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4K RAW撮影に対応し、
ドローンや手持ちジンバルにも装着できるX5R。
これまで空撮でRAW収録を行うためには
大型ドローンとシネマカメラが必要だったが、
X5Rの登場でよりコンパクトな装備で撮影が可能になった。
ここではDJIのドローン・Inspire 1で空撮した
RAW映像の画質やワークフローを中心に解説する。

レポート●吉田泰行(アルマダス)/映像協力●DJI JAPAN

 DJIから新たに登場したジンバル一体型カメラZenmuse X5R。4K解像度のRAW映像が撮影できるということで 発表から発売までの半年の間、スペックや描写性能など各方面で話題を呼んでいたが、今回実機を使っての撮影を行うことができた。撮影内容は4月下旬に青森の弘前公園で満開に咲き誇る桜のドローン空撮を含めたショートムービー作品の収録。ここでは撮影できた映像の画質をはじめ、RAW映像のワークフローを中心にレポートしていきたい。
 X5Rは手持ちジンバルOsmoをはじめ、Inspire 1やMatriceシリーズなどのドローンに取り付けることができる。RAW収録機能を省略したX5ではビットレートが60Mbps。最近の4K対応カメラでは100Mbpsでの記録に対応するものが多く、それらと比べるとやや見劣りしてしまっていた。しかし、X5Rのビットレートは最大2.4GbpsとX5の40倍にも達し、映画やCMなどのハイエンドの業務用途でも充分に耐えうる画質を確保できる。

今回の撮影で使用したレンズ

 Inspire 1に標準搭載されるZenmuse X3やPhantom 3や4では、35‌mm換算で20‌mm(画角94度)の歪みの少ないワイドレンズが標準装備されている。一方、X5/X5Rではレンズ交換が可能でマイクロフォーサーズ規格に対応している。
 マイクロフォーサーズならばすべてのレンズを装着できるわけではなく、重量的な制限はある。メーカーからは7種類の対応レンズが発表されているが、今回の撮影で使用したのは最もポピュラーな純正のDJI MFT 15mm f/1.7 ASPHとオリンパスM.Zuiko Digital ED 12mm f/2.0の2本。
 DJIレンズの画角は72度と、X3やPhantomと比べて20度ほど狭い。PhantomやX3に慣れているユーザーが初めて使う際には画角の違いに戸惑うかもしれない。しかしF1.7とかなり明るいレンズになっているため、光量が少ない朝夕の撮影ではISO感度を上げずに撮影できる。一方、オリンパス12‌mmの画角は84度とX3やPhantomの画角と最も近くなっている。ワイドの美しい絵を撮影したい場合にはオススメのレンズだ。
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▲X5Rのマウント。
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▲DJI MFT 15mm f/1.7 ASPH
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▲オリンパスM.Zuiko Digital ED 12mm f/2.0

驚愕の描写力とダイナミックレンジ

 北京に拠点を置くDJIの撮影部門であるDJI Studioの社長と冬にミーティングを行なった際「X5Rはハリウッドで使用されているような4K RAW対応カメラと組み合わせても見劣りしない」という話を聞いた。
 DJI StudioはREDやARRIのALEXAなどハイエンドシネマカメラを複数台運用しており、アウディなど大手自動車メーカーのCM撮影も手がける腕の立つプロダクションだ。その社長が太鼓判を押すカメラということもあり、かなり期待をして今回撮影に臨んだ。
 実際撮影した画を見るとダイナミックレンジの広さに驚いた。メーカー発表の数値はX5と同様の12.8ストップ。しかし体感のダイナミックレンジはそれをはるかに上回っているように思えた。X5Rの映像データは実質的に4KのRAW静止画の集合体である。ハイライトからシャドーまで幅広いラティチュードが守られている。実際にカラーグレーディングをしてみて驚いたが、RAW静止画とまったく同様に階調が残されており、ハイライト、シャドーは色の破綻を来たすことなく、かなり引っ張ることができる。
 これまでの空撮では、ティルトダウンからティルトアップした際に光量の滑らかな調整が難しく、空の色が飛んでしまうということがよくあった。このダイナミックレンジの広さの恩恵で編集の自由度が大幅に広がりそうだ。また、空などのハイライト部分でも微妙な階調が残されているため、よりアーティスティックな映像表現を追求できるだろう。
●グレーディングでハイライトもシャドウ部の階調
や色を画質破綻なく調整できる

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▲グレーディング前の撮影素材(画像をクリックすると原寸大画像を表示されます)
絞り:F5.6 シャッタースピード:1/50 ISO:100 ※ 撮影は4K/24pで行ったため、シャッタースピードは1/50で統一している。
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▲グレーディング後の撮影素材(画像をクリックすると原寸大画像が表示されます)
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▲部分拡大。一見なんの情報も記録されていなそうな空のハイライト部分でもグレーディングを施すと、そこに雲が表れてきた。
●解像度を同時記録のプロキシデータと比べてみる
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▲microSDカードに記録したプロキシデータ(画像をクリックすると原寸大画像を表示されます
絞り:F1.7 シャッタースピード:1/50 ISO:100(ND8)
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▲グレーディングを施したRAWデータ。髪の毛の一本いっぽんや木の幹などの細かい描写に違いが出る。(画像をクリックすると原寸大画像を表示されます)

収録メディア

 X5RでのRAW収録では純正の512GBのSSDが必要である。512GBのSSDでおよそ40分の4K RAW映像が収録可能である。なおX5R単品及び機体セットにはカードリーダーとメディア一本が同包されている。メディアが一本で194,500円、三本セットで389,000円と高額ではあるが、業務で使用するには最低二本は必要である(理由はワークフローで後述)。
 また、プロキシ動画としてX5と同様にmicroSDに動画を収録できる。最大ビットレートはX5と共通の60Mbpsで、画質も同じ。RAW映像の場合は動画のプレイバックは非対応である。カメラやドローンを操作するDJI Goアプリから動画のプレイバックを行いたい場合にはmicroSDのプロキシデータから映像を再生する必要がある。
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▲左はSSDをパソコンに取り込むためのリーダー。右は専用のSSD。512GBで約40分のRAW映像を記録できる。

RAWデータのパソコンへの取り込みは専用ソフトで行う

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 収録した動画を付属のUSB3.0対応、X5Rカードリーダーから取り込むことができる。残念なことに、収録した動画は別のパーテッションで仕切られているため、フォルダからファイルに直接アクセスできない。フォルダにアクセスすると、ファイルがなくディスク容量も530MBと表示され、一瞬焦ってしまうが動画はちゃんと別のパーテッションに収録されているため問題はない。筆者は撮影現場で可能な限りバックアップを取ることにしているが、従来のようにファイルをドラッグしてHDDにバックアップが取れない。バックアップを取るにはCinema DNGへの変換作業を行う必要がある。

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▲フルに撮影した後のSSDの情報を見てみると容量が530MBとなっていて焦るが、しっかりと記録されているので大丈夫。
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▲パソコンにUSB接続したSSD。通常の動画ファイルのように撮影データを閲覧することはできない。

 SSDにはDJIが提供するソフト「DJI CineLight」が収録されており、動画へのアクセスや書き出しは全てそれを介して行う。DJI CineLightでは露出、彩度などベーシックなカラーコレクションも行うことも可能だ。ファイルをCinema DNGとして書き出しする場合は、画面左のファイルを右クリックし、EXPORTボタンを押すことでCinema DNGの連番を書き出すことができる。

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▲DJI CineLightのメイン画面。X5Rで撮影したRAWデータをCinema DNGやProResに変換するソフト。X5RのRAWデータはパソコンにつないでSSDからデータをドラッグ&ドロップで転送することができない(画面をクリックすると拡大表示されます)
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▲メイン画面右側の項目で露出や再度、コントラスト等の基本的なカラーグレーディングを行うことができる

 気になる書き出し時間は、CPUが2.7GHz 12コア(30MB L3キャッシュ)、メモリが64GB、GPUがデュアルAMD FirePro D700のフルカスタムのMac Proに、ストレージはThunderbolt接続のプロミスPegasus R4を使った場合、476GBのデータ量の変換で約1時間かかった。撮影現場で使うようなノートパソコンであればDNG変換に3~4時間は見ておいたほうがいいであろう。現場でDNG変換をかけながらバックアップを取ることは時間的に見て現実的ではないため、複数のメディアを用意して、SSDを交換しながら撮影するスタイルがX5R運用の基本になる。

運用・ランニングコスト

 気になる値段であるが、Inspire 1 RAWセットで799,000円(税込)。レンズ込みのX5Rカメラ単体で486,000円。機体セットにはドローンとカメラ操作用の送信機が2機付いているため、お得である。筆者は3年前よりDJI S800から最大ペイロード10‌kgの大型機まで複数のドローンを運用してきた。今まで空撮でRAW映像を収録する場合は、S1000などの大型機に搭載するキヤノンEOS 5D Mark ⅢにRAW収録用のカスタムファームウェアMagic Lanternを入れるか、REDなど大型カメラを大型機に搭載するしか方法がなかった。
 しかし大型機は維持管理がひじょうに難しく、保険などを含めたトータルランニングコストは数百万円にも上る。また機体が大型であるため、基本的にはハイエースなどの大型車で現場まで自走する必要があり、大型バッテリーの輸送も困難であった。また万が一の事故の際、大型機は重大な事故につながる可能性が高いため運用には高度な訓練と知識も必要である。
 一方、Inspire 1 RAWは基本的にはInspire 1と飛行特性は変わらず、アプリなどのシステムの完成度が高いため、筆者のような地上撮影がメインのカメラマンでも操作・維持管理が簡単である。また、バッテリーも保護機能が入っているため維持が容易だ。万が一の際の機体保険も、エアロエントリー(株)よりDJI機体保険が販売されており、自損による故障も補償される。保険料は最も補償が充実したプランでも年額37,280円と安価である (2016年5月27日現在)。
 以上の点から、Inspire 1とX5Rの組み合わせはシステム完成度とランニングコストの点から考えても非常に優秀である事が分かるであろう。

総合評価

 X5Rは4K RAW撮影を低価格で実現し、Osmoに装着することで空撮のみならず地上撮影にまで対応できる。今までは地上用のハイエンドカメラの映像と空撮映像を品質的にマッチングさせることは困難だったが、X5Rはその差をぐっと縮めた初のDJII製カメラとして評価されよう。

今回X5Rで撮影したショートムービーは
ショートショートフィルムフェスティバル&アジアで
初お披露目される

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実施日:6月5日(日)
開始時間:13:30
会場:表参道ヒルズ スペース オー
料金:無料(事前登録)
WEB:http://bit.ly/22r1279
●X5Rの製品情報
http://www.dji.com/jp/product/zenmuse-x5s/x5r