1億画素の中判モンスター・ハッセルブラッドH6D-100Cの4K RAW動画を現場で徹底検証!


一昨年の春に発売された1億画素の中判カメラ・ハッセルブラッドH6D-100c。実は4K RAW動画が撮れるこのカメラを実際の現場に投入してみて使い勝手を検証した。

テスト・文◉Matthew Carmody

 

H6D-100cとは

ハッセルブラッドは月に最初に行ったカメラとしても有名なスウェーデンのカメラメーカー。ファッションポートレート、広告などのカメラマン御用達のプロ用カメラとして世界中で愛され続けている。2016年に発売されたH6D-100c(希望小売価格・税別378万円)は1億画素を備え、センサーサイズはフルサイズを超える40.0×53.4mmの中判カメラ。実はこの超高級カメラには4KのRAW動画記録に対応している。今回テスターのMatthew Carmodyさんがその機能を現場で試したというので、レポートしてもらった(編集部)。

 

 

H6D-100cで撮影した動画

Drift&Dressup | Medium-format video with Hasselblad H6D-100C

 

 

中判カメラで4K RAW動画!?

ちょっと前にネットのどこかで少し変わった動画を見かけました。ハッセルブラッドのH6D-100cで撮られた4K RAW動画(3840×2160/24p)。動画自体は簡単なテストでそれほど面白くなかったものの、映像には今まで感じたことのない魅力があった。もっと知りたいと思ってネットを片っ端から調べたところ、骨のある情報も映像もまったくないのではないか。こんな面白い機材で撮影した作品も詳細レビューが何一つないとは・・・。

縁とは不思議なものです。今年に入ってある結婚式でハッセルブラッドジャパンの社員と偶然お話をしていたら、どうもH6D-100Cで撮った動画がなくて、ちょうど欲しいと思っていたと言われました。元々予定に入れていたドリフトイベントが迫っていたため、いいチャンスと思い、H6D-100Cを現場で導入する決意をしました。

 

センサーの大きさにびっくり

動画モードでは、16:9のアスペクト比になるように、上下をクロップしながらセンサーの幅をすべて読み出します。12Kの映像をカメラの中で4Kに凝縮しているわけです。この機種の特大センサーを実際に見ると、これがどれだけすごいことか直感的にわかるはずです。その反面、ローリングシャッターもそれなりに盛大に出てくるので、24mm以上のレンズでの手持ち撮影はあんまりお勧めしません・・・。

▲筆者の日頃の相棒URSA Mini Proと並べてみると、センサーの巨大さを改めて実感・・・。

 

 

H6D-100cのRAWは.3fvという独自のファイル形式で記録される

H6D-100cCFast 2.0カードに「.3fv」という独自のファイル形式で4K RAW動画を24pで収録します。256GBCFast 2.0カードに約20分の映像は収録可能ですが、撮影時にメディアの残り時間は表示されません。現場でバックアップしながら2枚の256GBカードを交互に使ってこの問題を克服しました。

 

▲ 現場では2枚の256GBのCFast2.0カードを交互に使って1日イベント撮影に成功。

 

▲現場でのバックアップに使用したノートPC。サンディスクのSSDにバックアップを取り、2枚のCFast2.0カードで運用した。

 

 

音声収録には課題も…

H6D-100cには内蔵マイクがなく、外部マイクを接続するための3.5mm端子が左側にあります。

 

▲H6D-100cのフォルダ構造。CinemaDNGの連番ファイルと720p解像度のプロキシファイル(.mp4)があり、音声はそこに記録されている。

Cinema DNGのフォルダには、映像は静止画の連番ファイルが収納されており、音そのものは「audio.mp4」というファイルの中に入ります。CinemaDNG24コマに対して、mp425コマになっており、長さも違います。このあたりの仕様は少し使いづらいので、今後の改善をお願いしたいポイントでした。また、音声レベルを調整する機能はまだ追加されていないようで、残念ながら今回の撮影で収録した音声は、車のエンジン音などが音割れしてしまって使うことはできませんでした。

▲ CinemaDNGの映像とMp4の音声をDaVinciに読み込んだ状態。映像と尺が異なる他、音のスタート位置が合わない。

 

 

写真用カメラを動画撮影の現場で使うために

ボディにはアクセサリーを取り付けるためのマウントはホットシューのみ。まずはジンバルに搭載してみようと、少しでも軽量化するためにビューファインダーを取り外すと、それもなくなります。モニターなどさまざま動画撮影に必要な周辺機器を取り付けるため、一眼時代の部品を倉庫から取り出しました。楽しいリグづくりの時間の始まりです。

▲ URSA Mini Proとの比較でもわかるようにボディにアクセサリーを装着する場所がない。

 

今回撮影に使用したHC 2.8/80mmレンズはコンパクトだったため、Ronin-Mに装着してDJI Focus(ワイヤレス・フォローフォーカス)を取り付けてバランスを取れました。一人で使うにはちょっと重い初代Roninの出番が必要なくて一安心。このレンズには67mmのフィルター径も切られていて、手持ちのIRカットや可変NDフィルターが大活躍しました。

▲Ronin-MにH6D-100cを搭載した状態。

 

▲ツァイスのZEISS Lens Gearをレンズに取り付けて、DJI Focusでフォローフォーカスが使えるようにした。

 

 

昔、一眼で使っていたリグを使ってアクセサリーを組み合わせた

▲H6D-100cでリグを組んだ状態。 三脚使用時のリグ。FS700や一眼で使っていたパーツが久しぶりに役に立った。


次に外部モニターが必要になります。動画モードでH6D-100Cの内部モニターは露出関係のヒストグラムなどが表示されません。そのため、ウェーブフォーム(波形モニター)やフォルスカラー、フォーカスピーキングの機能がついているIKAN DH5eを使用しました。ちなみに、内部モニターにもフォーカスピーキングの機能がありますが、RECを押したら消えてしまいます。

もう一つ気になる所はRECが終わるとライブビューも自動的に終了してしまうところです。イベント収録で次々にRECスタート・ストップを繰り返すような時に毎回ライブビューを再起動する必要があるのは不便に感じました。ジンバルを使う場合には、できるだけカメラを触りたくないため、このあたりの仕様も改善されるとうれしいです。

バッテリーの持続時間を延ばすために

もう一つの課題がバッテリーの持続時間でした。カメラのバッテリーは動画撮影で30分しか持たないことがすぐ判明。早速D-TAPケーブルを自作して、Roninバッテリーや三脚使用時にV-mountから直接給電できるようにしました。これで楽々一日は連続撮影できます。ちなみに当日は熱でセンサーが一回オーバーヒートでシャットダウンしました。連続でライブビューを出すとセンサーが熱を持ってしまうようです。しかし、これはRECしていない間はできるだけライブビューを出さないことで解決できます。

注:D-TAPから電源供給していても、カメラの電源が起動しなくなるため、内蔵バッテリーは取り外せません。

▲D-TAPケーブルを自作して、Ronin-MのバッテリーやVマウントバッテリーから電源供給できるようにした。

 

 

 

中判レンズは立体感と柔らかいボケが持ち味

▲ボディの艶など質感は写真そのもの。

 

今回メインで使ったのは様々な状況に対応できるHCD 4,8/24mmHC 2,8/80mm、HC 4,5/300mmです。映像でわかるようにハッセルブラッドのレンズはどれも素晴らしい立体感とやわらかいボケを提供します。

▲HC 2,8/80mm使用。35mm判換算で約48mmだが、この立体感とボケ味は望遠レンズのよう。

H6D-100cのセンサーは645判に近いサイズで、焦点距離(35mm判換算)はレンズに表示されたmm数の約0.6倍となります。例えばRonin-Mに載せていた80mmは約48mmの焦点距離でありながら、ボケなどの特性は80mmという不思議な感覚。画角がワイドになるのに、望遠レンズのような立体感とボケが綺麗に出ます。「被写体との距離を変えれば別のカメラでも似たような映像を撮れる」という人もいると思いますが、現実の世界で被写体との距離は自由に調整できない現場もよくあります。

 

HC 2,8/80mmのフレア。

フレアは上の写真のように虹色に出ます。HCD 4,8/24mmのレンズH6D-100Cのセンサーより少し小さい中判センサーのために設計されているようで周辺には多少歪みが見られます。これは被写体が近い程よくわかりますが、それほど気にならないです。手持ち撮影をする場合はローリングシャッターを考慮してこのレンズが最適でしょう。少し絞ればフレアが綺麗な星形になってかなり気に入りました。動画でもぜひ確認してみてください。

 

HCD 4,8/24mmレンズ。周辺は少し歪むものの、全体的に安定した描写とボンネットを開けた部分に綺麗な星形のフレア。

 

HC 4,5/300mmはパンすると、ローリングシャッター現象がわかりやすく出ることもあるので気を遣いました。最も早いD1車両のドリフトを大接近して体ごと三脚の周りを動きながら撮影しましたが、背景の歪みは凄まじい煙に隠れて意外と目立ちませんでした。フォーカスも含めて一番頑張ったカットかもしれないです。他のレンズ同様、300mmは解像感ある中でやわらかい描写と品のあるボケを演出してくれます。

▲300mmで撮影した今回最も難しかったカット。ローリングシャッター歪みは煙で意外と目立たない。

シャッタースピードとISO感度で気になったこと

事前のテスト撮影で、シャドウ部分に少し変なノイズが出ることがわかりました。できるだけクリーンな映像を撮るために今回の撮影では感度をISO64に固定して、可変NDフィルターやIRNDフィルターを使用して光量を調整しました。ハイライトがウェーブフォームでクリップするところまで上げて、モニター上では完全に露出オーバーして白飛びしているように見えますが、心配ありません。この後のカラーグレーディングの項目でもお話しますが、H6D-100Cの動画はシャドウが少し弱い代わりに、ハイライトのロールオフ(徐々に輝度を押さえて表示する処理)が優秀で、白飛びまでの階調が滑らかなのと、グレーディング時のリカバリーがすごく優秀でした。

▲ISO感度を上げると、シャドウ部分のノイズが目立ちます。この写真はそれを分かりやすく見せるために露出を大げさに上げています。

 

それから、シャッタースピードのこと。24p撮影では、シャッターは1/48に設定したい所です。しかし、H6D-100cでは、1/45もしくは1/60という選択肢しかありません。今回は1/60にしましたが、今後のファームアップに期待です。 

 

DaVinci Resolveでカラーグレーディング

DaVinci ResolveDNGファイルをインポートして編集より先にまず色が見たいと思って、仮でグレーディングしてみました。DaVinci Resolveには、ハッセルブラッド用のカラースペースやLUTがまだありません。そこで「Blackmagic Film」にしてから、Blackmagicの「Film to Video LUT」を当てて、撮影でわざと飛ばし気味に撮ったハイライトを戻しました。わずか30秒の作業で今回のベースとなるグレーディングがあっさりできました。

▲ 上がBEFOREで下が AFTER (何ということでしょう~♪)。BEFOREで白飛びしてしまったボンネットのディテールが、ほとんど戻ってきてハイライトの階調なめらかで素晴らしい。少し紫色のフリンジが出るのがわかります。

 

 

編集のワークフロー。CinemaDNGへの変換には時間がかかる。

収録した.3fvデータは、ハッセルブラッドが提供するRAW現像ソフト・PhocusProResかCinemaDNGに変換します。筆者の編集環境はWindowsなのですが、WindowsでProResのエンコードができないので、ここではCinemaDNGをメインに説明します。現場で撮った930GB分の.3fvデータをCinemaDNGに変換するのに半日以上かかりました。現時点でPhocusはこの作業が多少苦手のようです。変換後の16bit Cinema DNGは元の3.fvデータの約2.5倍の容量になります。

それなりに処理速度の高いPCでもこのDNGは重いです。そこでよく活用しているslimrawというソフトで16bitの非圧縮DNG12bitの圧縮DNGにさらに変換してPROXYとして編集とカラーグレーディングの作業を行います。最後は元の16bit DNGに再リンクして書き出すというワークフローです。なかなか手間のかかる作業と思われるかもしれませんが、RAWに慣れるとこれくらいは苦にならないです。

注:圧縮RAWは現状、DaVinci Resolveでしか読み込めません。他の編集ソフトは違うワークフローになります。

最後にテストを終えて気に入った点と気になった点について改めて整理してみます。

 

 

気に入った点

・センサーをすべて読みだして、中判ルックをそのまま提供
・レンズの素晴らしい描写
・このセンサーとレンズの組み合わせによって生まれる立体感と柔らかいボケ味
・ハッセルブラッドの色
・中判動画をコンパクトなボディで撮影できること
・ハイライトのリカバリーと階調の滑らかさが非常によくて自然に見えること
・一般的なCFast2.0カードに収録できること

▲ 組んだ状態でも軽自動車に普通に入る便利さ。到着して早速撮影開始。

 

気になった点

・撮影中に記録メディアの残量がわからないこと
・著しいローリングシャッター現象
・内部マイクがなく、外部で接続しても音質が良くないこと
・シャドウ部分は状況によってノイズが出ること
・露出オーバーのハイライトは紫色のフリンジが見られる場合もあること
・音声が入っている「audio.mp4」が25p24pDNGシーケンスと長さが違うこと
・ライブビューは録画後に終了してしまって、もう一回起動させる必要があること
PhocusDNGを書き出すのに時間がかかること

▲ 一日でも疲れずに撮影できる軽さ。しかも目立つから声をかけられること多く、友達作りにもいい。

 

最後に一言

CFast 2.0の残り時間が表示されないことや状況によってシャドウ部分のノイズが出るなど、H6D-100cの動画は現時点で少し気難しい部分があります。しかし、その気難しさを忘れさせるくらい魅力あふれる映像を提供してくれるのも事実です。どの機材もそうですが、その特性に合わせた使い方をすることが大事です。H6D-100cもまさにそうで、ローリングシャッター現象を考慮したカメラワークやクリーンなシャドウ部分を得るための露出など対策を立てれば解決できます。

個人的に高画質であることがカメラを選ぶ上で第一条件。そういう意味ではH6D-100cRED WEAPONURSA MINI PROと並んで使いたい機種のTOP5にランクインします。後はファームアップによる改善やPhocusの高速化を期待したいと思います。

では、また現場で会いましょう!

 

●ハッセルブラッドH6D-100cの製品情報

https://www.hasselblad.com/ja-jp/h6d/

vsw