FUJINON MKで「小劇場」のプロモーションビデオを撮る〜舞台撮影とドキュメンタリー用途のレンズとしての可能性を試す


富士フイルム FUJINON MKで
「小劇場」のプロモーションビデオを撮る

Report◉岸本 康

 

FUJINON Cine Lens
MK18-55mm T2.9  /  MK50-135mm T2.9

FUJINON MKはスーパー35mmセンサーをカバーし、ソニーのFS5やFS7といったデジタルシネマカメラとの組み合わせを想定したEマウントのシネマレンズ。18-55mmの標準ズームが42万円で3月発売。望遠ズーム50-135mmは7月中旬の発売で 45万円。今回はこの2本をFS5と組み合わせて使用したが、レンズ自体がシネレンズにしては小型軽量なので、下のようにバッグ類だけで充分収納できた。

 

舞台撮影とドキュメンタリー用途のレンズとしての可能性を試す

発売時に試用してPXW-FS5に最も適したレンズだと感じたFUJINON MKレンズ(18-55mm T2.9)だが、7月に50-135mm T2.9も発売されたので再び現場で試用してみた。今回の撮影テーマは「小劇場とは?」という、実は小さくないテーマだ。京都には多くの小劇場と呼ばれる舞台小屋があったが、近年その数が激減している。今回撮影した左京区にある「アトリエ劇研」も8月で30年以上続いた幕を閉じる。であるならばその最後の姿と多くの人が通った小劇場の魅力をこれからのために記録できればと思ったのがそもそものきっかけだ。演劇というものを撮影された方ならご理解いただけると思うが、撮影の条件としてはとても厳しい。暗い中で演技が進んだり、時にはスポットが明る過ぎるくらい演者を照らし、その背後は闇になったりと、カメラやレンズの性能テストをしているような場面が少なくない。与えられたシーンをどう切り取って、どういう明るさで捉えて瞬時に画作りするか、カメラマンの技量も試される。

今回は演劇の本編だけでなく、小劇場の特徴である観客と演者の一体感や、照明、音響、制作スタッフなどの動き、観客の声なども撮影した。MKレンズはシネマレンズとして商品化されているが、ENG的なドキュメンタリー用途のレンズとしてのポテンシャルを試す機会となった。

2本をどのように使い分けるか

まったく同じ形をしていて、同じ操作感を持つこの2本。途中でレンズ交換できない撮影ではどちらかを選ばないとならないが、今回は小劇場という客席と演者の距離感のような部分も重要なポイントだったので、必然的により全体をカバーできる18-55mmを本番用に使い、リハーサルなどでディテールを撮るのに50-135mmを使用した。各機能別にレポートする。

寄って合わせて引いてもずれないフォーカス

大判のカメラになり、さらに4Kになってフォーカスはとてもシビアになった。必ずフォーカスアシストを使って拡大したり、ピーキングを表示したりして常に確認するわけだが、フランジバックの調整ができるこのレンズの場合、寄って合わせて好きな画角に引いてもフォーカスがズレない。フォーカスを合わせてから少しズームを触って画角を変えたいことは撮影でよくあることだと思うが、通常のスチル用のレンズではフランジバック調整ができないために、ズームを触るとピントがずれてしまう。

演劇などの舞台撮影では暗転した時にも次の演者の立ち位置にフォーカスを合わせたいことがある。あらかじめ、舞台とカメラの距離をつかんでおいて、レンズに打たれた目盛りか、リングにマークを貼り付けてフォーカス位置を確認しておけば、瞬時に合わせたいボジションに移動できる。闇の中から人物が現れるような場合はオートフォーカスや、画面のピーキングを見ながらというのは不可能に近い。

フランジバックの調整を私がやっているVLOG(YouTube)で紹介するために実践してみた。本来は3m以上の所にチャートを置かねばならないが、部屋の都合で実測2.9mのところで合わせてみたら、レンズの目盛もしっかり2.9mあたりになった。当たり前のことかもしれないがとても正確だ。回転角が200度あるので、その目盛りは距離が近くなるほど細かく刻まれており、細かく設定できる。またフォーカスを送った時にも光軸がズレないために、ボケた所からフォーカスが合ってシャープな映像になるその過程がとても気持ち良い。

フランジバックの調整方法を紹介したVLOGは以下。8:22 あたりからレンズのフランジバック調整方法を紹介している。

▲ズームピンを利用してパンをしながらのズームがやりやすい。

 

▲リハーサル風景の一コマ。50-135mmで撮影。役者が準備体操などをしながら読み合わせをする。ディテールと奥行き感がシネマレンズを感じさせる。

電動ズームのキットレンズとの違い

酷かもしれないが、PXW-FS5に付属しているGレンズ18-105mmと比較する。このGレンズはスチル用から進化したビデオ向きレンズとして電動ズーム機能が付いてオートフォーカスが使えて、カメラと連動してオートアイリスも使える。レンズとしては小型軽量でF4通しのわりに価格も安い。オールラウンドなレンズの代表とも言える。これと比較した場合大きな違いは何だろうか?

一番は画質にある。撮った画を横に並べなくても分かるその解像度感や透明感とも言える抜けの差。フォーカスの来ていない部分のやさしく美しいボケ。もちろん、これはそのままコストの差にもなっている。

これらの画質に加えてT2.9という明るさ。最近のカメラは感度が高くなったとは言え、シャッタースピードを遅くできない動画撮影には、明るいレンズがそのまま品質に繋がる。

▲撮影は4Kで色調整やトリミングなしの状態。本番では18-55mmを使った。カメラ設置時点で演者までの距離を確認した。前方がカメラから約5.5m、後方は10m。 冒頭はズームの中域。01:08から55mm端に約x1.2倍の超解像ズーム。00:42から、02:05からはワイド端。狭い劇場だが観客のリアクションまで写し込める。この公演はISO2500で撮影。T値は2.9〜4くらいで撮影。演目/遊劇体『ふたりの蜜月』https://www.yugekitai.net/next/ 協力/アトリエ劇研

シネレンズは文字通り映画用で、決められたカットを撮り進めるという「待ってくれる被写体」を撮るためのものだと思うが、Gレンズなどの機動性の高いレンズはドキュメンタリー等で「待ってくれない」被写体を想定したものだと思う。でも今回のMKシリーズはシネマレンズとは言うものの小さく軽くできていて、機動力が高いので、ENGのマニュアルレンズとして充分使える。待ってくれない被写体を美しく残すための新たなジャンルのレンズだと思う。たとえニュースの素材でも美しく撮ったほうが良いものは少なくないので、そんな用途にも使えると思う。質の高い映像を求めるオールラウンダー向けの位置付けになるのではないか。

▲FS5とMKレンズの組み合わせはVintenのVision3にマッチする。プレートをやや後ろに下げれば前後バランスがとれる。

▲レンズに電子接点がないので、FS5の液晶モニターにF値は表示されない。ヒストグラムを見ながら調整する

無段階調整できるアイリスが便利

電子接点のあるレンズであれば、アダプターを介していてもF値がカメラに表示されるので、それを見てアイリスを決めることもあるが、実際にはヒストグラムを参考にして飛ばない、潰れない画にするということでアイリスを決めることのほうが多い。スチルレンズではアイリスリングがあっても、無段階ではなくカチカチと段階的に明るさが変わるし、カメラ側でもダイヤルでアイリスを絞るとじわっという細かな設定が難しいことがある。MKレンズはアイリスも無段階にじわっと決められる。今回の演劇では比較的暗いシーンが多かったので、急にスポットが当たって明るくなったシーンで少し絞るなどの動作をしたが、とても自然な動きでアイリスが変えられた。

美しく決まるズーム動作

もう一つじわっと動かしたいのはズームだ。ズームリモコンの使えるカメラやレンズでないと舞台はなかなか難しいと思いがちだが、実際のところ安物の電動ズームよりも、優れたマニュアルレンズは熟練次第で味のある動きができる。リモコンのボリュームを押さえながらカメラをパンニングするよりも、ズームピンに指をかけて身体全体の動きで操作するほうがより良い結果が出ると感じた。今回はわずかな練習時間しかなくて慣れるところまではほど遠い状況だったが、まずまず思った通りにコントロールできた。

このズーム動作を美しくするには何よりも練習が大事だが、実は三脚も重要だ。今回はVintenのVison Blueを使って完全なカウンターバランスの中で動かすことができた。三脚側でのパン、チルトの粘性の調整をズームの操作感と合わせることによって思い通りのコントロールが可能になる。

リングの回転方向も重要だ。スチルレンズではシグマやLUMIX等、ズームリングの寄りと引きの回転方向が、一般的なビデオカメラのズームリングと反対のものも多いので、このあたりも人間工学的に左手で下へ絞る方向で寄るというのがやっぱり使いやすいと再認識した。 今回小劇場という狭いスペースで三脚を立てさせてもらったが、自分自身のスペースがほとんどないくらいに身体がカメラに接近した状況で立ち続ける環境だったのでゆったりとした動作ができなかったり、土台が仮設の壇上であったことなどから振動が伝わってきたりもしたが、撮り終えてみると、このレンズであれば、サーボもズームリモコンも必要ないなと思った。

▲スナップ撮りや観客のインタビューをハンドヘルドとして。FS5は短時間であれば右手のグリップでしっかり保持できるのでマニュアルレンズの操作も問題ない。ちなみにモニターのフードは暗転時に液晶の光が回りに広がらないようにするため

3倍というズーム域をどう考えるか

2/3インチのENGレンズだと最近は18倍が標準だけれどMKは約3倍。1本だけ選んで使うとなった時、18-55mmではちょっと寄りが足りないという懸念もあるが、FS5の場合、超解像ズームで4Kでも1.5倍(HDで2倍)になるので、寄りたければ約82.5mmまでズームできるということになる。今回は劇場が小さかったので18mm側で客席も含めて入れることができたし、55mm側で演者の顔の表情がしっかり分かるところまで寄れたので、3倍でも結構満足できる画作りができた。1カメでの舞台撮影の場合はズーム操作で長い寄りや引きがないほうが見やすいし、4Kの解像度があれば寄って見せなくても表情が伝わるので、全体の動きを捉えたほうが記録としては良いのではないかとも思う。もちろん、大きい劇場であれば50-135mmを選ぶことになるだろう。

▲この日の演目は暗いシーンが多くISO4000で撮影。T値は2.9〜3.5程度。ノイズ感も少なく肉眼よりもディテールがはっきり際立った。前後に長い変形した舞台で、暗転時はレンズの目盛りも見えないのでフォーカスは回転角を指先の感覚で覚えて合わせたが、外すことはなかった。頼れるフォーカスリングに感心した。こちらもすべて無加工の素材切り出し。演目/『リチャード三世ーある王の身体ー』構成・演出:あごうさとし http://www.agosatoshi.com/works 協力・京都おおにし荘3F

 

このレンズを手にすると、かつてショルダータイプのENGレンズを使っていた人なら、「おっ、この感覚は久しぶり」となるのではないか。業務用、放送用レンズのDNAを受け継いでいる操作感からは、長年培われた要素が小さく軽い筐体に凝縮されていることが伝わってくる。FUJINON MKレンズは、100%基本に忠実な動画レンズとして、シネマはもちろん、様々な被写体にも応える機動力の高いレンズとして、これから多くのジャンルの人に使われて行くのではないだろうか。

 

冒頭で紹介したように「小劇場」と呼ばれるスペースが激減している。京都ではその文化を絶やさないように演劇人が中心になって来年の秋に向けて新しい小劇場を作ろうとする動きがある。私もその趣旨に賛同して微力ながら映像制作でお手伝いしており、今回の撮影もそんな中で被写体として演劇を記事の対象として選ばせて頂き、関係者からも協力を得られた。映像で文化を残すための道具としてカメラやレンズなどの機材は少なからず貢献をしているとも言える。もしも今回の映像をご覧になって「小劇場」というものについて少しでもご興味のある方は、ぜひWEBサイトをご覧頂きたい。https://askyoto.or.jp/e9/