユーザーのニーズにも応えています。
さらに2019年後半になると、より高画質な映像を求めるユーザーの間で、GoProのHEROシリーズを85クラスや95クラスの機体に搭載するスタイルが生まれます。もともと5インチクラスの機体にGoProを搭載して撮影するスタイルはこれまでにもありましたが、それをマイクロドローンに積むというわけです。
ただし、もちろんGoProのカメラは100g前後あるため、マイクロドローンには積めません。そこでレンズやセンサー、回路基板といった必要最低限の部品だけを残す形で、ケースやモニターなどを取り外して徹底的に軽量化。それを自作したステーを介して85/95クラスの機体に搭載したものを、日本では“剥ぎPro”などと呼び、撮影志向のユーザーの間で今人気となっています。
このようにひとくちに“マイクロドローン”と言っても、今やさまざまなサイズとスタイルのモデルが登場し、初心者からベテランまで、幅広いユーザーに支持されています。そういう意味でマイクロドローンは、ドローンを楽しむ入り口として、誰にでも取り組めるドローンだと言えるでしょう。
連載開始1年が経ち、マイクロドローンの定義も変わってきた
本連載、第1回目に掲載したマイクロドローンの定義。今現在、再定義するならば上のようになる。プロペラサイズの大型化・バッテリーのハイパワー化が進んでいる。
マイクロドローンの大きさはプロペラ軸間の寸法で分けられる
マイクロドローンはプロペラ軸間の寸法でサイズ分けされており、「85mm機」「75mm機」「65mm機」などと呼ばれ、各社の機体もそれぞれのサイズで機体を発売している。写真はBetaFPV 85X HD。
マイクロドローン年表〜エポックメイキングな機体と誕生から現在の動向〜
●2016年8月 FPVカメラを搭載した初のモデル
ホライゾンホビーInductrix FPV BNF
FPVカメラを搭載したはじめてのマイクロドローン。マイクロドローンはアメリカのドローンレーシングチーム「Big Whoop」が元祖。そのチーム名を文字った「Tiny Whoop」はマイクロドローンのブランドになっている。
●2017年秋頃 CineWhoopという言葉
アメリカで映像を撮影するマイクロドローンを指す「CineWhoop」という言葉が生まれる。
●2018年4月 HD対応機が登場日本ではじめて映像作品に使われる
日本でのマイクロドローンの第一人者として知られる増田勝彦さんがYouTubeに投稿したワンカット映像。従来までは考えられなかったカメラワークで話題に。以降、ミュージックビデオやCMの現場でも活用されるケースが増えた。URL●http://bit.ly/onnanocos
ep-models Nano Vespa80 HD
増田さんと兵庫にあるラジコンショップのep-modelsが共同開発したマイクロドローン。Runcamというカメラモジュールを搭載し、1080/60p撮影に対応した。
●2018年8月 65mm機で初ブラシレスモーター 搭載機の登場
URUAV UR65
65mm機マイクロドローンとしてはじめてブラシレスモーターを搭載したもの。従来のブラシモーターは使い続けると摩耗してしまうため、寿命が短いものの、ブラシレスモーターは摩耗がない構造のため、長持ちする。
●2018年9月 65mm機で2Sバッテリー搭載モデルが登場
BetaFPV Beta65X
ブラシレスモーターを採用し、なおかつよりパワフルな飛行を楽しむために2S化した仕様のモデルが登場。
●2018年11月 GoProをそのまま搭載できるCineWhoopも
iFlight MegaBee
200g以下ということで航空法適用外だが、マイクロドローンとしては大型のモデル。GoProをそのまま搭載できるため、主に撮影の現場で導入されることが増えた。
●2019年1月 初めてのHDカメラ搭載機
BetaFPV Beta85X HD
メーカーとしては初のHDカメラ一体型のマイクロドローン。85mm機で機体はやや大きめ。当初バッテリーは4Sで発売予定だったが、発火事故などもあり、3S仕様に。その後V2.0で4Sに対応した。
レース向けのToothPick Drone
BetaFPV HX115
マイクロドローンの派生で通称「Toothpick Drone(マイクロレースドローン)」と呼ばれるスピードを重視した機体。プロペラガードがないのも特徴。写真はHD撮影に対応したカメラを搭載したBetaFPVのモデル。115mm機。
●2019年6月 4K対応モデルの登場
etaFPV Beta85X 4K
HD版の登場から半年足らずの間に4K対応のモデルも。カメラはCaddx Tarsier 4Kを搭載。当初はカメラ設定に使うWi-Fiの技適が通っていなかったが、その後日本でも使用可能に。
●2019年6月 75mm機がHD対応
BetaFPV Beta75X HD
BetaFPV社の撮影用マイクロドローンとしては中型に位置するのがシリーズ。85Xよりも小型で屋内撮影では取り回しがよいため、それまではRuncamなどをユーザーで取り付けるなど改造をして使われていたが、撮影カメラ搭載モデルとして登場。
●2020年1月 FPV映像のデジタル化
BetaFPV Beta95X Digital
こちらは95mm機。FPVは5.8GHz帯のアナログ電波を採用しているが、デジタル映像での伝送が可能なモデルも。現状、日本の電波法では使用できない。
●2020年3月 65mm機もHD対応
BetaFPV Beta65X HD
BetaFPVの最軽量機65XシリーズもHDカメラを搭載。
●2020年4月 GoProの外装を剥がして軽量化するのが世界中で流行
もっと高画質を求めるプロユーザーの間ではGoProの外装を剥がして軽量化したものをマイクロドローンに搭載するという動きも世界中で増えている。左上は95XのフレームにGoPro HERO 7、右上は95Xのフレームに HERO 8を搭載したもの。元の重量は94.4gだが、21gになる。
●VIDEOSALON 2020年6月号より転載