Vol.7 内容に合わせて適した尺を検討する

今回は、動画広告の尺について考えてみたいと思います。漫然とした動画にならないようにするためにも、尺の設計は重要です。

 

短い動画だと伝わらないし、長い動画だと本題のところまで見てもらえない、もしくは強制視聴(スキップできない)の広告メニューだとユーザをイライラさせてしまい、帰って逆効果になってしまうというところで動画広告の長さは悩ましいですね。

TVCM(スポットCM)は15秒、とフォーマットが決まっていて、制作がしやすいと言えます。場合によっては贅沢に2倍の30秒のものや1分、という場合もありますが、基本的には15秒がひとつの単位となっています。

ごく稀に、15秒の1/3の5秒CMというのも放送されます。これは15秒を1つの規格とすることで広告枠の売買やTV番組の制作が効率化されることを目的としたものです(民放連の放送基準では、5秒、10秒、15秒、20秒、30秒、60秒という規準が定められています)。

しかし主にWEBやモバイルアプリケーションのオンデマンド配信で表示される動画広告では基本的には自由な尺での制作が可能です。

 

 

プラットフォームごとの広告動画尺のルール

プラットフォーム(SNSや広告プラットフォーム)によって定めがあり、主要なものは以下のようになっています。このあたりのルールは変わりやすいので実際に制作する場合は公式の情報を確認してください。

以下、運用型広告の場合について記します。予約型広告の場合は別途ルールが定められています。

■YouTube(運用型広告)
バンパー広告 ・・・・・・・・6秒以内
インストリーム広告 ・・・・・制限無し

※ただしトラッキングのためには10秒以上にする必要があります。12秒〜3分が推奨されています。強制視聴(再生中にユーザーがストップできない)にするためには15秒未満にする必要があります。

 

■Facebook
フィード広告 240分以内

事実上無制限と言えます。

経験上、広告メニューの動画は15秒、Wall上への投稿動画は30秒から1分程度の動画がエンゲージメントを獲得しやすいです。

インストリーム広告・・・・・ 5秒〜120
ストーリーズ広告 ・・・・・・120秒以下

 

■Instagram
フィード広告 ・・・・・・・120秒以下
ストーリーズ広告 ・・・・・120秒以下

Instagramで配信可能な動画広告の尺は他のプラットフォームに比べて短いのですが、Instagramの特性を活かして長い尺の動画を複数に分割してカルーセルの形で見てもらうといった表現もできます。

 

■Twitter
140秒以下(一部の広告主は10分までの緩和がある
15秒以下が推奨されています。

経験上、広告メニューの動画は10秒程度、投稿動画は30〜45秒程度の動画が反応が良いようです。

FacebookのWallよりもTwitterのタイムラインのほうがスクロールされる速度が速いので動画も短い尺のものが反応が良いようです。他のプラットフォームよりサムネイルのサムネイルが目を引きやすいのも特徴です。

 

■TikTok
5秒〜15
9秒以上が推奨されています。

tiktokの動画広告はこの短さを活かして訴求というよりは認知を目的とした広告が主となります。広告再生中の下部や再生終了後に表示されるボタンをクリックして商品やサービスの詳細ページ等に誘導します。

出稿するプラットフォームが決まっている場合は、以上を踏まえて動画広告を企画ができます。

 

広告表示回数と尺の長さ

 

上の棒グラフはアメリカのデータですが、現在はインプレッションベース(広告表示回数)で約8割が30秒前後の広告で、残りがほぼ15秒前後です。平均の視聴時間は30秒、15秒広告とも約8割です。

下の折れ線グラフは強制視聴広告やストリーム型メディアのデータを含んでいると思われるので、スキップ可能な広告メニューでは短くなることが想像されます。

 

15秒、30秒の動画広告の平均視聴時間

 

YouTubeのインストリーム広告の場合、15秒の動画広告はプレロール(視聴者が本来見ようとしている動画の再生前に挿入される)広告として挿入され、30秒のものはミッドロール(再生中の動画を中断して挿入される)広告として再生されるためことが多いという事実もこのデータに影響していると思われます。プレロールは目的の動画を早く見たいためにスキップされやすいのですが、ミッドロールの場合はしっかりと見ているわけでもなかったりBGM代わりに動画を視聴している場合は、スキップせずに視聴されるケースが多いです。より長尺の広告の視聴データが無いのですが、制作している体感としても視聴時間割合の落ちにくい15秒〜30秒までの動画が、内容と見てもらいやすいバランスの取れた尺であると思います。

一方、Faceboookは Boost with Facebook のウェビナーで47%の動画広告が初めの3秒のみ配信されているいうデータを公表しています。

つまり、とくにSNSのフィード広告では最初の3秒で興味をもってもらえなければ、その続きはほとんど見てもらえないということになります。動画広告の内容によっても適した尺は変わってくると思います。

Narrativeと称される、ストーリーのしっかりした、感情に訴えるような動画の場合は1分など長い尺のものが印象に残りやすく、企業のメッセージをしっかりと伝えることができます(下:例1)。

このような動画は「ブランデッドエンターテインメント」と呼ばれ、カンヌライオンズのエンターテインメント部門のゴールドを受賞したスペインのsantander 銀行の動画広告『Beyond Money』(下:例2)は17分の尺があります。この作品はプラットフォームの広告メニューで配信されたわけではなく、広告主のYouTubeカウントで配信されました。一方で意外性で笑いを誘うような動画の場合は15秒程度の短いものが見てもらいやすいです。いわゆる一発ネタ、と言われるような動画ですね。このように短くクスッとできるような動画広告は、広告に嫌悪感を持っている視聴者にも受け入れられやすくバズりやすい広告となります。

 

1.Bertha Benz: The Journey That Changed Everything

実用的なガソリン自動車を世界で初めて開発したメルセデスベンツの創業者Karl Benzの妻、Beertha Benzに焦点を当てた動画。自動車が人類の生活を変えたストーリーを描く。

 

2. 17分とかなり見応えのある作品「Beyond money」

お金のために自分の記憶を売る女性が主人公のSFショートフィルムで、かなり見応えのある作品。※オリジナルはスペイン語ですが英語字幕の動画も公開されているので英語に苦手意識のない方は是非ご覧ください。

 

実際に配信した動画広告を分析して自社に適した尺を

実際に配信した動画広告の視聴レポートを元に、どこまで動画が見られたか、どこで脱落が多かったのかを把握し、次回以降の制作の資料とすることができます。

多くのSNSでは、全体の尺の25%,50%,75%,100%といった時点での視聴割合がレポートに含まれます。YouTubeではさらに細かい視聴割合の変化が追えます。

計測期間を区切って可視化する機能もあるので、時系列的な変化も把握ができます。左下のグラフは全体としてはなだらかに下がりつつも細かい上下の凸凹が多く、興味深い結果です。この凹凸を動画と見比べて原因を考えるのが広告マンとしては楽しいひとときです。

▲Youtube広告の視聴数の推移

 

一言で脱落といっても「興味がなくて見るのをやめた」という場合や、「強い興味をもって資料請求やECサイトでの購入ボタンを押した」という場合ではその意味が異なります。どのような脱落かはグラフからは読み取れないので動画の内容と見比べて推測します。これらの数値を元に動画のカット単位の検討や全体尺の調整を行い、KPI(コンバージョンなど)の向上を目指します。

こうして分析をして適した尺を見つけ出し、制作にフィードバックすることで視聴者に届く動画ができる可能性が高まります。代表的な好事例として(下:例3)を挙げています。

 

3. アイデアが面白い短尺の動画作品
日清食品 カップヌードル

テーブルクロスを引くと、二重に驚きの結果が。意外性やユーモア、しかけがあるアイデアで、尺が短くクスッとできる動画広告は、広告に嫌悪感を持っている視聴者にも受け入れられやすくバズりやすい。SNSなどでも相性がよい動画広告作品。

 

 

今回のまとめ!

動画の目的や内容によって動画の尺を設計しよう。心を動かす動画はしっかりとみせ、笑える動画は短く。
視聴時間を計測して離脱するタイミングを知って次の制作の参考に。

 

 

今月のTIPS

動画広告は最初の数秒が大切。メリット最初伝える動画

短尺の動画広告は、忙しい人々に情報が伝えられやすいのがメリット。情報を発信する側にとって、何を一番知ってもらいたいかをよく吟味し、短い尺にまとめる脚本のアイデアが必要です。

 

短尺でオチがすぐにわかる動画で視聴者にメリットを伝える

広告主は訴求したい内容の最適解として、動画広告という手法を選んでいます。

動画広告は興味をもたないユーザーの場合、最初の数秒で離脱するといわれており、いかに最初の数秒で興味をもってもらえるか、または情報を盛り込めるかが成功する動画のカギとなります。

 

短い時間で伝えたい情報を盛り込むことが大切

視聴者、閲覧者はすぐにクリック(やフリック)で離脱ができる状態です。移り気の多い視聴者・閲覧者に対してすぐに伝えたい自社のサービスや商品のメリットを伝えやすい短尺動画はとても有効です。ここではアイデアと尺の短さがうまくできている動画広告作品を紹介します。

 

テックキャンプ 「テックキャンプを検索する男」篇

開始して数秒でテックキャンプを利用するメリットを訴求している。求職者が求めている情報の一つである年収UPという内容を動画の数秒で告知。ターゲットなる方ならサイトに訪問したくなる流れになっている。

 

 

DMM英会話 「I LOVE YOU」篇

動画内でヒトネタを盛り込んだシリーズ動画のひとつ。初心者だと敷居が高くなりがちなオンライン英会話ですが、これなら自分でも始めることができそうと思える。公式サイトへ移動する確率が高くなる。

 

短尺動画は、有益な情報を短い時間で理解できる動画です。ネットなど何かと入ってくる情報の多い現代では、動画を見られる時間は限られてきます。短い時間で情報を伝えるアイデアや技術は、動画制作者にとって今後さらに求められる技術となります。

 

 

 

VIDEOSALON 2021年4月号より転載